書籍

心房細動治療薬の選び方と使い方

: 小川聡
ISBN : 978-4-524-26903-7
発行年月 : 2012年9月
判型 : A5
ページ数 : 138

在庫品切れ・重版未定

定価2,750円(本体2,500円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

好評書『抗不整脈薬の選び方と使い方』の姉妹書。多様な臨床像を示し個々の病態に応じた治療が必要となる心房細動について、不整脈診療の第一人者である著者がまとめた臨床のバイブル。経験豊富な著者からのメッセージが随所に詰まっているだけでなくさまざまな症例が紹介されており、心房細動の薬物療法の実践的な知識や考え方がすぐに身につく。

1 はじめに
2 心房細動の病態
 A 心房細動の4病型
 B 心房細動の原疾患
 C 心房細動の症状
3 心房細動治療の原則
 A 抗血栓療法
 B リズムコントロールとレートコントロール
4 心房細動患者を診たら
 A 初診時にやるべきこと
 B 再診時にやるべきこと
5 治療の基本方針
 A ACC/AHA/ESCガイドライン
 B ESCガイドライン
 C 日本心電学会「WEB版心房細動治療薬選択ツール」
6 わが国で心房細動に使用可能な抗不整脈薬とその使用状況
7 ガイドラインから学ぶ心房細動治療
 A 抗血栓療法の実際
 B レートコントロールの目標
 C 孤立性心房細動例でのリズムコントロール
 D 器質的病的心でのリズムコントロール
 E 抗不整脈薬の頓用(pill-in-the-pocket)
8 症例から学ぶ心房細動治療
 A 論理どおりの理想的治療が達成できた例
   症例1 ゴルフ中に眼前暗黒感を伴う高度の頻脈性発作性心房細動例
   症例2 理想的な経過で治療できた持続性心房細動例
   症例3 力ルジオフォンで頻脈発作の早期診断に至り、的確な治療が奏効した例
   症例4 長期間ワルファリンのみで経過観察中に頻脈性心房細動が再発しプロノン(R)で除細動を試みた例
   症例5 ARBによる高血圧治療とプラザキサ(R)のみで経過観察するも再発のない初発発作性心房細動例
   症例6 持続性心房細動の除細動から20年間経過をみている例
   症例7 持続性心房細動治療中に脳梗塞で発症し、べプリコール(R)で洞調律に復帰させた例
 B 治療に難渋した例
   症例8 ワルファリンの用量調節で苦労しながら薬理学的除細動を達成できた持続性心房細動例
   症例9 飲酒後の早朝に初発した発作性心房細動にサンリズム(R)が処方され、Ic flutterが誘発され、発作頻度も増悪した例
   症例10 レートコントロールに移行せざるを得なかった器質的心疾患を伴わない持続性心房細動の比較的若年例
   症例11 べプリコール(R)で著明な心拍数抑制をきたした高齢者例
   症例12 かなり難渋し、力テーテルアブレーションが適応となった例
   症例13 心不全によって心房細動が誘発され、心房細動がさらに心不全を悪化させ、かなり難渋し、アミオダロン塩酸塩速崩錠「TE」50mgで良好な経過をとった閉塞性肥大型心筋症例
   症例14 発作時の症状が強いため、1剤無効でやむを得す力テーテルアブレーションに回した例
   症例15 「発作性心房粗動」の確認が遅れたために標準治療が後手に回った僧帽弁狭窄症例
 C 特殊な症例
   症例16 甲状腺機能冗進症を見逃されていた高齢者の持続性心房細動例
   症例17 除細動目的で静注したサンリズム(R)でBrugada型心電図が誘発された例
   症例18 抗血栓療法で失敗した例
   症例19 CHAOS2スコア4点にもかかわらず、失神発作を繰り返し頭部外傷、硬膜外血腫摘出術の既往があるためワルファリン導入の遅れた洞不全症候群例
   症例20 併用薬により一過性にINR高値となった例
   症例21 力テーテルアブレーション不成功後の持続性心房細動をべプリコール(R)で除細動でき、5年間洞調律が維持できた例
   症例22 べプリコール(R)で失神をきたした例
9 その他の注意事項
 A 肝/腎機能に応じた使い分け
 B 薬剤併用時の注意
 C 再発時の治療法変更の目安
 D いつまで治療を継続するか
 E 力テーテルアブレーションへいつ送るか
10 おわりに
文献
索引

