小児運動器疾患のプライマリケア
愁訴・症状からのアプローチ
編集 | : 藤井敏男/高村和幸/柳田晴久 |
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ISBN | : 978-4-524-26741-5 |
発行年月 | : 2015年5月 |
判型 | : A4 |
ページ数 | : 158 |
在庫
定価6,600円(本体6,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
小児を専門としない医師が、実際の診察の流れに即して必要な知識を短時間で確認できる実際書。診断編では小児に頻度の高い愁訴・症状を糸口として、診断へいたる流れをフローチャートでわかりやすく示し、小児特有の診察のポイントを解説。治療編では、疾患別に疾患概念や治療方法をはじめ、注意・禁忌事項や専門施設へ紹介するタイミングを解説。小児運動器疾患の診療に最適な書籍。
I.診断編
A 総論−小児における疼痛・運動障害のみかた
B 疼痛・運動障害の診察
1.下肢
a.股関節・大腿部の痛み
b.膝関節の痛み
c.下腿部・足関節・足部の痛み
2.上肢
a.肩関節・上腕部の痛み
b.肘関節の痛み
c.前腕・手関節の痛み
3.体幹
a.頚部の痛み
b.腰背部の痛み
4.その他(多発する関節・四肢の痛み)
C 変形の診察
1.頚部の変形
2.腰背部の変形
3.肩関節の変形
4.肘・前腕の変形
5.手関節・指の変形
6.股関節・大腿部の変形
7.膝関節・下腿部の変形
8.足関節・足部・足趾の変形
9.多発変形
D 歩容異常の診察
E しこり(腫瘤)の診察
F 乳児検診でみる症状(開排制限)の診察
G X線像上異常にみえやすいnormal variants
II.治療編
A 股関節疾患
1.発育性股関節形成不全
2.Perthes病
3.大腿骨頭すべり症
4.単純性股関節炎
B 膝関節疾患武田真幸
1.離断性骨軟骨炎
2.Osgood-Schlatter病
3.反復性膝蓋骨脱臼
4.Blount病
5.円板状半月
6.Baker嚢腫
C 足関節・足部疾患
1.先天性内反足
2.有痛性外脛骨
3.第4中足骨短縮症
4.足根骨癒合症
5.外反扁平足
6.Kohler病
7.Sever病
D 肩関節疾患
1.Sprengel変形
2.非外傷性肩関節不安定症
3.リトルリーガーズショルダー
E 肘関節疾患
1.肘内障
2.橈尺骨癒合症
3.先天性橈骨頭脱臼
4.上腕骨小頭離断性骨軟骨炎・野球肘
5.内反肘
6.腫瘍性病変
F 手関節・指の疾患
1.Madelung変形
2.強剛母指・先天性握り母指症
3.屈指症
4.斜指症
5.Kirner変形
G 頚部疾患
1.筋性斜頚
2.Klippel-Feil症候群
3.炎症性斜頚
4.環軸椎回旋位固定
5.環軸椎亜脱臼
H 腰背部疾患
1.先天性側弯症
2.特発性側弯症
3.症候性側弯症
4.腰椎分離症・腰椎すべり症
I 腫瘍(良性腫瘍)
1.一般整形外科医が手術をしてよい骨腫瘍
2.一般整形外科医が手術をしてよい軟部腫瘍
J 感染性疾患
1.化膿性関節炎
2.骨髄炎
3.その他の感染性疾患
K その他の疾患・問題
1.二分脊椎
2.脳性麻痺
3.先天性多発性関節拘縮症
4.若年性特発性関節炎
5.骨系統疾患
6.子ども虐待
索引
序文
小児は心身ともに日々、成長し発達しています。そのために、小児の運動器疾患の診療では成人とは異なる点が多くみられます。
本書はその点に留意しながら、実際の診療の流れに即して、診断名ではなく小児に頻度の高い愁訴や症状、たとえば、足が痛い、歩きかたがおかしいなどを糸口とし、診療の進めかたを短時間で確認できるように編集しました。また、愁訴から診断へいたる流れをフローチャートでもわかりやすく示しています。
さらに、プライマリケアとしての治療方針の立てかたを示して、「小児の整形外科疾患にはどのようなものがあるか」、「どこまで自分で対処すればよいか」、「やってはいけないことは何か」、「どのタイミングで小児整形外科医へ紹介するべきか」などを的確にアドバイスできるようにも編集しました。
