医学記憶術免許皆伝
兵法 頭字編
著 | : 千田金吾 |
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ISBN | : 978-4-524-26997-6 |
発行年月 | : 2013年2月 |
判型 | : 新書 |
ページ数 | : 166 |
在庫
定価1,980円(本体1,800円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
“医学書のようで医学書でなく、エッセイではなくてやはり医学書”というユニークな“医学書”登場。医療現場でよく知られている頭文字による“語呂合わせ”をテーマ別に整理。実臨床の理解を深めるために、各種テーマについてユーモラスに解説。好きなところから気楽に始めて、読み進むうちに知識がみるみる深まり・広がる。学生・医療従事者に手にとってほしい一冊。
T.病歴聴取
[1]Old Chart is new(古いチャートは新しい)<問診のとり方>
[2]OPQRST<問診のテクニック>
[3]AMPLE<患者背景を知りたいとき>
[4]PAMHR FOSS SIQ OR AAA(パムハル フォス シック オア トリプルA)<これも問診>
[5]SADAM<問診で忘れてはいけない項目>
[6]オウムは愛の上に<問診時のコツ>
[7]VINDICATE!!! P<診断名が浮かばず、鑑別診断に迫られたとき>
[8]LEARN<患者さんの解釈モデルを知るために>
[9]LEARNにはEEEが必要<聴くときのテクニック>
[10]SPIKES<悪い知らせをするときには>
[11]3Ps<がん患者さんを前にしたら>
[12]Death Shaft(死の取っ手)<高齢者の診察にあたって>
[13]SOAP<カルテ記載のコツ>
[14]5Ss<病院経営方針や病院環境を考え直したいとき>
[15]もうひとつの5Ss<行動規範に迷ったら>
U.救急医療
[1]心肺蘇生のABCD<救急蘇生を行うとき>
[2]6H&6T<心肺停止の原因検索とその処置>
[3]Push Push Push<院外での心肺蘇生の基本>
[4]小池 見た<バイタルサインを思い出したいとき>
[5]AIUEOTIPS<意識障害の鑑別[1]>
[6]CT TIPS/MD HINT(CTがTIPS[コツ]、MD[医師]がHINT[ヒント])<意識障害の鑑別[2]>
[7]緊急性の判断のためのABCDEFG<緊急性を判断するには>
[8]5Ps<ショックを示唆する>
[9]EC法<バッグでの呼吸を行うとき>
[10]ウィーニングのSOAP<呼吸器離脱の条件>
[11]LANE<気管内に投与可能な薬剤>
[12]MATTERS<中毒患者さんの問診で思い出すこと>
[13]活性炭でのABCD<急性中毒で、胃洗浄か活性炭か>
[14]PAT BED 2X<外傷患者さんを診たら>
[15]RICE<ねんざの応急処置>
[16]SITT<血尿をみたら>
[17]Tri-T<災害医療でのポイント>
V.感染症
[1]ケチ感は文化<熱型の分類に迷ったら>
[2]CNN broadcasts HIV and UFO(CNNがHIVとUFOについて報道する)<不明熱の鑑別を思い出したいとき>
[3]SMARTTT<発疹を伴う発熱患者さんに遭遇したら>
[4]Very sick person must take double tablets<有熱患者さんの発疹が現れる日時>
[5]人畜共通感染症ではUMAを<動物との接触が考えられる場合>
[6]COMPS<肺炎球菌が関連する病気>
[7]妊婦さんに松明(TORCH)を<妊娠中に注意が必要な感染症>
[8]DetedTive BRG<抗血清による受動免疫>
[9]入院中感染ではSPACE<医療関連感染でのグラム陰性菌>
[10]CAP(市中肺炎)はMCでVIP<市中肺炎での起炎菌を思い浮かべたいとき>
[11]ADMIT NOWとA-DROP<市中肺炎患者さんの入院基準>
[12]I-ROAD<院内肺炎の重症度分類>
[13]HIVを疑うVISIT ABCCC<HIV感染症を疑うヒント>
[14]HACEK(ハシェック)群感染症<心内膜炎を疑ったら>
[15]SepsisはChaos<敗血症に遭遇したら>
[16]抗菌薬使用を決断するときのABCDEF<抗菌薬を使用する前と後にチェックするべきこと>
[17]Ks<抗菌薬投与を考慮する宿主の判定>
[18]抗菌薬療法におけるAAA<抗菌薬を選択するとき>
[19]南米の一番偉いペットは熊.鳥は時差ボケ.赤いチ○コ<感染症新法に迷ったら>
[20]Spire<結核の治療薬は螺旋状>
W.呼吸器
[1]6Ds<胸部X線写真での重要な要素>
[2]RI(radioisotope)はDAD<胸部X線写真読影時の条件のチェック>
