Physical Examinationからみた循環器の病態生理 [Web動画・心音付]
監修 | : 吉田清 |
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著 | : 林田晃寛 |
ISBN | : 978-4-524-26815-3 |
発行年月 | : 2022年3月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 200 |
在庫
定価5,280円(本体4,800円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
循環器Physical Examinationに造詣が深い著者により心臓病診察の極意と優れた患者対応を実践するための病態理解をまとめた究極の心臓病診療本.「基本編」では問診の基本,バイタルサインの診かた,視診・聴診のコツ,心音の実践的聴取法を,「疾患編」では指導医と研修医の会話形式から各種心臓病における患者対応・診断実践・病態生理を解説.Web動画・心音もついていて,読みながら・聞きながら・見ながらphysical examinationと循環器の病態生理が身に付く!
【書籍目次】
基本編
1.症状と問診―physical examinationを行う前に
2.バイタルサイン
3.視診と触診
4.頸静脈
5.頸動脈
6.心拍動
7.聴診
8.心音
9.T音
10.U音
11.V音
12.W音
13.過剰心音
14.心雑音
15.収縮期雑音
16.拡張期雑音
17.連続性雑音
18.心膜摩擦音
19.人工弁関連音
疾患編
1.大動脈弁狭窄症@
―大動脈弁狭窄症の重症度診断を,身体所見でしてみたくない?
2.大動脈弁狭窄症A
―大動脈弁狭窄症のpressure recoveryは心雑音である?!
3.大動脈弁逆流症
―頸動脈拍動と拡張期雑音で一発診断
4.僧帽弁逆流症@
―全部見せちゃいます!
5.僧帽弁逆流症A
―機能性僧帽弁逆流症は気のせいではない!
6.僧帽弁狭窄症
―僧帽弁狭窄メロディーを口ずさんで
7.三尖弁逆流症
―Rivero Carvalloか,逆Rivero Carvalloか.それが問題だ
8.心不全
―心不全の診断って意外と難しくない?
心不全番外編
―心不全における適正心拍数とは?
9.心筋梗塞の機械的合併症
―忘れた頃にやってくる
10.収縮性心膜炎
―収縮性心膜炎と心タンポナーデの似て非なる関係
11.感染性心内膜炎
―心雑音のない感染性心内膜炎もあるよ!
12.心房中隔欠損症
―II音の固定性分裂で心房中隔欠損症を診断すると,超気持ちいい!
13.Fallot四徴症
―Fallot四徴症術後,成人になって気にすることは?
14.失神,意識障害
―失神なのか,意識障害なのか.問診がすべて!
【動画・心音一覧】
基本編
2.バイタルサイン 図4[動画]
4.頸静脈 図2[動画],図8[動画]
5.頸動脈 図2(術前)[動画],図2(術後)[動画]
6.心拍動 図2[動画],図3[心音],図4[心音],図5[動画],図6[動画]
9.T音 図3[心音],図4[心音],図5B[心音],図6[心音],図7B[心音]
10.U音 図1[心音],図2[心音],図3[心音],図4[心音],図6[心音],図7[心音]
11.V音 図2[心音],図4A[心音],図4B[心音],図5[心音],図6[心音]
12.W音 図2[心音],図5[心音],図7(急性期V音)[心音],図7(慢性期W音)[心音],図8[心音]
13.過剰心音 図1[心音],図3A[心音],図4A[心音],図6[心音],図7[心音],図8[心音],図9[心音],図10A[心音],図11[心音]
15.収縮期雑音 図2[心音],図3[心音],図4A[心音],図5[心音],図7[心音],図8[心音],図9[心音]
16.拡張期雑音 図1[心音],図3[心音],図4[心音],図5[心音],図6[心音],図7A[心音],図8[心音]
17.連続性雑音 図2B[心音],図3[心音],図4A[心音],図5[心音]
18.心膜摩擦音 図1A[心音],図2(洞調律時)[心音],図2(心房細動時)[心音],図3[心音],図4[心音],図5A[心音]
19.人工弁関連音 図1[心音],図2[心音],図3[心音],図4A[心音]
疾患編
1.大動脈弁狭窄症@ 図1A[心音],図2(軽症)[心音],図2(中等症)[心音],図2(重症)[心音],図4[心音]
3.大動脈弁逆流症 図1[動画],図2[心音]
4.僧帽弁逆流症@ 図2A@[心音],図2AA[心音],図3A[心音],図4A[心音],図5A[心音],図6A[心音],図7A[心音]
6.僧帽弁狭窄症 図4B[心音]
7.三尖弁逆流症 図2(心不全の悪化時)[心音],図2(心不全の改善時)[心音]
8.心不全 コラム[心音]
9.心筋梗塞の機械的合併症 図5[心音],図8[心音]
10.収縮性心膜炎 図2[動画],図3[動画],図4[心音]
12.心房中隔欠損症 図3[心音],図4[動画],図5[動画]
13.Fallot四徴症 図1[心音]
