臨床雑誌内科≪月刊≫
性感染症(Vol.134 No.1)2024年7月号
- 主要目次
- 序文
[特集]
性感染症
企画:中村 造
[鼎 談]
変化する性感染症と今後求められる対策
中村 造[司会]・平井由児・田中雅之
[Chapter 1]
変化する性感染症
SNSと性感染症 宮下竜伊・村松 崇
男性同性間性的接触者(MSM)の性感染症診療 笹原鉄平
若年者の性感染症診療 高松 茜
commercial sex workerに対する性感染症診療 福島絢奈
[Chapter 2]
性感染症各論
[月単位で翌月の初日に届出] 淋菌感染症 加藤哲朗
[月単位で翌月の初日に届出] クラミジア(Chlamydia trachomatis)感染症 佐田竜一
[7日以内に届出] 内科医が知っておくべき梅毒の最新知見 検査の解釈と新たな治療・予防 長谷川雄一・的野多加志
妊娠梅毒と先天梅毒 小林勇仁
[月単位で翌月の初日に届出] 性器ヘルペス 田子さやか
マイコプラズマ・ウレアプラズマ 佐藤昭裕
[A型肝炎:ただちに届出,B型肝炎・C型肝炎:7日以内に届出] 急性ウイルス性肝炎 南 留美
[7日以内に届出] HIV感染症 加藤英明
トリコモナス 藤谷好弘
[7日以内に届出] 赤痢アメーバ 林 佳那子
[月単位で翌月の初日に届出] HPV感染症 藤村正樹
[ただちに届出] Mpox 吉村幸浩
性感染症と認識されていない病原体による性感染症 渡邊裕介
混合感染する性感染症の診療 田中康平・中村 造
[Chapter 3]
予防
性感染症ワクチン 塚田訓久
性感染症(HIV以外)に対する予防投与 山本麻由・中村 造
HIV感染症に対する予防投与(PrEP) 谷口俊文
[Chapter 4]
日本国外における性感染症
海外渡航と性感染症 小林謙一郎
英国における性感染症対策 佐々木秀悟
米国で問題となっている性感染症 三高隼人
[連載]
新連載 内科医のための睡眠外来入門
連載開始にあたって/CASE 1.「先生,眠れません」 立石知也
ほんとに意味あるの? その感染対策・感染症治療
第6回 手術患者への抗菌薬の予防的投与 中村 造
内科医が精神科のくすりを処方する。
第15回 精神病に使うわけではない抗精神病薬@ 國松淳和
イメージで捉える呼吸器疾患
第19回 黄色爪症候群 「数年前から息切れがひどくなり,足もむくんできました」 皿谷 健
[書評]
はじめての脳波トリアージ 2ステップで意識障害に強くなる 兼本浩祐
循環器疾患最新の治療2024‒2025 室原豊明
がん病態栄養専門管理栄養士のためのがん栄養療法ガイドブック2024(改訂第3版) 菅野義彦
実臨床で性感染症を診療する頻度は高い一方で,診療方法,検査の解釈,治療の方法,治療効果判定の実際は「曖昧」であることが少なくない.性感染症に罹患した患者は性感染症の専門医への受診よりもむしろ,プライマリケア・実地医家を受診することが多く,内科医が広くマネジメントする必要がある疾患群である.また性感染症に罹患した患者は,最初に受けた説明を強く信じる傾向にあり,初診時の医師が適切な知識のもとで診療を進め,結果や治療と治癒までの期間などの説明を行うことが必須である.また,他者に相談しにくい疾患群であるからか患者は時に間違った強い思い込みにはまり,ドクターショッピングを繰り返し,過剰な検査や治療を要求することもある.軽微な体調変化や分泌物に対して検査を実施し,軽微な陽性結果が加わるとその思い込みは確信に変化する.近年,SNS やアプリの急速な普及もあり,性行動の拡大や不特定多数との匿名での性行為が広がっている現状もある.
本特集では,鼎談で近年の性感染症の特徴,以前と変化してきたこと,SNS やアプリによる匿名での性行為のリスク,患者の多様化,貧困との関連などについて,オーバービューを行った.Chapter1 では「変化する性感染症」と題して,SNS の影響,男性同性間性的接触者(MSM)や若年者,commercial sex worker の性感染症診療についてまとめた.Chapter 2「性感染症各論」では,日常的に診療の機会が多いクラミジアや梅毒,性器ヘルペスなどに触れ,加えて近年,検査の発達により診断例が増加しているマイコプラズマやウレアプラズマ,特殊な事例として妊娠梅毒や先天梅毒なども解説されている.HPV 感染症は性感染症の側面と悪性疾患の原因という側面の両面を特徴としており内科医としても認識すべき要点が多い.近年,性感染症に対するワクチンや抗菌薬の予防投与に関する知見が多く報告されており,本邦でも自費診療で実施する医療機関が増加し,それに伴い患者からの問い合わせも少なくない.保険診療では実施できないことが多いが,この点もChapter 3「予防」にて知識の整理を行った.ポストコロナになり,日本人の海外渡航や訪日外国人の増加が顕著である.渡航と性活動は密接に関連しており,英国や米国など諸外国で問題となっている性感染症についての情報もChapter 4「日本国外における性感染症」にて解説されている.
性感染症は,リスクのある性行動を避けることが強調されるが,性行動の変化をもたらすことはきわめて難しい.そして近年,匿名での性交渉の増加によりそのリスク場面は増加していると考えられる.われわれ内科医・実地医家はこの問題にどう対峙して診療マネジメントをすべきか.明確な回答にはならないかもしれないが,本誌がその一助となることを期待して.
中村 造
(東京医科大学病院 感染制御部)