産学連携ナビゲーション医学研究者・企業のための特許出願Q&A
監修 | : 澤芳樹 |
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著 | : 中島清一 |
ISBN | : 978-4-524-26792-7 |
発行年月 | : 2014年4月 |
判型 | : A5 |
ページ数 | : 178 |
在庫
定価3,300円(本体3,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
手術機器のアイデアや基礎研究の成果など、医学・工学領域の知的財産をどのように創出・確保し、活かしていくかをQ&A形式でやさしく解説。発明者の権利保護、研究者間の守秘義務契約、大学への知財承継、出願に必要なコストなど、特許出願の流れに沿って、発明者(研究者など個人)、出願者(大学・施設)、実施者(ライセンス契約により事業化する企業)のそれぞれが知っておくべき権利と義務、連携のポイントを詳解。大阪商工会議所推薦。
第I章 アイデアを温めよう(知財とは何かを知ろう)
Q1.特許とは何ですか?
Q2.特許を取ったらどんな良いことがありますか?
Q3.特許でどのくらい収入を得ることができますか?
Q4.特許化までにはどのくらいの時間、手間、費用がかかるものなのでしょうか?
Q5.特許はどのくらいの期間有効ですか?有効でなくなった特許はどうなるのですか?
Q6.特許は誰のものですか?
Q7.複数の発明者、複数の出願人がいる場合、特許はどのように扱われますか?
Q8.病院で手術中に思いついたアイデアは自分のもの?
Q9.休憩中(就労時間外)に思いついたアイデアなら、100%自分のものでしょうか?
Q10.自宅で入浴中にふと思いついたアイデアは自分のもの?
Q11.機器の改良を思いついたのですが、特許は取れますか?
Q12.すごく新しいと思われる機器を思いついたのですが、特許化できるでしょうか?
Q13.既存の機器を用いた全く新しい手術法を思いついたのですが、特許は取れますか?
Q14.全く新しい機器を用いた全く新しい手術法を思いついたのですが、特許は取れますか?
Q15.疾患Aの治療薬が疾患Bにも有効であることを見出しました.特許を取れますか?
Q16.遺伝子Cの未知の機能を特定し、その機能を阻害すれば疾患Dを治療できることを見出しました.特許になりますか?
Q17.医薬として使用されていない既知の化合物Eの疾患Fに対する有効性を示唆するデータを得ました.特許を取れますか?
Q18.初めて合成に成功した化合物Gの疾患Hに対する有効性を示唆するデータを得ました.特許を取れますか?
Q19.あるヒト蛋白質に対する抗体を取得しましたが、特許を取れますか?
Q20.ある疾患の診断法を思いつきましたが、特許を取れますか?
Q21.試作機もまだないけれど、思いつきと理論だけで医療機器の特許は取れるでしょうか?
Q22.アイデアがどのくらい具体的だと特許の出願に有利なのでしょうか?
第II章 まわりの協力を得よう、でもその前に...
Q23.アイデアは自分ひとりの秘密にしておくべきですか?
Q24.共同研究者や同僚には相談してもよいですか?
Q25.上司には報告しておいたほうがよいでしょうか?
Q26.普段からつきあいのある企業に、「機器開発の要望」としてアイデアを伝えてもよいですか?
Q27.グループでディスカッション中に、ついアイデアが口に出てしまったのですが...
Q28.企業担当者からの質問に対する自分の答のなかに知財が含まれていた、と後から気づいたのですが...
Q29.アイデア(理論)だけでも学会で発表したいのですが...
Q30.特許出願前に、学生が卒論発表会で内容を公表してしまいました.問題はあるのでしょうか?
Q31.アイデア(理論)を論文で発表したら「著作権」で保護されるのでしょうか?
Q32.先輩に「国内で発表しただけならアメリカで特許が取れる」と言われたのですが、本当でしょうか?
Q33.論文が完成したので投稿したいのですが、出願がまだです.どのタイミングで出願したらよいでしょうか?
Q34.国内出願を済ませたので、追加実験で得られたデータを発表してもよいでしょうか?
第III章 専門家と相談しよう
Q35.大学の知財部ってどんなことをしてくれるのでしょうか?
Q36.最初に知財部に相談する前に何を準備したらよいですか?
Q37.知財部の方がヒアリングに来ます.どうプレゼンしたらよいですか?
Q38.大学から「承継する」との連絡がありました.これはどういうことですか?
Q39.自分の施設には知財部がありません.どうすればよいでしょうか?
Q40.「産学官連携」とはどういうことですか?弊社のような小さな企業にとってどんなメリットがあるのでしょうか?
Q41.企業から派遣されている大学研究室で、派遣元企業が欲しがりそうな技術を創出しました.どう出願したらよいですか?
