雑誌

臨床雑誌内科≪月刊≫

喘鳴がある患者に出会ったら(Vol.131 No.5)2023年5月号

病態をカテゴライズして診断する

発行年月 : 2023年5月
判型 : B5

在庫あり

定価2,970円(本体2,700円 + 税)


  • 主要目次
  • 序文

[特集]
喘鳴がある患者に出会ったら―病態をカテゴライズして診断する
企画:皿谷 健

[Chapter 1]序論 
 喘鳴の基礎知識 皿谷 健
 
[Chapter 2]喘鳴をカテゴライズする
 呼吸器疾患を疑う喘鳴 糸賀正道・田坂定智
 循環器疾患を疑う喘鳴 山崎直仁
 膠原病関連疾患を疑う喘鳴 陶山恭博
 耳鼻咽喉科疾患を疑う喘鳴 佐藤文彦 ほか
 
[Chapter 3]悪性疾患と喘鳴
 他臓器悪性腫瘍の血行性転移/直接浸潤による気道狭窄 茂田光弘
 気管腫瘍 @:上皮性(良性,悪性) 橘 啓盛
 気管腫瘍 A:非上皮性(良性,悪性) 河内利賢
 
[Chapter 4]感染症と喘鳴
 喉頭,気管・気管支結核 佐々木結花
 気道ウイルス感染症 長瀬洋之・杉本直也
 気管支喘息の増悪 中込一之
 COPDの急性増悪 荒川 悠・山岸由佳
 気管支拡張症(ブロンコレア) 伊藤優志・森本耕三
  
[Chapter 5]アレルギー/膠原病と喘鳴
 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA) 佐々木信一
 [Topics]喘鳴を呈する疾患の呼吸機能検査 久保田 勝
 アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA) 池田早織・四方田真紀子
 好酸球性細気管支炎/好酸球性気管支炎 石黒 卓
 多発血管炎性肉芽腫症(GPA) 田巻弘道
 [Topics]はじめてのピークフローメーター 放生雅章
 再発性多発軟骨炎 安部 樹・清水英樹
 
[Chapter 6]緊急の治療を要し,喘鳴を伴うその他の疾患
 心臓喘息 伊佐幸一郎・水野 篤
 気管支内異物(気道異物) 藤田 明
 喉頭浮腫,急性喉頭蓋炎 土屋洋之・仲里信彦
 
[鼎談]
 喘鳴がある患者を診るうえでのマインドセット―総合内科,循環器内科,呼吸器内科の各視点から 皿谷 健[司会]・峯村信嘉・河野隆志
 
[連載]
内科医が精神科のくすりを処方する。
 第4回 ベンゾと私B 國松淳和
イメージで捉える呼吸器疾患
 第7回 がん性リンパ管症「数週間前からの息切れ」 皿谷 健
医療用ITツールのイマとミライ
 第9回 遠隔モニタリングシステム(呼吸器) 陳 和夫
Focus On
 一般内科臨床医が病理検査について気をつけること とくに検体の取り扱いについて 砂川恵伸
 
[投稿]
症例
 時相の違いによって転帰が異なった家族内発症の日本紅斑熱の3例 梅原皆斗

[書評]
臨床頭頸部癌学(改訂第2版)―系統的に頭頸部癌を学ぶために 関根郁夫
血液疾患最新の治療2023-2025 金倉 譲

 みなさんはこの絵をみてどう思うだろうか?
内科イラスト1

 そう,“おなら”である.
 腸内のガスの移動が腹圧によるガス移動の圧力と肛門のしまり具合から絶妙な音が形成される.よくよく考えると,ピーという連続性雑音のような高い音や,グー(スー?)という低い音,ぶっぶっぶっという断続性雑音まで…….まるで楽器のようだ.さらによく考えてみると,本特集の「喘鳴の基礎知識」で述べたpolyphonicな音はおならでは聞いたことがない.高い喘鳴のような連続性の音でも必ずmonophonicである.これは狭窄した部分(肛門)が1ヵ所であることから容易に想像できる.おならの音色は一種のアートではないか,と最近思い始めている.
 同様に(?)肺音は一つの管である気管を通る空気の流れがつくり出す正常呼吸音と,副雑音があり,たくさんの音が出る.私は画像をみる前に患者の病歴と訴えだけをもとに聴診するように意識している.本稿を書いている本日の外来も全肺野,とくに両側肺底部優位にfine cracklesのある男性が来院し,聴診だけで間質性肺炎と診断した.毎日多くの患者が来院するが,一つとして同じ肺音(副雑音)はない.病歴にも個々のストーリーがあるように,聴診を通して患者の歴史を感じることがある.
 在宅酸素の導入目的で入院し,特殊な胸膜摩擦音を呈した高齢女性がいた(図).その原因は第二次世界大戦中に日本の軍事工場で十代の頃わずか1年間,戦闘機のブレーキパットをつくる作業により大量のアスベスト曝露をしたことだった1).休憩時間に日光に当たると,皮膚についたアスベストがキラキラ光ってみえたという.
 われわれは聴診という技術を介して患者とつながり,時にはその生き方にも思いを馳せることができる.エイブラハム・バルキーズの「医師の手が持つ力」というセッションがある2)ように,聴診は診断のためだけでなく,医師と患者をつなぐスキルでもある.田舎のあぜ道を自転車に乗り,聴診器とカバンをもって往診しているのが,私の思い描いていた古きよき医師像である.
 2023年から全国の医学生(4年,6年)の共通の身体所見テスト(通称OSCE)にも肺音が出題される.200年以上前に発明された聴診器がいまだに残っているのは,診断だけでなくコミュニケーションスキルとしても聴診が大事だからである.
 今回,“喘鳴wheezes”をスペシャリストの各先生方からさまざまな目線で論じていただき,wheezesを介して患者像の全体がみえる特集号になっている.本誌を手にとっていただいた先生方の明日からの診療にお役に立てれば幸いである.

文献
1)Shirai T, et al. Memory of World War II with loud atypical friction rub due to pulmonary asbestosis. BMJ Case Rep. 2017;2017:bcr2017222085. PMID:29054957
2)エイブラハム・バルキーズ.医師の手が持つ力.
<https://www.ted.com/talks/abraham_verghese_a_doctor_s_touch/transcript?language=ja>[Accessed 2023 Mar 13]

皿谷 健
(杏林大学 呼吸器内科)

内科図1
図 特殊な胸膜摩擦音を呈した高齢女性
[文献1)より]

3031051