放射薬品学
著 | : 小佐野博史/志村紀子/原武衛/坂本光/奈良場博昭/岸本成史/小原東也 |
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ISBN | : 978-4-524-40318-9 |
発行年月 | : 2015年12月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 238 |
在庫
定価4,400円(本体4,000円 + 税)
正誤表
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2022年12月02日
第1刷〜第2刷
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
やさしくわかりやすい放射化学、放射薬品学領域の教科書。薬剤師国家試験への対応を基軸としつつも、理解を助けるためのやや高度な情報を適宜盛り込み、飽きずに学べる構成。また、放射線科の医師による医療現場での放射線利用についての紹介など、医療についての記述を充実させ、薬剤師としての実務で困らない力を育むことを目指した。
1章 はじめに
A 放射線と環境
1 環境放射線
2 放射性核種のもつ特徴
3 食品と身体に含まれる放射性同位元素
4 体内での代謝
5 食品への放射線の利用
B 放射線と医療
1 医療事故と放射線
2 医療における放射線の有用性
C まとめ
2章 原子核および放射能
A 原子の構造
1 原子
2 原子核の構造
3 原子質量とエネルギー
4 結合エネルギーと原子核の安定性
5 核種,同位体
6 放射線の種類
B 壊変の形式,壊変図式
1 放射性壊変
2 クーロン障壁とトンネル効果
3 壊変図式
4 核スピン,パリティ
C 壊変の法則と放射平衡
1 壊変の法則(壊変律)
2 放射平衡
D 放射能の単位,比放射能
3章 放射線と物質の相互作用
A α線
B β-線
C β+線
D γ線
E 中性子線
F 放射線量を表す単位
1 照射線量
2 吸収線量
3 等価線量
4 実効線量
4章 原子核反応と放射同位元素の製造
A 天然放射性核種
1 1次放射性核種
2 2次放射性核種
3 誘導放射性核種
4 消滅放射性核種
B 核反応
C 核分裂
1 自発核分裂
2 誘導核分裂
D 人工放射性核種とその製造
1 原子炉による製造
2 サイクロトロンによる製造
3 ジェネレータによる製造
4 加速器の種類と開発の歴史
5章 放射線測定法
A 放射能と測定値
1 放射能と測定値の関係
2 測定値の取り扱い
B 放射線測定器
1 放射線の種類と放射線測定器
2 気体の電離を利用した放射線測定器
3 固体の電離を利用した放射線測定器
4 物質の励起・発光を利用した放射能測定器
5 サーベイメータ
6 個人被曝線量計
7 その他の測定法
C 放射線エネルギーの測定
1 α線のエネルギー測定
2 β線のエネルギー測定
3 γ線のエネルギー測定と核種の同定
6章 薬学領域における放射性同位元素の利用
A 放射性化合物を用いた体内動態の解析
1 トレーサー実験
B 放射性化合物を用いた基礎研究や臨床検査における分析手法
1 ラジオイムノアッセイ(RIA)
2 イムノラジオメトリックアッセイ(IRMA)
3 オートラジオグラフィ(ARG)
C 同位体希釈分析
1 直接希釈法
2 間接希釈法
3 二重希釈法
D 放射化分析
E 滅菌
F ライフサイエンス研究における新たな利用
7章 放射性医薬品
A 核医学検査と放射性医薬品
B 放射性医薬品の定義
C 放射性医薬品の分類
D 放射線医薬品総論
1 特徴
2 診断用放射性医薬品に汎用される99mTc
3 診断用放射性医薬品に用いられる核種の用途とエネルギー
4 診断用放射性医薬品一覧
5 治療用放射性医薬品に用いられる核種とエネルギー
E 放射性医薬品各論
1 体内診断用医薬品各論
2 治療用放射性医薬品
3 体内診断用(in vitro)放射性医薬品
8章 物理的画像診断法
A X線による画像診断
1 X線を用いた画像検査の概要と原理
2 単純X線撮影
3 X線透視撮影
4 X線コンピュータ断層撮影(X線CT)
5 X線造影検査とX線造影剤
B 核医学検査
1 核医学検査の概要とその原理
2 シンチレーションカメラ
3 SPECT装置
4 PET装置
C 核磁気共鳴(NMR)による画像診断
1 磁気共鳴画像法(MRI)の概要
2 MRIの原理
3 MRIの実際
4 MRI造影剤
D 超音波による画像診断
1 超音波による画像検査法の概要
2 超音波検査の原理
3 超音波検査の実際
E その他の方法による画像診断
1 内視鏡検査
2 眼底検査
9章 放射線の生体への影響
A 環境からの放射線被曝
B 直接作用と間接作用
1 放射線の影響における時間的過程
2 線質と線量率(LET)効果
3 直接作用の概念と標的説
4 間接作用の概念とラジカルの生成
5 照射回数および照射範囲と細胞環境による変化
