運動器慢性痛治療薬の選択と使用法
編集 | : 山下敏彦/牛田享宏 |
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ISBN | : 978-4-524-26888-7 |
発行年月 | : 2015年10月 |
判型 | : A5 |
ページ数 | : 242 |
在庫
定価4,180円(本体3,800円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
運動器慢性痛に薬物療法の視点からアプローチし、疼痛治療薬を適切に使い分けられるようになることを目的とした。痛みの種類や病期によって、いつ・どんな治療薬を・どう使うかといった治療薬選択のポイント、具体的な処方例、禁忌薬剤とその理由、さらに注意が必要な副作用・薬物相互作用についても分かりやすく解説。運動器慢性痛診療に携わる整形外科医、ペインクリニック医、一般臨床医、リハビリ関連職種に最適な一冊。
総論
I.運動器慢性痛に対する基本的な考え方
A 運動器慢性痛の病態
B 運動器慢性痛に対する治療方針と薬剤選択
II.運動器慢性痛に用いられる薬剤とその使い方
A 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
B ステロイド系抗炎症薬
C Na,Caチャネルに関する薬剤
D 抗うつ薬
E オピオイド
F その他の鎮痛補助薬
G 漢方薬
各論
I.脊 椎
A 頚部
頚部の痛み
1.頚部痛(筋性)
2.頚椎症(神経根症・脊髄症)
3.頚椎椎間板ヘルニア(神経根症・脊髄症)
4.頚椎後縦靱帯骨化症
B 腰背部
腰背部の痛み
1.非特異的腰痛
2.腰椎椎間板ヘルニア
3.変形性腰椎症
4.腰部脊柱管狭窄症
5.腰椎変性すべり症
6.腰椎分離症(分離すべり症)
7.仙腸関節障害
8.転移性脊椎腫瘍
9.骨粗鬆症性椎体骨折
10.化膿性脊椎炎
11.結核性脊椎炎
II.上肢
A 肩
肩の痛み
1.肩こり症
2.肩関節周囲炎(五十肩・凍結肩)
3.肩腱板損傷・腱板断裂(肩峰下インピンジメント症候群)
4.頚肩腕症候群
5.野球肩
6.胸郭出口症候群
B 肘
肘の痛み
1.変形性肘関節症
2.肘部管症候群
3.野球肘
4.上腕骨外側上顆炎(テニス肘)
C 手・指
手指の痛み
1.de Quervain病(狭窄性腱鞘炎)
2.Heberden結節
3.母指CM関節症
4.手根管症候群
5.Kienbock病
III.下肢
A 股関節
股関節の痛み
1.変形性股関節症
2.特発性大腿骨頭壊死症
3.股関節唇損傷(大腿骨寛骨臼インピンジメント:FAI)
B 膝関節
膝関節の痛み
1.変形性膝関節症
2.半月板損傷
3.特発性骨壊死
4.離断性骨軟骨炎
C 足
足の痛み
1.変形性足関節症
2.アキレス腱周囲炎
3.外反母趾
4.足底腱膜炎
5.Morton病
IV.難治性の疼痛
難治性の痛みにおける薬物療法の位置づけ
1.関節リウマチ
2.脊椎手術後疼痛症候群(FBSS)
3.脊髄損傷後疼痛
4.むち打ち症候群
5.線維筋痛症
6.複合性局所疼痛症候群(CRPS)
7.SAPHO症候群
8.幻肢痛
V.注意すべき患者特性
A 年代別注意すべき患者
1.妊婦・授乳婦
2.高齢者
3.小児
B 合併症を有する患者
1.腎機能障害
2.肝機能障害
3.心疾患
4.高血圧症
5.糖尿病
6.肥満
付録
1.薬剤一覧,
2.神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン
3.オピオイドガイドライン
4.腰痛診療ガイドライン
索引
序文
外傷や疾病に伴う「痛み」の克服は、人類にとって有史以来の永遠のテーマだといえる。さらに現代社会においては、心理的ストレスや社会・家庭環境の要因が関与する慢性痛に悩む人が増加し、痛みの診療は複雑さを増している。
慢性痛の多くは、腰、肩、膝などの運動器に関連する痛みであることが疫学調査により明らかにされている。従来、運動器の痛みは、組織の損傷や炎症が主たる原因とされ、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が治療薬の中心であった。しかし、近年、神経自体の損傷や機能異常に起因する神経障害性疼痛という概念が定着し、その治療薬としてCa チャネルブロッカーが広く用いられている。さらに、より強力に痛みの伝導をブロックするオピオイドが、非がん性の運動器疼痛にも適応となった。このように、疼痛診療を取り巻く環境は、近年急激に変化しているといえる。しかし、それと同時に、多様な薬剤の適切な選択、使用法、副作用対策などに頭を悩ますことも増えてきた。
