別冊整形外科
No.50 脊椎疾患における鑑別診断と治療法選択の根拠
編集 | : 四宮謙一 |
---|---|
ISBN | : 978-4-524-27750-6 |
発行年月 | : 2006年10月 |
判型 | : A4 |
ページ数 | : 250 |
在庫
定価6,600円(本体6,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
医療機器の発達、科学的な研究手法の導入に伴い、脊椎脊髄病の診断および治療法は近年大きく発展した。しかし多くは、実験的な研究手法を用いることができず、今もって確固たる結論を導き出すことができていない。このような状況下、この領域の全体的な治療成績の向上、独りよがりの治療法の排除に貢献できればと考え、その診断にいたった経緯、あるいは決断した治療法に対する根拠を提示した論文を多数掲載することとした
I.鑑別診断とその根拠
1.頚椎
1)頚髄症とサルコイドーシス、多発性硬化症などの鑑別
頚椎症性脊髄症と脊髄サルコイドーシスの鑑別 大江啓介(神戸大)
2)頚椎症手術後の第5頚椎麻痺―脊髄性か神経根性か
頚椎脊柱管拡大術後の第5頚椎神経麻痺の発生機序の考察 宮崎潔(奈良医大)
頚椎後方除圧術後の第5頚椎麻痺を神経根性とする根拠 平林茂(埼玉医大総合医療センター)
頚髄症後方術後の第5頚椎麻痺は神経根性である―foraminotomy追加症例の結果から 木家哲郎(獨協医大越谷病院)
頚椎椎弓形成術後の上肢運動麻痺―より正確な根拠を求めて 坂浦博伸(阪大)
2.腰椎
1)Sacral cystによる発症の原因
腰仙椎脊柱管内嚢腫の検討 深野一郎(駿河台日大病院)
2)その他
脊髄終糸症候群と腰椎椎間板ヘルニアの鑑別 遠藤健司(東京医大)
婦人科疾患を原因とする坐骨神経痛 吉本三徳(札幌医大)
II.治療法選択とその根拠
1.頚椎
1)頚椎症性脊髄症
前方法vs後方法
頚椎症性脊髄症に対する前方椎体亜全摘術と椎弓形成術の手術成績の比較 渋谷整(香川大)
頚椎症性脊髄症に対する術式選択―前方除圧固定術vs椎弓形成術 折井久弥(済生会川口総合病院)
各種前方法の選択
チタン製ケージとリン酸三カルシウム顆粒を使用した頚椎前方固定術―自家腸骨移植は必要か 金明博(大阪医大)
後方広範囲vs局所除圧術
頚髄症に対する広範囲後方除圧選択の根拠 平林茂(埼玉医大総合医療センター)
頚椎症性脊髄症に対する選択的椎弓形成術―局所除圧術の根拠 辻崇(防衛医大)
棘突起縦割式脊柱管拡大術(double-door laminoplasty)を選択する生体力学的根拠 久保紳一郎(宮崎大)
第3頚椎椎弓切除を加えた頚半棘筋完全温存による頚椎拡大術―軸性疼痛と可動域制限の前向き調査 竹内和成(弘前大)
2)後縦靭帯骨化症(OPLL)―前方進入vs後方進入
頚椎後縦靱帯骨化症に対する前方法と後方法の比較・検討 神崎浩二(昭和大藤が丘病院)
頚椎後縦靱帯骨化症(骨化占拠率60%以上)に対して前方骨化浮上術を選択する根拠 松岡正(青梅市立総合病院)
3)頚椎関節リウマチの手術法―上位頚椎手術に伴う中下位頚椎の手術適否
関節リウマチに対する頚椎椎弓根スクリュー使用による後頭頚椎再建術―鋼線締結法との比較・検討 村上秀樹(岩手医大)
関節リウマチ中下位頚椎病変に対する椎弓形成術―上位頚椎固定例と非固定例での比較 向井克容(阪大)
4)その他
頚椎症性筋萎縮症に対する選択的椎弓形成術―selective laminoplasty for cervical spondylotic amytrohpy 竹林庸雄(札幌医大)
頚椎脱臼に対する椎弓根スクリューを使用した後方固定術 村上秀樹(岩手医大)
2.胸椎
1)骨粗鬆症による圧迫骨折
各種保存的治療の選択
保存的治療による骨粗鬆症性椎体骨折の予後―治療開始時期による疼痛、椎体変形、偽関節の推移 福田文雄(新小倉病院)
脊椎圧迫骨折の新鮮例、偽関節例に対する保存的治療の経過 外立裕之(諏訪赤十字病院)
カイフォプラスティーvs短縮術
骨粗鬆症性椎体骨折後遅発性障害に対する手術的治療―脊椎後方短縮術と後方インストゥルメントを併用したHAブロックによるカイフォプラスティー 星野雅洋(東松山市立市民病院)
内視鏡的経皮経椎弓根的椎体形成術―リン酸カルシウム骨ペースト椎体内注入療法 南里泰弘(滑川病院)
2)脊椎転移―保存的治療vs観血的治療
原発不明の転移性脊椎腫瘍に対して手術的治療を選択する根拠 山田博信(埼玉医大総合医療センター)
3)その他
胸椎後縦靱帯骨化症に対する後方進入法の選択根拠 平林茂(埼玉医大総合医療センター)
脊髄ヘルニアの手術経験―特発性と術後性の比較 夫徳秀(兵庫医大)
3.腰椎
1)椎間板ヘルニア
骨盤牽引療法の有効性は?
