医薬品トキシコロジー改訂第4版
医薬品を安全に使うために
編集 | : 佐藤哲男/仮家公夫/北田光一 |
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ISBN | : 978-4-524-40259-5 |
発行年月 | : 2010年10月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 358 |
在庫
定価4,180円(本体3,800円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
医薬品の適正な使用のために、副作用・有害作用のメカニズムを最新の科学に照らして解説した薬学部学生向けテキスト。今改訂では、本書の中心部分である「V章:器官毒性」「VI章:臨床トキシコロジー」を充実させた。また、2色刷を採用するなど、より一層理解しやすいテキストとした。
I 医薬品の安全性と医療倫理
1 医薬品の安全性
1 医薬品トキシコロジー
2 トキシコロジーの概念
3 リスクアセスメントとリスクマネージメント
a 暴露と変動要因
b 用量-反応相関
4 薬害
a 日本国内での主な薬害事件
5 医療過誤
2 医療倫理と医薬品開発
1 歴史的推移
2 医薬品開発に関する実施基準
a 医薬品の安全性試験の実施に関する基準(GLP)
b 医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)
c 医薬品の製造販売後の調査および試験の実施の基準(GPSP)
d 医薬品の製造販売後安全管理の基準(GVP)
3 インフォームドコンセント
II 薬物の作用
1 トキシコキネティクスの基本
1 薬物動態を規定する諸因子
2 吸収
a 薬物の物理化学的性質
b 薬物のpKaと周辺のpH
c 生体膜からの吸収
3 分布
a 薬物の分布に影響を及ぼす因子
b リンパ管系への薬物移行
c 脳への薬物移行
d 胎児への薬物移行
4 代謝
a 薬物代謝の反応様式
b CYPによる酸化的代謝
c 薬物代謝酵素の誘導と阻害
5 排泄
a 薬物の尿中排泄
b 薬物の胆汁中排泄
2 トキシコダイナミクスの基本
1 薬物の作用点としての受容体
a Gタンパク質共役型受容体
b イオンチャネル内蔵型受容体
c 酵素内蔵型受容体
d 活動電位依存型イオンチャネル
e 細胞内受容体(核内受容体)
f 酵素
g トランスポーター
2 トキシコダイナミクスからみた薬物相互作用
3 毒性発現機序の基本
1 生体内移動
a 吸収と分布
b 排泄と再吸収
c 毒性と解毒
2 生体分子との毒性発現反応
a 標的分子との毒性反応
b 標的分子以外との毒性反応
3 細胞機能障害
a 細胞機能調節障害
b 細胞機能保守障害
4 機能修復とその障害
a 生体構成分子の修復
b 細胞修復
c 組織修復
d 修復不全・異常と毒性
4 予期される作用
5 予期されない作用
III 副作用の変動要因
1 薬物代謝酵素の遺伝子多型
1 CYP
a CYP2D6
b CYP2C19
c CYP2C9
d その他のCYP
2 抱合酵素
a UGT1A1
b チオプリンメチル転移酵素(TPMT)
c NAT2
3 その他の酵素
2 トランスポーターの遺伝子多型
1 トランスポーターと疾患
a ABCトランスポーター
b アミノ酸トランスポーター
c 有機カチオントランスポーター
d 有機アニオントランスポーター
e その他のトランスポーター
2 トランスポーターと体内動態および薬効
3 トランスポーターと薬物相互作用
3 標的組織の感受性(受容体・修復系の差異)
1 体質の相違(アレルギー、免疫、酵素)
2 病態生理学的変化(各種疾患)
a α1アドレナリン受容体
b α2アドレナリン受容体
c β1アドレナリン受容体
d β2アドレナリン受容体
e β3アドレナリン受容体
f セロトニン(5-HT)受容体
g D2ドパミン受容体
h リアノジン受容体
i イオンチャネル
j ホルモン受容体
3 外的要因
a 温度
b ストレス、群居/独居
c バイオリズム(日内変動)
d 飲食物
4 後天性の要因
1 生理的要因
a 妊娠
