心内局所電位
アブレーションに役立つ特殊電位観察法
編集 | : 小林義典/野上昭彦 |
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ISBN | : 978-4-524-26869-6 |
発行年月 | : 2014年2月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 262 |
在庫
定価8,580円(本体7,800円 + 税)
正誤表
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2015年09月10日
第1刷
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
心内局所電位の観察法を新たな切り口で解説した、EPS・アブレーションの道標となる一冊。心内局所電位ごとに、特徴や検証法、不整脈メカニズムとの関連、アブレーション標的部位同定における役割などを解説。特殊な心内局所電位の電気生理学的特性を、各電位の記録法と、関連する不整脈のメカニズムを関連付けて理解できる。疾患名から電位の解説を参照する「逆引き不整脈索引」を設けた。
本書で用いた主な略語
逆引き不整脈索引
第I章 心内局所電位の観察法
A.基礎編
1.心内局所電位の記録法と読み方
a.双極電位(bipolar potential)の記録法
b.単極電位の記録法
c.単極電位の利用法
2.monophasic action potential(MAP)の記録法と読み方
a.MAP記録の歴史
b.計測法と読み方
3.心内電位記録に混入しやすいノイズの原因と見分け方
a.ノイズの定義
b.ノイズの分類
c.ノイズの原因
d.ノイズを認めた時のトラブルシューティング
e.原因となった医療機器に対する対応
4.near-field potentialとfar-field potentialの鑑別法
a.FF電位がアブレーションの通電部位決定に用いられる場合
b.アブレーション手技の成否を判断するためにNF電位との鑑別が必要な場合
c.FF電位が線状焼灼の成否判断に用いられる場合
d.FF電位の波形の特徴:NF電位との差異
5.心内局所電位と周波数解析
a.周波数解析の基礎
b.心室細動に対する周波数解析の臨床応用
c.心房細動に対する周波数解析の臨床応用
B.応用編
6.最早期興奮部位同定法
a.心房性頻脈性不整脈の最早期興奮部位同定法
b.心室性頻脈性不整脈の最早期興奮部位
7.線状焼灼上の伝導gap同定法
a.gap伝導の生理学
b.伝導gap部位の局所電位の基礎的検討
c.伝導gap部位の同定法
d.伝導gap焼灼後の完全ブロックの確認法
8.entrainment pacingにおける局所電位の解析
a.entrainment pacingの概念
b.entrainment pacingの方法と注意点
c.entrainment pacingの実際
d.局所心内電位が不明瞭な際のPPI測定法
e.entrainment pacing時の局所電位観察と刺激出力の重要性
9.3Dマッピングと局所電位
a.CARTOシステム
b.EnSiteシステム、NavXシステム
b-1.EnSite Array
b-2.EnSite NavX
10.心臓手術中の電位解析
a.術中マッピングに必要な機器
b.心房細動(AF)のマッピング
c.心室頻拍(VT)のマッピング
第II章 各論
A.刺激伝導系組織由来の電位
1.洞房結節および移行帯組織:SNE
2.房室結節および移行帯組織:Asp(Jackman電位)、Sp(Haissaguerre電位)
3.His束電位
4.脚電位
5.Purkinje電位
B.副伝導路電位
6.Kent電位
7.Mahaim電位
C.血管組織の電位
8.肺静脈筋層:PV電位
9.上大静脈筋層:SVC電位
10.肺動脈筋層:PA電位
11.冠静脈洞筋層電位:CS musculature電位
D.障害心筋を反映する電位
12.心房における障害電位
13.心室における障害電位
E.成因が明らかでない電位
14.心房細動基質電位:CFAE
15.IVT(流出路起源)に認められるdiscrete prepotential
索引
近年の三次元マッピングシステムの進歩に伴い、心房細動や心室頻拍など複雑な不整脈基質を持つ不整脈に対しても、アブレーションによる根治が可能になりました。このシステムを用いることにより明瞭な三次元画像が構築され、また電位の解析も自動的に行われるので、自然の流れとして解剖学的アプローチによるアブレーションが行われているのが現状です。その結果、心内局所電位を詳細に観察することなくアブレーションが行われ、不整脈学の基本である不整脈機序を同定する作業が疎かにされているのではないかと危惧しています。
