食品衛生学改訂第2版
「食の安全」の科学
編集 | : 那須正夫/和田啓爾 |
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ISBN | : 978-4-524-40272-4 |
発行年月 | : 2011年4月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 360 |
在庫
定価5,500円(本体5,000円 + 税)
サポート情報
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2015年03月12日
改訂薬学教育モデル・コアカリキュラム(平成25年度改訂版)対応表
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
薬学部学生を主な対象として、薬学を基盤に食品衛生学に関わる科学と法を網羅した教科書。科学と法が一体となった食品衛生を俯瞰するのに最適。薬学コアカリキュラム「健康と環境」の食品衛生学部分に対応(コアカリ対応表を収載)。「第2版」では最新の法規制に対応するだけでなく、2色刷りとして一層学びやすくなった。より深く学びたい管理栄養士にも必携の一冊。
第1章 食品衛生の現状と課題
A.食品衛生に関わる科学
B.食品衛生に関わる法律
1.食品安全基本法と食品安全委員会
2.食品衛生法
3.食品衛生監視員
C.食品に起因する健康障害
コラム 感染症法
D.食品添加物
コラム 食品表示
E.HACCP
コラム 微生物モニタリング
F.国際化社会における食品衛生
1.食品の国際規格
2.輸入食品の監視
コラム ナチュラルミネラルウォーターのコーデックス規格
G.新規食品
H.健康を志向する食品
I.食品衛生における疫学
コラム 環境中の細菌を追跡する
第2章 食品成分と食生活・生活習慣病
A.栄養素および非栄養素食品成分の機能
1.糖質
2.タンパク質、アミノ酸
3.脂質
a.分類・命名法
4.ビタミン
a.脂溶性ビタミン
b.水溶性ビタミン
5.ミネラル
a.カルシウム(Ca)
b.リン(P)
c.マグネシウム(Mg)
d.鉄(Fe)
e.銅(Cu)
f.亜鉛(Zn)
g.セレン(Se)
h.マンガン(Mn)
i.クロム(Cr)
j.ヨウ素(I)
k.モリブデン(Mo)
l.カリウム(K)
m.ナトリウム(Na)
6.食物繊維
7.摂取エネルギー(食品中のエネルギー)と消費エネルギー
8.基礎代謝
9.呼吸商
B.食生活:日本人の食事摂取基準(2010年版)と生活習慣病の予防
1.日本人の食事摂取基準(2010年版)の概念とその利用
2.高齢化社会と生活習慣病
3.肥満
4.高血圧
5.脂質異常症
6.糖尿病
7.虚血性心疾患・急性冠症候群
8.脳血管疾患(脳卒中)
9.がん
a.口腔・咽頭・喉頭がん、食道がん
b.胃がん
c.大腸がん
d.肝臓がん
e.膵臓がん
f.肺がん
g.乳がん
10.骨粗しょう症
C.新しい食品の形態
1.特別用途食品
2.保健機能食品
a.特定保健用食品
b.栄養機能食品
3.いわゆる健康食品
a.いわゆる健康食品の原材料
b.いわゆる健康食品の表示・広告
c.いわゆる健康食品の品質と有効性
d.いわゆる健康食品と医薬品との相互作用
コラム ダイエット食品
第3章 食品の安全性確保
A.安全性の確保
1.食品汚染
2.安全性確保のシステム
a.食肉の安全性確保
b.農作物の安全性確保
c.製造流通過程の安全性確保
d.輸入食品の安全性確保
3.新たな評価基準の必要性
a.遺伝子組換え食品対策
b.抗生物質耐性菌対策
コラム 旅行者下痢症
c.狂牛病など伝染性海綿状脳症感染動物対策
B.化学物質の安全性評価
1.リスクとベネフィット
2.リスクアセスメント
a.有害性確認
b.曝露評価
c.用量作用評価
d.リスク判定
3.毒性と毒性試験
a.一般毒性試験
b.特殊毒性試験
c.吸収、分布、代謝、排泄に関する試験
