これでわかる腎性貧血の診かたと治療改訂第2版
CKD実践医療のための手びき
著 | : 栗山哲 |
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ISBN | : 978-4-524-26773-6 |
発行年月 | : 2013年4月 |
判型 | : A5 |
ページ数 | : 174 |
在庫
定価3,080円(本体2,800円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
一般内科医向けに腎性貧血をわかりやすく実践的に解説した好評書。腎性貧血の専門家である著者が、その疫学・診断・治療の実際をわかりやすく解説。ESA製剤や鉄剤の使用法については、実践的なクリニカルパスおよび症例による処方例を提示。今版では、新規ESA製剤や後発品の使い分け、切り替えのタイミングなど新薬情報をアップデートしさらに実践的になった。
●腎性貧血に用いられる主な薬剤一覧
I:ガイドラインの位置づけ:日常診療にどう生かすか?
A ガイドラインが登場した背景
B ガイドライン作成の方法
C 医学的エビデンスの種類と質
D ガイドラインを有効に活用するコツ
E ガイドラインの法的側面
II:腎性貧血の診断と鑑別法
A 貧血の診断と定義
B 貧血の3つの病型と鑑別診断
C 貧血の臨床症状
D 腎性貧血はどう治療するか?
III:腎性貧血の発生頻度
A 保存期CKDの貧血の頻度
B 保存期CKDの貧血管理の現況
C 透析療法下の貧血の頻度と管理状況
D 透析療法下の貧血管理の現況の推移
IV:腎性貧血はなぜ起こる?なぜ悪い?
A 腎性貧血の原因は?
B 貧血は心不全を悪化させる
C 貧血はCKDの進展を助長する
D CRA症候群とは何か?
E 腎性貧血改善のもたらすQOL改善のメリット
F 糖尿病合併のCKDと腎性貧血の特殊性
V:ESA開始基準、目標Hb値と中止基準
A 欧米と日本のガイドライン:いくつ、どんなものがある?
B ESA開始基準
C 目標Hb値、減量・中止基準
D JSDTガイドライン2008でHDとPD・保存期CKDで目標値が同一でない理由は?
E CKD診療ガイド2012やKDIGOガイドライン2012で推奨値が低くなった理由は?
VI:ESAの選択と使い方
A どのESAを使用するか、選択の目安
B 目標Hb値達成を目指すESA投与法:投与量、投与経路
C 達成Hb値はESA投与量に依存性?
D rHuEPO投与のクリニカルパス
E rHuEPOからDA、C.E.R.A.に切り替える際の目安クリニカルパス
F Hb値の適切な上昇速度は?
G Hb変動とは何か?
VII:鉄剤の使い方、鉄充足、中止基準
A 鉄剤の投与基準、鉄充足、中止基準
B 鉄剤投与の必要性
C 体内での鉄不足量の計算と補充量
D 鉄剤投与の実際
E 鉄剤の弊害への警鐘
F “鉄の囲い込み”とは何か?
VIII:ESA低反応性(抵抗性)の病態
A ESA低反応性の定義は何ですか?
B 世界と日本の保存期CKDの貧血管理状況を比較する
IX:ESAの合併症にはどのようなものがある?
A 血圧上昇の頻度
B 血圧上昇の予防には?
C 血栓のリスクはどの程度か?
D 赤芽球癆について
X:輸血が必要になるときは?
