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臨床雑誌内科≪月刊≫

在宅医療は何のために存在するのか(Vol.133 No.3)2024年3月号

これからの在宅医療を見据えて

発行年月 : 2024年3月

在庫あり

定価2,970円(本体2,700円 + 税)


  • 主要目次
  • 序文

[特集]
在宅医療は何のために存在するのか―これからの在宅医療を見据えて
企画:佐々木 淳
 
[Chapter 1]在宅医療のアウトカム
 なぜ在宅医療が必要なのか 佐々木 淳
 
[Chapter 2]医学モデルとしての在宅医療
 在宅医療における多様な視点の必要性 日々の健康管理と医学モデルの適用 田上佑輔
 在宅医療における低栄養,フレイルサイクル,誤嚥性肺炎へのアプローチ 大浦 誠
 認知症 内田直樹
 神経難病を在宅で看取る 辻 雄太 ほか
 在宅医療とケアにおける感染対策の考え方 高山義浩
 在宅緩和ケア 安達昌子
 みんなで支える小児在宅地域ホスピスケア お子さんとご家族のいのちの物語を地域で支える 戸谷 剛
 
[Chapter 3]生活モデルとしての在宅医療:本人の納得と満足
 積極的な社会参加に至った在宅ALS患者 ICFモデルに基づいた考察 江里口 誠
 [当事者コラム]ALSとともに充実した日々を過ごす僕の在宅生活 中野玄三
 人生の最終段階における対話・コミュニケーションの技術 岡山容子・田七重
 意思決定支援 石谷 巧・川口篤也
 
[Chapter 4]フェイズごとのポイントと在宅医療に求められる役割
 診療開始時 川渕奈三栄
 急変時 井上淑恵
 在宅(施設)での急性期治療 遠矢純一郎
 訪問診療中に入院が必要かどうか迷ったとき 近藤敬太
 退院 小坂鎮太郎
 よりよい在宅看取りのために医療者が心得ること 添明日香
 施設における在宅医療 長P健彦
[Chapter 5]在宅医療のバリエーション
 かかりつけ医が始める在宅医療 迫村泰成
 在宅医療特化型 内田貞輔
 在宅療養支援病院での急性期支援型在宅医療 織田良正
 在宅医の時間外対応バックアップ 中尾亮太
 急性期在宅医療(Hospital at home・在宅入院) 宮本雄気
 
[連載] 
ほんとに意味あるの? その感染対策・感染症治療
 第3回 経口コロナウイルス薬 中村 造
内科医が精神科のくすりを処方する。
 第13回 その気質に気分安定薬 B 國松淳和
イメージで捉える呼吸器疾患
 第16回 アスペルギルス感染症「血痰が出て体重が急に減ってきました」
Focus On
 睡眠呼吸障害の診断と治療 葛西隆敏
 
[投稿] 
症例
 多発骨折を契機に診断された囊胞性鞍上部腫瘍によるCushing病の1例 加藤夏果
 
[書評] 
STIのナインストーリーズ プライマリケアの性感染症 上原由紀
便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症 春間 賢
便通異常症診療ガイドライン2023―慢性下痢症 春間 賢

 プライマリケアは地域や患者のニーズの変化に応えられているか.
 地域医療を取り巻く環境は急激に変化している.最大の要因は言うまでもなく少子高齢化と重老齢化・多死化だ.地域によっては人口減少が加わる.そして,この人口構成の変化は地域医療にも否応なしに変化を迫る.
 一つは疾病構造と医療ニーズの変化だ.入院関連機能障害やポリファーマシーなど急性期病院×臓器別専門診療を中心とした医療提供体制が脆弱な高齢者に新たな医原性の問題を引き起こしている.医療以前に食事や清潔など生活面の支援が求められるケースも多く,地域の介護事業所との連携も必要不可欠だ.診察室のなかで診療が完結する時代は終わった.
 医療技術は急速に進化している.がんの10年生存率は6割に達しようとしている.かつては延命といわれた処置で人生を取り戻し,医療機器を活用しながら社会で活躍を続ける難病の人も増えている.「病気や障害とともに生きる」という選択が一般化・多様化するなか,「治す医療」のみならず「支える医療」にも進化が求められている.
 患者の意識も変化しつつある.現在の超高齢者の多くは自身の長生きを予期できずに齢を重ね,医師を尊敬し,パターナリズムに従順だ.しかしその次の団塊の世代は,人生100年時代を主体的に生き,スマホなどテックへの親和性が高く,医療に対する消費者意識も強い.医師はこれまで以上に患者ごとに最適な医療を提供する努力が求められる.
 患者の経済的負担も変化する.自己負担割合の増加は,医療の選択における経済的要因の比重を大きくする.社会保障費は右肩上がりで上昇する一方,就労人口の減少により一人当たりの負担は加速度的に増大している.これまではプロセス評価で診療報酬を受け取ってきた医療機関も,そのアウトカムに対して費用負担者への説明責任を果たさなければならないかもしれない.
 医療者の意識も変化している.1人で24時間地域を支え続ける,そんな旧来型の「赤ひげモデル」は,患者の絶対数の多い都市部では現実的ではない.一方,患者の絶対数の少ない地域では医師自身の高齢化も進行する.在宅医療の持続可能性をいかに担保するのか.これも大きな課題だ.
 本特集では,さまざまな社会環境が急速に変化するなか,地域医療に求められる役割が何なのかをあらためて整理するとともに,変化の先にある「未来の在宅医療」の言語化を試みた.分担執筆をお願いしたのは,それぞれのフィールドで患者のニーズに真摯に向き合いながら,日々新しいチャレンジを重ねている在宅医療の実践者たち.当事者の方にもチームの一員として執筆にご参加いただいた.患者とともにつくるこれからのプライマリケアの一端を具体的にイメージしていただければ幸いである.
 大きな変化のタイミングで,このような有意義な機会を与えていただいた本誌編集委員会の先生方,多忙ななかご執筆いただいた先生方に心からの感謝の意を表したい.

佐々木 淳
(医療法人社団悠翔会)

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