b 年齢
2 病的要因
a 肝障害
b 腎疾患
5 薬物依存性
1 薬物依存の形成過程
2 依存性薬物
3 わが国における薬物乱用の歴史
4 法的規制
5 薬物依存の評価法
6 医療における依存性薬物
a がん疼痛治療と医療用麻薬
b ベンゾジアゼピン受容体刺激薬と常用量依存
c メチルフェニデート乱用
6 薬物耐性
1 耐性を形成する薬物
2 耐性の種類および機構
3 交差耐性
IV 病態発現と副作用
1 症状からみた副作用
1 バイタルサインの把握
a 意識
b 脈拍
c 血圧
d 呼吸
e 体温
2 主な症状と原因
a 頭痛
b 胸痛
c 腹痛
d 呼吸数の異常
e 咳
f 発熱
g 動悸
h めまい
i 下痢
j 便秘
k 全身倦怠感
l せん妄
3 問診のポイント
2 感染
1 感染症治療にいたる基本事項
a 感染症か否か
b 重症度判定
c 感染臓器
d 病原微生物
e 経験的治療とpre-emptive therapy
f 検体保存
2 抗菌薬
a β-ラクタム系薬
b アミノ配糖体系薬
c マクロライド系薬
d リンコマイシン系薬
e テトラサイクリン系薬
f グリコペプチド系薬
g オキサゾリジノン系薬
h スルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST合剤)
i リファマイシン系薬(リファンピシン)
j キノロン系薬
k クロラムフェニコール
l ホスホマイシン系薬
m ポリペプチド系薬
n 抗結核薬
3 抗ウイルス薬
a 抗ヘルペスウイルス薬
b 抗インフルエンザウイルス薬
c 抗肝炎ウイルス薬
d 抗HIV薬
4 抗真菌薬
a ポリエン系薬(アムホテリシンB)
b アゾール系薬
c キャンディン系薬(ミカファンギン)
d フルシトシン(5-FC)
e ペンタミジン
5 抗寄生虫薬
a メトロニダゾール(フラジールR)
b プラジカンテル
c ピランテルパモ酸塩
d イベルメクチン
e 抗マラリア薬
3 免疫異常
1 免疫の機構と免疫毒性
a 免疫の機構
b 薬物の免疫毒性
2 薬剤誘発性の免疫異常と症状
3 免疫異常症状の発生機序
a 自己免疫症
b 免疫不全症
4 免疫毒性の試験法
a 臨床試験
b 非臨床試験
4 アレルギー
1 アレルギーの分類
a I型アレルギー
b II型アレルギー
c III型アレルギー
d IV型アレルギー
2 薬物アレルギー
a 症状
b 診断
c 機序
d 治療
e アレルギー誘発能試験
5 炎症
1 内因性物質
2 炎症の過程
3 TLRを介した炎症性サイトカインの産生
4 実際の医薬品での炎症を介した毒性
a 肝毒性における炎症の関与
b 特異体質毒性のリスクファクターとしての炎症
6 腫瘍
1 増殖と転移
2 発がん機構
3 発がん物質
a イニシエーター
b プロモーター
4 薬物と発がん
5 発がん性試験
7 先天異常、発生・遺伝毒性
1 先天異常と催奇形性
2 ヒトでの妊娠の時期と薬物の影響
a 妊娠週数の数え方と淘汰の時期
b 妊娠の時期と薬物の影響
3 発生毒性
4 発生毒性のある薬物
5 発生毒性試験法
6 遺伝毒性(変異原性)
a 突然変異の種類
b 化学物質による突然変異の機構
7 変異原性試験
a 微生物を用いる試験
b 培養細胞を用いる試験
c 哺乳類およびショウジョウバエを用いるin vivo試験
V 器官毒性
1 循環器系
1 心臓における興奮の伝導と活動電位
2 薬物による循環器系障害
a 不整脈
b 心不全
c 狭心症、心筋梗塞
3 薬物による血管障害
a 血圧異常
b 血管浮腫
2 呼吸器系
1 呼吸器系の構成と機能の概略
2 薬物による呼吸器疾患
a 間質性肺炎
b 非心原性肺水腫
c 気管支痙攣
3 消化器系
1 消化管
a 口腔内障害
b 食道障害
c 胃障害
d 腸障害
2 肝臓
a 肝臓の構造
b 肝臓の機能
c 薬物性肝障害とその分類
d 薬物性肝障害の発症機序
e 薬物性肝障害発症機序の例
付) 薬物性肝障害の治療法
3 膵臓
a 薬物性膵炎の発症機序
b 薬物性膵炎の治療
4 泌尿器系
1 腎臓
a 薬物性腎障害
b 障害指標
c 薬物性腎障害の機序
d 腎障害性薬物による急性腎不全