心内局所電位を詳細に観察することは、アブレーション標的部位を同定するためには不可欠であり、今後もその重要性は変わらないと考えます。心内電位記録では疾患(不整脈)特異性のある特殊な電位が多く存在し、これがアブレーション標的を同定する際に重要な道標となっています。これら局所電位はペーシングなどの介入により、その成因、特殊心内電位の検証が可能であり、最終的にその局所電位が関連する不整脈のメカニズムを推定することができます。これは心臓電気生理学の中では最も興味深い領域であり、またEPSやアブレーションに携わる医師、すなわち不整脈専門医にとっては、基本的に身につけておくべき知識や技術であると考えます。
これまでEPSやアブレーションに関する教科書は数多く出版されています。多くは不整脈の種類ごとに項目が設定されていて、各不整脈の総論から始まり、EPSやアブレーション手技を解説する内容になっています。本書では各種心内電位を項目として設定し、それぞれの電位に関連する不整脈の解説、各局所電位の特徴、検証法、不整脈メカニズムとの関連、アブレーション標的部位同定における役割等を解説しています。本書を読破することにより、結果的にほぼあらゆる不整脈のEPS、アブレーション法を理解することができます。またこれまでに、特殊心内電位の電気生理学的特性について詳細に解説した専門書は存在しないことから、本書により新たな視点でEPS、アブレーションを施行できる専門医を育成することができると確信しております。不整脈診療のレベルアップの一助になれば幸いです。
2014年1月
小林義典
野上昭彦
編者のふたりは、2009年に「プルキンエ不整脈」(医学書院)というマニアックな本を出した。電気生理学に接している者にとって、魅かれるタイトルだった。
「マニアックなふたり」の第2弾が、この「心内局所電位」である。多くの人にとって意味不明のタイトルをもつ点で、前著に似ている。
不整脈診療はカテーテル・アブレーションや植込み型除細動器など薬剤以外の治療法が現れるまで、もどかしい状況が続いた。次に何が現れるかわからない時代には、「閉塞している」ことも意識できなかった。その時代にあっても、臨床電気生理の医師は、心腔内の電位を細かく解析し、議論を重ねた。情報が積み重なってカテーテル・アブレーションに活かされ、さらにカテーテル・アブレーションが新たな考え方をもたらした。
本書には、心臓の内部の電気現象をどう捉えるか、醸成された知識が詰まっている。カテーテル・アブレーションの現場に接するなら、必ず読むべき本である。そういう機会がないなら、「暇つぶし」にもならない。
前半は総論。ノイズの混入について1項が費やされている。電気生理検査は、「見た目のよい電位」を「意味のある並べ方」で提示することが肝要だ。しかし、どこからともなくアーチファクトが混入する。交流ハムが混ざるあたりは理解できるが、電磁誘導ノイズとか伝導ノイズは難解である。医師の多くはこういう理科系の理屈がわからない。そこを噛み砕いて説明してある。面白く、深く読んだ。
far-field potentialというのは、「そこの電位」ではなく「遠くからの電位」を意味する。局所に興奮が到達していないにもかかわらず、ちょっと離れたところの興奮が拾われるために、混乱を招く。意味は少し違うが、上大静脈や心耳の電位についても複数の箇所で触れられている。心内のどこで電位を記録すれば、どういう邪魔が入るのか、よく整理されている。
各論では、活きのいい執筆者が選ばれている。分担執筆のテキストでは、「章末に並べてある文献の数」と「執筆者のやる気」は反比例する。本書では文献をやたらと並べている執筆者はいない。
個々の項の内容についてあれこれを語っても意味がわからないと思われるので、全部省略する。電位記録と本文を行ったり来たりしながら読破するのは、楽ではなかった。4日もかかった。
映画であれ、小説であれ、3つの作品がセットになって完結するという話がある。前著「プルキンエ不整脈」と、この「心内局所電位」の後、どのような「凝り性のテーマ」で締めくくろうとしているのか待たれる。
書評子も本書のように「一部の専門医だけをねらった尖ったテキスト」をつくりたいとかねがね思っていたが、よほどの経験と見識を要するので叶わない望みである。とはいえ、「実売2千冊の濃厚で評価の高い本」と、「実売10万部の中身が薄い本」のどちらを書きたいかと問われると、後者もまた捨てがたい。老後の生活もあるので。
臨床雑誌内科114巻4号(2014年10月号)より転載
評者●帝京大学医学部附属溝口病院第四内科科長 村川裕二