肝癌診療ハンドブック
ケースで学ぶ集学的治療のコツとセンス
編集 | : 池田健次 |
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ISBN | : 978-4-524-26938-9 |
発行年月 | : 2012年10月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 222 |
在庫
定価7,150円(本体6,500円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
肝疾患診療において先進的な取り組みを続ける虎の門病院肝臓センターにより、スクリーニングから診断、治療のテクニック、発癌予防に再発への対応まで、肝癌診療のすべてを豊富なデータをもとに実践的に解説。具体的な症例や、レジデントと指導医の討論、最新知見をピックアップしたコラム、また豊富な図や写真などにより、ビジュアルで読みやすい誌面としている。
第T章 肝癌診療の基本アルゴリズム
1.日本の肝癌治療に関するアルゴリズム
2.虎の門病院の肝癌治療アルゴリズム
3.乏血性肝癌の診断および治療アルゴリズム
第U章 ケースカンファレンス
CASE1 20年にわたり20回以上の局所治療を繰り返し生存の得られている症例
CASE2 局所治療困難な部位に対してTACE+PEIを施行した症例
CASE3 3cm超の肝細胞癌に対し、ミリプラチンTAI+RFAを施行した症例
CASE4 多発肝細胞癌に対しRFA、肝切除を併用した症例
CASE5 エコー描出困難症例に対してCO2動注下超音波にてRFAを施行した症例
CASE6 画像上低分化型肝細胞癌と考え、手術を選択した症例
CASE7 Vp3肝細胞癌に対し陽子線治療、肝動注を施行した症例
CASE8 肝切除後、血小板減少に対して部分的脾動脈塞栓術を施行し、抗ウイルス治療を施行した症例
CASE9 肝切除/RFAにて根治治療後のエンテカビル投与により長期再発のない症例
CASE10 EOB-MRIでのみ描出される結節を認め、肝切除を施行した症例
CASE11 新たなバイポーラRFAデバイスを用いた大型肝細胞癌症例
第V章 センスを磨く肝癌診断の実践知識
1.肝癌スクリーニングフローチャート
2.各種モダリティの長所と短所
3.肝癌の悪性度診断
a.腫瘍マーカー
b.画像診断
4.EOB-MRI肝細胞相でのみ低信号結節として指摘できる病変の診断
5.異型結節(dysplastic nodule)の経過観察と肝細胞癌への移行
第W章 スキルを磨く肝癌治療テクニック
1.ラジオ波焼灼療法(RFA)
2.経皮的エタノール局注療法(PEI)
3.肝動脈化学塞栓療法(TACE)
4.放射線療法
5.肝切除、肝移植(resection and transplantation)
6.肝動脈持続動注抗がん剤治療
7.分子標的治療薬
第X章 ハイリスク群の発癌予防
1.B型肝炎における肝癌発生と予防
2.C型肝炎における肝癌発生と予防
a.C型肝炎でのウイルス排除の効果
b.C型肝炎に対する肝炎鎮静化治療の効果
3.非B非C型肝硬変からの発癌
4.アルコール性肝硬変からの発癌と予防
5.NASH(non-alcoholic steatohepatitis)
6.ウイルス排除(SVR)した後のC型慢性肝炎からの肝癌発癌
7.慢性肝疾患に合併した胆管細胞癌・混合型肝癌の臨床的特徴
第Y章 再発肝癌の実態と治療
1.C型肝癌の再発抑制
a.C型肝細胞癌根治治療後のインターフェロンによる再発抑制治療
b.肝発癌・再発におけるインスリン抵抗性の関与と分岐鎖アミノ酸(BCAA)製剤による抑制効果
2.B型肝癌の再発予防
3.根治治療後の悪性再発
4.小型肝癌の反復治療と進行過程(マルコフモデル)
肝細胞癌による死亡はわが国のがん死亡の第5位で、まだまだ肝臓専門外来に通院中の患者さんはたくさんおられるのが現状です。