4.用量-反応関係
5.許容限度
a.1日許容摂取量
b.食品添加物および農薬などのADI策定と安全性確保
c.マーケットバスケット方式による食品添加物、残留農薬の実態調査
d.ダイオキシン類の対策
6.動物実験
a.実験動物種(遺伝的要因)
b.環境要因
c.動物福祉
d.GLP(Good Laboratory Practice)規制と毒性試験ガイドライン
C.安全性を確保するための食品表示
1.日付表示
2.加工食品の原材料表示
3.食品の規格と品質の表示
第4章 食品の微生物などによる汚染と健康障害
A.経口感染症
1.法による規制
2.経口感染症の原因となる主な病原微生物とその症状
a.細菌性経口感染症
b.ウイルス性経口感染症
コラム HAVの罹患率と抗HAV抗体陽性率
c.原虫性経口感染症
d.寄生虫感染症
コラム 本州にも侵入したエキノコックス
B.食中毒
1.食中毒の発生状況
2.食中毒の原因微生物各論
a.細菌性食中毒
コラム ボツリヌス毒素のバイオテロでの使用の危険性と医療への応用
コラム 乳児ボツリヌス症
b.ウイルス性食中毒
3.微生物による食中毒の予防
a.総論
b.HACCP
コラム 鶏卵のサルモネラ防御対策
コラム 食品の加熱における時間と表面温度が細菌の殺菌に及ぼす効果
c.食中毒原因微生物の統御の原則
d.新しい微生物制御に向けた対策
コラム 母子感染
第5章 食品に存在するアレルギー性物質と疾患
A.アレルギーのメカニズム
1.アレルギーとは
2.アレルギー反応の型
3.肥満細胞と化学伝達物質
a.肥満細胞の脱顆粒機構
b.化学伝達物質
B.食事性アレルギー
1.食事性アレルギーと原因食品
2.加工食品への表示
3.食事性アレルギーの主な原因食品
a.卵
b.牛乳
c.小麦
d.大豆
e.落花生
f.ソバ
4.食事性アレルギーの症状
a.消化器症状
b.皮膚症状
c.呼吸器症状
d.その他の症状
5.食事性アレルギーの診断
6.食事性アレルギーの治療
C.アレルギー様食中毒
第6章 食品に存在する天然の有害物質による健康障害
A.自然毒食中毒発生状況
B.動物性自然毒食中毒
1.魚類による中毒
a.フグ毒
b.シガテラ毒
c.高含量脂質
d.過剰ビタミンA
e.パリトキシン
2.貝類による中毒
a.麻痺性貝毒
b.下痢性貝毒
c.神経性貝毒
d.記憶喪失性貝毒
e.アサリ毒
f.テトラミン
g.バイ(小型巻貝)の毒
h.クロロフィル分解物
C.植物性自然毒食中毒
1.食用植物等の有害成分
a.青酸配糖体
b.アルカロイド
c.グルコシノレート(チオ配糖体)
d.綿実油
e.ギンナン(銀杏)
f.グラヤノトキシン
g.ジギタリス
h.ドクゼリ
2.キノコの有害成分
a.中毒症状による分類
b.キノコの有毒成分
コラム 幻覚性キノコ
D.マイコトキシン
1.マイコトキシンの産生条件
2.マイコトキシンの性質
3.マイコトキシンの汚染防止と規制
4.マイコトキシン各論
a.アフラトキシン
b.ステリグマトシスチン
c.オクラトキシン
d.黄変米毒素
e.Penicillium属のカビが産生するその他のマイコトキシン
f.Fusarium属のマイコトキシン
g.麦角アルカロイド
5.真菌中毒症の予防
第7章 食品に存在する変異原・発がん物質と抗変異原・抗発がん物質
A.食物と発がん性の関係
1.がんの発生
2.がんの原因物質
3.がんの疫学調査
B.食品中の変異原・発がん物質
1.多環芳香族炭化水素
2.ヘテロサイクリックアミン
3.ニトロソアミン
4.アクリルアミド
5.アフラトキシン
6.その他の変異原・発がん物質
a.ジカルボニル化合物
b.亜硝酸処理により変異原性を示す化合物および食品
C.変異原物質、発がん物質の分離検出
1.変異原物質の分離と精製
2.変異原性試験
a.Ames試験
b.小核試験
c.コメットアッセイ
3.発がん性試験
4.変異原・発がん物質の同定
D.食品成分中の抗変異原・抗発がん物質
1.抗変異原作用
a.直接変異原の不活性化