小児の運動器疾患の診療には、成人期にいたるまでの長期予後調査に基づいた科学的成績評価に裏打ちされた治療方針と、子どもたちに対するあたたかい愛情とが必要です。本書は、この診療哲学を共有し実践している、福岡市立こども病院や九州大学整形外科教室小児診療班などのスタッフが執筆しています。
本書により、一般整形外科医、小児科医、内科医など小児の診療に携わる機会が多い方々に小児運動器疾患が一段と身近に理解され診療されるように、そして、子どもたちに明るい未来が開かれることを願っています。
平成27年4月
編者を代表して
藤井敏男
九州大学および福岡市立こども病院整形外科を中心とした小児整形外科エキスパートの共同執筆による一般整形外科医、小児科医向けの書籍が発行された。序文には内科医も対象としていると書かれており、今後増加が見込まれる総合診療医も意識しているのかもしれない。
本書は大きく、「診断編」と「治療編」に分かれている。「診断編」の最初には総論として、小児を診察するうえでのポイントが丁寧に書かれており、普段成人を診察することが多い一般整形外科医や内科医には役立つ内容であろう。筆者も小児の診療にかかわり始めたころに先輩から、「子供を泣かせてはよい診察はできない」と教育されてきたので、特に患児が診察をこわがったりいやがったりする場合の対応には必ず目を通しておくべきである。「診断編」の各論では、主要な症状ごとに考えられる疾患と、診断や紹介先にいたるフローチャートが掲載され、さらに診察上のポイントとして問診、視診、身体所見、検査所見が簡潔に述べられている。特に「乳児検診でみる症状(開排制限)の診察」では、発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)の身体所見の詳細について、図や写真を用いて適切に記載されている。日本では近年、歩行開始以降に診断される股関節脱臼が増加している中で、乳児検診の適切なあり方が関連学会などで議論されている。乳児の股関節検診の経験が浅い医師にとっては、問診、視診と身体所見のみで適切な判断を下さざるをえない検診という場面では、診断に関する大きな不安を伴うが、本書の内容を役立ててスクリーニングを行っていただきたい。さらに診断編の最後には、「X線像上異常にみえやすいnormal variants」がある。成長過程にある小児のX線像には多くのnormal variantがあることが知られており、Keatsの“Atlas of Normal Roentgen Variants That May Simulate Disease”という名著があるが、日本の一般的な整形外科のテキストでnormal variantを取り上げているものはほとんどない。骨折や腫瘍と誤って判断して、過剰な検査を行ったり、親を不安に陥れることがないようにするためにも、一般整形外科医にはぜひ一読してほしい部分である。
「治療編」では疾患ごとに、専門的なものを含めて治療の概要が書かれている。読み通してみると、小児運動器疾患のほとんどは専門的治療を必要とすることにあらためて気づかされた。専門的治療には、先天性側弯症に対するvertical expandable prosthetic titanium rib(VEPTR)手術、類骨骨腫に対するラジオ波治療など最新のものまでが含まれており、小児整形外科学の最近の進歩を知るのにも役立つ内容である。逆に一般整形外科医や小児科医が治療を行ってもよい疾患は少ないが、たとえば肘内障に対する徒手整復法、強剛母指に対する装具療法などは、図を入れるなどして初心者にもわかりやすく具体的に記載していただけるとありがたいと感じた。また専門的治療が必要でも、初期の診断や治療に一般整形外科医などがあたる場合もある。骨形成不全症児が骨折した場合の初期治療、虐待を疑った場合の初期対応(必ず入院させる)なども、改訂時にはぜひ記載していただきたい。
九州大学および福岡市立こども病院整形外科は、さまざまな面で日本の小児整形外科をリードしてきたチームである。筆者自身も何度か福岡市立こども病院に勉強にいかせていただいた。これから小児整形外科を学んでいこうとしている若い整形外科医から、小児運動器疾患の経験は少ないがプライマリケアにかかわる多くの医師まで、ぜひ通読していただきたい一冊である。
臨床雑誌整形外科66巻10号(2015年9月号)より転載
評者●東京大学大学院リハビリテーション医学教授 芳賀信彦