冠動脈疾患のパーフェクトマネジメント
編集 | : 伊藤浩 |
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ISBN | : 978-4-524-26733-0 |
発行年月 | : 2013年10月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 246 |
在庫
定価7,700円(本体7,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
冠動脈イベントの発症を予防し、生命予後を大幅に改善するための“新しい冠動脈疾患診療”の実践書。変貌しつつある冠動脈診療につき、冠動脈イベント機序の新知見、イベント発生を未然に防ぐための診断のポイント、予後を改善するための治療法の実際を、各分野のエキスパートが詳細に解説。循環器医はもちろん、心不全診療に携わるすべての医師にお勧めの一冊。
第I章 冠動脈疾患の治療目標が変わった
1 冠動脈疾患の治療目標が変わった
1 冠動脈疾患の治療目標が変わった:血行再建からイベント予防へ
2 診断コンセプトが変わる:虚血診断からリスク層別化へ
3 治療が変わる:血行再建からプラークコントロールへ
4 治療ターゲットが変わる:血管内皮機能と炎症制御をターゲットに
5 beyond LDLそしてbeyond glucose
第II章 冠動脈イベントの機序を知る
1 冠動脈イベントのプロセスを理解しよう
1 血管内皮機能とその異常
2 単球とリンパ球、樹状細胞の役割
3 動脈硬化プラークの進展
4 動脈硬化プラークの破裂
5 血栓形成を促進させるもの
TOPICS 心臓周囲脂肪組織とその意義
2 冠動脈イベントのリスクを知る
1 インスリン抵抗性は最大のリスク
TOPICS 高インスリン血症と動脈硬化
2 動脈硬化惹起性の脂質異常症
3 慢性腎臓病はなぜ悪い
第III章 冠動脈イベントを予測する
1 生理機能検査と画像診断
1 血管内皮機能を診断する
2 全身動脈の変化から予測する
3 血管壁性状に迫る
CONTROVERSY 冠動脈石灰化は薬剤治療に反応するか
4 核医学検査で冠動脈イベントを予測する
TOPICS MRIによる不安定プラークの検出
2 血液マーカーを活用する
1 炎症マーカー(高感度CRP)を臨床でどう使う
2 酸化LDLの測定とその意義
3 リポ蛋白(a)は動脈硬化性疾患の多面的危険因子
第IV章 冠動脈イベントを予防する
1 新たな糖尿病治療戦略:beyond glucose
1 SU薬、インスリンによる血糖降下療法には限界がある
2 早期治療介入の重要性
3 インスリン抵抗性に対する治療介入
4 食後高血糖に対する治療介入
5 脂質異常症を改善させる糖尿病治療薬は?
6 糖尿病治療薬を臨床でどう使う
2 新たな脂質管理:beyond LDL
1 高TG血症、低HDL-C血症をどう改善する
2 食後高脂血症とその治療戦略
3 脂肪酸の質に介入する:ω-3系多価不飽和脂肪酸
4 薬物治療の戦略とその成績
3 新たな血圧管理:beyond blood pressure
1 厳格な血圧管理が重要
2 冠動脈イベント予防におけるACE 阻害薬のエビデンス
3 見直されるβ遮断薬
ONE POINT ADVICE 炎症をコントロールする治療戦略は成り立つか?
4 抗血小板療法を活かす
1 一次予防における抗血小板薬の選択
2 末梢動脈疾患(PAD)は高リスク:抗血小板療法はどうする
3 PCI 後の抗血小板療法はどうする
4 心房細動症例における抗血小板療法
5 抗凝固療法の新しい可能性
TOPICS 心房細動症例に対するPCI 後の抗血小板療法
5 生命予後を改善する冠血行再建
1 見た目よりも血行動態的狭窄度が重要
2 PCIとCABGの境目
3 どのような症例にCABGを推奨すべきか
6 心臓リハビリテーションをどう活かす
1 冠動脈イベント低下のエビデンス
2 病棟から外来へ:シームレスにするポイント
3 何をポイントにチェックしていくべきか
4 継続可能な運動処方の要点
TOPICS 地域連携クリティカルパスで心臓リハビリテーションを継続する
7 栄養指導の要点丸山千寿子
1 インスリン抵抗性にどう介入する
2 脂質異常症にどう介入する
3 塩分制限をどう実現する
4 簡単かつ継続できる食事指導介入のコツ
TOPICS ω-3多価不飽和脂肪酸の糖尿病予防効果
8 睡眠呼吸障害を治療する
1 冠動脈疾患患者には閉塞性睡眠呼吸障害が多く合併する
2 冠動脈疾患にOSAが及ぼす影響とその機序
3 睡眠呼吸障害をどの段階から・どのように治療するか?