第IV章 アイデアを「かたち」にしていこう(研究開発)
Q42.新たなプロジェクトを始めるにあたり、他大学の親しい研究者から口頭で協力の約束を得ました.十分でしょうか?
Q43.アイデアをかたちにしてくれそうな企業を探したいのですが、どうすればよいでしょうか?
Q44.自社の優れた技術を活用してくれそうな研究者をどうやって探せばよいでしょうか?
Q45.企業にアイデアを説明する「前に」準備しておくべきことはありますか?
Q46.企業と共同で研究開発を進める際には、どのような取り決めが必要ですか?
Q47.大学と共同研究をしたいのですが、事前に契約が必要と伺いました.どのようなことを契約するのですか?
Q48.実際の研究開発には研究費が必要ですが、企業に請求できるでしょうか?
Q49.それほど大きなプロジェクトではないのですが、外部資金は受けられますか?
第V章 いよいよ特許を出願しよう(国内)
Q50.研究がようやくかたちになってきました.どのタイミングで特許を出願すればよいですか?
Q51.出願にあたり自分でやらないといけないのはどこまでですか?
Q52.特許出願に向けて、担当弁理士とミーティングを行うのですが、どのような点について話をすればよいのでしょうか?
Q53.新たな技術成果について、担当弁理士に説明するのですが、すべてを見せても大丈夫なのでしょうか?
Q54.共同研究先の他大学の先生と共同成果が産まれました.特許出願にあたって何らかの契約が必要でしょうか?
Q55.大学との共同出願にあたり、費用負担はどのような観点からどのように取り決めていけばよいのでしょうか?
Q56.先生と一緒にアイデアを出しました.先生は特許は要らないと言います.弊社が単独で出願してもよいでしょうか?
Q57.弁理士や特許事務所はどのように選んだらよいでしょうか?
Q58.弁理士とのやり取りはどのように進めたらよいですか?
Q59.「請求項」とは何ですか?書いてある日本語が変だと思うのですが...
Q60.いちど出願してしまうと出願内容は変更できないのですか?
Q61.特許事務所から大量の書類が送られてきます.保管に際して特に注意しておくべきことはありますか?
第VI章 審査請求とは(特許出願完了から権利化まで)
Q62.「審査請求」とは何ですか?いつ行うのがよいですか?
Q63.特許出願は必ず審査請求する必要があるのでしょうか?
Q64.審査請求したら、拒絶理由通知書が送付されてきたのですが、どうすればよいのでしょうか?
Q65.国内出願を済ませた後、注意しておく点はあるでしょうか?「国内優先権主張」という言葉を聞いたのですが...
Q66.特許権の取得に向けてどういうことに注意したらよいですか?
第VII章 権利化後の実施
Q67.大学と共同で権利化した発明を使って、いよいよビジネスを始めたいと思います.注意すべき点はありますか?
Q68.大学と共同で成果を挙げたので、自社とつきあいの深い企業が事業化をオファーしてきました.OKしてもよいですか?
Q69.特許の権利は売買できるのでしょうか?
第VIII章 国内出願から外国出願へ
Q70.国際出願とは何ですか?どんなよいことがありますか?
Q71.各国移行する先(指定国)を決めるときに注意するポイントは何ですか?
Q72.パリルートによる出願とは何ですか?PCT 出願とはどう違うのですか?
Q73.外国出願にはどのくらいの費用がかかりますか?
Q74.外国出願のために公的な支援を得る方法はありますか?
Q75.外国出願した発明はどのように権利化されるのですか?
