書籍

心エコー・神経超音波で診る脳梗塞診断マニュアル

編集 : 吉田清/木村和美
ISBN : 978-4-524-26921-1
発行年月 : 2013年2月
判型 : B5
ページ数 : 222

在庫品切れ・重版未定

定価8,580円(本体7,800円 + 税)


正誤表

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

脳梗塞の診断においては、神経超音波による性状診断・心エコーによる塞栓源の検索が必須。いかに診るか?アプローチの方法は?所見の付け方は?循環器内科と脳卒中科が連携して脳梗塞診療にあたっている川崎医科大学のスタッフが、診断の基礎から読影の実際、検査の進め方まで、脳梗塞にかかわる超音波診断のすべてを網羅的に解説。脳梗塞の日常診療に携わる医師・検査技師に必携の一冊。

第T章 総論―脳梗塞をいかに診るか
 1.はじめに―心臓と脳の関係
 2.脳梗塞の分類
 3.脳梗塞の疫学
 4.脳梗塞における神経超音波の意義
 5.脳梗塞のCTとMRI
 6.SCUと神経超音波
 7.脳梗塞(心原性脳塞栓症)の原因疾患
第U章 脳梗塞に対するエコー診断の意義
 1.心原性脳塞栓症に対する経胸壁心エコー図法と経食道心エコー図法の意義
 2.アテローム血栓性脳梗塞と大動脈原性塞栓症に対する経食道心エコー
 3.経頭蓋ドプラ法の意義
第V章 心エコー・神経超音波の基本と実際
 A.心エコー図法
 A-1)心エコー図法の基本
  1.使用エコー装置と探触子
  2.正常像と異常像
  3.心機能評価
 A-2)心エコー図法の実際
  1.左室内血栓
  2.左房内血栓(左心耳内血栓)と左房内血流うっ滞所見
  3.弁疣腫
  4.疣腫以外の弁腫瘤─ランブル疣贅、ストランド、血栓
  5.心臓腫瘍
  6.卵円孔開存に伴う右-左シャント
  7.心房中隔瘤
  8.僧帽弁輪石灰化
  9.大動脈弓部のプラーク病変
  10.大動脈解離
  11.左室憩室
  12.右心系血栓
  13.右心系腫瘍
 B.神経超音波
 1.頸動脈と脳血管の解剖と生理
 2.使用エコー装置と探触子
 3.正常像
 4.IMTの計測とその臨床的意義
 5.プラーク
 6.不安定プラーク
 7.頸動脈狭窄閉塞診断
 8.CEAとCAS
 9.頸動脈解離と大動脈炎症候群(高安病)
 10.経頭蓋ドプラ法
第W章 検査の実践―アプローチの手順・所見のつけ方
 A.アプローチの手順
  1.経胸壁心エコー図法のアプローチ法
  2.経食道心エコー図法のアプローチ法―循環器内科はこうしている
  3.経食道心エコー図法のアプローチ法―脳卒中科はこうしている
  4.頸動脈エコーのアプローチ法
  5.経頭蓋ドプラ法のアプローチ法
 B.所見の付け方
  1. 経胸壁および経食道心エコー図法の所見用紙―循環器内科はこうしている
  2. 経食道心エコー図法の所見用紙―脳卒中科はこうしている
  3. 頸動脈エコーの所見用紙―脳卒中科はこうしている
  4. 経頭蓋ドプラ法の所見用紙―脳卒中科はこうしている
第X章 症例から学ぶ脳梗塞のエコー診断と治療
 症例1 左房内血栓による脳梗塞例
 症例2 脳梗塞で発症した感染性心内膜炎
 症例3 卵円孔開存による奇異性塞栓
 症例4 脳梗塞で発症した急性大動脈解離
 症例5 異所性石灰化
 症例6 大動脈原性塞栓症と考えられた一例
 症例7 頸動脈プラークによるartery-to-artery embolism
 症例8 CAS術前術後評価
 症例9 心臓腫瘍(myxoma)による脳梗塞
 症例10 経頭蓋ドプラ法で微小塞栓信号を経時的に追った内頚動脈サイフォン部狭窄
索引

コラム
(1)抗血小板薬の功罪
(2)S字状心室中隔と左室流出路狭窄と失神
(3)脳と心臓はつながっている―たこつぼ心筋症
(4)dabigatranと第Xa因子阻害薬
(5)奇異性脳塞栓症の頻度
(6)下肢静脈エコー
(7)Merciリトリーバーとペナンブラシステム─新たな再開通療法への期待

