画像診断+IVRヒヤリ・ハット
編集 | : 放射線診療安全向上研究会 |
---|---|
ISBN | : 978-4-524-26748-4 |
発行年月 | : 2015年2月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 296 |
在庫
定価6,600円(本体6,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
限られた検査画像から診断を進めざるを得ない画像診断、一瞬の判断ミスが大事に繋がりかねないIVRでは、誰もが一度はヒヤリ・ハット!したことがあるはず。貴重なヒヤリ・ハット症例を満載し、ヒヤリ・ハットへ繋がった問題点・注意点を、会話形式などで親しみやすく解説した。ピンチに陥らない・克服するための、画像診断・IVRに携わる医師必読の一冊。画像診断症例を多数収載した『画像診断ヒヤリ・ハット−記憶に残る画像たち』の姉妹本。
I 画像診断のヒヤリ・ハット症例
総論 文字と画像を見落とさないために
A 頭・頭頸部
CASE1 転移をきたすほどの肺癌は大きいはずで,進行しているはずだ!
CASE2 脳転移なし.ホント?
CASE3 下垂体腺腫でいいですか?下垂体腺腫でいいでしょう!
CASE4 複視の原因は?
CASE5 不明熱:髄膜炎をrule outしたい
B 肺
CASE1 多発肺炎かと思っていたら……
CASE2 弱り目に,祟り目(ひどいことの上に,もっとひどいことが起きる)
CASE3 敗血症,即ARDS ??
CASE4 ARDS ?と思ったら,もう一捻り
CASE5 「2年前の写真と比べたら陰影の変化がない」ということは陳旧性病変と言ってよいか?
CASE6 肺塞栓症?
C 血管
CASE1 所見は1つじゃない
CASE2 腹痛の超音波検査:どこを見ていますか?
CASE3 絶滅危惧種
CASE4 First Choice
CASE5 手術だけで十分?
D 肝胆膵
CASE1 あらっ!いつの間に?
CASE2 術後経過は良好です.ところで……
CASE3 FDG-PETで集積のない肝腫瘤を見たとき,どんな返事をしますか?
CASE4 胆管癌のスキップリージョン
CASE5 前回と同様!?
E 消化管
CASE1 虫垂を探せ
CASE2 スカウト像も重要
CASE3 腎機能と不明熱
CASE4 鈍的外傷後の腹水?
CASE5 胸腔穿刺,こんなん出ましたけど!?
CASE6 異常なし!
CASE7 下腹部痛の原因は?
CASE8 1つで安心しちゃダメ
CASE9 思い込みは危険
CASE10 造影剤アレルギー!&消化管壁肥厚は分単位
F 腎臓・泌尿器
CASE1 ドレナージで大丈夫?
CASE2 Fine Play !
CASE3 多重癌の経過観察.広範囲CTは要注意!
CASE4 free airと腹水があるけど……
CASE5 突然の腹水増加と急性腎不全
CASE6 まず臨床情報なしで,pureな眼で画像を観察しよう!
CASE7 膀胱バルーンはどこに?
CASE8 整形外科通院中の罠
CASE9 後腹膜の血腫?
G 婦人科
CASE1 卵巣癌の播種再発
CASE2 ホントに卵巣腫瘍?
CASE3 卵巣癌で間違いないよね?
H 小 児
CASE1 繰り返す腹痛の原因は?
CASE2 歩けないのはどこのせい?
I PET
CASE1 病気などしたことありません
CASE2 打撲はかなり前なのに
CASE3 肺メタメタ(原発は?)
J 骨軟部
CASE1 良性?生検結果にご用心
CASE2 腹痛は内臓の痛み!?
CASE3 骨折診断には骨条件?
CASE4 本当に上腕骨原発腫瘍?
CASE5 腸腰筋に注意!
K その他
CASE1 見えますか?
CASE2 力一杯心肺蘇生
CASE3 明らかに見えている!?
CASE4 消えたPTP?3Dにご用心
CASE5 これはアーチファクト?
CASE6 先端はどこ……?
最終診断一覧
II IVRのヒヤリ・ハット症例
総論1 血管系IVRのヒヤリ・ハットの総論
総論2 非血管系IVRのヒヤリ・ハットの総論
A 血管系IVR
CASE1 ガイドワイヤーはJ型かアングル型か?
CASE2 見るべきところ
CASE3 J型ガイドワイヤーでも迷入する
CASE4 低位穿刺してしまった!