4 治療効果のエビデンス
第V章 特殊病態における冠動脈イベントの予防
1 慢性腎臓病をどう治療する
1 腎保護と心血管保護は両立する
2 スタチンの効果:心血管イベントを予防する.腎保護をする
3 脂質低下薬をどう使う
4 降圧薬をどう使う
5 抗血小板薬の効果は
ONE POINT ADVICE 透析患者の冠動脈イベント予防戦略
TOPICS クレメジンの冠動脈イベント予防の可能性
2 超高齢者をどう治療する
1 高齢冠動脈疾患患者に対する治療介入
2 高齢者における冠動脈危険因子の管理
3 高齢者における血行再建と薬物治療
4 病態・背景による検討
3 あなたならどうする:ケース別治療戦略
1 重症(>300mg/dL)高トリグリセリド血症
2 末梢動脈疾患の高齢患者
3 急性冠症候群後のメタボリックシンドローム
4 脳卒中後の脂質異常症
5 標準スタチン治療でもコントロールできない脂質異常症
6 低HDL-C 血症の冠動脈疾患患者
7 透析を受けている多枝病変例
8 重症高血圧を合併する脂質異常症
索引
“冠動脈疾患の治療目的は生命予後の改善である。”
何を当たり前の事、と思われるでしょう。では、現実の診療はそうなっているでしょうか。今でも、多くの医師の関心は冠動脈狭窄を効率よく見つけ出し、PCIやCABGを駆使してどのように血行再建するかというストラテジーに向けられているのではないでしょうか。“冠動脈狭窄に対して血行再建を行う”という治療戦略は狭心症症状を緩和し患者のQOLを改善するためにはとても有用です。しかし、それで患者の生命予後は改善したでしょうか。多くの臨床試験の結果が示していることは、急性期を除いて、血行再建術による生命予後の改善効果は乏しいということです。安定狭心症においては患者の予後を決めるのは“今ある狭窄”ではなく、“次に起こるイベント”であり、血行再建ではその予防ができないからです。血行再建は冠動脈疾患治療のゴールではありません。その後のリスクコントロールこそが患者の予後を左右するといえます。では、どのようにしたらよいのでしょうか。
動脈硬化のような生活習慣病を基盤とするものは、単因子で規定されるものではありません。幾つかのリスクが集積して発症するものです。そこから患者のリスク層別化という概念が生まれました。すなわち、リスクが集積した患者ほど冠動脈イベントを起こしやすい高リスク患者といえます。同じように、動脈硬化の評価においても狭窄度よりもプラーク量が多い方が高リスク患者といえるのではないでしょうか。このように視点を変えてみると、冠動脈造影でたいした狭窄がなくても高リスク患者を識別できるのではないでしょうか。
では、治療に関してはどうしたらよいでしょう。最近の薬剤はとても性能がよく、数値目標を達成することは難しくありません。しかし、それだけでは患者の生命予後が改善しないことは多くの臨床試験が示すところです。われわれが治療するのは数値ではなく、リスクの集積した患者です。まずは、生活習慣に介入する必要があります。それが心臓リハビリテーションです。そして、最大の治療ターゲットはインスリンの効きにくい体、すなわちインスリン抵抗性、です。薬剤もそのような病態を改善するものを選択する必要があります。さらに、近年、慢性腎臓病、食後高脂血症、必須不飽和脂肪酸のバランス異常などが冠動脈疾患の発症に関与することがわかってきました。このような新たな冠危険因子に対する対策も求められています。
本書はこのように変貌しつつある冠動脈疾患診療の最前線をエキスパートにわかりやすく解説していただいています。目の前の患者に健康で長生きしてもらうためにどのようにしたらよいか。本書を明日からの診療に役立てていただくことができれば、執筆者一同の大きな喜びです。
2013年秋
伊藤浩
カテーテルインターベンションに代表される冠動脈血行再建術は、効果が劇的なだけに、適応が急性冠症候群のみならず、安定狭心症や無症候性心筋虚血にまで拡大されてきました。また、冠動脈CTの普及により、不必要な診断カテーテル検査数が減少し、その結果、カテーテルインターベンションが減少するかと期待されましたが、臨床の現場ではそれほど大きな変化はないように思われます。胸痛などの症状を消失・軽減させ「生活の質」を改善させることは重要な治療目的ですが、必ずしも生命予後の改善は達成されず、現在はカテーテルインターベンションに関しては適応を厳密にするなど、見直しの時期にさしかかっています。実際、核医学検査やFFRで病態生理学的に心筋虚血を証明し、かかる病変に限定しての血行再建を行う方向へ推移し、結果として予後改善効果が実証されつつあります。
