CKD-MBD診療ポケットガイド
ガイドラインに基づく実践
編著 | : 横山啓太郎 |
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ISBN | : 978-4-524-26909-9 |
発行年月 | : 2013年4月 |
判型 | : 新書 |
ページ数 | : 214 |
在庫
定価3,080円(本体2,800円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
慢性腎臓病や透析の患者における骨ミネラル代謝異常(CKD-MBD)の基本的事項を実践的にまとめたハンディな解説書。病態、検査の頻度、治療やその合併症への対応などを、最新のガイドラインに基づきコンパクトに解説。ガイドラインでは扱われていないトピックスや症例など、すぐに実践できる内容も豊富。臨床医はもちろん、コメディカルにも役立つわかりやすい一冊。
T.CKD-MBDガイドラインについて
U.CKD-MBDの基本事項
(1)CKD-MBDの病態
(2)CKD-MBD患者の検査と管理
V.CKD-MBDの治療
(1)透析期CKD-MBD患者の治療
■血液透析患者
■腹膜透析患者
(2)保存期CKD-MBD患者の治療
(3)副甲状腺インターベンションの適応と方法
(4)骨代謝の評価と管理
(5)透析アミロイドーシス関連骨症の診断と治療
(6)血管石灰化への対応
(7)移植患者におけるCKD-MBDの管理
(8)小児CKD-MBD患者の診断と治療
W.ガイドラインには載っていないCKD-MBDに関するオピニオン
(1)ビタミンDは長寿の薬か
(2)シナカルセト塩酸塩と低Ca血症
(3)シナカルセト塩酸塩を続けるか、副甲状腺インターベンションを行うか
(4)血液透析液のCa濃度はどのくらいが適当か
(5)ガイドライン推奨度と統計手法
(6)高P血症に対する透析方法の工夫
(7)高P血症に対する食事療法の工夫
(8)従来のP吸着薬と新規P吸着薬の違い
(9)世界のガイドラインと日本のガイドライン
(10)日本発のCKD-MBD関連の臨床研究
付録
(1)CKD-MBD関連のアブストラクトテーブル
(2)CKD-MBD治療薬一覧
索引
慢性腎臓病(CKD)における骨ミネラル代謝の異常は、長期的には血管を含む全身の石灰化を介して生命予後にも影響を及ぼす全身性疾患として「慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常(CKD-mineral and bone disorder:CKD-MBD)」という概念で捉えられるようになりました。2006年には日本透析医学会より「透析患者における二次性副甲状腺機能亢進症治療ガイドライン」が発表されましたが、このガイドラインの妥当性の検証と新規薬剤の使用法を新たに解説することが求められていました。そして2012年、新たに「慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン(CKD-MBDガイドライン)」が発表されました。旧ガイドライン同様に生命予後の改善を目的として管理目標値とその治療法が示されています。
本書は透析室で働く医療スタッフのための新ガイドラインの解説書です。ガイドラインはエビデンスすなわち論文をもとに作成されています。しかし、論文の結果は有意差で語られているので、その結果をすべての患者さんにあてはめることはできません。ガイドラインは「その指針どおりに治療するとうまくいく場合が多い」ことを示しているにすぎず、それは経済学者の経済予測に似ています。
一方、私たちは「経済予測は必ずしもあたらない」ことを、また目の前の現象が統計学だけでは説明できないことを知っています。経済学者ケインズの恩師マーシャルは、学生に「経済学を志す者は、温かい心と冷たい頭脳を持て」と訴えていたとのことです。これは、「医学を志す者は、温かい心と冷たい頭脳を持て」と言い換えができるかもしれません。冷たい頭脳とはEBM研究やガイドライン、温かい心とは個々の患者さんに還元する経験やオーダーメイド治療などにあたります。医療者がガイドラインを超えてその裁量を発揮するには、ガイドラインを表層的に解釈するだけでなく、その本質を見極める必要があるでしょう。そのうえで個々の患者さんに最適な医療を提供することが、医療者には求められているのです。
本書ではT〜V章でCKD-MBDの病態からガイドラインに基づいた治療まで解説し、症例の解説を交えて具体的に課題が捉えられるように配慮しました。W章ではガイドラインでは触れられていなかったり、深く言及されていない重要なテーマを取り上げ、付録ではCKD-MBDに関する論文アブストラクトをまとめました。
本書がよりよい診療のために役立ち、患者さんのquality of life(QOL)や予後の改善につながることを願ってやみません。
2013年3月
横山啓太郎
慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常症と邦訳されるCKD−MBDは、2006年の疾患概念の提唱以来、わが国成人人口8人に一人を占めるという慢性腎臓病(CKD)のもっとも代表的合併症として注目を集めてきた。腎機能が低下するとリンの蓄積や活性型ビタミンDの合成障害から血清Ca濃度が低下し、これらが副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌を促進する。PTHはこうした異常を代償するもののPTHの増加は線維性骨炎などの骨関節病変や骨以外の石灰化(異所性石灰化)をもたらす。この病態自体は二次性副甲状腺機能亢進症や腎性骨異栄養症として1960年代から知られていたものの、本病態が血管石灰化などを介してCKD患者の生命予後を規定する全身性疾患である、との認識がCKD−MBDにより確立されたからである。本病態は軽度の腎機能低下時から発症するものの、長く末期腎不全状態にある透析患者で重症化することから、日本透析医学会では2006年に「透析患者における二次性副甲状腺機能亢進症治療ガイドライン」を、2012年にはこれをさらに発展・更新して「慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン」を公表し、適切な管理と治療の啓発に努めてきた。
編著者の横山啓太郎氏は、上記2つのガイドライン(GL)の作成に中心的役割を果たし、とくに後者のCKD−MBDの診療GLでは作成ワーキンググループ(WG)の副委員長として作成と取りまとめに大活躍をされた。本書はその横山先生が中心となり、GLの普及とGLに沿った診療の実践を目的に企画された。内容はGLの概念と基本事項、そしてGLに沿った管理と治療の実際を横山先生が解説し、次いでGLには記載されていない貴重な情報や考え方が、横山先生はじめGL作成WGの委員や協力者、さらにはこの分野に深い見識をもつ共著者らのオピニオンとして掲載されている。GLの解説はGLの記述に従い、透析患者(血液透析、腹膜透析)、保存期腎不全患者の順で始まり、腎移植後や小児患者まで触れられているが、GLの記述の意味するところ、生じやすい疑問と回答、隠された作成委員の意図などが、症例の解説も含め大変わかりやすく記述されている。また、オピニオンではGLには公式に記載することができなかった「ビタミンDは長寿の薬か」などの興味深い話題が、豊富なデータから強い説得力をもちつつ平易に論述されている。
付録として、各項での引用文献とは別に、本GLにエビデンスとして用いられた主要な論文がリサーチクエスチョン別に一覧表で示され、その概要がアブストラクトテーブルとして掲載されている。また、CKD−MBD治療に頻用される薬剤も剤形、用法・用量、適応とともに一覧表としてまとめられており、臨床現場で大変役立つ構成となっている。
本書は医師、看護師、臨床工学技士、薬剤師、栄養士など腎疾患・透析医療分野で働く多くの人々のベッドサイドの解説書としてだけではなく、研修医や腎臓学を専門としない医師や医療スタッフにとっても大変有用かつ携行しやすいポケットブックである。多くの医療者の診療と知識の向上に広く活用が期待される。
臨床雑誌内科112巻6号(2013年12月増大号)より転載
評者●昭和大学医学部内科学講座腎臓内科学部門客員教授 秋澤忠男