6 間接作用で認められる効果(希釈,酸素,化学的防護,増感,温度)
C 放射線が細胞に及ぼす影響
1 DNAの損傷と修復
2 細胞の種類による放射線感受性の違い
3 細胞周期と放射線感受性
4 突然変異と染色体異常
5 染色体型異常と染色分体型異常
6 染色体異常の構造的な種類と安定性
D 放射線が組織に及ぼす影響
1 組織の放射線感受性
2 造血器および血液の放射線感受性
3 生殖腺の放射線感受性
4 輸血血液の放射線照射
E 放射線が個体に及ぼす影響
1 身体的影響と遺伝的影響
2 確率的影響と確定的影響
3 急性放射線障害
4 晩発性障害
F 放射線が胎児に及ぼす影響
1 妊娠時期と影響
G 内部被曝
1 核種と集積部位
2 実効半減期(有効半減期)
H 外部被曝
I 非電離放射線の生体に及ぼす影響
1 非電離放射線の種類と利用法
2 電波が生体に及ぼす影響
3 可視光線が生体に及ぼす影響
4 紫外線が生体に及ぼす影響
5 赤外線が生体に及ぼす影響
10章 放射線安全管理
A 国際放射線防護委員会(ICRP)による勧告
1 ICRPによる放射線防護の目的と放射線防護体系
2 ICRP勧告での放射線被曝の分類
B 放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(障害防止法)
1 障害防止法における放射線・放射性同位元素の定義
2 障害防止法の構成
3 障害防止法に関係する法律・法令
C 放射性同位元素の安全取り扱い
1 外部被曝の防護
2 内部被曝の防護
3 作業環境および個人被曝線量の測定
4 汚染の管理
5 放射性廃棄物の管理
D 事故と対策
1 事故・危険時の措置
2 被曝事故時の措置
3 原子力災害と国際原子力事象評価尺度
11章 薬剤師と放射線のかかわり
A 環境における放射線と薬剤師
1 環境中の自然放射線と被曝
2 日常生活および職業上受ける被曝
3 核実験や放射線事故に起因する放射線や放射性物質と被曝
4 被曝医療と薬剤師
B 医療における放射線利用と薬剤師
1 放射線医学の3大分野
2 放射線診断学の臨床と薬剤
3 放射線治療学の臨床と薬剤
4 核医学と薬剤師
索引
序文
東日本大震災以降、放射線や原子力に対する話題が多くなったが、本当に放射線や原子力のことを熟知して、私たちは将来を語っているのであろうか。
被曝と汚染の違いは?放射線と放射能の違いは?目に見えない放射線の測定方法は?放射性同位元素がかかわる分野は身近に不安を煽る要素が多いわりに正しいことが十分に伝わっていない。
一方、学生の文字離れが懸念されて久しいが、本当に若者は文字が多い本は嫌いなのだろうか。趣味や大好きな分野なら、また、わかりやすく書かれている本ならば抵抗なく文字を追ってゆくのではないだろうか。
薬剤師をはじめ専門職の世界では、生涯にわたって学ぶことが必要である。若いときはまだしも、いい年をして勉強はつらいと感じる人は多い。
では、成人が学びたいと思うのはどんなときであろうか。
(1)目標がはっきりしているとき、
(2)感化する人がいるとき、そして、
(3)知識の深い部分を体験するとき、の3つの動機であるといわれている。
本書を手にとってこれから放射薬品学を勉強する読者は、成人式を迎えるか迎えないかといった年代から上の年齢であることを考えると、この3つの動機はとても重要である。
(1)はもちろん薬剤師として放射線に関する知識を十分に使いこなすことにある。
(2)はこの教科書を使って講義や実習を行ってくれる教員ではないだろうか。
(3)については特に、成人が学ぶ「専門」といわれる分野では、知識をただ覚えるのではなく、それらを使って目の前の事実に意味づけをし、解決することによって社会の役に立ってはじめてその意義と深さがわかり、さらに学ぼうとする姿勢の醸成である。
だから、専門的な分野の教科書というものは、学ぶ者を引き上げ、学問の面白さを伝えることが使命である。
本書は、このような観点から専門家として放射薬品学を学ぶ者にとって、印象に残るしっかりとした基礎から、基礎を積み上げて実現した臨床応用まで、理解できたときに面白さがわかるようにと、執筆者が大変な労力をかけてわかりやすく作成した教科書である。ただ、放射薬品学の要点、いわゆる「ヤマ」だけを幅広く簡単に解説したものではない。
放射薬品学で扱う分野はとても広い。そして難しい。原子力、放射線、放射性同位元素が現代社会で、特に医療分野でどのように役に立っているのか、何のために放射薬品学を学ぶのかも本書を通して考えていただければ幸いである。
寺田寅彦のエッセイ、「小爆発二件」のなかの一文「ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしいことだと思われた。」という言葉に、情報収集の的確さ、専門的知識の正当な意味づけ、そして実行力の大切さを感じる。
最後に、この企画の実現に向けてご尽力いただいた北里大学名誉教授中川靖一先生に心からお礼を申し上げる。
2015年9月
執筆者を代表して
小佐野博史