この1冊ではじめる上部消化管内視鏡マニュアル
研修医・初心者のために
編集 | : 赤松泰次 |
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ISBN | : 978-4-524-26908-2 |
発行年月 | : 2013年5月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 158 |
在庫
定価4,950円(本体4,500円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
これから内視鏡をはじめる初心者を対象としたコンパクトなマニュアル。機器の種類・構造、挿入法、観察手順、鑑別診断、生検のコツ、感染管理、検査で用いる薬剤など、知っておくべき最低限の知識・手技をカバー。消化器内科をローテートする研修医のみならず、若手医師の知識の確認にも有用な一冊。
I 上部消化管内視鏡検査の目的と適応
II スコープの基本構造と種類
III スコープ挿入の基本とコツ
(1)経口内視鏡
(2)経鼻内視鏡
IV 見落としのない上部消化管内視鏡撮影法(手順・順序)
(1)撮影法の基本
(2)長野県立須坂病院での撮影法
(3)仙台厚生病院での撮影法
(4)東京医科大学消化器内科での撮影法
(5)経鼻内視鏡での観察
V 鑑別診断の進め方
(1)咽頭・喉頭の病変
(2)食道の病変
(3)胃の病変
(4)十二指腸の病変
VI 生検組織診断
(1)生検採取のコツ
(2)臨床医に必要な生検組織診断の知識
VII 偶発症とその対策
VIII 内視鏡室における感染管理の基本知識
IX 上部消化管内視鏡で用いる薬物の知識
索引
近年消化器内視鏡の進歩はめざましく、診断だけでなく治療にも広く応用され、消化器疾患の診療において欠かすことのできない大切なツールとなっている。消化器診療を行う医師にとって内視鏡を自由に操れるか否かは、患者やコメディカルの信頼を得る上で重要な「鍵」といえる。
内視鏡との関わり方は、医師が何を専門とするかによって大きく異なる。消化器内視鏡専門医として大勢の患者の診断や治療を毎日行っている医師もいれば、必ずしも専門ではないが内視鏡診療を行う機会のある医師までさまざまである。
本書は、研修医やこれから内視鏡を始めようとする医師を対象とした上部消化管内視鏡の入門書である。スコープの基本構造、経口および経鼻内視鏡の挿入法、見落としなく観察するための撮影順序など、内視鏡を行う上で知っておくべき基礎知識や手技のコツをコンパクトにまとめた。また病変を認めた際、内視鏡所見より鑑別診断を進める手順、生検採取のコツ、病理学的見地から見た生検診断の意義とピットフォールなどについて詳細に記述した。スポーツ競技と同様に、内視鏡を自己流で行っていると、ある程度は使いこなせるようになるものの、一定の段階で成長が止まってしまうことが多い。早い段階で内視鏡の基礎知識を身につけ、その上で実践経験を積んだ方が将来伸びる余地が大きい。さらに消化器内視鏡専門医を目指そうとする医師は、内視鏡操作に習熟するだけでなく、症例報告を読んだり、学会や研究会に出席して数多くの症例を「疑似体験」することが大切である。
内視鏡手技の習得だけでなく、偶発症予防や感染管理といった安全管理にも十分配慮する必要がある。偶発症は内視鏡手技に伴うトラブルと使用する薬剤に伴うトラブルに大別され、特に後者については各薬剤の特性や使用上の注意をよく知っておく必要がある。一方、感染管理については、内視鏡室はヒトの体液や血液が飛び交う病院内でもっとも不潔な場所であるという認識がまず重要である。内視鏡を介した患者間の交差感染だけでなく、医療従事者が患者から感染を受けないように自分自身を守る配慮も必要である。そのためには、不潔なものと清潔なものをしっかり区別すると同時に、内視鏡施行時はゴム手袋、マスク、ガウン、眼鏡といった防具を身につける習慣が大切である。内視鏡検査後の汚れた手袋をつけたまま、電話やパソコンに触れて内視鏡室を汚染したり、消毒後の清潔なスコープに触るといった「不心得」な医療従事者をまれならず見かける。特に内視鏡診療の経験が浅い初心者は、しばしばそのような行動を取りがちである。
前述した通り、充実した内視鏡研修を受けるためには、単に内視鏡の実践だけでなく、同時に理論を学ぶことが重要である。本書は初学者を対象とした上部消化管内視鏡の手引書として、エキスパートの先生方に執筆をお願いした。内視鏡を始めるにあたって必要な基礎知識や手技のコツが「ぎっしり」と詰まった良書であると自負している。
2013年4月
赤松泰次
序文に赤松泰次先生が書かれているように、本書は研修医やこれから内視鏡を始めようとする医師を対象とした上部消化管内視鏡の入門書である。内視鏡の基本構造、挿入法、見落としのない観察手順、病変の鑑別診断、生検診断から安全管理まで、内視鏡医が知っておくべき知識と手技のコツがコンパクトにまとめてある。
もちろんこの本を読むだけで、上部消化管内視鏡が始められるわけではない。誰かに教えてもらって内視鏡挿入を実際に体験しなければ始まらない。水に浮かぶことを体験することに始まる水泳と同じである。しかし、それからが本書の出番である。最初に挿入法と見落としのない観察手順を熟読いただきたい。「右手に時計方向のトルクをかけながら」挿入する手技は、恥ずかしながら筆者が内視鏡歴40年目に実感した挿入のコツである。
消化管をくまなく観察して記録することは、がんを見落とさない内視鏡検査の基本である。しかし、日本では統一された方法はない。本書では編集者の赤松先生、仙台厚生病院、東京医科大学が推奨する撮影方法が示されているので、最初に自分が教わった手順に近い撮影方法を書いた章から読んでいくとよい。そして、自信がもてる自分の観察方法を確立していってほしい。地味であるがもっとも大切なポイントである。
鑑別診断の項目では、さまざまな病変の鑑別診断のツボを押さえた内容でコンパクトにまとめられている。他の項目に頁数を取られたためであろうが、かえってアトラス的な成書とは異なる新鮮味のある内容になっている。この項目を読んで病変を診断するポイントをつかんで、間違いない方法で生検をすれば、上達の道が開けてくる。あとは症例検討会や勉強会に参加して知識を増やしながら、経験を積んでいくだけである。
しかし、研修医・初心者が読むだけの本ではないと、本書を読み終わって最初に感じた。ベテランの先生方に本書を読んでいただいて、自分の指導が独りよがりになっていないか考えてほしい。さまざまな研究のために全国の施設で撮影された内視鏡画像をみると、大変残念なことに「内視鏡画像の質」に大差があることに驚かされる。内視鏡検査の精度管理が必要である。そして、その第一歩が、本書でもっとも強調されている見落としのない撮影手順・順序である。
全体的に統一された内容であったので、最初手にしたときは単著の本の印象があったが、日本消化器内視鏡学会や早期胃癌研究会で活躍中の、今まさに旬の内視鏡医が分担執筆した本である。大学などの枠を越えて、ある意味ライバルでもある内視鏡医たちに執筆していただいたことを、編集者の赤松先生は内心誇りに思っているに違いない。各先生が、それぞれの分野でますます活躍されることを祈念して書評を終わりたい。
臨床雑誌内科112巻5号(2013年11月号)より転載
評者●公益財団法人 早期胃癌検診協会 榊信廣