生命科学のためのウイルス学
感染と宿主応答のしくみ,医療への応用
監訳 | : 下遠野邦忠/瀬谷司 |
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ISBN | : 978-4-524-26837-5 |
発行年月 | : 2015年2月 |
判型 | : A4変 |
ページ数 | : 360 |
在庫
定価5,280円(本体4,800円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
“VIRUSES”(David Harper著)の日本語版。ウイルスの構造・機能や分類、複製といった基本的内容から、免疫との相互作用、ワクチン、抗ウイルス薬といった臨床的内容、さらにはベクターとしてのウイルスの利用や遺伝子治療までを網羅。最新の知見も含めつつ、豊富な図表でわかりやすく解説している。ウイルスについて学びたい学生からウイルスを利用する研究者まで必携の1冊。
第1章 ウイルスの構造と形態
1.1 ウイルスとは何か?
何がウイルスをつくるのか?
1.2 ウイルスの構造と形態
カプシド
カプシドの対称性
ウイルスエンベロープ
1.3 ウイルスゲノム
ゲノムサイズとウイルスの構造
ゲノムサイズと感染
限られたゲノムを最大限に活用する
ゲノムの型とウイルス複製
HIVゲノムにおける変異
1.4 ウイルス感染の影響
1.5 ウイルス感染の類型
溶解性(急性)感染
持続性(慢性)感染
潜伏感染
細胞形質転換
ウイロイド
デルタウイルス
複製欠損ウイルス
可動性遺伝因子
内在性ウイルス
プリオン
プリオン仮説
ウシからヒトへ
第2章 ウイルスの分類と進化
2.1 ウイルスの分類
2.2 ウイルスの形態
2.3 遺伝子型によるウイルスの分類
2.4 スーパーウイルスとサブウイルス
スーパーウイルス
サブウイルス感染
サテライトウイルス
ウイルソイド
2.5 ウイルスの起源
第3章 ウイルス複製
3.1 吸着と侵入
ウイルスが結合する細胞の受容体
ウイルスの侵入
3.2 複製
ウイルスの複製が行われる場所
核内への侵入
ウイルスタンパク質合成
3.3 ウイルスゲノム合成
DNA合成
二本鎖DNAゲノムを持つウイルス
一本鎖DNAゲノムを持つウイルス
RNAを中間体として使用するDNAウイルス
RNA合成
dsRNAゲノムを持つウイルス
一本鎖RNA+鎖[ssRNA(+)]ゲノムウイルス
一本鎖RNA−鎖[ssRNA(−)]ゲノムウイルス
DNA中間体の媒介により複製するssRNAウイルス
3.4 ウイルスによる細胞活動の制御
3.5 ウイルスの形成と放出
第4章 免疫応答と回避
4.1 自然免疫応答
認識:Toll様受容体
シグナル伝達:サイトカインとインターフェロン
貪食
NK細胞
自然免疫様リンパ球
補体系
4.2 血清学的免疫応答
抗体の構造
5種類の免疫グロブリン
B細胞受容体と増殖反応
抗原の多様性の創出
B細胞記憶
B細胞エピトープ
抗体結合の影響
血清学的応答の意義
4.3 細胞性免疫応答
T細胞活性化
MHC.I経路:細胞傷害性T細胞
MHC.II経路:ヘルパーT細胞
Th1とTh
T細胞:抑制と記憶
4.4 免疫応答の区分
粘膜免疫
4.5 アポトーシス
4.6 ウイルスによる免疫監視の回避
積極的免疫回避
HIVと免疫系
受動的免疫回避
複合効果
4.7 宿主の遺伝要因
4.8 ウイルス発がん
細胞由来がん抑制遺伝子の機能
ウイルスのがん遺伝子
第5章 ワクチンとワクチン接種
5.1 ワクチン接種の起源
人痘接種
ワクチン接種
5.2 現代のワクチン
ワクチンの種類
生ワクチン
実例:経口ポリオワクチン
人為的な弱毒化
不活化ワクチン
サブユニットワクチン
クローン化サブユニットワクチン
HIV:注目の的
5.3 アジュバント
アジュバントの成分
リボソームとコクリエート
T細胞とアジュバント
5.4 ワクチン開発へのアプローチ
ウイルスベクター
複製欠損ウイルス:遺伝子ベクター
核酸ワクチン接種
5.5 ワクチン接種に対する免疫応答のオーダーメイド化
5.6 注射以外のワクチン投与法
ワクチンの経口投与
粘膜免疫
徐放性
5.7 治療的ワクチン接種
5.8 ワクチン開発におけるエピトープ構造
エピトープの同定
5.9 ワクチン接種に対する社会の反対
ワクチンに含まれるもの
決定的な点
ポリオワクチン陰謀説
ある小規模調査
5.10 ワクチン接種の実践的な問題と成果
病気の撲滅
ワクチンのリスク・ベネフィット
幼少期のワクチン接種
製造上の問題
内因性の増殖
望ましくない免疫応答
直接効果
安全性のモニタリング
将来の可能性
第6章 抗ウイルス薬
6.1 初期の抗ウイルス薬開発
ウイルス指向性酵素プロドラッグ療法
6.2 毒性
6.3 抗ウイルス薬開発
開発の道のり:前臨床、臨床、その後
ハイスループットスクリーニング
合理的薬物設計
