甲状腺結節取扱い診療ガイドライン2013
編集 | : 日本甲状腺学会 |
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ISBN | : 978-4-524-26943-3 |
発行年月 | : 2013年8月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 290 |
在庫
定価4,400円(本体4,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
甲状腺結節の疫学から診断のすすめ方、治療と長期的フォローアップまでを、総合的に解説した診療ガイドライン。「特論」として、腺腫様甲状腺腫、バセドウ病・橋本病合併結節、小児や妊婦などについても解説したほか、わが国の臨床データ、海外のガイドラインに関する総論も掲載。甲状腺専門医だけでなく、一般内科医など甲状腺診療に携わるすべての医師の必携書。
「甲状腺結節取扱い診療ガイドライン」について
I.甲状腺結節の種類と疫学
1.病理組織学的分類とその問題点
2.甲状腺結節性病変の疫学
II.結節性病変に対する具体的な診断の進め方
1.臨床的評価
2.甲状腺超音波検査
A.Bモード画像(グレースケール断層像)
B.血流評価(ドプラ法)
C.組織弾性評価(エラストグラフィ)
3.穿刺吸引細胞診
A.穿刺吸引細胞診を行うべき対象者
B.実施方法と注意点
C.穿刺吸引細胞診分類について
D.穿刺吸引細胞診所見の読み方
E.甲状腺細胞診:依頼書、診断書(報告書)の記載方法
4.その他の画像診断
A.CT、MRI
B.FDG-PET/CT
C.各種シンチグラフィ
5.血中および分子マーカー
A.血清TSH
B.血清サイログロブリン(Tg)
C.血清カルシトニン
D.分子マーカー診断
III.甲状腺結節の治療方針および長期的フォローアップ
1.穿刺吸引細胞診分類をもとにした治療方針
2.「良性」結節に手術を選択する条件
3.乳頭癌が疑われたとき
4.甲状腺良性結節に対するTSH抑制療法
IV.フローチャートによる診断・治療の具体的方法
V.特 論
1.腺腫様甲状腺腫
2.嚢胞成分を伴う結節
3.機能性甲状腺結節
4.バセドウ病、橋本病に合併した結節性病変
A.バセドウ病と結節
B.橋本病と結節
5.妊婦に合併した結節性病変
6.小児の甲状腺結節・甲状腺癌
VI.代表的医療機関におけるわが国の臨床データ
VII.海外のガイドラインについて
索引
日本甲状腺学会では、日常診療における問題解決を図るために臨床重要課題を指定しこれまでも関連するガイドラインをいくつか取り纏めてきた。今回、中村浩淑委員長の下で足掛け5年にわたる協議の結果、「甲状腺結節取扱い診療ガイドライン2013」発刊に際し、会員を代表して関係者のご尽力に心から感謝とお礼を申し上げる。すでに国内外では、甲状腺癌に関する異なる視点からのガイドラインが出版されているが、甲状腺結節の取扱いを主体としたものは少ない。一般臨床家の初期対応から専門的な対応まで含めて、甲状腺結節の日常診療に貢献する目的で本ガイドラインが取り纏められ、過去の文献も含めてエビデンスベースのグレード化により、極めて丁寧に検討され、現状では最も信頼できる診療情報が集約されている。
甲状腺結節という臨床所見が持つ意味は多彩であり、良悪性の鑑別を中心に、それら異常所見の検出方法や検出感度の違いにより有病率も容易に変化する。触診と超音波画像診断機器の活用では甲状腺結節の検出率は当然大きく異なり、また最終診断といわれる病理診断の精度管理の違いによっても有病率の頻度は大きく異なる。今回のガイドラインの特徴は、甲状腺結節の種類と疫学から結節性病変に対する具体的な診断の進め方までを現在の診療状況に沿って評価し、良悪性に関する治療方針と長期的フォローアップについて具体的なガイドラインとなっていることである。単純に甲状腺結節という場合と比較して、その鑑別に苦慮する腺腫様甲状腺腫や嚢胞成分を伴う結節の取扱い、さらに他の甲状腺疾患との合併についても特論の項目で詳述されている。また画像診断学的なアプローチが中心ではあるものの、血液マーカーや分子マーカーの機能的な診断も紹介されている。ただ議論の余地が残る小児甲状腺結節の取扱いについては、国内でのエビデンスが乏しく、さらに予後良好な甲状腺癌との関係からその治療方針については、潜伏微小癌の取扱い同様に更なる調査研究が不可欠である。特に、東日本大震災直後の福島原発事故による県民健康管理調査事業のひとつである甲状腺検査は、貴重な臨床データを提供しているが、これらの知見がガイドラインに反映されるには次の改訂版を待つ必要がある。