他の部位の悪性腫瘍と比べて肝癌の大きな特徴として挙げられるのは、(1)非常に大きな発癌ハイリスク群があること、(2)肝癌の発生母地を温存しながら肝癌治療をしなくてはいけないこと、だろうと考えます。具体的には、肝癌発癌を予測できる集団が大きく、このハイリスク群に対して早期発見のためのサーベイランスが行いやすいこと、さらに発癌が懸念されるこれら集団に対しては発癌予防・発癌率抑制の治療が強く望まれているということです。肝癌の発生母地を温存するという点については、慢性肝炎や肝硬変が変わらないので肝癌再発が避けられないこと、さらに肝硬変などでの肝機能をできるかぎり悪化させないようなきめ細かな治療体系が必要であることを意味しています。
肝癌のこれらの特徴から、この本では、肝癌ハイリスク群の設定、ウイルス性肝炎からの発癌抑制などの話題から入っています。そして肝癌の拾い上げ、質的診断、悪性度診断に至るまでを、肝癌の発育・脱分化の生物学的進展をもとに、やや違った視点でも記載しました。緻密なスクリーニングで発見される小型肝癌に対する内科治療としては、ラジオ波焼灼療法が主流ですが、ここでも腫瘍の「根治的除去」とともに肝機能を悪化させない診療として、経皮的エタノール局注療法の応用も加えました。多発化したり、やや進行した肝癌に対しては、日本のお家芸としての肝動脈化学塞栓療法が行われますが、良質な肝梗塞、抗がん剤スペクトラム、ドラッグ・デリバリーの工夫など、多角的な観点が必要な時代に入ってきました。また、今後ガイドラインに載せられる放射線治療に関しても、粒子線を中心とした自験例を紹介しました。
十分に除去・焼灼された残肝に対しては、インターフェロンや核酸アナログ製剤などを使用することで、どのくらい再発率が低下させることができるかも、多数例の集計で確認してほしいと思います。
本書では、日常ありふれた症例を通じて、治療をどのように考えるか、内科での治療がどこまでできるかについて、レジデントと指導医が討論する形で話を進めたり、すぐに役立つ内容を「Take home message」としてまとめたりしたほか、できるだけ図を多くしてビジュアルで読みやすい誌面としました。1ページ目からきちんと読まなくても良いようにそれぞれ独立した内容としてありますので、どこからでもぜひ一通り目を通していただければ幸いです。
2012年秋
虎の門病院肝臓センター
池田健次
肝癌診療においては、癌進行度および肝機能から治療法を選択するとともに、ウイルス性肝炎などのその背景にある疾患や病態に対する治療も考慮することが重要である。最近では、脂肪性肝炎などの生活習慣病も肝癌の要因となることが示されており、新たな対策が必要となっている。一方、肝癌に対しては肝切除、ラジオ波焼灼術などの局所療法、肝動脈塞栓術、肝動注療法や分子標的薬などの化学療法を中心としたさまざまな治療法とその組み合わせによる集学的治療があり、個々の症例の病態や臨床経過に応じた治療法の選択が必要となる。したがって、肝癌診療においては、臨床経験の豊富な専門医でも治療方針の決定に迷うことが少なくない。
本書は肝癌診療の基礎から応用までが、系統的かつ有機的に整理されており、きわめてユニークな構成となっている。また、具体的な図表が多く、理解しやすい点が本書の特徴といえる。実際の臨床現場で遭遇する代表的症例について、虎の門病院での経験例を用いてケースカンファレンスとして提示している。その際、指導医とレジデントとのカンファレンスを通じて、各症例の病態に応じた治療、特に集学的治療とその結果を提示しつつ、肝癌診療の実際をわかりやすく解説している。さらに、虎の門病院での詳細な臨床データと解析結果によって、その根拠が明確に示されている。そのため、本書は実地臨床で即座に応用可能な内容であるとともに、臨床研究を行ううえでも参考となる。
序文に、「1ページ目からきちんと読まなくても良いようにそれぞれ独立した内容としてある」と記載されているように、それぞれの項目が簡潔にまとめられているとともに、重要なポイントは「Take home message」や「Do&Don’t」として記載され、かつ関連事項と有機的にリンクしているため、レジデントのみならず専門医にとっても肝癌診療についての考え方を整理するうえで有用である。
池田健次先生をはじめとする虎の門病院肝臓センターのスタッフの、肝癌診療のみならず臨床研究に対する熱意とセンスを感じさせるハンドブックである。
評者●久保正二
外科75巻1号(2013年1月号)より転載