今回、『冠動脈疾患のパーフェクトマネジメント』が上梓されました。本書序文の第一文に「冠動脈疾患の治療目的は生命予後の改善である」とありますが、これは真に循環器医の思いをそのまま言葉にしたものです。編者の伊藤 浩氏は長く循環器臨床の第一線で活躍され、豊富な経験と実力を兼ね備えた気鋭の先生です。伊藤 浩氏の病態への切り口は非常に鋭く、聴衆を納得させる力に長けています。本書のなかで、冠動脈疾患の治療方法が、従来の血行再建からイベントを予防し、予後を改善する手法に変化したと述べています。1970年代後半にフラミンガム研究により冠動脈疾患の危険因子という概念が生まれました。以後、これらの危険因子の制御を目的としての薬物療法が行われてきましたが、単なるコレステロール低下療法からリポ蛋白代謝(質)そのものの改善、HbA1c低下への固執から、インスリン抵抗性の改善へパラダイムシフトしたと述べています。危険因子を有する背景まで配慮した治療が必要であるとのメッセージでしょう。
執筆陣はいずれも国内第一線で活躍中の先生方で、冠動脈疾患の病理、疫学から最新の画像診断、バイオマーカーの臨床応用、糖・脂質代謝の最新のトピックスとエビデンス、各種薬剤の使用方法、冠動脈インターベンションと冠動脈バイパス手術の比較、睡眠時無呼吸症候群や心臓リハビリテーションまでと、幅広く網羅されています。最新の話題が満載されており、一読すれば、若い先生方にとっては先輩医師を一歩先んじるきっかけとなるかもしれません。また、上級の専門医の先生方にとっては、最新のトピックスを短時間で頭に入れることができそうです。巻末には、症例別の治療戦略がまとめられています。冠動脈疾患に合併した高中性脂肪血症や単独低HDLコレステロール血症、多枝病変を有する透析患者など、日ごろよく遭遇する症例ばかりで、まさに痒いところに手が届く内容となっています。
本書が冠動脈疾患の治療に携わる多くの医療者に活用され、正しい治療が普及することを期待します。
臨床雑誌内科114巻1号(2014年7月号)より転載
評者●金沢大学医薬保健研究域医学系臓器機能制御学・循環器内科教授 山岸正和
本書の出版意図は明快である。序文にあるとおり、
1)冠状動脈疾患の治療目的は生命予後の改善である。
2)従来の「冠状動脈狭窄に対して血行再建を行う」治療戦略の生命予後改善効果は乏しい。
3)患者の予後を決めるのは「今ある狭窄」ではなく、「次に起こるイベント」である。
4)よって血行再建は治療のゴールではなく、その後のリスクコントロールが患者予後を決定する。
以下、冠状動脈リスク評価、冠状動脈イベントの機序、その予測と予防、最新の知見が簡潔かつ明瞭に解説されている。その内容は、生活習慣、糖尿病、高脂血症、高血圧、抗血小板薬、心臓リハビリテーション、栄養指導、睡眠呼吸障害と、過不足なく現在の冠状動脈疾患リスクコントロールの最前線の全体像を俯瞰できる。最新のエビデンスをもとに各章が構成されており、適宜挿入されるシェーマとメリハリの効いた記述が理解を助ける。
心臓外科医にとって、冠状動脈バイパス術(CABG)に関する内容も興味深い。CABGと経皮的冠状動脈形成術(PCI)の差異は、「虚血解除」効果に加えて「冠状動脈イベント予防」効果をもつか否かにあることが明快に解説されている。CABGのバイパスが開存していれば、冠状動脈中枢側にイベントが起きようが心筋梗塞は発症せず、心筋は虚血から保護される。PCIには、この「次に起こるイベントから患者の命を守る効果」がない。よってSYNTAX trialなど多くのランダム化比較試験(RCT)で、CABGは遠隔期の心事故と心臓死発生を抑制し、PCIに比して優れた生命予後改善効果を示している。しかし、本書ではPCIとその後に適切なリスクコントロール(パーフェクトマネジメント)を行いイベントを抑制できれば、CABGの遠隔期成績に近づいてゆく可能性もまた指摘している。
また、「冠状動脈狭窄をみたらPCI」という近視眼的医療にも警鐘を鳴らす。冠状動脈狭窄と心筋虚血は必ずしも同義ではなく、心筋虚血のない冠状動脈狭窄にPCIを行うことによる有害事象の発生がPCI全体の成績を低下させている可能性の指摘は興味深い。
ハートチームで語られるべきcardiologistの視点からみたPCIとCABGの境界や、CABGを推奨すべき症例も具体的に論じられており、患者の生涯におけるCABGの意義を理解しハートチームでの有意義な検討と最良の治療選択をすすめるためにも、心臓外科医にとってきわめて有用な良書である。
CABG術後も、漫然とした管理ではなく、本書が提唱するパーフェクトマネジメントを追求することで最高の遠隔期治療成績が得られることは、すべての心臓外科医が銘記すべきである。
胸部外科67巻4号(2014年4月号)より転載
評者●福島県立医科大学心臓血管外科教授 横山斉