転倒予防のための運動機能向上トレーニングマニュアル
編集 | : 植松光俊/下野俊哉 |
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ISBN | : 978-4-524-26772-9 |
発行年月 | : 2013年5月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 122 |
在庫
定価2,530円(本体2,300円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
転倒予防のための基礎的知識から、リスクレベルに応じた実際の各運動プログラムの実践方法や注意点を豊富なイラストで解説。また、老研式活動能力指数や介護予防二次アセスメント票など、転倒予防に有効な運動効果判定チャートの実際の記入例も紹介。セルフトレーニングの指南書として、また転倒予防教室のテキストとしても有用。
第1章 転倒を防ぐための基礎知識
A.歩行の運動学
1 身体部位の名称と動き
2 歩行の周期と各相
3 歩行時に働く筋肉
B.老化による身体の変化
1 老化と体力要素(廃用症候群)
2 筋肉の老化
3 歩行能力の老化
4 バランス能力(平衡機能)の老化
5 高齢者の転倒と原因
C.トレーニングの基礎知識
1 高齢者の転倒および介護予防のためのトレーニングの重要性と種類
2 トレーニングの原理
3 トレーニングの原則
4 トレーニング効果のメカニズム
D.トレーニング指導のポイント
1 指導者の役割と運動プログラムの構成
2 トレーニング前の注意点
3 ウォーミングアップのポイント
4 トレーニング実施時のポイントと注意点
5 トレーニング実施後(クーリングダウン)のポイントと注意点
6 トレーニングの中止と修正
7 トレーニングを長続きさせるポイント
第2章 転倒を防ぐための評価と運動の実際
A.基本的評価と運動プログラム
1 歩く能力の評価
2 転倒リスク分類と運動処方
3 基本運動メニューの解説
・基本運動プログラムの解説
柔軟性向上
下肢筋力強化
バランス機能向上
敏捷性向上
踏み出し運動
ウォーキング姿勢
B.応用運動プログラム
1 マシン・道具を用いたトレーニング
2 トレーニングマシンを利用した応用運動
3 トレーニングラバーを利用した応用運動
4 トレーニングバルーンを利用した応用運動
5 バランスパッドを利用した応用運動
6 スリングを利用した応用運動
文献リスト
索引
日本人の平均寿命は、男性79.4歳、女性85.9歳となり(出典:厚生労働省「2011年簡易生命表」)、日本が「世界長寿国家」といわれるようになって久しい。長寿国として有名なスウェーデンの寝たきり高齢者の比率4%と比較して、大腿骨頚部骨折(寝たきりになる主原因骨折)の発生率は低いにもかかわらず、寝たきり高齢者の比率は極端に高い値48%(特別養護老人ホーム)を示し、「寝たきり大国」といわれる一面ももっていた(1989年厚生省特別班の国際比較報告書)。そのため、最近では「長生き」というような単に寿命、余命の長さや長寿であることより、その人の人生において健康期間がいかに長く、その生活の質(QOL)をいかに高くして過ごせるかが大切である.そこで今日の日本においては、「健康寿命」「活動的余命」の延長に重きを置いた対策が積極的にとられることが急務である。
この「健康寿命」を妨げる寝たきりの代表的因子である脳卒中・虚弱・骨折のうち、脳卒中が最も多いが、虚弱と骨折を合わせれば脳卒中よりも多いといわれている。この虚弱と骨折は、それぞれが転倒や介護に直接結びつくことが多い。このことから、これら2つの要素、虚弱と骨折に対する未然の防止策である転倒予防や介護予防のための運動機能向上トレー二ングを行うことが、「健康生活」を長く保ち、「健康寿命」を延ばすことになると考えられる。
そこで始まった介護予防トレー二ングだが、その多くは、特定の運動道具や機器、設備環境を必要としていたり、また特定の専門家が一定数の対象者グループの前に立ち、画一的なトレー二ングメニューを実施する方法に依存しているものが多くみうけられる。また個別の歩行能力の把握の難しさ、転倒リスクレベルに応じた運動メニューの提供の難しさ、トレー二ングに対する継続意欲の低下などの課題が顕在化してきている。
こうした課題に対する解決策の提案を図るトレー二ングプログラムの構築に重きを置いて、本書「転倒予防のための運動機能向上トレー二ングマニュアル」を刊行することとなった。
本書で紹介するプログラムは
1)自分の歩行能力・転倒リスク(危険度)が比較的簡単に把握できること
2)リスク分類に応じたトレー二ングメニューを常に専門家に依存することなく指導でき、かつ家庭でもひとりで安全にできること
3)定期的なトレー二ング効果が視覚的にもわかりやすいデータ表示により把握でき、トレー二ング継続のための動機づけに十分に配慮されていること
4)トレー二ング強度およびメニューの増加を段階的に進めることができること