既存薬からの開発
薬剤開発の費用
6.4 現在の抗ウイルス薬
ヌクレオシドアナログ:分子機構の理解
6.5 核酸をベースとしたアプローチ
オリゴヌクレオチド
リボザイム
RNA干渉:siRNAとmiRNA
認可された薬剤
6.6 免疫療法
特異的抗体の産生
モノクローナル抗体
抗体のヒト化
ヒトモノクローナル抗体
組換え抗体
マイクロ抗体
モノクローナル抗体による標的指向化
インターフェロン
6.7 抗ウイルス薬に対する耐性
抗HIV薬耐性
抗ヘルペスウイルス薬耐性
耐性を最小限に抑える試み
6.8 併用療法
高活性抗レトロウイルス療法
拮抗作用、相加作用、相乗作用
6.9 抗ウイルス薬の限界
対症療法
結論
第7章 ウイルスの有効利用
7.1 遺伝子治療
ウイルスベクターシステム
課題
問題点
現状
7.2 がんの予防と制御
ワクチン
ウイルス療法
7.3 生物学的防除
ウイルスによる害虫駆除
ウサギを駆除するウイルス
抵抗性
総合的病害虫管理
7.4 バクテリオファージ療法
バクテリオファージ
治療薬としてのバクテリオファージ
抗生物質の時代
バクテリオファージ再考
臨床適用
第8章 出現、蔓延、根絶
8.1 サーベイランス
過小対応:ハンタウイルス肺症候群
過剰反応:ブタインフルエンザ
インフルエンザ:サーベイランスから世界的大流行まで
ブタインフルエンザの再来
ブタインフルエンザの物議
サーベイランスの役割
8.2 出現
人獣共通感染症
シンノンブレとハンターンウイルス
エボラウイルスとマールブルグウイルス
ヒト免疫不全ウイルス
人獣共通感染症の重篤度
医療における人獣共通感染症
地理的接触
変異
組換え
遺伝子操作
ウイルスの同定
ウイルスの再興
意図的な撒布行為
偶発的な放出
新興ウイルスになる要因
8.3 蔓延
感染の様式
節足動物による伝播
森林サイクルと都市サイクル
アルボウイルスの感染制御
8.4 根絶
第9章 ウイルス、ベクターとゲノム学
9.1 遺伝子操作
クローニング
発現
翻訳後プロセシング
真核生物で遺伝子発現させるためのウイルスを用いたシステム
ウイルスベクター
9.2 シークエンシング
メタゲノミクス
ウイルスゲノム配列解析
意味のある配列?それともゴミ?
9.3 合成と増幅
9.4 個別化医療
第10章 培養、検出、診断
10.1 電子顕微鏡
診断のための電子顕微鏡使用
10.2 細胞診
10.3 ウイルス培養
封じ込め
ウイルスの増殖と計数
診断のためのウイルス培養
10.4 血清学的、免疫学的アッセイ
10.5 核酸の検出と増幅
ハイブリダイゼーション
核酸の増幅
ポリメラーゼ連鎖反応
増幅を基にした他の検出系
増幅した核酸の検出
増幅を基にした核酸検出系の問題
マイクロアレイ
ハイスループットシークエンシング
10.6 診断ウイルス学における将来的発展
付録I ウイルス複製の戦略
付録II 現在の抗ウイルス薬
用語解説
索引
監訳者序文
本書はウイルス学の体系に生命科学研究の緯糸を,領域を超えて絶妙に配置した,素晴らしい特色ある教材である.生命の深い理解・経験からウイルスと宿主応答を学ぶことは若い学究の徒には大きい人生の収穫となると信じる.
我々はヒトの進化がウイルス変異の産物かどうかを証明する術を持たない.だが,ゲノムプロジェクトはヒトのゲノムの40%がウイルスやトランスポゾンを含む微生物に由来することを雄弁に物語っている.このことは,生命応答の原理を知って抗ウイルス薬,遺伝子治療,ワクチンなどウイルスを使いこなすことの重要性を暗示している.ウイルスだけの理解,宿主だけの理解は危うい.今後の感染予防やがんの予防,抗ウイルス薬の適用へも原理から理解することが必須の課題となる.
本書は多数の事例を以て長い研究の歴史から教育と研究の本来の姿を示している.ウイルスとは何か,ウイルスの構造や形態,分類,進化,複製,宿主の免疫応答をわかりやすく解説し,続いてワクチン,抗ウイルス薬の開発から適用についてその原理・メカニズムから最新の知見も含めた広い視点で解説している.さらに,ウイルスの有効利用の章では,遺伝子治療やファージ療法など医療への応用についても言及している.本書巻末には主要なウイルス科ごとの複製戦略の概要をわかりやすいイラストでまとめたもの,抗ウイルス薬の一覧表,本書内のテクニカルタームの用語解説と,3つの付録を収載している.各章では本文とは分けて,トピックスやコラム的内容を「BOX」として掲載して解説し,読者の興味を引きつけている.章末にはその章の「Key Concepts」と「理解を深めるための設問」が設置されており,読者の理解を助ける工夫がされている.本書を活用することで,上記の課題を達成できるものと信じている.
本書は教科書以上の大切な含みを教えてくれる.各ウイルスの包括的な各論に関する詳細な解説は他書に譲るが,講義の参考書などに広く使っていただくことを監訳者として祈っている.
2015年1月
下遠野邦忠,瀬谷司