A 輸血の適応について
B 輸血を行う際の注意
XI:大規模臨床試験のガイドラインへの影響に関して
A 腎臓病領域は臨床研究が極めて少ない
B HD患者での観察研究
C HD患者での前向き大規模研究
D 保存期CKD患者での前向き大規模研究と問題点
E 腎性貧血ガイドラインの最近の動向
XII:小児科領域と腎移植後の貧血治療について
A 小児科領域での目標Hb値など
B 腎移植後の貧血に関して
XIII:症例から学ぶ処方例
XIV:Q&A
索引
慢性腎臓病(CKD)には様々な合併症がみられます。そのなかでも特に高血圧や貧血は高頻度にみられる病態です。著者は、東京慈恵会医科大学を卒後第二内科(現在の腎臓・高血圧内科)に入局、高血圧・腎臓病学を専門領域とし、多くのCKD患者さんの診療に従事し、腎性貧血を診療する機会も多々ありました。
さて、1990年に遺伝子工学の叡智を集めたESAの使用が可能になり、以後急激に普及しました。著者の腎性貧血研究の始まりは、大手企業に勤めている控え目で頭のよさそうな30歳代のIgA腎症の患者さんとの出会いでした。その患者さんがある日、「先生、あの薬(rHuEPO)を使い始めてからクレアチニン値が上がらなくなった」と治療数ヵ月での印象を語り始めました。その言葉に慧眼が働き、「ESAによる貧血改善は腎機能低下を抑制する作用があるのでは」との仮説を立てそれを証明すべくrHuEPO治療群と非治療群を比較する臨床研究を組みました。その研究結果は、@腎性貧血自体がCKD進展のリスクであること、ArHuEPO治療は腎機能低下速度を遅延化させること、を明らかにしました。その後、著者らは多施設研究グループにおいて、心臓におけるrHuEPOによる左室肥大退縮効果も明らかにしました。そして、結果的にこれらの研究成果は多くの研究者に支持されました。
ESAの心・腎保護効果が確認されたのち、2000年代半ばからはESA治療の死亡率や心血管イベントなどのハードエンドポイントに対する効果や目標Hb値が話題の中心になりました。そして、その目的のためCREATE、CHOIR、TREATなどの前向き大規模研究がデザインされ遂行されました。これらの研究においては、保存期CKD患者さんをHb値正常化(13g/dL程度)を目指す正常Hb群と11g/dL程度を目指す低Hb群の2群に割り付け比較検討されました。その結果、正常群でイベントの改善が認められなかったことから、貧血の完全正常化までは必要性がないことが示唆されました。その後、米国では膨大化するESA費用抑制の観点などからも、高Hb値を目標にすることへの否定論が白熱しました。一方、CHOIRやTREATのad-hoc解析(後解析)などからはESA低反応性が問題の中心であることも判明し、必ずしも高Hb値が悪いのではないとの見解が是認されました。もちろん、現時点でも適正な開始基準や目標Hbの推奨値は未解決の課題として残されていますが、暫定的にはHb値11〜12g/dL程度の改善目標値が推奨されています。
日本における腎性貧血の治療指針としては、日本透析医学会(JSDT)から2004年にHD患者を対象にしたガイドラインが示され、2008年には保存期CKD、PD、小児にも対象を拡大してJSDTガイドライン2008(「2008年版慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン」)として改訂されました。著者は、この2008年の改訂版の策定作業に参加させていただき、改めて腎性貧血の治療を系統的に考える機会に恵まれました。その後2009年と2012年には、日本腎臓学会から「CKD診療ガイドライン」、一般医(かかりつけ医)をターゲットにした「CKD診療ガイド」が上梓されました。これらは、簡易化された手びき書で、広く実地医家に向けたCKD対策のメッセージです。従来、腎性貧血の診療は腎臓専門医や透析専門医が担当していました。しかし、最近ではCKDの原因疾患として、高血圧症、メタボリックシンドローム、糖尿病など、いわゆる「生活習慣病」あるいは「ありふれた病気(common disease)」が急増してきました。その結果、専門医だけではなくかかりつけ医(一般医)もCKD診療にかかわる機会が増えてきました。
本書は、2010年刊行「これでわかる腎性貧血の診かたと治療」の改訂版です。本書の新たな特徴は、初版をベースにして2010年以降の日本の「CKD診療ガイド2012」や海外の「KDIGOガイドライン2012」などを考慮したこと、最近のトピックスである長時間作用型ESAとrHuEPOのバイオ後続品などにも言及したこと、鉄代謝の新知見を紹介したこと、などです。これらによって全体的に最新のCKD実践医療に即した使いやすい医学書として改訂しました。
本書を一冊お手元に置き、皆様の腎性貧血の診療や患者さんのケアにお役立ていただければ幸甚です。
2013年早春
栗山 哲