障害と活動の測定・評価ハンドブック改訂第2版
機能からQOLまで
編集 | : 岩谷力/飛松好子 |
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ISBN | : 978-4-524-26945-7 |
発行年月 | : 2015年11月 |
判型 | : A4 |
ページ数 | : 274 |
在庫
定価6,160円(本体5,600円 + 税)
正誤表
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2019年02月18日
第1刷
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
障害に対する考え方の変化を踏まえ、リハビリテーションの現場で必須となる機能障害度分類や能力・社会参加・QOLの評価法を解説したハンドブック改訂第2版。今改訂では、ロコモ25、JHEQをはじめ、初版以降に信頼性が確立してきた測定法・評価を新たに追加。各測定法・評価の構成概念、測定・評価の実際、測り方などを提示し、背景を理解したうえで実践にも活用できる一冊。
図表索引
総論
I.測定と評価とは
1.評価の目的
2.測定の対象
3.測定値の取り扱い:統計的処理の方法
II.運動障害を持つ人(肢体不自由者)の操作的定義
1.病気とは
2.病人とは
3.人間の機能・生活のとらえ方:国際生活機能分類(ICF)
4.心身機能・活動・参加を表す医学変数
III.構成概念の測定と統計学的評価
1.直接測定と間接測定
2.測定尺度の計量心理学的特性
3.多項目・多時点測定の問題
IV.EBMとリハビリテーション
1.EBMとは
2.EBMと評価
3.EBMとリハビリテーション医学
4.EBMと臨床試験
各論
V.心身機能評価
A.痛み
1.VAS(visual analogue scales)
2.MPQ(McGill pain questionnaire)
B.呼吸・循環
1.VO2max(最大酸素摂取量)
2.Borg指数(Borg Scale)
3.Karvonenの式
4.6分間歩行テスト(six-minute walk test)
5.PCI(physiological cost index,生理的コスト指数)
C.神経・筋・骨格と運動
1.MMT(manual muscle testing,徒手筋力テスト)
2.ROM(range of motion,関節可動域)測定
3.Ashworth scale
D.発達
1.Johnson運動発達年齢検査(上肢,体幹・下肢)
2.DDST(Denver developmental screening test,デンバー発達スクリーニングテスト)
3.田中・ビネー知能検査(Tanaka-Binet test)
4.Milaniの発達チャート
5.遠城寺式・乳幼児分析的発達検査法
6.S-M社会生活能力検査
7.SMTCP(Simple Motor Test for Cerebral Palsy,脳性麻痺簡易運動テスト)
8.基本的ADL評価法(JASPER)
E.精神機能
E-1.意識
1.GCS(Glasgow coma scale)
2.JCS(Japan coma scale)
E-2.情緒:うつ
1.SDS(Self-rating depression scale)
2.CES-D(Center for Epidemiologic Studies Depression scale)
E-3.情緒:不安
1.MAS(manifest anxiety scale)
E-4.言語
1.SLTA(standard language test of aphasia,標準失語症検査)
2.WAB(Western aphasia battery)失語症検査
E-5.記憶
1.WMS-R(Wechsler memory scale-revised,ウエクスラー記憶検査−改訂版)
2.Benton視覚記銘検査(Benton visual retention test)
E-6.知能
1.WAIS-IIIとWISC-IV
2.HDS-R(長谷川式認知症スケール)
3.MMSE(mini-mental state examination)
E-7.構成失行
1.Kohs立方体テスト
E-8.遂行機能障害
1.Trail making test
VI.活動と参加
A.運動・移動
1.運動・動作・日常生活活動とは
2.測定基準(ものさし)
3.運動機能障害の疾患特異性
4.動作遂行能力測定
5.歩行機能の測定
A-1.姿勢・バランスの検査
1.FRT(functional reach test,機能的上肢到達検査)
2.Timed “up and go”test(「立って歩け」時間計測)
3.開脚片脚起立時間(one leg balance with open eyes)
A-2.起居・移動の検査
A-3.上肢機能検査
1.STEF(simple test for evaluating hand function,簡易上肢機能検査)
2.MFT(manual function test,脳卒中上肢機能検査)
A-4.歩行の検査
1.WS(walking speed,歩行速度)
2.Hofferの歩行機能レベル
B.ADL
1.ADLとは何か
2.ADLの分類
B-1.基本的ADL
1.BI(Barthel index)
2.FIM(functional independence measure)
B-2.手段的ADL
1.Frenchay拡大ADL尺度
2.細川・拡大ADL尺度
C.ハンディキャップ
1.CHART(Craig handicap assessment and reporting technique)
VII.QOL
1.QOLとは何か
2.尺度としての必要条件
3.測定目的
4.QOL評価はどのように利用されているか
5.QOL尺度を利用する際の注意点
A.選好に基づく尺度