造影MRIでring enhancementを呈した腰椎椎間板ヘルニアの経過―保存療法選択の根拠 洪定男(三郷順心総合病院)
内視鏡vs顕微鏡
腰椎椎間板ヘルニアに対する低侵襲手術法の比較・検討 笹生豊(聖マ医大)
内視鏡下腰椎椎間板ヘルニア摘出術の初期症例の検討―同一術者が同一時期に行ったLove法との比較 佐藤公昭(久留米大)
固定が必要な症例は?
外側型(椎間孔内・外)腰椎椎間板ヘルニアに対する治療法選択の根拠―病型分類と手術法 岩村祐一(横浜掖済会病院)
2)脊柱管狭窄症
固定vs除圧のみ
変性すべりを伴った腰部脊柱管狭窄症に対する手術成績―前方固定術群と後方除圧術群との比較 金森昌彦(富山医薬大)
腰椎変性すべり症の術後成績と満足度―固定群と非固定群の比較 山崎健(岩手医大)
腰部脊柱管狭窄症に対する後方除圧手術の非固定成績不良例の検討―固定術の適応について 古賀昭義(日大)
腰部脊柱管狭窄症に対する直視下片側進入両側除圧術の成績―開窓術との比較 武井寛(山形大)
腰椎変性すべり症に対する後方除圧単独手術の中・長期臨床成績 安井啓悟(岩見沢市立総合病院)
固定にインストゥルメンテーションは必要か?
腰椎変性側弯症に対する治療法選択の根拠―タイプ別固定法と長期臨床成績 岩村祐一(横浜掖済会病院)
腰椎変性すべり症に対するインストゥルメンテーションを使用しない椎弓切除術、後側方固定術 齊藤文則(埼玉医大)
高齢者脊柱管狭窄症に対する椎間関節固定を併用したPS法 武者芳朗(東邦大)
不安定性を呈する腰椎変性すべり症に対する片側進入両側除圧、片側後方経路腰椎椎体間固定術、片側PS固定術―両側インストゥルメンテーションに根拠はあるか 豊根知明(帝京大)
4.その他
透析性脊椎症の術式選択とその根拠 馬場秀夫(長崎大)
脊椎脊髄病は整形外科領域の中でも主要な分野である。MRIや3-D CTの詳細な画像から正確な病態診断が可能となり、また顕微鏡や内視鏡による明るく拡大した視野での手術が普及し、さらにはインストゥルメンテーションやナビゲーション装置などの手術機器の目覚しい発達もあり、最近の脊椎脊髄病の治療成績は加速度的に向上してきたように見える。しかしその一方で、何の科学的根拠もなく高額な機器を使用し、実力の裏づけのない医師によって難易度の高い手術が行われるなど、一部ではあるが国民から非難されても仕方がない影の部分を見かけることも事実である。
過去20年間の医学の世界を振り返ったとき、科学的な臨床研究に基づいたエビデンスの導入に伴い、経験に基づいた診断・治療からエビデンスに基づいた診断・治療へと大きく変わろうとしていることがわかる。しかしながら外科の一分野である整形外科においては、経験に基づいた技術や判断力などの個人的な能力が重きをなす領域であることに加え、内科領域で行われているようなRCTなどの臨床研究手法を用いることが困難であるために、客観的に証明された確固たる結論を導き出すことが難しいと考えられている。このようにエビデンスを機械的に作り出すことが困難な外科領域において、診断にいたった経緯、あるいは決断した治療法に対する根拠を提示することは、治療成績の向上にもつながる一手法となる。また社会的に批判の多い、根拠のない、独りよがりの治療を排除する大きな役割を担うと考えられる。
今回、「脊椎疾患における鑑別診断と治療法選択の根拠」とのタイトルで特集を組んだ。脊椎脊髄病分野における多くの経験豊富な専門家の諸先生から、「根拠に基づいた診断と治療法選択」を紹介していただけたと考えている。それぞれ可能な限り科学的に裏づけされた貴重な論文ばかりであり、編集者というより一人の整形外科医として深甚なる感謝の意を表したい。本特集号により、2006年現在の進歩し続ける脊椎脊髄病治療の一面を紹介できたと考えている。読者諸氏が明日からの診療に本書を活用されることを祈念する次第である。
2006年9月
東京医科歯科大学教授
四宮謙一