がん看護≪隔月刊≫
看護師だからこそできる‘寄り添い’のかたち/5 年目までにマスターしたい! がん看護技術(Vol.26 No.4)2021年5-6月号
エキスパートの実践に学ぶ
- 主要目次
- 序文
特集1
看護師だからこそできる“寄り添い”のかたち
〜エキスパートの実践に学ぶ〜
編集:川村三希子
●特集1にあたって
●苦痛症状を抱えながら生活する患者への寄り添いのかたち〜レジリエンス,エンパワメント〜
●いつまで治療を続けるか迷い続ける患者への寄り添いのかたち〜意思決定支援〜
●治療をあきらめたくないと訴える患者の希望をつなぐ寄り添いのかたち〜生きる希望を支える支援〜
●関心を向け,わかろうとすることでの寄り添いのかたち〜患者理解とコミュニケーションの本質〜
●限られた時間で患者との関係性を築こうとする寄り添いのかたち
●身体(からだ)へのケアを通しての寄り添いのかたち
●患者の苦しみに寄り添うこと〜スピリチュアルケア〜
●がん患者・家族をケアするスタッフ間の寄り添いのかたち
特集2
5年目までにマスターしたい! がん看護技術
編集:坪井 香
●特集2にあたって
●CVポートの管理
●血管外漏出後の処置とケア
●口腔ケア
●連 載
▼知って安全! エビデンスに基づく抗がん薬の曝露対策と臨床実践 【新連載】
連載にあたって
抗がん薬の曝露対策の基本
▼がんも身のうち 〜患者と看護教員 一人二役 リアルレクチャー〜 【8】
がんと生きるために知りたいことは?〜病名を知らせない時代と今〜
▼対話に学ぶコミュニケーション 〜第二の患者である家族とのかかわりかた〜 【2】
夫の予後不良告知後に茫然となり混乱した妻
▼シームレスに実践 ターミナルケア・グリーフケア 【新連載】
連載にあたって
これからのターミナルケア・グリーフケア〜人生を生き抜く人と死に向き合う人もケアする看護〜
▼がん薬物療法看護のWhat’s Trending! Past ? Current ? Future 【7】
新規に承認されたがん薬物療法薬in 2020〜薬の特徴を知って必要な看護支援を考える〜
●今月の症例
『死』と向き合い自分らしい生き方を見つけた終末期患者〜多職種による支援〜
●リレーエッセイ●こちらがん看護スペシャリスト奮闘中!〜新たな敵と対峙してがん医療を前進させる〜【3】
▼第3回 治療待機患者の不安に向き合う
コロナ禍のがん治療継続を支える
この危機を『看護の本質』を再考する機会ととらえる
●My Favorite Medicine!! 私が注目している抗がん薬を紹介します【14】
ペメトレキセドナトリウム水和物
特集1:看護師だからこそできる“寄り添い”のかたち 〜エキスパートの実践に学ぶ〜
特集1にあたって
寄り添うという言葉はよく使われる言葉ですが,その本質や実態は曖昧です.
以前,ある講演会で尊敬する臨床心理士から,「相手に寄り添うことは奇跡に近い」という話を聞いてから,私はことさらこの言葉の重み,そして実践するむずかしさを感じ,普段はほとんど使わないようにしてきました.しかし,看護教育の場面でも寄り添いという言葉を毎日のように耳にするようになり,改めてこの言葉が使われるときの志向性について考えてみたいと思うようになりました.この言葉が使われるとき,そこには患者さんの苦しみを理解したい,患者さんの思いを尊重したい,よい関係をつくりたい,よいケアをしたい,という看護師の願いや思いが込められているように感じます.一方で,言葉と実践とが切り離され,なにをすることが「寄り添い」なのか,それは看護師のどのような態度なのか,スキルなのか,その輪郭が曖昧なまま使われているとも感じます.
がん患者・家族にかかわる看護師は,診断期,治療期,再発期,終末期,どの病期においても,がん患者・家族が今なにを大切にし,なにを求め,なにに悩んでいるのかを理解しようと努め,少しでも力になりたいと日々奮闘しています.しかし,自分は患者・家族と関係性を築けているのか,患者・家族の意向を尊重できたのか,自分の行ったケアはあれでよかったのか,そのケアのプロセスを省察する機会をもてず,自分の実践が看護としてかたちづくられないまま,不全感や自信のなさを抱えているのではないでしょうか.
そのため本特集では,あえて「寄り添い」という言葉を使うことにチャレンジし,看護師だからこそできる,寄り添う
ことの実践について考えてみたいと思います.看護師は看護師であるがゆえに,普段であれば他人には見せないであろう患者の身体に触れることを許されています.そして病いのために生活の変化を余儀なくされる患者の生活の細部を観て整えることを通して,患者・家族の心身の回復を支えています.がん患者・家族の日々の療養や生活を身近に看ている(観ている)看護師だからこそできる「寄り添い」の本質とそのかたちを,エキスパートの皆さんの事例を通した実践から学んでみたいと思います.
読者の方には,エキスパートの寄り添いのエッセンスが一人ひとりの患者に対しどのように繰り広げられるのか,看護師だからこそできる“日常の暮らしの中に織り込まれた寄り添いのかたち”を,共にケアを体験するように読んでいただけると思います.
本企画が,がん看護を担うすべての看護師にとって,自分の看護実践をかたちづくる一助となれば幸いです.
編集:川村三希子(札幌市立大学看護学部)
特集2:5 年目までにマスターしたい! がん看護技術
特集2にあたって
がん医療においては多職種チーム医療の実践が重視され,看護師を育成するうえでは,ケアの責任者として役割遂行する力,医師やほかの医療スタッフと協働する力の育成に主眼を置いた教育プログラムが展開されています.
新人と呼ばれる1 年目看護師には,基本的なケアマニュアルに従って助言を得ながら看護実践できることが到達目標として掲げられ,一人前と呼ばれる5 年目看護師には,ケアの受け手に合う個別的な看護の提供と,患者の状態をアセスメントし医学的根拠に基づいて報告・行動できるリーダー看護師としての役割遂行,後輩への技術支援が期待されています.
病院内における看護の実情を見ると,在院日数の短縮化に伴って業務は繁雑化し,新人が一人前と呼ぶにふさわしい看護師に成長する過程においては,看護技術を学ぶ場・機会をつくることが非常に困難な状況となっています.詳しく言うならば,業務量の過多により教える側の先輩看護師も余裕がなく,後輩看護師へ看護を提供するうえで,なにを観察すべきなのか,それはどうしてか,観察したことがなにを意味するのか,どんな危険が予測されるのか,ゆえにどうしたのか,その結果どうだったのかなど,患者状態のアセスメントおよび自らの技術を言語化し伝える,互いに確認し合い,高め合う機会をもちにくい状況とも言えます.また,働き方改革により教育のための時間拘束ができないこともあります.
そこで,本特集では,一人前と期待されている5 年目看護師に向けて,看護技術の根拠となる最新の知識を提供し,ケアの受け手の特徴をとらえて個別的なケアを提供する際の“コツ”と呼べる看護技術を解説しました.この3 つの看護技術はがんと診断された患者さんの「治療を支える」「生活を支える」という視点で必要不可欠なものです.
日々技術の向上に励む若手看護師のステップアップを支援する機会になることはもちろんのこと,そして彼らを指導する先輩看護師の助けとなることを期待したいと考えています.
編集:坪井 香(神奈川県立がんセンター看護局/がん看護専門看護師)