CASE5 大腿静脈穿刺:ポッチャリさんは要注意
CASE6 そのルートは本当に大丈夫?
CASE7 先輩から聞いた忘れられない話1:ガイドワイヤーの端は固定せよ!
CASE8 CVカテーテル断裂は予知できた
CASE9 ありそうでない?やっぱりあった胸管破裂
CASE10 ポート抜去術の落とし穴
CASE11 空気塞栓!深呼吸は禁物!
CASE12 遊離端のない断裂カテーテルのつかみ方
CASE13 ポータブル写真のサインを見落とすな!
CASE14 挿入したCV カテーテルの走行は大丈夫?
CASE15 切れるよ!
CASE16 切れるよ!の続き:吸引してみたら?
CASE17 引っついて抜けない!
CASE18 危惧しても,発症してしまった!
CASE19 先輩から聞いた忘れられない話2:巨大肝細胞癌のTACE
CASE20 先輩から聞いた忘れられない話3:TACE後門脈血栓
CASE21 肺動静脈奇形塞栓時の左房へのコイル逸脱
CASE22 指がくっついてしまった!
CASE23 B-RTOの失敗!?
CASE24 B-RTO施行中の後腹膜出血(ワイヤー操作で静脈穿孔?)
CASE25 拡げてないところが痛い!
CASE26 「腹部実質臓器は問題なし」って言っていいの?
CASE27 仮性動脈瘤をパッキングしたのか?
CASE28 出血源は?
CASE29 樹脂ワイヤーの剥離・離脱!:金属製外套針にはご用心
CASE30 塞栓する前には必ず多方向確認を!
CASE31 脊椎腫瘍の動脈塞栓術で注意することは?
CASE32 出血は再び起こる!
CASE33 血性胸水の原因は?
CASE34 ステントグラフトが動いた!
CASE35 血管内のコイルが消化管に逸脱
CASE36 アンラベルしたコイルは見えない?
CASE37 先輩から聞いた忘れられない話4:血流改変でも虚血が起こる
CASE38 拡張し過ぎ!
CASE39 前置胎盤の帝王切開術で内腸骨動脈バルーン閉塞したのにもかかわらず大量出血!
CASE40 フィルターが捕れない
CASE41 フィルターが肺動脈に迷入!
CASE42 肝動注リザーバーカテーテルが逸脱?
CASE43 先輩から聞いた忘れられない話5:肝動注カテーテル留置時に発生した脳梗塞
CASE44 内腸骨動脈とは限らない
B 非血管系IVR
CASE1 PVPであわや大動脈穿刺
CASE2 経皮的椎体形成術:セメント注入時のヒヤリ・ハット!
CASE3 RFA施行.安静解除後……
CASE4 PTCDチューブが逸脱したら……
CASE5 PTCD〜内瘻化の経過中に度重なる出血が!
IVRのヒヤリ・ハットポイント集
IVRヒヤリ・ハット症例の検索用手技名と事象
索引
姉・書「画像診断ヒヤリ・ハット」の最終診断一覧
序文
医療の世界ばかりではなく,最近は何かと災害が起こり,甚大な被害が出ている報道を見聞きする機会が増えた.そのたびに掘り起こされるのが,以前にも同じような災害が発生していたという情報である.災害が発生すると対策が考えられる.対策が実施されると良いが,時間や費用が必要になり,忘れ去られる傾向がある.画像診断やIVRにおいても同様の現象があると思われる.一人の画像診断医がヒヤリ・ハットしたり,痛い思いをしたりした経験はしばらくの間は勉強の材料となり,その医師個人の能力向上に役立つと思われるが,記録し,解析して役立つ情報として伝えていかなければ,やがて忘れ去られることになる.とくに失敗した経験は隠しておきたい気持ちが働くので,公表されることなく,教訓として一般化しない傾向がある.残念なことである.