e 腎障害の修復因子
2 膀胱・尿道
a 尿排出障害
b 出血性膀胱炎
c アレルギー性膀胱炎
5 生殖器系
1 男性生殖機能の障害
2 男性生殖機能に障害を与える薬物
a アルコール
b プロプラノロール
c ジゴキシン
d ケトコナゾール
e スピロノラクトン
f メチルキサンチン系薬
g シクロホスファミド
h シクロスポリン
i エストロゲン製剤
j アンドロゲン製剤
k 抗アンドロゲン製剤
l その他
3 女性生殖機能の障害
4 女性生殖機能に障害を与える薬物
a アルコール
b シクロホスファミド
c エストロゲン製剤
d 抗エストロゲン製剤
e アンドロゲン製剤
f ケトコナゾール
5 乱用によって生殖器系へ障害を及ぼす化学物質
a 喫煙
b オピオイド
c ベンゾジアゼピン系薬
d 吸入薬
e その他
付 生殖機能障害の検査法
a 男性生殖機能の検査
b 女性生殖機能の検査
6 血液・造血器系
1 血液の成分
2 血球および造血器官に対する毒性
a 溶血性貧血
b メトヘモグロビン血症
c 再生不良性貧血
d 巨赤芽球性貧血
e 顆粒球減少症
f 血小板減少症
7 内分泌・代謝系
1 内分泌系
a 脳下垂体の障害
b 副腎皮質の機能障害
c 副腎髄質の機能障害
d 甲状腺の機能障害
2 代謝系
a 糖代謝の異常
b 脂質代謝の異常
c 尿酸代謝の異常
d カルシウム代謝の異常
8 皮膚・粘膜系
1 皮膚・粘膜の構造
2 薬物による皮膚・粘膜障害の発症機序
3 皮膚障害の主な症状と発現薬物
a 刺激性皮膚炎
b アレルギー性接触皮膚炎
c 播種性紅斑丘疹
d じん麻疹
e 紅皮症
f 固定疹
g 中毒性表皮壊死症(ライエル症候群、TEN)
h 粘膜皮膚眼症候群(スティーブンス・ジョンソン症候群)
i 光過敏症
j 過剰色素沈着
9 骨・筋系
1 骨組織、骨格筋と薬物
2 薬物による骨・筋の障害
a 骨粗鬆症
b 骨・歯牙形成不全(くる病、骨軟化症)、骨壊死
c ミオパシー
d 横紋筋融解症
e アキレス腱炎およびアキレス腱断裂
10 感覚器系
1 視覚器障害
2 聴覚器障害
3 味覚障害
4 嗅覚器障害
11 神経系
1 中枢神経系
a 神経毒性の特徴
b 神経毒性損傷のパターン
c 神経毒性試験法
2 末梢神経系
a 末梢神経性ニューロパシー
b 運動神経・筋系の障害
3 精神系
a 意識障害
b 幻覚・妄想
c 錯乱
d 意欲低下(うつ様症状)
e 記憶障害
f 失神
g 全身倦怠感(うつ様症状)
VI 臨床トキシコロジー
1 トキシコキネティクス
1 ファーマコキネティクスとトキシコキネティクス
2 薬物動態学的コンパートメントモデル
3 生理学的薬物動態モデル
4 非線形薬物動態モデル
5 薬物投与設計法
a ポピュレーションファーマコキネティクス
b 非線形最小二乗法
c ベイジアン法
2 医薬品の相互作用とその対応
1 薬物相互作用による副作用発生の危険性
2 トキシコキネティクスからみた薬物動態学的相互作用
a 吸収過程
b 血漿タンパク質との結合
c 薬物代謝
d 排泄過程
3 トキシコダイナミクスからみた薬物動力学的相互作用
4 その他の臨床上重要な相互作用
5 薬物相互作用による有害反応を避ける方策
3 食品との相互作用とその対応
1 医薬品と食品成分の薬物動力学からみた相互作用
2 医薬品と食品成分の薬物動態からみた相互作用
a 吸収の場における相互作用
b 代謝の場における相互作用
3 食品との相互作用回避への対応
4 救急救命と化学物質中毒の対処法
1 救急救命
a 一次救命処置(BLS)
b 二次救命処置(ACLS)
c 化学物質の排除について
2 解毒・拮抗薬
a 急性中毒に用いられる解毒薬
b 事例(アセトアミノフェン中毒と解毒薬治療)
5 中毒物質の分析法
1 薬毒物分析の現状
2 試料の調製
3 難揮発性有機薬毒物の分析
4 汎用されている簡易分析法
5 毛髪分析とその利点
6 ガス状/揮発性毒物の分析
7 無機性毒物および有機金属化合物の分析
8 薬毒物分析の課題
a 標準物質の確保
b 分析法の信頼性とチェック
文献
事項索引
物質名索引
