看護の教育・実践にいかすリフレクション
豊かな看護を拓く鍵
著 | : 田村由美/池西悦子 |
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ISBN | : 978-4-524-26765-1 |
発行年月 | : 2014年12月 |
判型 | : A5 |
ページ数 | : 208 |
在庫
定価3,080円(本体2,800円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
看護領域でのリフレクションの第一人者である著者らによる「看護のリフレクション」の本邦初となる本格的なテキスト。豊富な文献レビューを基に基礎理論を整理し、看護実践の質向上とリフレクションの関係を明確にした理論編と、学校や施設での現任教育におけるリフレクション学習の意義や方法、具体的なトレーニングやアセスメントを記載した実践編の2部構成。看護の質向上を目指す教育者、管理者、実践者必読。
序論 日本の医療システムと日本の看護教育の特性
1 日本の医療システムの特徴
1)2025年問題
2)従来の日本の医療システムの特徴と転換
3)医療システムの転換における問題点
4)医療ケアの質の低下と看護師不足
2 日本の看護教育の特徴
1)看護基礎教育
2)新人看護職員研修ガイドライン
理論編
第1章 リフレクションの基礎理論
1 リフレクションとは
1)リフレクションの源
2)教育にとってのリフレクション
3)専門職教育にとってのリフレクション
4)「行為の中のリフレクション」と「行為についてのリフレクション」
2 リフレクションの定義
1)さまざまなリフレクションの定義
2)Rogersの高等教育におけるリフレクションの概念分析
3)菱沼の看護におけるリフレクションの概念分析
4)本書の看護におけるリフレクションの定義
3 リフレクションのサイクル
4 看護実践の知とリフレクション
第2章 リフレクションと看護実践
1 実践的思考能力と質の高い看護実践
2 看護実践家としての成長とリフレクション
1)看護実践能力の向上とリフレクション
2)臨床現場における継続教育:標準的な学習パラダイム
3)臨床現場における継続教育:正統的周辺参加学習から考える
4)臨床現場における継続教育:職務に埋め込まれている教育システム
実践編
第3章 リフレクションと看護教育
1 キャリアマネジメントとリフレクション
1)キャリア
2)キャリアマネジメント
3)目標管理
4)看護師は目標管理を行えているか
5)キャリアマネジメントにおけるリフレクションの活用
6)看護基礎教育におけるキャリアマネジメントの学習
2 看護基礎教育におけるリフレクション
1)看護基礎教育の現状
2)看護学・看護実践とリフレクション
3)根拠に基づく看護実践とリフレクション
4)「看護師のように考える」学びとリフレクション
5)看護基礎教育におけるリフレクションの実践事例
6)看護基礎教育におけるリフレクションの意義・方法
3 看護継続教育におけるリフレクション
1)新人看護師教育におけるリフレクションの意義
2)新人看護師教育におけるリフレクションの導入例
3)新人看護師のリフレクションを促す指導者のフィードバック
4)新人期以降の継続教育におけるリフレクション
第4章 看護マネジメントとリフレクション
1 質の高い看護実践につなげるマネジメントとリフレクション
1)マネジメントとは
2)質の高い看護実践とマネジメント
3)看護における知識とマネジメント
4)リフレクションによる知識の表出と共有
5)自己気づきの認識レベルとリフレクション
6)管理者におけるリフレクション
2 チーム・組織の学習とリフレクション
1)学習する組織
2)個人の学習(実践)から組織の学習へ
3)ダブルループ学習理論とリフレクション
第5章 リフレクションのスキルとトレーニング
1 リフレクションに必須のスキル
1)自己への気づきのスキル
2)描写のスキル
3)批判的分析のスキル
4)総合のスキル
5)評価のスキル
2 リフレクション思考に必須のスキルのトレーニング法
1)自己への気づきのスキルのトレーニング
2)描写のスキルのトレーニング
3)批判的分析のスキルのトレーニング
4)総合のスキルのトレーニング
5)評価のスキルのトレーニング
3 リフレクションのトレーニング
1)リフレクション学習のための準備
2)リフレクション学習の進め方
3)リフレクティブジャーナルの活用
第6章 リフレクションを促進するフィードバック
1 フィードバックとは
1)学習におけるフィードバックの影響
2)リフレクション学習におけるフィードバック
2 リフレクション学習におけるフィードバックのスキル
1)傾聴する
2)承認する
3)オープンでパワフルな質問をする
3 ピア・コーチング
1)ピア・コーチングのプロセスと要素
2)ピア・コーチングの特徴
3)ピア・コーチングのタイプ
第7章 リフレクションのアセスメント
1 リフレクションのアセスメントの考え方
1)アセスメントの定義
2)リフレクションをアセスメントする意義
3)リフレクションのアセスメントにおける課題
2 リフレクションのアセスメントの対象
1)リフレクションの過程と成果
2)リフレクションの深さと広がり
3 リフレクションのアセスメント指標
1)海外のリフレクションのアセスメント指標
2)日本のリフレクションのアセスメント指標
4 アセスメント指標を用いたリフレクションの実際
第8章 看護におけるリフレクションの研究と課題
1 海外のリフレクション研究の動向
2 日本におけるリフレクション研究の動向
1)筆者らの看護におけるリフレクションに関する研究の軌跡
2)リフレクション研究の文献レビュー
3)アクションリサーチを用いたリフレクションの研究
4)エスノグラフィーを用いたリフレクションの研究
3 リフレクション研究の今後
あとがき
索引
はじめに
昨今,臨床現場における看護師の成長や実践の質向上にリフレクションが有用であることが認知されつつあり,看護基礎教育,継続教育に携わる教員,臨床現場の管理者・指導者のリフレクションへの関心が高まっている.