b.間接変異原の不活性化
c.ニトロソ化反応およびメイラード反応の抑制
d.植物中の酸素による変異原性の抑制
2.植物成分によるがん予防
第8章 食品の変質による有害物質の生成
A.腐敗
1.腐敗に影響する因子
a.温度
b.pH
c.水分活性
2.腐敗の識別法
a.感覚試験
b.微生物学的試験
c.化学的試験
コラム アレルギー様食中毒
3.腐敗の防止法
B.食品中の酵素、化学的活性物質による変質
1.微生物の酵素による変質
a.脱炭酸反応
b.脱アミノ化および脱炭酸反応
2.褐変現象
a.酵素的褐変現象
b.非酵素的褐変現象
コラム 食品のメイラード反応は発がん物質をつくる
C.酸素による変質
1.油脂の変敗
2.油脂の変質試験
a.酸価
b.過酸化物価
c.カルボニル価
d.チオバルビツール酸試験
e.ヨウ素価
D.食品の加工、調理時に生成する有害性有機化合物
1.フェオホルビドおよびピロフェオホルビド
2.メタノール
3.ヘテロサイクリックアミン
第9章 食品を汚染する人為的有害物質と健康障害
A.有機ハロゲン化合物
1.ポリ塩化ビフェニル(PCB)
a.カネミ油症事件
b.PCBの物性
c.食品に含まれるPCB
2.ダイオキシン類
a.ダイオキシン類の物性
b.ダイオキシン類の毒性
c.食品に含まれるダイオキシン類
d.ダイオキシン類の作用メカニズム
3.残留性有機汚染物質に対する国際的な取り組み
B.金属
1.ヒ素
a.ヒ素による食中毒事例
b.ヒ素の毒性
2.カドミウム
a.イタイイタイ病
b.カドミウムの毒性
3.水銀
a.水俣病
b.水銀の毒性
4.鉛
5.重金属に対する生体防御因子
C.内分泌撹乱化学物質
1.内分泌撹乱化学物質とは
2.内分泌撹乱化学物質の作用機構
3.内分泌撹乱性が疑われている化学物質
a.ビスフェノールA
b.フタル酸エステル類
c.ノニルフェノール
d.有機スズ化合物
D.放射性物質
1.放射性物質による汚染
2.放射性物質の生体への影響
3.食品への放射線照射
第10章 残留農薬・飼料添加物の安全性
A.農薬の使用とその規制
1.農薬取締法と食品衛生法
2.農薬残留基準の設定
3.輸入農作物の検査体制
コラム 有機農作物
B.農薬の種類とその安全性
1.有機リン系殺虫剤
2.有機塩素系殺虫剤
コラム 不許可農薬の混入事件
3.カルバメート系殺虫剤
4.ピレスロイド系殺虫剤
5.殺菌剤
6.除草剤
7.収穫後農薬(ポストハーベスト農薬)
C.飼料添加物および動物用医薬品
コラム 飼料添加物エトキシキン
第11章 食品添加物の有用性と安全性
A.食品添加物総論
1.食品添加物とは
2.食品添加物の指定と基準
3.食品添加物の安全性
4.食品輸入に関わる食品添加物の指定
5.加工食品への食品添加物表示
コラム 香料事件
B.食品添加物各論
1.保存料
2.防カビ剤
3.酸化防止剤
4.殺菌料
5.漂白剤
6.着色料
7.発色剤
8.甘味料
9.調味料
10.酸味料
11.栄養強化剤
12.防虫剤
13.香料
14.その他の食品添加物
C.食品添加物の摂取量
第12章 器具・容器包装および洗剤
A.器具・容器包装の定義と食品衛生
1.一般用途の器具および容器包装の規格基準
2.器具・容器包装の材質と規格
a.ガラス製、陶磁器製、またはホウロウ引きの器具または容器包装
b.合成樹脂の器具または容器包装
c.ゴム製の器具または容器包装
d.金属缶
3.器具または容器包装の用途別規格
4.器具および容器包装の製造基準
5.乳および乳製品の容器包装
6.容器包装の識別表示
B.洗剤
1.洗剤の分類と成分
2.食品衛生法における洗剤
3.洗剤と水環境
コラム 食品の容器包装とゴミの減量・リサイクル
第13章 遺伝子組換え食品
A.遺伝子組換え食品の概要
1.遺伝子組換え食品の定義
2.遺伝子導入方法
a.アグロバクテリウム法
b.エレクトロポレーション法
c.パーティクルガン法
3.わが国における遺伝子組換え食品の安全性評価
コラム 遺伝子組換えの遺伝子とは?