[3]AABBCCDDEEFF<胸部X線写真の注目すべき箇所>
[4]Schmidt faced Prof.(シュミットは教授と面と向かった)<胸部X線写真で間質性陰影をきたすもの>
[5]肺胞性陰影のABCDEF<胸部X線写真で肺胞性陰影を表す状況>
[6]CD SPLINTER<蜂巣肺をみたら>
[7]慢性咳嗽ABCDE-II<診断が困難な慢性乾性咳嗽の鑑別をしたいとき>
[8]腹(ベリー)を出した農夫が、猿と鳥を飼う.夏のコップは冷たい<気管支肺胞洗浄液中でのCD4/8上昇または低下>
[9]呼吸困難のABCD包囲陣<呼吸困難患者さんを診たとき>
[10]喘息の治療はASTHMA<気管支喘息発作に出合ったら>
[11]COPDの増悪時のABC<COPDの増悪に遭遇したら>
[12]TOM SCHREPFER<肺血栓塞栓症の危険因子>
[13]DRINCA<特発性間質性肺炎の6つのタイプ>
[14]German ACE Schaumann Boeck<サルコイドーシスを連想したら>
[15]SPEECH<肺がんの予後不良の合併症>
[16]4Ts<前縦隔腫瘍>
[17]BBB<肺での薬剤移行を考えるとき>
[18]DOPE<気管挿管後のトラブルシューティング>
[19]5As(たちつてと)<外来での禁煙指導法>
X.循環器
[1]秋に緑茶汲む<ECGの誘導の付け方に迷わないために>
[2]Nitroglycerine SAVES angina<狭心症診断のコツ>
[3]From Janeway Splinter<心内膜炎を疑うコツ>
[4]PIRATES<心房細動の原因は海賊>
[5]CHADS2とHAS-BLED<心房細動の脳卒中リスクの評価>
[6]心室頻拍の治療は、悪しき和装<心室頻拍に出合ったら>
[7]MONA<心筋梗塞のfirstaid>
Y.消化器
[1]腹部の5Fs<腹部の膨隆をみたら>
[2]DOPED<便秘の原因>
[3]ブドウぼちぼち売る美貌の猿は、コレ赤い蛙だ<食中毒の潜伏時間を知りたいとき>
[4]He CCDカメラでGI bleeding Inspect<GIbleedingの原因>
[5]ABCDEF<食道がんの危険因子>
[6]A型胃炎はAutoimmune、B型胃炎はBacteria<萎縮性胃炎の分類>
[7]CrohnはChristmas<クローン病の症状をチェックするとき>
[8]サイトメガロPAST colitis<潰瘍性大腸炎の合併症>
[9]MANTTRELLS<虫垂炎を疑ったら>
[10]MD SPURGES<イレウスの原因を考える>
[11]肝硬変はABC、ABC<肝硬変のcommonとrareな原因>
[12]PancreasはLegalか<急性膵炎の症状、入院基準>
Z.脳血管系
[1]POUND<この頭痛は片頭痛か?画像検査が必要か?>
[2]SNOOP<危険な二次性頭痛を疑うポイント>
[3]I WATCH DEATH<せん妄の原因>
[4]ABCD2<TIAを見逃すな>
[5]ACT FAST<脳血管障害が疑われたら、急いで行動しよう>
[.内分泌・代謝
[1]糖尿病のAABBCC<糖尿病診療でのAABBCC>
[2]DREAMS<糖尿病のアクションプラン>
[3]SHAMPOO DIRT<高カルシウム血症をきたす疾患群>
\.EBM
[1]PICO<論文を的確に読むには>
[2]FINER<よりよい研究課題を求めて>
].その他
[1]PDCAサイクル<何か事を始めようとしたら>
[2]マイクママせめて足拭くクセ<ヒト前で話すときの心得>
[3]World War U<MRI読影の基本、WateriswhiteonT2>
[4]SNAPPS<研修医の指導の仕方に迷ったら>
[5]ABCD rule<悪性黒色腫の鑑別のために>
[6]5Ps<不眠症の原因>
[7]Mc Lid<がん疼痛治療におけるWHOが推奨する鎮痛剤使用法>
[8]Ha!一般に心肺肝腎を考慮しないと、結局endに<ヨードを含む造影剤を使う前に>
物事を覚えるには、そのことに精通すればよいわけです。サザエさんの登場人物は、日曜の夜の番組を見ている人には、「お魚くわえた‥‥」というメロディとともに誰でも頭に浮かんでくるでしょう(ちなみに「磯野家の相続」(すばる舎)によれば、波平が死んでも相続人はフネ、サザエ、カツオ、ワカメであり、マスオさんには相続権がないとのことで、ちょっと意外)。
ところがピーナッツ(と言うよりスヌーピーと言うほうが有名でしょうが)はどうでしょう。欧米人ならSnoopy、Charlie Brown、Lucy、Sally、Linus、Woodstock などの登場人物は簡単でしょうが、日本人にはあまり浮かんできません。
では、なじみがないものを覚えるのにはどうしたらよいでしょうか。「いい国作ろう鎌倉幕府、1192年」のようなmnemonics(ニモニックス、記憶力を向上させるための方法)が有用でしょう。最近では1185 年「いい箱作ろう鎌倉幕府」が正しいという説が有力のようですが‥‥ガッツ石松は「よい国作ろう鎌倉幕府」だから4192 年と言ったとか言わないとか。