索引
産学連携による研究開発は辛いけれど楽しい。なんと言っても「連携」する以上、相手がいる。つまり、「仲間」が大勢いるのである。
コツコツ取り組む基礎研究がどうにも苦手だった私は、さまざまな機器を駆使する「内視鏡手術」を専門にしているのを幸いに、自身の研究テーマとして「医療機器開発」に取り組み、これまで多くの「仲間」と活動を共にしてきた。頭の中の単なる「アイデア」が企業の開発陣によってプロトタイプとしての「カタチ」を与えられ、それが次第に洗練されていく過程は、驚きと発見に満ちている。研究資金を手にしたり、学会で発表したり、論文報告したり、忙しくなってくる。苦労の甲斐あって製品となる。少しずつ売れてくる。医師仲間から「あれ使ったよ、なかなか良いね」と耳打ちされるのは愉快なものだ。何より、自身が開発に携わった機器が患者さんに使われ、良い結果を産み出したときの喜び、達成感は格別である。一つカタチになると、次のアイデアも湧き出てくる。さらに大型の研究資金を獲得して、より多くの「仲間」と開発に挑もう。今度の製品はそろそろ海外展開を考えようか。
でも、実はこれらすべての過程に、知的財産(知財)が付いてまわるのであった。恥を忍んで申し上げる。私は、連携先の企業関係者に特許のことを聞かれたら、「特許のことはよくわからないから、お任せするよ」と格好良く言おうと思っていた。どうやら「論文さえ書いておけばなんとかなる」と思っていたフシもある。知財は、ややこしい。「触らぬ知財に祟りなし」と開き直っていたのだ。今思えば、まさに汗顔の至り、である。
幸いなことに、そんな私に、大学の産学連携、知財部スタッフが伴走してくれた。信頼できる特許事務所の弁理士さんも、私を致命的な失敗から何度も救ってくれた。連携先企業の知財担当者から、思いがけず温かいアドバイスをもらったこともある。そのような「仲間」に支えられて、私は企業との連携の輪を少しずつ拡げ、少なからぬ知財を創り出し、いくつかの製品を世に送り出してきたのである。気が付くと、手元には知財や産学連携に関する多くのメモ書きが残されていた。
本書は、世間知らずの一外科医が、無謀にも知財について何ら予備知識を持つことなく産学連携という「荒事」に挑むなか、知財について悩み、尋ね、そして知り得たことを、自分なりにまとめたものである。執筆にあたっては可能なかぎり平易な表現を心がけるとともに、イラストや図表、コラムを多用して読者の理解を助けるよう努めた。手元に残されたメモ書きを参考に、医師だけではなく企業関係者からのクエスチョンも多く取り上げ、双方の利用に耐える内容となるよう配慮したつもりである。本書は知財の専門書ではなく、アイデアをカタチにし、特許にする過程を概説したマニュアルである。いや、産学連携の各場面における私の思い入れが綴られた、一種の「産学連携マニュアル」と言えるのかもしれない。
それぞれのクエスチョンにはドクターとエンジニアのアイコンを配し、どちらの目線に基づくものか視覚的にわかるよう工夫したが、医師はエンジニア・アイコンの付いた項目にも、そして企業関係者はドクター・アイコンのついた項目にもぜひ目を通していただきたい。産学連携の現場では、相手すなわち「仲間」が抱くであろう疑問をきちんと理解しておくことが何より大切だと信じるからである。本書が産学連携活動に携わるすべての医学研究者、企業関係者諸氏の参考になれば、私にとって望外の幸せである。
2014年3月
大阪大学次世代内視鏡治療学特任教授
中島清一
最初に本書の表題をみたとき、ついに外科領域の先生がこのような内容の書籍を書かれたのか、と驚きを覚えた。本年4月に上梓された本書の著者は大阪大学次世代内視鏡治療学特任教授の中島清一先生であり、監修は再生医療で高名な大阪大学心臓血管外科学教授の澤芳樹先生である。なぜ今医療者に特許についての知識が必要なのかについては、監修者・推薦者・著者の序にそれぞれ詳しく書かれているが、国家戦略の一つである医療イノベーションを推進し、国際的競争力を向上させるためにも、今まで等閑に付してきた知的財産に関する正確な知識とその権利化がきわめて重要であるからである。
2013年の第86回日本整形外科学会学術総会の会長講演のために行った調査では、日本の医薬品に関する輸入超過は1兆6千億円、医療機器は6千億円、計2兆円超の膨大な貿易赤字を抱えていた。その後1年でその額は膨らんでいるかもしれない。ほんの少し前までは、医療者がパテントやお金のことを口にすることはある意味タブーであったが、特許に興味をもたず医学書や論文だけ書いていればよいという時代がこれまでずっと続いていたがゆえに、日本人が取得すべき特許が失われ、このことが現在の医療関連の貿易赤字を招いた一因であろうとも推察される。内視鏡外科医としての経験に基づき「医療機器開発」に取り組む本書の著者は、大学の産学連携、知財部や産学連携コンソーシアムを形成する企業とのやり取りの中で明らかになった疑問、またその解決法を本書の中でQ &Aのかたちでまとめておられ、本書一冊で特許出願にいたる道程がおおよそ理解できると思われる。