個人の痛い経験を多くの医師に知ってもらい,医療の安全向上に役立てる目的で放射線診療安全向上研究会(通称「ヒヤリ・ハット」研究会)を始めて10年が過ぎた.研究会では画像診断やIVRなどでヒヤリ・ハットしたり,痛い思いをしたりした症例の中で,学ぶべき教訓があると思われることが発表されてきた.2010年には『画像診断ヒヤリ・ハット−記憶に残る画像たち−』(南江堂)として画像診断の新しい勉強法となるべき本を出版した.その中に書かれていることは,再度読んでも色褪せるものではないが,今回は画像診断の症例を追加し,新たに基本的なIVR手技に関する症例を掲載した.いずれもヒヤリ・ハットしたり,痛い思いをしたりして学習すべきことが仮想的に体験でき,生きた教訓として残るように工夫されている.画像診断の症例では,【初期診断】で見落としたり,間違えたりし,【ヒヤリ・ハットのポイント】では診断法や対策などの学ぶべきことが書かれている.IVRの症例では危うい場面に遭遇し,【ヒヤリ・ハットのポイント】で事象の解説,予防法や対策・対処を学ぶことになる.これらの症例は研究会の世話人から学ぶべき教訓のある症例として募集した.
「ミクロの決死圏」という1966年に製作された映画がある.人間や機材をミクロのサイズまで縮小して動脈に注射し,病巣まで潜水艇で運び,血管の中から治療するというIVRのアイデアを持つSFであるが,この中でも予想外の不都合な事態が発生して,乗り越えていくことになる.マニュアルを読んでいても,予想外の出来事に遭遇するのがIVRであるといって良いほど,現実ではいろいろ不都合な事象が発生する.画像診断やIVRに携わる医師は本書を読んで,ピンチに陥らない方法や,克服する方法を学んでいただきたい.
2015年1月
放射線診療安全向上研究会代表世話人 藤田正人
2010年に刊行された『画像診断ヒヤリ・ハット−記憶に残る画像たち』は、放射線診療安全向上研究会(通称「ヒヤリ・ハット」研究会)で発表された画像診断症例のみで構成されていた。本書はそれに画像診断症例を追加し、新たにinterventional radiology(IVR)手技に関する症例を加えたものである。したがって執筆者はいずれも放射線科医、さらに語り口から推測するに読者としても放射線科医を意識している本のように思う。
われわれ心臓血管外科医は、みなの支えがないと何にもできない、舞台で飛び跳ねていい気になっているおバカ役者と常々思っていた。その思いはステントグラフト治療を放射線科医と一緒にするようになり、彼らの仕事ぶりを知るにつけてさらに一層強くなった。病院の奥深く、暗い部屋で黙々と仕事をする姿はまさに縁の下の力持ち。比較的華やかなIVR医師にしても、ほぼ同じ仕事をしている循環器内科医のアピール度に比べたら至極控えめであると思う(むろん、どちらにも例外あり)。本書もそういった慎ましや感、誠実さに溢れている。
筆者らぴょんぴょん飛んでいるやつがヒヤリ・ハットするのは生き死につながりかねないミスを犯したとき。そう思って本書を読み始めると、あれ? 何かが違う。免許?奪はともかく裁判沙汰になりそうな、そんな緊迫感があまりない。確かにこれはアクシデント集ではなく、あくまでも結局何とかなったヒヤリ・ハット集。ハッピィエンドで終わるとわかるとつい安心して読むようになる。ことに、前半の画像診断部分は高度な画像鑑別診断の教書であって「これでヒヤリはしてないでしょ」と突っ込みたくなる症例も多い。腹直筋鞘症候群って…いや、まてよ、もしかするとこういう診断ミスでも画像診断のプロであらんとする真摯な彼ら(放射線科医)はハットするのかもしれない。もしくはプロならば「しろ!」ということではないか。だが後半のIVRになるとさすがに様相は違ってくる。Bail outできているとはいえ想像力を豊かに読むと確かにその瞬間冷や汗が出て、目の前が真っ暗になったであろうとわかる事例が続く。とはいえ、最後は難を逃れたとの顛末が記載されていて終わりよければすべてよし! と読後感はわるくない。と思ったら1例だけ「…ショック状態になっていた。仮性動脈瘤部分からの再出血と考えられた」で終わっている。これはひょっとしたら…豊かすぎる想像力もよくない。