かつては日本人の国民病ともいうべき疾患であった脳卒中、なかでも脳出血は、高血圧に対する薬物治療の進歩によって激減した。その結果、脳卒中の内訳は脳梗塞が主となり、さらに脳梗塞のうちでもラクナ梗塞に代わって、アテローム血栓性脳梗塞や心原性脳塞栓症の比率が高まってきた。また、脳梗塞の急性期治療は近年大きく様変わりし、冠動脈領域の急性冠症候群(acute coronary syndrome: ACS)と同様に、脳血管領域においても急性脳血管症候群(acute cerebrovasculer syndrome:ACVS)なる概念が提唱されている。
 そのようななかで、平成18年、川崎医科大学に日本で初めての脳卒中医学教室が木村和美教授のもと開設され、附属病院では脳卒中科として、脳卒中の急性期診療を開始した。従来、心原性脳塞栓症の原因検索は私たち循環器内科の仕事であったが、脳卒中科開設以来、頸動脈エコーや頭蓋内エコーはもちろんのこと、経食道心エコー図検査までもが脳卒中科の医師により行われるようになった。
 一方、私たち循環器内科学講座は、従来から心エコー図検査をその主たる研究テーマとして、長年心疾患の診断や病態解明に取り組んできた。その経験の一部はテキスト『チャートでわかる実践心エコー図法―エキスパートへの近道―』(改訂第2版、2009年、南江堂)として刊行し、多くの検査技師や若手医師に参考書として使用していただいている。しかし、このテキストは主として心疾患を診療する立場から作成されたもので、脳梗塞の塞栓源検索としての記載は、左房内血栓や左室内血栓などのごく限られたものにとどまっていた。そこで、脳梗塞診断に特化した超音波検査のテキストブックの必要性を感じ、本書を企画した次第である。
 なお、本書の書名は「心エコー・神経超音波で診る」と冠し、“エコー”、“超音波”を併用しているが、これは循環器領域および脳卒中領域で一般的に用いられる“心エコー”および“神経超音波”の語を採用したためである。
 本書は川崎医科大学循環器内科学講座と脳卒中医学講座の両講座が総力を挙げて作成したものであり、脳梗塞にかかわる超音波診断のすべてを網羅している。脳梗塞診療に携わるすべての医師や技師の参考書として広く臨床の現場で活用されることを願ってやまない。

2013年1月
編者を代表して
吉田清

脳卒中は病因や発症病態からは循環器疾患であり、症候的には神経疾患である。さらに危険因子としての高血圧、糖尿病、脂質異常症や発症の引き金となる血液凝固が関与する。いったん発症すると一刻を争う救急疾患であり、急性期を過ぎるとその管理には老年医学とリハビリテーションの知識が必要となる。すなわち、きわめて多くの分野にまたがったmulti?disciplinaryな疾患なのである。
 この「multi」な疾患に対処するためには、脳卒中を急性期からきちんと捉えることが必要である。病歴と臨床症候から病型を推し測り、脳の実質や血管の状態に基づいて最終診断を下して対処しなければならない。そのためにはCTやMRI、MRAなどの非侵襲的な画像診断を欠かすことはできないのが現状であるが、これに超音波診断を加えることによって、さまざまな病態がより簡便に、かつダイナミックに日常診療でもわかるようになった。一口で超音波診断といっても経胸壁心エコー図、経食道心エコー図、それに頭蓋外頸部動脈の神経超音波検査、経頭蓋ドプラなどを駆使して、病因・病態を探ることになる。
 このたび、川崎医科大学循環器内科学の吉田清教授と脳卒中医学の木村和美教授の編著による『心エコー・神経超音波で診る 脳梗塞診断マニュアル』が発刊された。本書は表題の「心エコー・神経超音波」だけでなく、脳梗塞の簡単な総論に始まり、一般的な画像診断に引き続いて心エコー・神経超音波の基本と手技・手順、さらには所見の記載方法までが簡潔かつ的確に述べられている。その特徴は質のよい鮮明な画像が数多く盛り込まれていることと、記述が簡潔で箇条書きに近いにもかかわらず、きわめて的を射た豊富な内容になっていることで、無駄な贅肉のまったくない書物である。
 心・血管の器質的病変の記述と描写だけでなく、実際に経験された症例の中で塞栓源あるいは虚血の原因となった具体的な病態について、画像のポイントが提示されているのも特徴的である。
 脳卒中の診療では、「起こってしまった結果」だけをみているのでは進歩がないということを、若い研修医諸君にはこれまで口を酸っぱくして教えてきた。本書はこの一歩踏み込んだ診断に導いてくれる有用なマニュアルであり、脳卒中の専門医を目指す神経内科、脳神経外科の研修医、レジデント諸君や超音波検査の資格取得を目指す技師諸君の入門の書、あるいは一般臨床医の方々が頭の整理をするための座右の書として、ぜひともお勧めしたい1冊である。

臨床雑誌内科112巻2号(2013年8月号)より転載
評者●国立循環器病研究センター名誉総長 山口武典

9784524269211