本書の姉妹書である「抗不整脈薬の選び方と使い方」は、1991年の初版発刊後、第2版を1997年に、第3版を2005年に発刊している。それぞれが、不整脈治療にかかわる新しい時代の幕開けや新しい展開を迎えた節目の年であった。
 1991年は、1989年の有名なCAST研究公表後の混乱期にあって、その後の不整脈治療のあるべき姿を議論した第1回Sicilian Gambit会議から「The Sicilian Gambit : A new approach to the classification of antiarrhyth-mic drugs based on their action on arrhythmogenic mechanisms」が出版された年であった。この初版では、CASTの教訓を踏まえ、抗不整脈薬の催不整脈作用と陰性変力作用に配慮し、治療すべき不整脈とそうでないものの見極めの大切さを強調したが、Sicilian Gambitの病態生理学的治療についての記載は間に合わなかった。
 第2版を出した1997年は、前年の10月に開催された第3回Sicilian Gambit会議に著者が招聘されたのを機に、日本心電学会「抗不整脈薬ガイドライン委員会」と日本循環器学会診療基準委員会「Sicilian Gambitに基づく抗不整脈薬選択のガイドライン作成班」が設置され、まさにわが国で不整脈治療のガイドライン作成への流れが始まった年であった。したがって、第2版にはSicilian Gambitの基本的考え方に従った薬剤選択を盛り込んだ。その後、第2版と同じコンセプトであるが、両学会合同で2000年にはCD-ROM版「抗不整脈薬選択のガイドライン」が、日本循環器学会合同研究班報告として2001年には「心房細動治療(薬物)ガイドライン」が、2004年には「不整脈薬物治療に関するガイドライン」が発表されることになった。
 この間、とくに心房細動に関する知見の集積が顕著で、治療への考え方も大きく変化したため、第3回、第4回(2000年)のSicilian Gambit会議で提案された考え方も盛り込み、心房細動治療の項を大幅に加筆修正して2005年に第3版を出版した。心房細動が遷延することで心房筋Naチャネルが減少し、Kチャネルは比較的保たれるという電気的リモデリングの知識が集積されていたので、これをもとに、長期的な心房細動例にはむしろKチャネル遮断薬を選択すべきと記載した。この考え方は、2008年に改訂された「心房細動治療(薬物)ガイドライン」で、基礎疾患のない発作性心房細動と持続性心房細動での薬物選択にも採用されている。
 2008年改訂版「心房細動治療(薬物)ガイドライン」では、2001年版と比べて抗不整脈薬選択基準が大きく変わった。それとともに、心房細動治療の根幹を成すともいえる抗血栓療法も、直接トロンビン阻害薬や第Xa因子阻害薬の臨床応用を受けて、ワルファリン一辺倒であった従来の指針から大きな転換期を迎えた。これらの変革を受けて、心房細動に特化した本書「心房細動治療薬の選び方と使い方」を執筆することとした。また本書の特徴は、日常臨床でよく遭遇する心房細動例について、自験例での治療の実際を詳述したことであり、著者がこれまで40年にわたって積み重ねてきた経験をより具体的に知って頂ければ幸いである。
2012年8月
小川聡

小川聡先生の書かれた本書を読ませていただき、拙文ながら感想を書かせていただく。1989年に、抗不整脈薬は虚血性心疾患に合併した不整脈に対して心不全死を増加させるとした、心室性不整脈抑制試験(CAST)研究が報告された。そこで抗不整脈薬の使用方法を見直そうと、第1回Scicilian Gambit会議が1991年に開かれた。同年に先生は『抗不整脈薬の選び方と使い方』(初版)を出されている。初版にはCAST研究の結果をふまえて、抗不整脈薬の催不整脈作用と陰性変力作用に配慮して、治療すべき不整脈とそうでない不整脈の見極めに重点をおいて書かれた。1996年に先生は第3回Scicilian Gambit会議に出席され、翌1997年に日本心電図学会「抗不整脈薬ガイドライン委員会」と日本循環器学会診療基準委員会「Scicilian Gambitに基づく抗不整脈薬選択のガイドライン作成班」に参加され、Scicilian Gambitの基本的考え方に沿った『抗不整脈薬の選び方と使い方』の第2版を編纂された。
 不整脈の中でもっとも頻度の高い心房細動の薬物治療に関しては、2001年に日本循環器学会合同研究班が「心房細動治療(薬物)ガイドライン」を出した。心房細動が遷延するとNaチャネルが減少し、Kチャネルは比較的保たれる電気的リモデリングの知識が蓄積され、持続性心房細動にはKチャネル遮断薬を選択すべきという現在に通じる記載がなされた。2008年に改訂された「心房細動治療(薬物)ガイドライン」では、基礎心疾患のない発作性心房細動と持続性心房細動の薬物選択について書かれている。2008年のガイドラインで、抗不整脈薬の使用法に関するあらましができた。その後warfarinにかわる直接トロンビン阻害薬や第Xa因子阻害薬の出現で、心房細動の抗凝固療法がwarfarin一辺倒からの転換期を迎えた。
 本書は、著者の40年にわたる不整脈治療の経験から、心房細動に特化した「心房細動治療薬の選び方と使い方」の最新情報を抜き出し詳述してある。初心者でもわかるように、(1)心房細動の病態から始まり、(2)治療の原則、(3)初診、再診でやるべきこと、(4)治療の基本方針、抗不整脈薬使用の状況、(5)ガイドラインから学ぶ心房細動治療と一般論が述べてあり、その後、(6)症例から学ぶ心房細動治療が、22例もの症例について述べてある。心房細動にこれほどバリエーションがあるのか驚いた。簡単な薬物治療で除細動された心房細動もあれば、抗不整脈薬での除細動が不可能でwarfarinによる抗凝固療法で経過観察となった例、心不全を繰り返し頻脈発作を止めるためにカテーテルアブレーションに回した症例、抗不整脈薬の投与後に心室頻拍が誘発された例など、基礎心疾患の有無や使用した抗不整脈薬の種類により起こりうる合併症は千差万別であり、一例一例が貴重な教科書なのであると改めて感心した。
 著者は抗不整脈薬治療のスーパー専門家で、maze手術や肺静脈box隔離術で心房細動を外科的に根治しようとする筆者とは少し立場が異なる。本書の内容が抗不整脈薬や抗凝固薬治療に偏るのは当然であるが、現在猛烈な勢いで進歩、普及しているカテーテルアブレーションや外科手術による心房細動治療の知見から、発作性心房細動や持続性心房細動の発症、維持のメカニズムがダイナミックに明らかになってきている。その点についての記載がもう少しあると、心房細動の実態がさらに明らかになったように感じる。心房細動学は実に深遠な領域である。