1.EQ-5D(EuroQol)
B.健康プロファイル型尺度
1.SF-family(SF-36,SF-12,SF-8)
2.LSIK(life satisfaction index K,生活満足度尺度K)
VIII.病態特異的機能障害・重症度分類
A.中枢神経
A-1.脳卒中
1.Brunnstromステージ分類
2.SIAS(stroke impairment assessment set)
A-2.パーキンソン病
1.Hoehn &Yahr分類
A-3.脊髄小脳変性症
1.厚生省特定疾患運動失調症調査研究班による重症度分類
2.SARA(Scale for the Assessment and Rating of Ataxia)
A-4.筋萎縮性側索硬化症
1.ALSAQ-40(amyotrophic lateral sclerosis assessment questionnaire)
2.Norris スケール改定版
3.ALSFRS-R(amyotrophic lateral sclerosis functional rating scale-revised:ALS機能障害度)
A-5.多発性硬化症
1.Kurtzke総合障害度(Kurtzke extended disability status scale:EDSS)
A-6.高次脳機能障害
1.高次脳機能障害における障害尺度
A-7.脊髄損傷
1.ASIA機能障害尺度(standards for neurological and functional classification of spinal cord injury)
2.Zancolli分類
A-8.二分脊椎
1.Sharrard分類
B.内部障害
B-1.がん
1.ECOG(Eastern Cooperative Oncology Group)Performance Status
2.KPS(Karnofsky performance scale)
B-2.慢性閉塞性肺疾患(COPD)
1.MRC(Medical Research Council)分類
B-3.心臓
1.NYHA分類
2.SAS(Specific Activity Scale)
C.筋・骨格系
C-1.筋ジストロフィー
1.厚生省障害度分類
C-2.関節リウマチ
1.HAQ(Health Assessment Questionnaire)
2.AIMS2(arthritis impact measurement scales)改訂日本語版質問紙
C-3.頚髄症
1.日本整形外科学会頚髄症治療成績判定基準
2.日本整形外科学会頚部脊髄症評価質問票:JOA Cervical Myelopathy Evaluation Questionnaire(JOACMEQ)
C-4.変形性股関節症
1.日本整形外科学会股関節機能判定基準(JOA Hipスコア)
2.JHEQ(Japanese Orthopaedic Association Hip-Disease Evaluation Questionnarie,日本整形外科学会股関節疾患評価質問表)
C-5.変形性膝関節症
1.日本整形外科学会変形性膝関節症治療成績判定基準
2.WOMAC(Western Ontario and McMaster Universities osteoarthritis index)
3.JKOM(Japanese knee osteoarthritis measure)
C-6.手
1.日本手外科学会版PRWE(patient rated wrist evaluation)
C-7.腰痛
1.日本整形外科学会腰痛疾患治療成績判定基準(JOA腰痛スコア)
2.RDQ(Roland-Morris disability questionnaire)
3.JLEQ(Japan low back pain evaluation questionnarie,疾患特異的・患者立脚型慢性腰痛症患者機能評価尺度)
C-8.骨粗鬆症
1.JOQOL(Japanese osteoporosis quality of life questionnaire.日本骨代謝学会,骨粗鬆症患者QOL評価質問表)
C-9.下肢切断
1.PEQJ(日本語版PEQ)
D.高齢者
1.老研式活動能力指標
2.ロコモ
3.要介護度認定等基準時間の分類
4.障害高齢者および認知症高齢者の日常生活自立度判定基準
索引
改訂第2版序文
『障害と活動の測定・評価ハンドブック』の初版本を上梓して10年を経過した。この間に医学・医療の進歩、新たな疾患概念の提唱、社会環境の変化などにより、疾患、病者(患者)、障害、障害者などのとらえ方が多様化、深化してきた。
1980年代に端を発したEBMは、臨床試験の在り方に大きな変革を起こし、さまざまな視点に基づく医学変数(生理学的、解剖学的、心理学的、運動機能、生活機能、情緒、認知機能など)を測定・評価する尺度が多数開発された。それらの尺度を用いた臨床試験データはシステマティックレビューに基づき、データベースに整理されている。
この間に日本整形外科学会ならびに関連学会が開発した尺度は、Japanese knee osteoarthritis measure(JKOM:2006)、疾患特異的・患者立脚型慢性腰痛症患者機能評価尺度(JLEQ:2007)、日本整形外科学会頚部脊髄症評価質問票(JOACMEQ:2007)、ロコモ25(GLFS:2010)、日本整形外科学会股関節疾患評価質問表(JHEQ:2012)などがある。これらの尺度は、いずれもわが国の文化的、生活習慣を勘案し、国際的比較が可能であるように配慮され、計量心理学的に信頼性、妥当性が検証された尺度である。
医療においては、医療者の父権主義が反省され、患者の権利を尊重する態度が鮮明となり、患者の多様なニーズを客観的にとらえ、介入による成果を評価し説明する「説明と同意」が求められている。