B.遺伝子組換え食品の種類
1.除草剤耐性農作物
2.害虫抵抗性農作物
3.日持ちのよい農作物(トマト)
4.ウイルス病に強い農作物
5.高栄養価農作物
6.掛け合わせ品種(スタック品種)
C.表示
1.従来のものと組成、栄養価等が同等のもの
2.従来のものと組成、栄養価等が著しく異なるもの
D.遺伝子組換え食品検知法
1.系統と品種
2.組換えタンパク質を検知する方法
3.組換えDNAを検知する方法
a.定性PCR法
b.PCR用標準物質
c.定量PCR法
d.スタック品種トウモロコシ混入試料に対する定量検知法の対応
E.将来の展望
コラム 日・米・欧での考え方の違い
第14章 食品に存在する有害物質の体内動態と代謝機構
A.異物の体内動態
コラム 異物の膜輸送とトランスポーター
1.吸収
a.細胞膜輸送機構
b.油-水分配係数
c.pH-分配仮説
2.分布
a.タンパク結合
b.組織-血液間分配係数
c.組織関門
3.代謝
4.排泄
a.尿中排泄
b.胆汁排泄
c.その他の排泄経路
B.異物の代謝機構
コラム 最近話題になった食品中の発がん物質と代謝活性化
コラム 遺伝子多型
1.第I相反応(官能基導入反応)
a.酸化
b.還元
c.加水分解
2.第II相反応(抱合反応)
a.グルクロン酸抱合
b.グルコース抱合
c.硫酸抱合
d.グルタチオン抱合とメルカプツール酸
e.アセチル抱合
f.アミノ酸抱合
g.メチル抱合
h.チオシアネート化
3.腸内細菌による異物代謝
4.異物代謝に対する食品成分の影響
参考図書と関連ホームページ
索引
生活様式や社会構造が大きく変化し、流通システムが整備されることにより、食卓の中心を加工食品が占め、食の安心と安全への社会的関心はこれまで以上に高まっている。
食べ物がお互いに顔の見える範囲で生産、製造されていた時代では、品質は個人のモラルと経験によって保障されることが多かったのに対し、食品工業が発展し、また規模が拡大するとともに科学と法によって保障されるようになり、食品衛生に関する新たな社会システムが構築されようとしている。食品製造現場の厳密な衛生管理が必須となり、添加剤の役割もこれまで以上に大きくなっている。一方、無添加志向の強まりとともに微生物汚染などに対するさらなる配慮が求められている。
貿易の自由化は時代の要請であり、食の世界でも例外ではない。日本のカロリーベースの食料自給率は約40%である。食卓にのぼるメニューを食材レベルでみると、日本産の材料だけで調理することがいかに難しいかを実感できる。またさまざまな規格・基準の国際調和が積極的に進められているが、食の安全に関する基本的な考え方は国ごとに異なる場合もあり、検疫、また検査の果たす役割はこれまで以上に大きくなっている。
このようなわが国における食品衛生に関わる社会的背景の大きな変化をふまえ、本書の改訂にあたっては新たな執筆者も加わり、初版の内容の見直しを図った。すなわち、第1版では主として食品衛生学に関わる分野について科学的観点から参考書として役立つことを意図して編集したが、改訂第2版では第1版で取り扱った分野はもちろん、食品衛生を広く健康増進につながる食品とその安全性にまで範囲を拡張して再構成した。とくに急速に高齢社会となったわが国においては生活習慣病罹患率が高まり、これに関連した食生活や食品(健康食品やサプリメントなど)と疾病や安全性との関係の重要性にも配慮しその内容を充実させた。
本書では、薬学、農学、栄養学および医学などの幅広い分野で「食と安全の科学」が活用できることを意図し、また食品衛生学が科学と法制度によって成り立っていることに留意し、各章において随所に独立したコラムを設けて現実の社会問題としてとらえることもできるよう配慮した。さらに、2012年3月から6年制薬学教育に対応した薬剤師国家試験が実施されることに伴い、本書では見返しに出題基準に準ずる薬学教育モデルコアカリキュラムを掲載し、各章の学習項目と到達目標が対応できるようにした。
本書が、食品衛生学ならびに関連する学問分野の発展に寄与し、わが国の食の安全の確保の一助になることを願ってやまない。
平成23年3月
那須正夫
和田啓爾