いずれにしても、私にとってこの年号は、歴史の流れを理解するうえで、ひとつの大きな基準になっています。
五大湖は日本人にとってはどうでもよいものです。米国人は知っていないとまずいでしょう。「Just think of HOMES.」を覚えれば、Huron、Ontario、Michigan、Erie、Supeior は簡単に思い起こせます。SM HErO(アダルト業界のヒーロー)なんていうのもあります。
男を落とす「さしすせそ」の法則、というのがnews.mynavi.jp に出ています。
さ:さすがですね
し:知らなかった
す:すごーい
せ:先輩だから
そ:そうなんですか
上級者向けの印象がありますが、上司をヨイショするためには(同出)
さ:さらに持ち上げる
し:しぶとく言い続ける
す:すぐに持ち上げる
せ:性格にも言及する
そ:そっとメモを残す
このような記憶法は「くだらなくて、漫画っぽくて、学問的でない」という批判はあるでしょう。しかし、所詮、医学の知識は「雑学の集合」です。医学の範囲もあまりにも広くなり、サザエさんの登場人物を知るように精通できないことが多いのが実際です。
ただ、欠点もあります。たとえば、消化管出血をきたす疾患群をこの方法で思い起こしても、3Cs(Critical、Common、Curable)の重み付けがないことです。
見逃してはいけない(外来で帰してはいけない)疾患、最も可能性のある疾患、とりあえず有効な治療法がある疾患、というようなランク付けが抜けがちである点です。 しかし、この欠点を承知のうえでならば、読者の大きな力になると信じています。
出典はできる限り記載しましたが不明なものもかなりありました。出典に触れてないものは、人口に膾炙しているもの/広く流布しているもの/周知されているもの/オリジナルです。
2013年1月
千田金吾
「芸術は長く、人生は短し」という格言にある芸術は、実は医学を意味していたらしい。古代ギリシャのヒポクラテスのころから、医学は深遠な芸術として認識されていたようである。近代では、ウィリアム・オスラーによる「医学は科学に基づいた芸術である(Medicine is an art based on science)」が有名である。医学が芸術であるとすれば、医師は芸術家であり、研修医は駆け出しの芸術家であり、医学生は芸術家のたまご、ということになるだろうか。
このように古来から現代にいたるまで、医学は技芸の粋として敬意を表されてきたわけであるが、その道を修めることは厳しいものである。勉強すべき量は膨大なものであり、しかも、年々その量が増えていく。教育界では最近のはやりとして、思考力が記憶力よりも大切と喧伝されている。もちろん医学の世界でも思考力はきわめて重要であり、臨床現場で若い医師(ときには研修医)の思考力に感嘆することがある。ただし、医学の場合では、まず基本としての知識がなければ話にならない。そしてその基本的知識の量が半端ではないのである。もとより、幼少期から覚える勉強が大好き・大得意という人にとっては、この世界は心地よいものであろう。しかし、医学部の学生あるいは卒業生をみていると、そのような人はむしろ少数派(というかまれ)のように思われる。なかには、厳しい試験を突破してせっかく医学進学コースに進みながら、記憶中心の医学部授業に辟易して、数学や物理学の道へ転向してしまう人すらいるのである。
ともあれ医学の道を選んだ以上は、覚えるべきことを覚えていくしかない。大げさでなく、自らの知識の有無に患者の命がかかっているのである。覚えるためにはどうすればよいか。ただひたすらに言葉を反復し覚えればよい、もし忘れたら、また反復し覚える、さらに忘れたら、また……。「学問に王道なし」なのだから。
しかし、医師や医学生は多忙なものであり、記憶学習に割ける時間は無限ではない(人生は短いのである)。そこで、役に立つのがいわゆる記憶術、あるいは「虎の巻」である。本書では、臨床の基本である病歴聴取からはじまって、救急医療、各論にいたるまで、記憶術の粋がつくされている。とくに、筆者の専門領域である呼吸器分野の記述は目を見張るものがあり、ぜひとも読者に覚えていただきたい内容である。
本書のタイトル『医学記憶術免許皆伝 兵法頭字編』からもわかるように、読みやすく肩の張らない筆致であり、著者ならではのユーモア感覚にあふれている。しかし、その内容はときに鋭く奥が深い。著者から読者へ向けた熱いメッセージが感じられる。ポケットサイズである本書は、いつでもどこでも手に取って目を通すことができる。その時間は、飛ぶように短く感ぜられることだろう。
臨床雑誌内科112巻4号(2013年10月号)より転載
評者●東京大学呼吸器内科教授 長瀬隆英