椎体形成術
現在とこれから
編集 | : 徳橋泰明 |
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ISBN | : 978-4-524-26836-8 |
発行年月 | : 2012年10月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 206 |
在庫
定価7,370円(本体6,700円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
骨粗鬆症性椎体骨折の治療法の一つとして定着しつつある椎体形成術の全体像を歴史的経緯、バイオメカニクス、適応、治療成績等の重要項目について概説。さらに日本で行われている術式と使用材料を網羅し、手術書としてもすぐに臨床現場で活用できる実践的内容。椎体形成術治療の第一人者の解釈とメッセージが楽しめる一冊。
T.総論
1.椎体形成術の歴史的経緯と問題点
2.椎体形成術の適応?どのような病態が本法の適応になるのか
A.整形外科医の立場から
B.放射線科医の立場から
C.脳神経外科医の立場から
3.椎体形成術のEBM
4.椎体形成術のバイオメカニクス
5.椎体形成術の限界?各種椎体形成術の経験から
6.椎体形成術の安全性と合併症
7.椎体形成術後の新規骨折とその予防
8.椎体形成術の術後評価
U.各論
1.リン酸カルシウムセメントを用いた椎体形成術
2.骨セメントによる経皮的椎体形成術(先進医療)
3.バルーン椎体形成術(balloon kyphoplasty)
4.HA block(R)を用いた椎体形成術
5.内視鏡とバルーンを用いた椎体形成術
6.内視鏡を併用したリン酸カルシウムセメントによる椎体形成術
7.新鮮骨折に対するHA block(R)を用いた椎体形成術
8.ハイブリッド椎体形成術
9.インストゥルメンテーションを併用した椎体形成術
メモ
・脊椎椎体腫瘍性病変に対するPVP
・パーキンソン病患者の背部痛に対する手術療法
・PMMAを用いたPVPやBKPでのちょっとした工夫
・椎体変形矯正の要否について
・椎体偽関節部掻爬・ラスピングの重要性
・フラッシングにおける留意点
・CPC骨ペーストの作製
・CPC充填時のコツ
・VASが4点以上の症例を適応とした理由
・椎体偽関節の画像診断
・新鮮椎体骨折を適応外とした理由
・ダイナミック造影MRI
・X線透視装置は2台が理想
・皮切は左右、どちらから??
・骨折部の部位誤認
・手術成功へのコツ
・充填?時のイメージ
・開創器の工夫
・使用するバルーンについて
・椎体からの出血に関する対処法
・椎弓根からのCPC漏出に対する予防策
索引
椎体形成術は、フランスで腫瘍による病的骨折に対する疼痛緩和の姑息的治療法として始まりました。その後、全世界的に骨粗鬆症性椎体骨折にも適応が急速に拡大されてきました。わが国でも現在は、骨粗鬆症性椎体骨折の治療体系のなかで、保存療法不成功例や成績不良例に対する保存療法と手術療法の中間の治療法として徐々に定着しつつあります。特に高齢化の進む現在、脊椎椎体骨折は大腿骨近位部骨折とともに寝たきりの大きな要因であること、生命予後の大きなリスクファクターであること、最初の骨粗鬆症性骨折は脊椎の椎体骨折が高頻度であることが判明しました。そのため、脊椎椎体骨折の予防は重要です。椎体骨折が発生した場合でも不良経過例にならないこと、続発する骨粗鬆症性骨折の予防がより重要になりました。そのため、保存療法不良経過例に対する椎体形成術の意義はより重要になりました。
しかし、従来保存療法だけで大半が治癒した経緯から「椎体形成術は過剰診療」との批判も少なくありません。また、安全性や経済性の問題からも批判的な意見も少なくありません。これらの批判は、欧米における不幸な歴史的経緯から考えると無理もありません。幸い日本では、ひとつの方法に偏らない材料選択と優れた術式の工夫が積み重ねられてきた歴史があります。
そこで、わが国における椎体形成術の全体像を歴史的経緯、現状と問題点、バイオメカニクス、治療成績、合併症の重要な項目に関する最新の知見についてまとめました。
また、椎体形成術は現在、整形外科医、放射線科医、脳神経外科医などが行っています。その立場により適応、手技も異なることから、それぞれの立場からの椎体形成術の適応と治療戦略上の位置づけについて述べていただきました。
