ナラティヴでみる看護倫理
6つのケースで感じるちからを育む
編集 | : 鶴若麻理/麻原きよみ |
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ISBN | : 978-4-524-26736-1 |
発行年月 | : 2013年12月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 126 |
在庫
定価2,090円(本体1,900円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
1人称のナラティヴでときあかす看護倫理の新しいテキスト。現代の医療問題を照らす6つのケースをとおして、登場人物の声に耳をかたむける。何を感じ、どう対処するか―物語を通じて生じる読者の心の動きは、臨床看護師として本当に必要な倫理的感性を磨くきっかけとなる。看護倫理の教材に。また日常業務のなか悩む看護師がひもとく本として。
I章 なぜ「ナラティヴ」に注目するのか
A.ナラティヴ“感じる”こと
B.割り切れない思い
C.倫理とは
D.倫理にかなう看護実践とは
E.本書でのナラティヴの活用
F.「看護倫理の扉」の取り組みかた
II章 ナラティヴから考える6つの臨床ケース
ケース1 本人と家族との意向のずれ
ケース2 患者の命は誰が決めるのか
ケース3 眠っているのか、眠らされているのか−伝えられなかった大切な情報
ケース4 本人と家族、医療者とのはざまで−利用者の尊厳をどこまで守れるのか
ケース5 組織の使命を果たすことと−スタッフの安全を守ること
ケース6 誰からも信じてもらえない−生かされなかった看護学生の得た情報
III章 ケースのふりかえり−倫理的課題と今後の行動に向けて
A.ケース1 本人と家族との意向のずれ
B.ケース2 患者の命は誰が決めるのか
C.ケース3 眠っているのか、眠らされているのか−伝えられなかった大切な情報
D.ケース4 本人と家族、医療者とのはざまで−利用者の尊厳をどこまで守れるのか
E.ケース5 組織の使命を果たすことと−スタッフの安全を守ること
F.ケース6 誰からも信じてもらえない−生かされなかった看護学生の得た情報
IV章 倫理的感受性を育む「ナラティヴ」
A.従来の臨床倫理におけるアプローチ
B.ナラティヴ・アプローチ
C.ナラティヴに注目することでみえてくるもの
V章 看護実践にナラティヴを活用しよう
A.ナラティヴのちから
B.自分のナラティヴを書いてみる
C.患者や家族のナラティヴを書いてみる
D.グループによるナラティヴ・アプローチ
E.ナラティヴ・アプローチによる自分の変化を捉えてみよう
VI章 環境に働きかけるナラティヴのちから
A.6つの臨床ケースのナラティヴにみられる組織的問題・社会的要因
B.倫理的実践を支援する環境を作る
C.よりよい倫理的環境を作るためにナラティヴを活用する
索引
看護学生、大学院生、臨床で働く看護師の方々から、「倫理ってむずかしいですね」「どうやって取り組んだらいいのですか」などとよく言われてきた。とくに看護師の継続教育や大学院教育では、方法論を教えてほしいとの要望も多く、倫理的問題を分析するシートや枠組みの使い方を講義してきた。その度に「本当に、これでいいのか?」と悩んできた。実際、倫理に関する分析シートの学習を希望していた人でも、学習後「あぁ、これだ!」という手ごたえはないことが多く、ますます悩みを深めていた。
編者の1人の麻原との対話のなかで、原則や系統的な分析も重要ではあるが、かかわり合う人々の主観に注目する視点から看護実践の倫理を考えることの重要性、まさに本書のコンセプトである「ナラティヴ」(語り、物語)にたどりつくことができた。本書では、従来の臨床倫理のアプローチである原則や系統的な手続きに基づく分析のような問題解決的な思考に重きをおいてはいない。むしろ、看護実践の場で生じる倫理的課題に気づくちからや感性を育むことに重きをおいている。倫理的課題を特定して分析し解決していくことは重要であるが、まず日常の看護実践のなかで倫理的課題に気づくことができなければ、倫理にかなう看護を実践することにはつながらないだろう。
本書では、倫理的課題に気づくちから−倫理的感受性を育むために、「1人称のナラティヴ」に注目する新しい試みを皆さんに提示している。なぜ新しいのか。看護実践における「ナラティヴ」の活用というと、多くの皆さんは患者や家族の語りを聴くアプローチが浮かぶだろう。しかし、本書ではそういう手法はとっていない。
本書の6つのケースでは、事例提供者が困った、割り切れないと思う場面を含むケースを提示し、看護師自身、家族、同僚などのナラティヴを実際に書いている。看護師が自らのナラティヴを書くことに注目したのは、どのような意図があってそのケアを実践しているのか、その背景、意識や態度があらわになると考えたからである。また、家族や同僚のナラティヴを書いてみることは、かかわり合う人々の思いや振る舞いを、その人の立場で理解する一助となるのではないかと思ったからである。
私自身、本書を執筆するにあたり「1人称のナラティヴ」を書いてみたが、その過程はいま思い出してもとても楽しかった。麻原と二人で「看護師のナラティヴ」「家族のナラティヴ」を書いては、私がこの言葉を発した背景や意図は何か、患者は看護師のどの言葉に反応し、どのような表情が印象に残るのかなど、書いていくプロセスの中での気づきや、私たち自身の変化を感じつつ、今までにない新たな発見であった。
本書のようにナラティヴを書くのは、時間がかかり、多忙な臨床現場ではむずかしいことかもしれない、また1人称で書くことも、すぐにはできないかもしれない。まずは本書の6つのケースを読み、「ナラティヴ」の世界を皆さんには感じてほしい。本書を通して、看護師になろうとする皆さん、大学院生の皆さん、看護師の皆さんが、ナラティヴの世界の扉をひらき、真の意味での「よりよい看護実践とは何か」を考える一助となることを願ってやまない。
2013年11月
編者を代表して
鶴若麻理