本書は総論と症例で構成されている。総論ではヒヤリ・ハットを防止する方法が述べられている。最近読影はモニターでの作業がほとんどであるから、ページングやスクロール不足などPCならではの注意点があることに改めて気づかされた。IVRのみならず画像診断でも、ミスの防止には体力、気力の充実とそれができる仕事環境、さらにはチーム医療が重要という点は、当然ながらわれわれ外科と同様である。症例は研修医と指導医の対話(脚本)形式と解答を選ばせるクイズ形式で示される。対話形式にすることで医学書っぽくなく親しみやすくなり、現場感も伝わってくる。ただ、なぜか執筆群はほぼ関西の方(少なくとも仕事場は)なのに関西弁での会話が少ない。筆者はもっと、アホ! ボケ! (死ね! はちょっと…)とか指導医にいってほしかったが。くだけすぎないようにしなければとの著者の自主規制か、はたまた伝統ある南江堂だけに会社側(編集担当者)の意向なのであろうかなどと、ここでもいらぬ想像力を働かせてしまった。
冒頭にも書いたが、本書は放射線科医向けに書かれたものに違いない。だが、だからこそ彼らと接点、重複領域をもつ他科医師、特に外科医は知識以外にもまた違った得るものがあると思う。学術書としてではなく読み物として。筆者は少し歳がいってから循環器専門医試験を受けた。泥縄で受験勉強らしきものをすると、英語の頭文字を並べた何とか試験とかVO2とかがやたら出てきて頭が痛くなった。苦痛で仕方なかったが終わってみると、「へぇー、こんなことを循環器内科医は考えているのか…」と彼らとの溝が少し埋まった気がした。科を超えたチーム医療が叫ばれる昨今、相手の身になって考えるのがその基本である。本書を読んで日に日に薄くなるthin sliceをすみずみまで読影させられる放射線科医の気持ちになることができれば、コメントに「f/u」とだけ書いて何の気なしにCT検査を左クリックでポンポン入れるようなことはしなくなるはずである。
胸部外科68巻12号(2015年11月号)より転載
評者●大分大学心臓血管外科教授 宮本伸二
「ヒヤリ・ハット」と聞くと「ハインリッヒの法則」や「スイスチーズモデル」を思い出す。皆様もすでにご存知であろうが、ハインリッヒの法則は労働災害における経験則で、1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異状が存在するというものである。1929年に論文発表され、その後の追試でその正当性が証明されている。一方、スイスチーズモデルは完全無欠な防護壁を構築することが難しい現実を示すモデルである。J.リーズンは空隙が多いことで知られているスイスチーズを多層にスライスし並べた状態にみたて、大きな事故、事件、不祥事はその複数のチーズの穴を貫通した事象が起きたときに発生すると論じた。事故には単純なミスもあるが、多くの場合は「どうして? よくもこんなことが起こったものだ!」といくつもの関門をすり抜け悪い結果にいたってしまう。
さて、医療過誤が声高に報道され、不可抗力なる言葉も失活している昨今、本書「画像診断+IVRヒヤリ・ハット」の企画、出版は誠にタイムリーといえよう。本書は画像診断での見落としや診断を誤りそうになったヒヤリ・ハット、IVRでの偶発症とそのトラブルシューティングについて臨場感をもって解説している。前半は診断編で、事例の解説が研修医と指導医の会話から始まっており、初期診断や事態の発見契機、初動が非常に明確でわかりやすい。アンサーパッド形式の「あなたならどうする?」、「その後の経過」、「画像の見方」へと進み、「ヒヤリ・ハットのポイント」で締めくくられている。後半は治療編:IVRにまつわる症例である。最近は何でもIVRで治療できる時代で、その分、超繊細で高難度化している。まさにIVRはヒヤリ・ハットの宝庫とのことである。とくに「先輩から聞いた忘れられない話」は興味深い。以前は夕方になると医師がたむろする場所と習慣があり、先輩の経験談、今日の珍症例や失敗例を議論したものであるが、今は正規のカンファレンスが主流であり、裏話や内緒話を聞く機会がない。是非、後輩に語り継いで欲しいものである。
見落としや偶発症/トラブルは誰でも起こす。技量を進歩させるには経験を積む、すなわち、失敗を謙虚に反省し蓄積するしかない。さらに他人が経験した失敗を自分のこととして集積しておくことで、目の前にせまっている失敗や危険を予知し回避できる可能性が高まることはいうまでもない。本書は現在、第一線でご活躍中の先生方が執筆されており、すべての画像がeducationalかつimpressiveで、頭に焼きつけておきたいものばかりである。学術面の向上はもちろん安全な医療の推進のためにも、本書は必携、必読の書である。
臨床雑誌内科116巻5号(2015年11月号)より転載
評者●東京女子医科大学消化器病センター消化器内視鏡科教授 中村真一