をポイントとしている。
また、転倒リスク予測要素とトレー二ング対象となる体力要素・部位の関係を明確にしている。さらに、歩行能力要素である速度、歩幅、歩数から判定できる転倒リスクレベルに応じた、転倒防止のための段階的セルフトレー二ングプログラムの安全性・自律性・継続性の視点に重点を置いた解説書の構成をとっている。
加齢による多岐にわたる歩行機能低下とその機能改善のためのトレー二ングプログラムの基本について、できるだけシンプルに理解しやすいものにしたつもりであるが、十分でないところもあるかと思う。本書を利用されるリハビリテーションおよびケアスタッフや転倒予防に関心のある一般読者の方には、ぜひとも忌憚のないご意見・ご批評をいただければと切にお願いするところである。
最後に、発刊・編集作業においてご尽力いただいた諸兄に、心より感謝の意を表したい。
2013年5月
植松光俊、下野俊哉
「健康寿命」を延伸させるためには要介護者を減らすのは当然であるが、要支援者を減らすことも重要である。要介護・要支援の原因として運動器疾患(関節疾患、骨折、転倒、脊髄損傷)は脳卒中よりも多い(厚生労働省平成22年国民生活基礎調査)。転倒の原因として重要なロコモティブシンドローム(運動器症候群:ロコモ)がある。日本整形外科学会が2007年に新たに提唱したロコモには、「人間は運動器に支えられて生きている。運動器の健康には、医学的評価と対策が重要であるということを日々意識してほしい」というメッセージがあり、ロコモは特定の疾患を示すのではなく運動器の障害全般をさしている。ロコモのチェック法の代表は7つのロコチェックやロコモ指数であったが、2013年度に将来ロコモになる可能性を判定する「ロコモ度テスト」が発表された。若い世代にもロコモ予防の大切さを呼びかけるのが狙いである。
この時期に本書は刊行され、まさに時宜を得た発刊となった。運動器の障害は、転倒や介護に直接結びつくので、未然の防止策である転倒予防や介護予防のための運動機能向上トレーニングを行うことが「健康生活」を長く保ち、その結果として「健康寿命」延伸につながる。これまでにも多くの転倒・介護予防に関する書籍が発刊されているが、トレーニングに際し特定の運動器具や機器などが必要であったり、画一的なトレーニング方法を説明している書籍が多かった。本書は、長年にわたり運動器の健康を保つトレーニングを研究された植松光俊先生、下野俊哉先生が編集され、第一線で活躍されているリハビリテーション関係者が医科学的な基礎知識に加え最新の知見を交えて執筆されている。
医学はもともと診断・治療が中心であったが、特に運動器障害や疾患の場合、予防することが可能な疾患が多いこともあり、予防医学に重点がおかれ始めている。その代表がロコモ予防である。特に転倒し骨折することで臥床を強いられた場合、廃用症候群となり要支援・要介護が必発となる。それを防ぐために本書は、転倒を防ぐための基礎知識、評価と運動の実際に重点をおいて編集されている。転倒予防プログラムのポイントとして著者らは、以下の4つをあげている。(1)歩行能力・転倒リスクが簡単に把握できること、(2)リスク分類に応じたトレーニングメニューを簡単に指導でき、家庭でも安全にできること、(3)トレーニング継続のための動機づけの配慮がされていること、(4)トレーニング強度やメニューの増加を段階的にすすめることができることである。
本書は、転倒予防のための運動機能向上トレーニングの実践にあたり必要な内容をわかりやすく2章に分けて系統立てて記述し、最後に運動効果判定によく使用される評価法を加えてある。特徴は、医療関係者から一般のさまざまな読者を考慮して、たいへんわかりやすいシェーマ(図)を多用し、医学用語は語句の説明や振り仮名をつけることで理解しやすいよう配慮されている。第1章では、転倒を防ぐための基礎知識として大切な歩行の運動学、老化による身体の変化やトレーニングの基礎知識、トレーニングの指導のポイントが取り上げられているので、トレーニングメニューのポイントを専門家に依存することなく指導することができる。第2章では、転倒を防ぐための評価と運動の実際について、基本的評価と運動プログラム、応用運動プログラムに分け、具体的かつ簡明にシェーマを用い説明しているので、転倒リスクに応じた指導を家庭でも1人で安全にできるように記載されている。さらに基本的なトレーニングでは物足りない方のために、代表的なマシンや道具を用いたトレーニングのポイントを述べている。転倒予防に必要な運動機能向上トレーニングに関し、基礎知識から実践までさまざまな領域を網羅しているので、整形外科医のみならず、理学療法士やスポーツトレーナーなどが指導や説明に際し参考となるガイドブックとしても利用できる。
転倒予防に携わる医師のみならず、理学療法士や看護師などメディカルスタッフやリハビリテーション専門職の方々にとって必須の書としておすすめしたい。
臨床雑誌整形外科64巻12号(2013年11月号)より転載
評者●宮崎大学整形外科教授 帖佐悦男