臨床雑誌整形外科≪月刊≫
特集:整形外科医療安全のすべて(Vol.75 No.6)2024年5月増刊号
- 主要目次
- 序文
●編集にあたって 大川 淳
T章.総 論
1.医療安全管理の全体像 長尾能雅
2.インシデントとアクシデント 松村由美
3.「診療ガイドライン」の法的意義 宗像 雄
4.臨床研究における患者同意のあり方 黒田知宏
5.整形外科手術とインフォームド・コンセント―要点と今後の方向性 荒神裕之
6.医療事故調査制度の現状と課題 大磯義一郎
7.医療の質評価と医療安全 鳥羽三佳代
8.整形外科における医療の質指標(QI) 小久保吉恭
9.クリニカルパスと医療安全 伊藤淳二
10.コミュニケーションと医療安全 門野夕峰
11.病院監査における医療安全管理評価の要点 中島 勧
12.病院経営と医療安全 下瀬省二
U章.手術における医療安全対策
1.ナビゲーション支援下手術 上原将志
2.医療安全の観点からみた最小侵襲脊椎治療(MIST)へのextended reality(XR)技術の適用と可能性 成田 渉
3.人工股関節における拡張現実(AR)ナビゲーションの有用性 望月義人
4.術中神経モニタリングの実際 吉田 剛
5.ロボット支援手術の実際 桑沢綾乃
6.手術機器の滅菌管理と医療安全 松下和彦
7.脊椎内視鏡下手術の安全性 二階堂琢也
8.整形外科手術における誤認防止策 菊地龍明
V章.周術期の医療安全対策
1.大腿骨近位部骨折の治療―総合診療医の立場 井上三四郎
2.大腿骨近位部骨折の治療―整形外科医の立場 小川貴久
3.頚椎前方手術気道管理 山田賢太郎
4.自己血輸血 小谷俊明
5.静脈血栓塞栓症(VTE)予防 児玉隆夫
6.手術部位感染(SSI)予防 山田浩司
W章.放射線被曝と薬剤に対する安全配慮
1.整形外科医のための職業被曝低減 二ツ矢浩一郎
2.患者被曝に配慮した整形外科診療 山下一太
3.整形外科領域における周術期抗血小板薬・抗凝固薬の管理 雪澤洋平
4.副作用からみた抗リウマチ薬の選択 小嶋俊久
5.入退院支援センターがかかわる術前休薬と整形外科手術 嶺 豊春
X章.整形外科領域別の医療安全トピックス/症例レジストリに基づいた合併症
1.症例レジストリからみた脊椎手術の合併症 伊藤定之
2.症例レジストリと大規模データベースからみた股関節手術の合併症 神野哲也
3.人工膝関節全置換術後の神経・血管損傷に対する治療と予防 中川裕介
4.手外科における医療安全管理 若林良明
5.症例レジストリからみた骨・軟部腫瘍手術の合併症 小倉浩一
Y章.他領域の専門家からみた整形外科医療安全
1.医療事故の法的責任 小島崇宏
2.整形外科関連医療事故裁判の最近の動向 墨岡 亮
3.自律尊重原則/自己決定権と医療倫理 桑原博道
4.救急外来における整形外科疾患の診断エラー 土屋宏人
5.社会的共通資本としての医療―医療安全と地域連携の視点で考える 宇澤礼二
●編集後記
編集にあたって
医療界において患者安全の重要性が指摘されてからだいぶ時間が経過しました.わが国の医療安全活動の嚆矢となった重大事故は,1999年の患者取り違え手術や消毒薬の静脈注射による整形外科患者の死亡です.その後,2014年に発覚した大学病院における腹部外科手術に関連した死亡事例が頻発したことを受けて,すべての医療機関に対してさらに強化された医療安全体制が求められるようになりました.同時にすすめられた医学界の自律的な取り組みや専門医制度における医療安全研修の必須化により,医師個人の安全意識も向上してきました.
一方,ここ10年あまりの間に,整形外科領域では新規の医療技術や医療機器が目覚ましい進歩を遂げました.脊椎外科では側方進入前方固定術など新しいコンセプトに基づいたインプラントや手術方法が出現し,関節外科では手術支援ロボットの導入がすすみました.手術中のモニタリング技術も大きな進歩を遂げ,神経生理学的モニタリングに加えて,CTやMRIなどの画像上に手術機器の位置を投影できる術中ナビゲーションシステムが一般化して,より安全な手術を提供できる方策が整いつつあります.
しかし,いまだに克服できていない合併症も存在し,整形外科であっても死亡事故が発生しています.身体の機能を高めることを目的とした整形外科手術において,生命そのものに影響が及ぶことは絶対に避けなければなりません.最近,医療行為に関連した患者死亡事故の撲滅をめざして制度化された医療事故調査制度に基づいて,整形外科手術関連の提言書が2通出されました.2022年の「頸部手術に起因した気道閉塞に係る死亡事例の分析」と,2023年の「股関節手術を契機とした出血に係る死亡事例の分析」です.多くの医療機関に冊子が配布されましたが,これらによれば,日常の整形外科手術にも重大な危険性が潜んでいることがわかります.
大きな医療事故は,患者にとどまらず医療者自身にも大きく影響します.信頼される整形外科医療を提供するための一助として,積み上げられた医療安全の考え方や仕組みを俯瞰的に提供することが本特集号の発刊意図です.ベテランには原点への立ち返り,若い先生方には整形外科の医療安全に関して最初から学ぶきっかけになれば幸いです.放射線被曝や法曹など他分野からみた整形外科医へのアドバイスなども盛り込んでいます.整形外科関連の重大事故を限りなくゼロに近づけることが編者としての願いです.
横浜市立みなと赤十字病院院長
大川 淳