別冊整形外科
No.65 人工関節置換術
最新の知見
編集 | : 遠藤直人 |
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ISBN | : 978-4-524-27765-0 |
発行年月 | : 2014年4月 |
判型 | : A4 |
ページ数 | : 290 |
在庫
定価6,930円(本体6,300円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
高齢者社会の日本では関節疾患に対する人工関節置換術が多数行われ、安全に正確に人工関節置換術を行うことが求められている。そのためには三次元である関節を評価し、その評価に基づいた関節設置が望まれる。本号では、現在行われている評価法や診断法を含めて、四肢のすべての関節を対象とし、疾患としては変形性関節症にとどまらず、骨壊死、骨折後変形症、腫瘍などを対象とした。また診断および評価についても取り上げた
I.関節の評価法と診断
1.関節のアライメント評価、手術前および手術後の評価
三次元術前計画ソフトを用いた人工股関節全置換術に対する術前計画・術中支援・術後評価の実際
変形性股関節症に対する人工股関節全置換術後の骨盤傾斜および股関節回旋の変化
ハイオフセットステムを正しく使いこなすために−手術中の脚長・オフセット計測と軟部組織バランステストの実際
高度変形に対する三次元テンプレートを用いた術前計画の有用性
ステムや補強を要する症例の人工膝関節全置換術の工夫
人工膝関節全置換術前三次元CT計測による適正な骨前後軸の評価
2.使用機種の選択
大腿骨近位固定型人工股関節の中〜長期成績
奈良県立医科大学式カスタムメイドステムの長期成績
セメントレステーパードラウンドステムの長期成績−テーパードステムはその設計目的を達成できたか
初回人工股関節全置換術後半年の股関節外転筋力に与える術前・術後因子の影響
矢状面におけるステム挿入方向の違いによる関節可動域シミュレーション
人工関節設置大腿骨の表面応力イメージング
II.関節疾患と人工関節置換術の評価
1.各関節疾患の評価法
関節リウマチ例における周術期の好中球上CD64の推移の検討
2.股関節の新しい評価法
日本整形外科学会股関節疾患評価質問票による人工股関節全置換術の評価
III.手術手技
1.特徴あるアプローチ
人工肩関節全置換術・肩人工骨頭置換術における小結節骨切りによるアプローチ
組織間温存direct anterior approachの手術手技
横皮切を用いた人工膝関節全置換術
関節リウマチ高度変形膝に対する人工膝関節全置換術前の予防的腓骨神経剥離
2.低侵襲アプローチ
最小侵襲手術(MIS)anterolateral-supine approachによるMIS−人工股関節全置換術の手術手技−臼蓋カップを正確に設置するための工夫と寛骨臼形成不全股に対する手術手技のピットフォール
Porous tantalum 臼蓋コンポ−ネントを用いた最小侵襲手術(MIS)antero-lateral-supine approachによるMIS−人工股関節全置換術の術後成績
低侵襲人工膝関節全置換術における膝蓋骨非翻転アプローチの効果
人工膝関節全置換術でのunder vastus approach(sub vastus変法)
3.筋肉切離を最小限にした手術
仰臥位前外側アプローチ最小侵襲人工股関節全置換術
両側股関節脱臼に対しSchanz 手術が施行された症例に対し筋間進入による最小侵襲人工股関節全置換術を施行した1例
筋腱完全温存による最小侵襲人工股関節全置換術−術後MRIによる股関節周囲筋の検討
4.ナビゲーション
ナビゲーションを使用した人工膝関節全置換術の精度−現在の精度および今後の展望
高度臼蓋形成不全股に対する人工股関節全置換術−骨盤内板穿破手技
ナビゲーションを用いた人工膝関節全置換術のエラー評価
ナビゲーション支援人工股関節全置換術の現状−時代のベクトルはどこを向いているのか
IV.人工関節の臨床成績(中〜長期含む)
1.肘の人工関節
関節リウマチ肘に対するCoonrad−Morrey型人工肘関節の治療成績
2.手指の人工関節
人工指関節システムを用いた母指中手指節関節置換術の検討
変形性指近位指節間関節症に対する人工指関節置換術
3.股関節の人工関節
人工股関節全置換術寛骨臼側のセメントテクニックとその成績−第一世代〜第四世代手技
第三世代metal on metal 人工股関節全置換術における血清中金属イオン濃度とコンポーネント設置角度,活動性,患者背景因子の関係
セメントレスカップを用いた人工股関節再置換術の臨床成績
高度骨欠損を伴う人工股関節再置換術における院内骨バンクによる同種骨移植の取り組み
臼蓋形成不全股に対する圧縮砕片状と付加型塊状骨移植を併用した人工股関節の有用性
初回人工股関節全置換術50〜100例経験者の手術時間、術中出血量、インプラント設置の指導医との比較
可及的骨温存を目的とした臼蓋形成的塊状骨移植併用セメントレス人工股関節全置換術