自分はずっと臨床医として仕事をしてきた。ある程度の時間をかければ習得できるだろうと考え修練してきた。しかし、まだ道半ばである。道半ばである小生がなぜこのような書物を記そうと思ったのか。その理由は二つある。一つ目は依頼されたからである。初めてこの原稿を依頼されたのはかれこれ10 年以上前である。吉田清先生に依頼があった仕事が自分に回ってきた。身体所見の書物を書くという大作業はとても手に負えないと考えたが、共著にすると巷に溢れる書の一つとなり埋没するだろうと思った。なので単著でやってみようと思ったが、あまりに忙しくうやむやにしてしまっていた。しかし、編集部の大野さんは学会などでお会いする度に、進行はどうですか? と聞いてくる。それでもうやむやにしていたが、今度は毎月進捗状況を確認するメールが届くようになった。仕方がなく書き始めたら案外面白くなって書いた。しつこい行動はよくない転機になると今までは思っていたが、しつこさも度を超えると持続力になり、物事が実現することを知った。
もう一つの理由は、自分の体力の限界を感じることが多くなり、終活の一環として自分のやってきたことをまとめようと思ったのである。そのため、身体所見だけではなく、自分の興味がある血行動態に関しても多数記載している。
本書は、エビデンスよりもエクスペリエンスを重視している独りよがりの書となっており、多くの個人的バイアスを含んでいる。盲信は困るが、個人的な経験であることは間違いがないので、読者それぞれの経験に照らし合わせながら読んでいただければ幸いである。
小生を常に応援し、支援してくれている家族と仕事仲間、患者さんに感謝して。
2022 年3 月
林田晃寛
本書は,筆者の盟友,林田晃寛医師(心臓病センター榊原病院)の渾身の著作である.彼とは学生時代からの付き合いであり,九州大学第一内科に入局を決める際も,中洲で当時の医局長とその知人のつのだ☆ひろ(そう,あの「メリー・ジェーン」の)と一緒に酒を飲み,そのときの酔った勢いで一緒に入局を決めた仲である.その後同じ研究室に配属となって再び一緒になったが(昔は卒後入局してすぐに専門を決めずに,2年間研修した後にいずれかの研究室に配属となった),その当時,彼と一緒に身体所見の研鑽を積んだ.脈あり心室性頻拍の患者に対しては,頸静脈のリズムと心電図のリズムが違うことを示しながら,房室解離をベッドサイドで研修医たちに教え,皆が理解できてからゆっくりと電気的除細動をかけた.病棟で不安定狭心症の患者を見つけては,胸が痛いという患者に対してnitroglycerin(NTG)を投与せず,(カテ室にも運ばずに)そのまま心音図室に運び,W音と心尖拍動の内方偏位を確認してからNTGを舌下させた.Wolff-Parkinson-White(WPW)症候群について,U音の分裂パターンからA型かB型かを議論していた.循環器医としての初期段階において,病態について自由に考え,とことん議論する豊潤な時間をもてたことは,今でもわれわれ二人の宝となっている.その後,私は米国のEmory大学に留学し,彼は川崎医科大学に行って離れ離れとなったが,ときどき学会などで一緒に仕事をすることがあると,幼なじみと道端で遭遇したような気分になる.
さて,前置きが長くなってしまったが,今回彼が初の単著となる『Physical Examinationからみた循環器の病態生理』を執筆した.本書を読むと,一つひとつの症例を丁寧に診察・記録し,考察を重ねている彼の日常の臨床活動がよくわかる.疾患に関する師弟漫才のようなやりとりからも,「だいたいああいった感じで彼のまわりでは議論が行われているのだろうな」ということがよくわかる.冗談のようなやりとりのなかに意外にも本質をつく一言が隠されており,大上段に構えて冗談の一つも出てこない偉い先生の講演を聞くよりはるかに役に立つ.引用文献が少ないのは,独りよがりというより単に文献を探すのが面倒だったのだろう.2003年から故吉川純一先生,室生卓先生,福田信夫先生らと一緒に始めた「循環器Physical Examination講習会」で繰り返し議論・講義してきた内容が多く含まれており,先人たちが築き上げた多くのexperienceのうえに彼の記述が繰り広げられているのがよくわかる.
physical examinationが危機に瀕しているといわれて久しい.心音図や心尖拍動図などをそもそもみたことがない医師が増えている.大動脈弁狭窄症の患者を担当することになれば,transcatheter aortic valve implantation(TAVI)が可能かどうかを検討することや,心エコーで低流量大動脈弁狭窄症(low- flow AS)の鑑別をすることに忙しく,まともに聴診器すら当てたことのない医師が増えている.治療をすることも大事だが,難しい顔をしながら聴診器を全身の至るところに当ててほしい.Levine分類で第4度の収縮期雑音と一緒にUaを聴取し,二尖弁を疑いつつ3D経食道心エコーをしたところ,Sievers分類でT型の二尖弁でcoaptationが比較的保たれた高度ASを認めたとき,Uaがどこで発生しているのか視覚的にわかるはずである.同時に二尖大動脈弁が開く様子を見つめながら駆出音までも“見てとれたら”素晴らしい.聴覚と視覚を突合し,生理学と合わせて考えることで病態の理解が深化する.そんなことして何になるんですかって? まあ,やってごらんなさい.われわれが楽しそうに心臓のことを語るその気持ちがわかるから.そしてなぜphysical examinationが循環器病学の基礎として最重要なのかがわかるから.
臨床雑誌内科130巻6号(2022年12月号)より転載
評者●福岡和白病院内科・循環器内科 統括部長 有田武史