日進月歩どころか秒針分歩の医学、医療の進歩の中でも、少子高齢化社会での甲状腺癌の発見頻度は極めて高く、予後良好な甲状腺結節への注目度もある意味、一病息災の健康管理として重要な鑑別疾患といえる。幸いに海外で多くみられるヨウ素欠乏症も国内では皆無に近く、日本の甲状腺診療レベルの高さには定評があるが、本ガイドラインを参考に更なる診療技術の研鑚に努め、適切な治療方針と長期フォローアップの充実が大いに期待されている。最後に、国内の代表的甲状腺専門病院の診療実績と海外のガイドラインも紹介されているので、総合的にバランスの取れた本ガイドラインの活用をお願いしたい。
2013年5月
日本甲状腺学会理事長
山下俊一
日本甲状腺学会の臨床重要課題として、各分野の専門家29名が5年の歳月をかけて議論を尽くした内容をまとめた本書が上梓された。ともすれば無味乾燥になりがちな「ガイドライン」が多いなかで、このガイドラインは異色である。面白く読めてしまうのである。甲状腺疾患診療に長く携わっている人でも、「なるほど」とうなずいて、アンダーラインを引いてしまいたくなるような箇所が随所にある。このような面白さ、魅力が生まれたのにはいくつか理由がある。それは著者たちの、一つ一つの臨床論文からメッセージを抽出する能力が高いからである。そして、よくこなれたメッセージが各章の冒頭にポイントとして配置され、そのメッセージの根拠が詳しく説明されている。これらの記述にあたって、著者たちは「何事もなおざりにしない」という真面目な姿勢を貫いている。山下理事長が、まえがきで「丁寧につくられている」と評価されるのも、このことを指していると思われる。最後のページまで統一した姿勢で執筆されているのは、委員長の御苦労の賜物でもあるだろう。
内容は甲状腺結節を呈する各疾患の概要から始まり、その頻度、増減の傾向が発表された論文をもとに述べられる。巻末には、本邦の甲状腺専門医療機関での疾患統計が付け加えられている念の入れようである。診断の進め方として、結節の生じた年齢、大きさ、継時的変化などから何が言えるかを述べた後、超音波検査を実例の写真(血流・エラストグラムも含めている)を添えて述べ、穿刺吸引細胞診について、具体的な方法、その診断の記載法、また報告を読み取る際の注意など、現場の医師に必要なことが、現場で経験した人でなければ語れない言葉で書いてあり、典型例の写真が添えられている。その他、CT、PET、シンチグラム、血液成分異常などその診断上の特性・限界についても詳しい。ここまで診断にいたるまでのプロセスについて、大半のページを費やす力の入れようになっている。このスタイルで内科・外科の教科書がつくられたら、臨床医にはどれほど大きな利益であろうか、と思うのは私だけではあるまい。
さて、「III。甲状腺結節の治療方針および長期的フォローアップ」が本書では中心的課題の一つである。なかでも白眉は「穿刺吸引細胞診分類をもとにした治療方針」で、これまで鑑別困難グループとして一括されていたものを、濾胞性腫瘍が疑われる結節A群と、濾胞性腫瘍以外が疑われる結節B群に2分割し、その妥当性を文献的に検証している部分は、エビデンスレベルが専門家間のコンセンサスであるとしても十分な説得力がある。この分類の仕方によって、濾胞癌の的中率が上昇することが期待できる。この診断に基づき、各種結節について手術術式選択についても丁寧に議論されている。手術所見、病理組織所見に基づくリスク評価・それによるフォローアップの基準などについては、先行する外科側のガイドライン『甲状腺癌取扱い規約2005』、および『甲状腺腫瘍診療ガイドライン2010年版』の2つが、当ガイドラインを補完する関係にある、として比較的簡潔に述べられている。しかし、この著者たちが、この問題についてどのような論述を展開してくれるのか、最近ではTuttleらの報告が話題になっていることも含めて、多くの臨床医が期待している。改訂の時期にぜひ考慮していただきたいところである。腺腫様甲状腺腫やバセドウ病・橋本病に合併する結節性病変についても適切に述べられており、本書の取りこぼしのなさを物語る。本書は甲状腺疾患の臨床に携わる医療関係者にとって必読の書であるといってよい。
臨床雑誌内科113巻5号(2014年5月号)より転載
評者●ゆうてんじ内科、元日本甲状腺学会理事長 紫芝良昌