評者●末田泰二郎
胸部外科66巻1号(2013年1月号)より転載

高齢化社会の到来により循環器領域では、心房細動に関わる話題が取り上げられることが多く、心房細動をテーマにした書籍の出版が盛んに行われている。本書は、心房細動の治療方針決定に参考となる最新のガイドライン、そして膨大なガイドラインをどのように活用すべきかを簡便にまとめ、時間のない読者にとっても利便性の高い冊子となっている。これまで心房細動の薬物治療において、洞調律維持と心拍数管理のいずれを選択するかが議論されてきた。海外での臨床試験の成績では、煩雑な抗不整脈薬を用いなくても心拍数管理により遜色ない生命予後を得ることができるとの結果が示され、もはや抗不整脈薬は使用しないといった話もなされるようになった。しかし、実際、動悸発作で強い不快感を呈する発作性心房細動症例では、心拍数管理は現実的には困難な症例が多いことも事実である。
 わが国で実施されたJ−RHYTHM試験では、発作性心房細動については適切な抗不整脈薬を選択、使用し、洞調律維持を目標とする治療選択の必要性が高いことが示された。すなわち、自覚症状の強い、比較的若い年齢層に発症する発作性心房細動に対しての洞調律維持を目的とした抗不整脈薬使用は、その安全性を確保できる範囲内で使用するならば、QOLを維持するために意義ある治療選択であることが検証された。
 本書では、実際に多くの症例を呈示し、刻々と変化する患者の状況に応じ処方が変更され、その変更理由、すなわち著者の考えが述べられており、どのような臨床的変化に専門医が注目し、処方を変更するかが手に取るようにわかる。このように多様な臨床像を呈する心房細動症例に対する著者の臨場感溢れる記述は、読者には大いに参考となると思われる。
 著者の小川聡教授は、序文にも書かれているSicilian Gambitの国際専門家会議にわが国を代表し参加され、いち早く抗不整脈薬の作用機序と臨床不整脈の電気生理学的背景とを勘案した治療戦略を構築する考え方、具体的には各不整脈の受攻因子を標的としてもっとも適した抗不整脈薬を選択使用する考え方をわが国に紹介した。また、抗不整脈薬の使い方をCD−ROM版「抗不整脈薬選択のガイドライン」として公表するなど不整脈薬物治療のオピニオンリーダーとして活躍され、日本循環器学会「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2008 年改訂版)」を委員長としてまとめられている。それまでエビデンスの乏しかったわが国の心房細動治療ガイドラインを全面的に改定した功績は大きい。
 最近では新規抗凝固薬が登場し、従来のワルファリンとともにどのような症例に使用すべきかが話題となっている。本書では、すでに新薬が処方された症例も提示されており参考となる。心房細動症例の管理について、わが国を代表するオピニオンリーダーの状況判断が簡潔明瞭に記述された本書は、多くの臨床医が一読する価値のある冊子としてお勧めしたい。

評者● 新博次
内科110巻6号(2012年12月号)より転載

9784524269037