筆者らは,リフレクションは看護実践過程における重要な思考の仕方であり,その思考の基盤となるスキルをトレーニングによって習得すると同時にリフレクション思考を身につけることが可能であると考え,これまで看護学生や臨床看護師,看護管理者,看護教員,臨地実習指導者などを対象にリフレクションの教育に取り組んできた.
リフレクション思考は一度研修を受講しただけでは身につかない.日頃の看護の中で繰り返し実践し,自分のものにしていく必要がある.本書は,理論を中心としつつも,筆者らがこれまで研修や授業で用いた事例や資料,ワークの要素を取り入れている.また他の雑誌等に掲載された論文の内容を網羅している.そのため,個人の学習はもちろん,リフレクションの勉強会等での活用を期待している.
本書の構成は,大きく理論編と実践編に分かれる.理論編の第1章では,リフレクションの概念の明確化を図り,看護におけるリフレクションについて定義している.また,リフレクションすることをリフレクティブ・プラクティス(reflective practice)と同義で用い,看護実践能力を向上させるための学習方略あるいは学習ツールのつとして捉える.そのため,リフレクションに関連する学習理論を概説している.第2章は,看護実践とリフレクションについて,臨床実践能力あるいは実践的思考能力,質の高い看護実践,それらとリフレクションとの関連について述べている.
第3章以降は実践編である.第3章は,看護基礎教育の中でリフレクションをどのように位置づけて学生の実践的思考をリフレクティブに導くか,筆者らの経験を基に述べている.第4章は看護マネジメントとリフレクションを取り上げた.看護組織が学習する組織として変化していくうえでリフレクションが重要であることを強調している.リフレクションは単に臨床看護師のみならず,看護管理者にとっても重要であることが理解できるだろう.第5章はリフレクション思考の基盤となる5つのリフレクションスキル「自己への気づき」「描写」「批判的分析」「総合」「評価」について解説し,それらのトレーニング方法を紹介している.第6章はリフレクションの学習プロセスの中で鍵となるフィードバックについて述べている.リフレクション思考のトレーニングは,一人ではなかなか難しいものである.本章ではとくに,他者のリフレクション思考を促進するうえでのポイントをフィードバックやコーチングの理論を応用して具体的に示している.第7章はリフレクション学習のプロセスの中で,自分自身でリフレクション思考の発達をアセスメントできる指標について,これまでの先行研究と筆者らの最近の研究を中心に述べている.最後の第8章は看護におけるリフレクションの研究と課題を概説している.看護研究分野の1つとしてどのような研究方法論で看護におけるリフレクションを探求していくのか検討する.
本書を読み進めるにあたっては,第1章のリフレクションの概念をおさえたうえで,読者が必要と思う章から読み,活用することを提案したい.
実践をリフレクションすることによって,学生は新たな自己と学習ニーズに気づき,前向きにエンパワーメントされるだろう.また,日々困難な状況に直面している臨床看護師は,実践状況と向き合い対話を繰り返し,今まで学んできたことと異なる視点のケアを取り入れる必要性を学習し,自己の強みや弱みを発見し,強みを伸ばし,パワーレスな状況を克服できると期待する.
そして,よりよい看護の発展に向けて多くのリフレクティブな看護実践家を育成するため,看護基礎教育や大学院教育,臨床の場に積極的に導入され,検証されることを期待したい.
2014年11月
田村由美
池西悦子
看護教育や臨床看護の現場で,「リフレクション」という言葉が交差するようになった.私たち教員は,リフレクションが有意義であることは知っているが,そもそもリフレクションとは一体何であるのか,という根源的な問いを抱きつつそれを実践していることが多い.本書は,これらの問いに応えてくれる一冊であり,リフレクションの理論編と実践編の構成は,概念的で具体性に富んだ内容になっている.とりわけ著者らの経験に基づく実践編は目を見張るものがあり,リフレクション学習の多様さ,奥深さを実感することで,リフレクションという教育方法のヒントが得られるに違いない.
●教育観の転換とリフレクション
学生に「教えたことが身につかない」「学習が積み重ならない」など,教えた内容が浸透しない問題の矛先は,学生へと向けられる.それは教員が,学習を知識の転写として認識し,それを保証することが教育ととらえているからである.知識の習得は,確かに必要である.しかし看護学は,人間関係を基盤としていることから,知識が他者とのかかわりのなかに生きることで動く知となり,看護として為されることが重要である.著者らはこの解明こそが,看護が実践の学としての礎を創るのであり,その方法がリフレクションであると説いている.それは,看護者の感覚と知識との融合によって生み出される「感じること(feeling)」,すなわち他者との関係において派生する違和感や感情がきっかけとなる.教員は,学生に生じている感覚が実践に基づく学びの契機となるように,それを見逃すことなく支援することが求められている.
●看護実践の知の探求
これまでリフレクションは,主に諸外国の著作,思想をとおして紹介されてきた.本書は,そのなかでもD.ショーンの「行為についてのリフレクション“reflection-on-action”」を参照し,わが国の社会背景や看護学教育をふまえた独自のリフレクション論を展開している.そのため読者は,訳本のどこかフィットしない感覚を抱くことなく,著者らの言葉が身体に馴染むことだろう.同時に「読む」という実践を通して,自らの教育が鏡のように映し出され,まさにリフレクションを体験する機会となるだろう.
学生の学習課題は教員の教育課題であり,その振り返りなしに看護学教育の実践知を豊かにすることはできない.リフレクションとは,ただ振り返ることではなく,未来の看護学を志向した看護実践の知の探求なのだから.看護教育に携わる人に,是非とも手に取ってほしい書である.
医学書院 看護教育(2015年3月号)より転載
評者●甲南女子大学看護リハビリテーション学部 前川幸子