各論として、現在わが国で行われている術式と使用材料を網羅して、それぞれについて適応、手技、後療法、治療成績の解説としました。同時に手技書としてもすぐに臨床現場に対応できる実践的な内容としました。著者には図を多くし、読者の興味を視覚的に引きつけるように工夫していただきました。
また、現在使用されている骨粗鬆症性椎体骨折の用語には多少混乱がみられますので、編集段階で調整させていただきました。
最後に、本書が臨床現場での実践的な手技書として活用され、国民の骨粗鬆症性椎体骨折に対する治療成績向上に寄与できれば幸いです。
2012年9月
コ橋泰明
2011年10月1日のわが国の総人口は約1億2,780万人、65歳以上の高齢者は過去最高の約2,975万人となり、高齢化率は23.3%となった。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、高齢化率は2025年に30.3%、2060年には39.9%に達するとされている。そして、2011年の平均寿命は、東日本の痛ましい大震災によりやや縮みはしたが、女性85.90歳、男性79.44歳である。つまり、大半の人は加齢した身体と仲良くつきあいながら長い年月を過ごしていかなくてはならない。あちこちが痛くて寝たきりとかは、誰もがご免被りたいことであろう。そのため昨今では、厚生労働省の「健康日本21」しかり、日本整形外科学会のロコモティブシンドロームの啓蒙活動しかり、健康寿命が重視されてきている。
健康寿命を支援するのは、われわれ整形外科医にほかならない。支援には予防と治療があるが、臨床に従事する者が多くの時間を割かれるのは治療であり、その対象は変形性関節症であり、骨粗鬆症であろう。骨粗鬆症治療の進歩はめざましい。筆者が医師になった当時はビタミンDの内服とカルシトニン製剤の注射のみが治療であったが、ビスホスホネート製剤から多数の薬が出現し、この25年間で大きく変化したように感じている。進歩は保存的治療だけではなく、観血的治療にも現れている。25年前に、仮に「骨粗鬆症による脊椎圧迫骨折に対して手術的治療を」などといったら、それこそ医長から「素人め!」とたいへんなお目玉を受けていたことであろう。
いろいろ出現してきた骨粗鬆症性脊椎骨折に対する観血的治療で、一番魅力的かつ脆さを感じてしまうのが椎体形成術であろう。ほかの観血的治療のように脊椎外科医だけが行うわけではなく複数の科の医師が行い、また使用する材料や手技が多岐に渡り、そして、一部のレーザー治療がそうであったようにややもすればコマーシャルベースの適応の拡大などの混沌がその理由であろう。その混沌に挑んだのがコ橋泰明先生であり、その結論が本書であろう。筆者は若いときからコ橋先生にいろいろご指導いただいているが、いつも感嘆するのは先生の優れた分析力である。コ橋先生は椎体形成術の現状と問題点を明確に分析され、「現在とこれから」と副題をつけられて、それぞれの立場からの適応、手技、使用材料を各エキスパートの先生に依頼しまとめられた。本書を繙くと、まずコ橋先生の歴史的経緯と問題点から始まり、その中で先生は「現在も、本法の明確な適応、禁忌は確立されていない。本法の不幸な歴史の多くは、この適応の多様性に起因する」と述べられている。「不幸な歴史」という言葉に、筆者が感じた脆さが現れている気がした。そして先生は、適応の違いを理解したうえで、それぞれの適応に沿って本法を正確に評価するために、まずは整形外科医、放射線科医、脳神経外科医の立場からの適応を総論に組み込まれた。いくつかの治療の選択肢をもつ整形外科と放射線科・脳神経外科とでは、適応の意味合いに若干の温度差があるのはいたし方ないだろう。しかしながら、放射線科と脳神経外科の執筆者の先生は腫瘍などの病的変化にも多く言及されており、視点の違いが現れているようで興味深く拝読した。その後、総論はevidence-based medicine(EBM)、バイオメカニクス、限界、安全性と合併症、問題となっている続発する新規骨折、そして評価へと、実に論理的にすすんでいく。総論は、まさに椎体形成学の教科書であろう。しかしながら、本書はここにとどまらず、各論では手術手技書となる。患者の体位のとり方、X線透視の設置、実際の手技、落とし穴などを現在行われているほぼすべての椎体形成術で紹介している。また、メモでいろいろなコツや留意点を紹介してくれており、臨床医にはたまらなくありがたい。
椎体形成術のすべてがわかる教科書+手術手技書が本書であり、現場になくてはならない一冊であろう。すばらしい書籍を編集されたコ橋先生に心からのお祝いと敬意を表したい。
評者●渡辺雅彦
整形外科64巻3号(2013年3月号)より転載