超高齢社会のわが国では、運動器疾患は、要介護となる原因の主要な疾患として認識され、新たな概念(ロコモティブシンドローム)が提唱され、注意喚起、早期発見、障害予防、重症化防止への取り組みが盛んとなっている。さらには、国家的なレベルで、高齢者の医療、介護、福祉の連携の重要性が認識され、地域包括ケアシステムの整備が図られている。
このような背景のなか、医療には、心身に変調(disorder)をもつ者の状態を疾病、機能障害、活動制限、情緒、健康観などの面から多角的にかつ客観的にとらえ、健康度の維持・向上を図ることが求められている。病者(患者)の状態を客観的にとらえるために尺度を用いることは、疾病、機能障害、活動制限、情緒、健康観と広い視野からの把握、ニーズの同定と介入手段の選択、それらの要因間の関連性の検証・説明、介入結果の客観的評価などを可能とする。
改訂にあたっては、初版に掲載した尺度を基本とし、新たに開発された尺度を追加した。また、がん患者のリハビリテーション、高齢者医療など発展してきた領域の尺度を整理して掲載した。超高齢社会を迎え、高齢者への医療的介入の目標が、疾病治癒から生活機能(生活自立度)維持・向上へと力点が移りつつある。社会環境の変化は、医療の在り様に影響する。病者の経験する病態、生活活動制限、健康観なども変わり、ニーズも多様化、変化する。新たな尺度が開発されるであろうし、現時点で有用な尺度が、将来には有用ではなくなるかもしれない。
この改訂版が、現在の医療・福祉の現場で座右の書として活用されることを期待するとともに、改訂が重ねられる書とならんことを願うものである。
2015年9月
岩谷力
医学は病気の病理と疾病分類によって発達し、医学者は1990年以来世界保健機構(WHO)の提唱する国際疾病分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems:ICD)を発展させてきた。しかしICDだけでは「病気を診て、病人を診ない」という批判に応えられないため、2002年にやはりWHOから国際生活機能分類(International Classification of Functioning、Disability and Health:ICF)が提唱された。ICFは障害を評価するため、機能だけでなく活動や社会参加の概念を導入している。本書は(運動)障害と活動を評価する目的で編纂され、2005年初版が出版された。それから10年経ち、日本は2025年をピークとする超高齢社会を世界ではじめて経験することになり、障害をさらに深めて評価しなければならなくなった。第2版の序文で編集者の岩谷力先生が「超高齢社会を迎え、高齢者への医療的介入の目標が、疾患治癒から生活機能維持・向上へと力点が移りつつある」と述べており、「超高齢社会」をキーワードに改訂が行われた。
まず、日本整形外科学会を中心に、従来の疼痛や関節可動域、筋力、日常生活動作(ADL)だけでなく疾患特異的な生活の質(QOL)を含めて開発されたWestern Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)、Japanese Knee Osteoarthritis Measure(JKOM)、日本整形外科学会頚部脊髄症評価質問票(JOACMEQ)、日本整形外科学会股関節疾患評価質問票(JHEQ)、日本手外科学会版Patient Rated Wrist Evaluation(PRWE)、Japanese Osteoporosis Quality of Life(JOQOL)、日本語版PEQ(Prosthetics Evaluating Questionnaire)などの評価方法や、ロコモティブシンドロームや姿勢・バランスを評価するためのロコモ25や開眼片脚立位時間が追加された。続いて、高齢者は運動器疾患以外にも脳卒中に伴う高次脳機能障害や悪性腫瘍(癌)、心肺疾患を合併するので、高次脳機能障害における障害尺度やKarnofsy Performance Scale(KPS)、New York Heart Association(NYHA)分類(心不全)、Medical Research Council(MRC)分類(慢性閉塞性肺疾患)も追加され、初版の77評価法から、第2版では85の評価法に増えた。
本改訂で運動器疾患に特異的な評価法が追加され、診断や治療法選択に有用であるが、運動器疾患をもつ高齢者の評価には補【填】の余地がある。巻末の「高齢者」の項に介護保険で使用される日常生活自立度評価が記載されているが、2015年介護報酬改定で示された生活行為向上マネジメント▲*▲や2013年に公布された身体障害者手帳を基盤とする障害者総合支援法についても言及すべきである。
運動器疾患を扱う本邦の医療職は、ICFに規定されなくても機能障害と活動をそれぞれ並行してみてきた。たとえば、脊髄損傷を評価する米国脊髄損傷学会(ASIA)の機能障害尺度は運動機能(筋力)と感覚機能(触覚、痛覚)のみの評価であるが、日本整形外科学会頚髄症治療成績判定基準は上肢運動機能と下肢運動機能、知覚、膀胱の4項目で、機能障害と活動を同時に評価してきた。ICDを重視した医療では、疾患の機能障害と活動を同時にみることはなく、運動器をみる医療職の特異性を十分理解すべきである。転倒、骨折など運動器疾患による障害が介護保険の要介護原因の上位を占め、運動器疾患による機能障害だけでなく、患者の活動を評価し改善することが求められる。超高齢社会を迎えた本邦では、運動器疾患による障害を扱う本書の重要性は計り知れない。
本書に掲載された運動器疾患の評価法は、定量化や比較がしやすく、運動器疾患を扱う医療職の共通言語として有用である。さらに、ICFを基盤とした活動に焦点を当て、急性期から生活まで一貫した評価と標準的な介入方法を確立しようとしている。2025年を控えたこの時期に本書がタイムリーに改訂された意義は大きく、本邦の障害者の福音になると確信している。
臨床雑誌整形外科67巻4号(2016年4月号)より転載
評者●広島大学リハビリテーション科教授 木村浩彰