人工股関節全置換術における術前冠状面アライメント可動性を考慮した脚延長量設定
4.膝の人工関節
人工膝関節全置換術前後の膝関節と脊椎・骨盤矢状面アライメント
後十字靱帯温存型人工膝関節全置換術において良好な可動域を獲得する手術手技
血液透析患者に対する人工膝関節全置換術の治療成績
プロフィックスセメントレス人工膝関節全置換術の長期臨床成績
人工膝関節全置換術における器種の特徴と選択基準
5.その他
高齢女性患者に対する人工股関節全置換術当日リハビリテーション介入の効果
V.特殊な疾患、高度の変形を伴う例に対する人工関節
1.腫瘍
大腿骨近位部転移性骨腫瘍に対する腫瘍用人工骨頭置換術の手術手技と成績
10年以上経過した腫瘍用人工膝関節の治療成績
小児悪性骨腫瘍に対する延長型人工関節の問題点
腫瘍用人工膝関節全置換術後の膝蓋骨の位置異常と患肢機能
小児下肢悪性骨腫瘍に対するセラミックス製人工顆を用いた患肢温存手術
2.骨折後
寛骨臼骨折内固定後に対するdelayed 人工股関節全置換術
3.骨系統疾患、骨代謝疾患など
末端肥大症に伴う変形性股関節症に対する人工股関節全置換術
強直性脊椎炎に対する人工股関節全置換術と再置換術
遺伝性多発性軟骨性外骨腫による両変形性膝関節症に対するローテーティング・ヒンジ型人工膝関節全置換術
低身長例に対する人工股関節全置換術の経験
4.感染後の人工関節
感染人工関節に対する術前評価スコアリングシステム−予備的研究の報告
人工股関節全置換術後感染に対するカスタムメイド人工骨頭型抗菌薬含有セメントスペーサー
VI.人工関節置換術の周術期管理、リハビリテーション
1.血栓症、深部静脈血栓症
人工膝関節全置換術周術期の抗血栓薬の取り扱い
2.脱臼防止
人工股関節全置換術後脱臼発生のメカニズムとその要因
人工股関節全置換術後脱臼ハイリスク患者に対する人工股関節機種の選択−デュアルモビリティカップの有用性
3.股関節教育システム
人工股関節全置換術における患者教育システムと術後合併症
4.感染予防
ポビドンヨード入り生理食塩水による人工膝関節全置換術中洗浄
5.その他(合併症予防など)
肝機能障害を伴った患者に対する人工股関節全置換術施行時の出血対策−周術期死亡例を含む検討
自科麻酔による人工膝関節全置換術の安全性
運動器疾患は健康寿命を阻害し、なかでも変形性関節症をはじめとする関節障害はADL,QOLを低下させる。関節障害に対する手術的治療として人工関節置換術は有用な手段であり、人工関節置換術後、患者さんは痛みがなくなり、関節の動きが改善することから、患者さん、ご家族には大きな喜びをもたらすものである。
人工関節置換術はその適応、手術方法の工夫(進入、最小侵襲、筋肉非切離など)、人工関節そのものの進歩、加えて手術を支援するシステムとしてアライメント評価法と手術支援治具、ナビゲーションなどが大きく進歩している。以前に比して人工関節をより適切な位置に正確に設置することが可能となり、脱臼やインピンジメントなく関節が可動でき、長期の耐久性も期待できる時代となりつつある。さらに評価については、股関節疾患患者さんのQOL 評価であるJHEQが取り入れられるようになり、医師側の評価に加えて患者さんの視点での評価が行われるようになってきた。
また実際の手術手技としては、(1)種々の基本的アプローチ、(2)低侵襲アプローチ、(3)筋肉切離を最小限にした手術、(4)手術支援治具やナビゲーション支援システムに関して最新の知見が集まってきている。このように手術手技の進歩は著しく、侵襲を最小限とし、筋肉の切離を非切離あるいは最小限にすることで、手術後のリハビリテーションや歩行開始が手術直後から可能となる例も報告されている。
臨床成績については、人工関節置換術後は疼痛もなく、可動性も回復することから手術直後の短期臨床成績は優れている。まさに人工関節はADL,QOLを向上させる一助である。一方、今や高齢化が進み、多くの方が長寿となり、より活動的な生活を望んでいることから、人工関節置換術の適応とされる例が広がってきていると言える。さらに、人工関節置換術を必要とする症例は高齢者に限らない。種々の関節疾患に苦しむ若い患者さんにも適応は広がりつつある。したがって、今まで以上に長期に優れた臨床成績を有する人工関節が求められている。そのため一層の手術手技、支援機器の開発と工夫が期待され、リハビリテーションを含めた一貫したシステムの構築が望まれる。特殊な疾患、高度の変形を伴う例に対する人工関節手術の経験は有用な情報である。さらに高齢である症例や種々の基礎疾患を有している症例は多く、周術期管理、血栓症、脱臼防止、教育システム、感染予防が重要である。手術の効果を最大限に発揮するためにも、周術期の管理と患者教育を含めたシステムの構築と運用が求められる。
本特集号には経験ある先生方からの最新の知見が掲載されており、是非多くの方に目を通していただき、臨床に役立てていただきたい。読者の先生方と共に、痛みや関節の動きの悪さのために日常生活に困っている患者さんが人工関節置換術後、生涯にわたり痛みなく生活を送られることを心より願うものである。
2014年4月
新潟大学教授
遠藤直人