個人的にも特許取得に関しては、苦い経験をした。小さな工夫により過去10年毎年国際的セールスは50億円を超えているが、行き違いで特許を取得できなかったことがある。また、その後別の特許を取得する際、手術方法の特許権利化が米国では認められていることを知った。本書で新たに得た知識であるが、オーストラリアも同様のようであり、一方でカナダ、ヨーロッパ、韓国では手術法・治療法の特許は認められていない。
さて本書は、8つの章からなっている。「第I章アイデアを温めよう(知財とは何かを知ろう)」では、特許とは何か、というところからアイデアを特許に結びつけるまでの疑問点に関して言及している。「第II章まわりの協力を得よう、でもその前に」では、アイデアをいかに実現化するかという視点から共同研究者、あるいは企業とのかかわり方、学会での発表とパテントとの関係に関して記載している。「第III章専門家と相談しよう」では、大学の知財、あるいは大学に関係する企業の専門家との連携について述べている。「第IV章アイデアを『かたち』にしていこう(研究開発)」では、研究開発をいかにしてすすめていくのか、また、研究費、外部資金についてのQ &Aも記載されている。「第V章いよいよ特許を出願しよう(国内)」では、実際にどのようなかたちで大学と共同出願するのか、弁理士・特許事務所をいかに選び、すすめていくのかが述べられている。「第VI章審査請求とは(特許出願完了から権利化まで)」は、審査請求の具体的な方法、拒絶されたときの対応方法、特許権の取得における注意点などである。「第VII章権利化後の実施」は、ビジネスに結びつけるQ &Aである。「第VIII章国内出願から外国出願へ」は、どのように外国出願し、権利化されるのかについてのQ &Aである。いずれの章も誰もが感じる疑問を取り上げ、答えはイラストを用いながら簡潔にわかりやすく述べられている。
本書の最終目標は外国出願した発明が権利化され、(1)その権利化によって日本に特許料として直接、あるいは製品化を通して海外企業収益の一部が日本に還元される、(2)日本の企業が新たな医療機械や薬剤の市場を世界に展開し、膨大な貿易赤字を解消することにあるのかもしれない。しかしその前に、本書は特許にあまり関心のない外科医に向けての啓発書としての役割が大きく、特許なんてどうでもよいと考えている整形外科医に、ふと立ち止まらせる力のある一冊であると考える。
臨床雑誌整形外科65巻11号(2014年10月号)より転載
評者●広島大学大学院整形外科教授 越智光夫
以前の日本の医療の多くは、欧米からの技術導入に頼ったものであった。しかし、器用な日本人は日本の実情に合うように機器の改良を進めたり、さらに使いやすい医療機器の開発を進めてきた。しかし日本においては、機器開発や知財確保に関する教育はほとんど行われておらず、これまではほとんど企業の言いなりになるしかなく、アイディアが吸い上げられるのみであることが多かった。最近になって、国家戦略としてトランスレーショナルリサーチを後押しし、現場のアイディアや研究成果を実臨床に還元するとともに医療産業として展開しようという機運が高まってきたが、現場の医師たちは相変わらず基礎知識がなく、どうすれば特許を取れるかもわかっていないのが実情であろう。また特許を申請する際に、最低限守らなければならないルールもある。たとえば、よいアイディアを思いつき、手作りした機器を使用して非常にうまくいったため学会発表をし、製品の開発を企業に呼びかけたとしよう。しかし、残念ながら現状では発表後は公知の事実とみなされてしまうため、特許は取得できない。特許が取れなければ、せっかく製品を開発しても独占権が保たれないため、企業も投資に尻込みしてしまうであろう。このように、特許の申請や取得には、経験者や業務関係者しか知らない意外な落とし穴がたくさんあるのである。
では、自分のアイディアをどう扱ったらよいのか? どのようなものが特許に値するのか? 学会発表や論文化のタイミングはどうすればよいのか? 具体的に特許を申請するためにはどのようにしたらよいのか? ……本書は、このような現場の医師や技術者が抱いている素朴な疑問に、わかりやすく具体的に答えてくれる。また随所に挿入されているコラムにも、特許制度をよりよく理解し、失敗しないための基礎知識が多数盛り込まれている。一般的に取り付きにくく堅苦しいはずの内容を、平易に、なおかつ簡潔に説明してくれているのが本書の特徴である。また、自分の疑問や興味に応じてどこから読んでもよく、短時間でも拾い読みできる構成となっている。
しかし、医療機器開発を目指す者であれば、具体的な研究や開発を行う前にまず本書を通読して基礎知識を身に付けることをお勧めしたい。おそらくこれまで抱いてきた素朴な疑問が解消されるとともに、ちょっとした基礎知識により特許に無頓着な医療従事者が陥りやすい過ちを回避できるものと思われる。今後ますますトランスレーショナルリサーチに重きが置かれる時代になっていくであろうが、同時に特許取得の重要性も高まってくるため、先端医療や機器開発に携わる研究者にとっては必読の書といえよう。ぜひ、本書を有効活用して皆さんのアイディアを特許化し、匠の技をもつ日本企業と協力して世界に通用する新たな治療法や医療機器開発を目指していただきたい。
臨床雑誌内科115巻4号(2015年4月号)より転載
評者●慶應義塾大学医学部腫瘍センター教授/低侵襲療法研究開発部門長 矢作直久