本書は、医療の場を意識した患者のための「医薬品トキシコロジー」であり、基本的には医師と患者の間で行われる薬物治療が、「医薬品の適正使用」に向けた「安全性」をいかに確保するかということに留意した内容となっている。すなわち、医療において「医薬品の安全性」を確保するためには、患者の症状(状態)を観察することからはじまり、薬物療法中の患者にみられる症状から、医薬品の副作用・有害作用症状を見いだし、その発現機序を使用薬物の作用機序と関連づけることが重要であるとの考えが、初版から貫いている本書の企画意図である。したがって、本書のある箇所では専門的すぎると思われる内容のところもあるが、より強固な科学的な理論に基づく問題解決への道になると考えている。
1996年に本書の初版を出版して15年の年月が経つ。初版では「医療薬学」での「医薬品の適正使用」を念頭に、「医薬品の副作用・有害作用の発現機序」の理解への第一歩として編集した。2000年の第2版では、時代の進歩や初版で不足していた内容も加えたところ、医療関係者以外にトキシコロジー分野の研究者など多方面で利用されていた。さらに内容を吟味して編集した第3版は、2006年に発行されて薬学生はもとより医療・企業・研究機関などでトキシコロジーを必要とされる方々などに読者を広げた。医薬品による副作用や有害作用の早期発見は、調剤や情報提供業務と同様に、薬剤師の重要な役割と位置づけられている。そこで、今回の改訂では、薬学生のみならず、現役薬剤師にとってもファーマシューティカルケア実践のための書としての活用を期待し、臨床での医薬品の適用後の副作用や有害作用の発見が、患者の負担を軽減し医療の質を高める一端になるという点に注目して必要とされる知識を強化・充実させた。また、最近の医療におけるシームレスなチーム医療や地域連携の強化のなかで、多職種の連携が展開されていることから、チーム医療や地域連携において活動する医療・介護関係者の方々の活用も考慮し、改訂を行った。
改訂の主な内容を紹介すると、医学や薬学の発展に伴った改訂に加え、いくつかの項目を追加した。また、症例以外にコラムを多く取り入れ、理解を深める一助にした。
I「医薬品の安全性と医療倫理」:「薬害・医療過誤」の記述を追加した。
II「薬物の作用」:「トキシコキネティクス」、「トキシコダイナミクス」や「毒性発現機序」の基本は、構成内容をより具体的な例を使って概説した。また、「予期される副作用」と「予期されない副作用」をこの章に移した。
III「副作用の変動要因」:構成や内容をより現状に即したものに変え、「薬物代謝酵素の遺伝子多型」、「トランスポーターの遺伝子多型」、「標的組織の感受性(受容体・修復系の差異)」、「後天性の要因」、「薬物依存性」や「薬物耐性」を解説した。
IV「病態発現と副作用」:副作用・有害作用の発見の糸口の解説とその症状の背景知識の概説を「症状からみた副作用」、「感染」、「免疫異常」、「アレルギー」や「炎症」で取り上げた。また、病理学や組織学的な総論を「腫瘍」や「先天異常、発生・遺伝毒性」で概説した。
V「器官毒性」:本章では、「医薬品の適正使用」の判断の基本となる知識をまとめた。各組織器官の異常から推定される副作用・有害作用について、理論的に裏づける基礎となる部分で、背景知識などとともに概説した。
VI「臨床トキシコロジー」:本章は、実践的な内容になるように努めた章で、「トキシコキネティクス」の理論と実際、「医薬品の相互作用とその対応」、「食品の相互作用とその対応」、「救急救命と化学物質中毒の対処法」や「中毒物質の分析法」を解説した。
以上、今回の大幅な改訂は、執筆者のご尽力により各項目が完成し、それをまとめあげた書籍で、執筆者各位に深く感謝している。また、薬学生にとどまらず、薬剤師をはじめとする医療・介護機関、各種企業、研究や教育機関などのトキシコロジーの知識を必要とされている分野で、活動されている方々にも有用な書籍として活用いただければ編集者として望外の喜びである。なお、本書では「薬物」を「医薬品」、「薬剤」や「薬」と同義語として用いているので、ご理解いただきたい。さらに医学、薬学や薬物治療方法などの発展は著しいものがあり、不適切な表現や科学的事象があれば、それは編集者の責任であり、読者のご指摘を頂ければ幸いである。
2010年9月
編集者一同