痛みのメカニズムや病理を考慮しない強力な鎮痛薬の盲目的投与は、症例の病態をマスクし、その悪化・進行を招く可能性がある。また、鎮痛薬のほとんどは何らかの副作用を有するし、オピオイドに関しては乱用・中毒などの社会的問題を引き起こす危険性もある。さらに慢性疼痛症例では、漫然と薬物療法を継続するのではなく患者の心理・社会的背景にも注意を払う必要が出てくる。
本書は、上述のような近年の疼痛診療の進歩・変化や問題点を踏まえ、臨床の現場における的確な薬物療法をサポートすることを目的としている。まず総論では、運動器慢性痛に対する基本的な考え方と主要な薬剤の使い方について解説している。次に各論では、日常において比較的よく遭遇する個々の運動器疾患について、病態と薬物療法の位置づけ、薬剤選択のポイント、実際の処方例、禁忌薬剤などを具体的に述べている。さらに、複合性局所疼痛症候群(CRPS)などの難治性疼痛に対する薬物療法や注意すべき患者特性についても解説した。
本書が、疼痛診療に携わっておられる先生方の円滑な日常診療の一助となり、ひいては慢性痛に悩む多くの患者さんの救済に貢献できることを願ってやまない。
2015年8月
山下敏彦
腰、肩、膝などの運動器の痛みは、国民の愁訴の中で常に上位にランクされる。超高齢社会を迎えたわが国において、運動器の痛みに起因するロコモティブシンドロームを予防し、健康寿命を延伸することが運動器に携わる医療関係者にとって最重要課題の一つである。
痛みの病態には、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、心因性疼痛があり、これらの病態に基づいた治療を実践することが理想的である。近年の疼痛に関する基礎研究の進歩により痛みの分子メカニズムが解明され、治療薬の開発がすすみ、さまざまな新薬が上市されるにいたった。なかでも神経障害性疼痛の概念が普及し、第一選択薬としてCaチャネルブロッカーが広く応用されるようになり、疼痛治療は大きく前進した。さらに、従来癌性疼痛に使用されてきたオピオイドが非癌性疼痛にも使用されるようになり、強い痛みの管理も可能になってきた。一昔前までは非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)一辺倒であった痛みの治療も大きく変化し、治療の幅が飛躍的に広がった。これ自体はすばらしいことで、多くの慢性痛の患者に大きな福音をもたらしたと思われる。しかし、適応例の見分け方や長期間使用時の安全性など明らかではないことも多かった。さらに、これまでの鎮痛薬になかったタイプの副作用の対策に困惑し、副作用対策のために投薬に投薬を重ねるpolypharmacyの問題など、新薬登場によっていくつかの新しい課題が増えたことも事実である。これらの課題を認識し、投薬にあたっては慎重に適応と使用期間について検討すべきであろう。
本書は、運動器慢性痛の治療薬の選択と使用法についてコンパクトによくまとめられた良書である。まず総論では、運動器慢性痛に対する基本的な考え方と運動器慢性痛に使われる薬が紹介されている。NSAIDsから新しい鎮痛薬、漢方薬にいたるまで作用機序と実際の使い方について詳しく述べられている。読者は、まず総論に一度目を通し、運動器慢性痛の病態と痛み治療薬の基本的事項を理解されることをおすすめする。各論では、部位別に代表疾患が並べられ、疾患ごとに治療薬の使い方が紹介されている。実臨床で治療薬の選択に困るたびに、該当する疾患の項で確認するとよい。
本書の優れている点として、各疾患の病態と薬物療法の位置づけをはっきりと述べていることがあげられる。ともすれば投薬だけの治療になりがちであるが、薬物療法は運動器慢性痛の治療において一部にすぎない。実臨床においては、運動療法、装具療法などのほかの保存的治療の適応について考える必要があり、さらには適応があればタイミングを逸することなく手術を行うことも重要である。まず病態と薬物療法の位置づけについてしっかりと理解したうえで、処方例を参考にするとよい。本書は運動器慢性痛の治療において第一線で活躍中の先生方が執筆されているため、一般的な運動器疾患の紹介だけではなく、複合性局所疼痛症候群(CRPS)、線維筋痛症や幻視痛などの難治性疼痛の薬物療法にも言及している。これだけコンパクトな本でありながら、ここまで専門的な疼痛性疾患を含めている点に驚かされた。整形外科、ペインクリニックで痛み治療を専門にする先生方にとっても満足できる内容と思われる。
これまで運動器慢性痛の薬物治療に関するコンパクトな本はほとんど見当たらなかった。本書は手元においてすぐに活用できるため、日常診療を強力にサポートしてくれるものと期待している。
臨床雑誌整形外科67巻4号(2016年4月号)より転載
評者●高知大学整形外科教授 池内昌彦