リウマチ上肢の治療とリハビリテーション(DVD付)
著 | : 水関隆也 |
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ISBN | : 978-4-524-26619-7 |
発行年月 | : 2015年10月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 128 |
在庫
定価8,800円(本体8,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
関節リウマチ(RA)による関節破壊の進行防止、機能獲得に不可欠な手術とリハビリテーション療法の知識を包括する治療体系の実践書。長年RA上肢の手術に携わってきた著者が、上肢のリウマチ手術について写真・イラストと動画で詳しく解説する。さらに手術での注意点、新しい考え、独自の技術や将来の展望も伝える。重要な9種類のリウマチ手術をDVDに収録した、著者渾身の一冊。
I 総論−治療
A.治療方針の立て方
B.薬物療法〜薬剤の選び方・使い方〜
1 ブシラミン(リマチル)
2 サラゾスルファピリジン(アザルフィジンEN)
3 メトトレキサート(リウマトレックス)
4 レフルノミド(アラバ)
5 生物学的疾患修飾性抗リウマチ薬(biologic DMARDs)
6 トファシチニブクエン酸塩(ゼルヤンツ)
7 副腎皮質ステロイド
C.手術療法〜手術のタイミングと適応〜
1 機能障害と手術
2 周術期の投薬管理
D.リウマチリハビリテーション
1 物理療法
2 運動療法
3 装具と補助具
4 日常生活指導
II 術前準備
1 RAの内科的コントロール
2 投薬
3 手術体位
4 駆血
III RAに対する手術術式
1 関節固定術
2 滑膜切除術
3 断裂腱再建術
4 人工関節形成術
IV 部位別治療法の実際
1.指外科治療
A.滑膜炎
1 MP関節滑膜切除術
2 PIP関節滑膜切除術
B.手指の変形
1 槌指変形
2 ボタンホール変形
3スワンネック変形
4 尺側偏位
C.母指の変形
1 母指IP関節変形
2 母指ボタンホール変形
3 母指スワンネック変形
D.インプラント関節形成術
1 MPインプラント関節形成術
2 PIPインプラント関節形成術
3 問題点
2.手関節外科治療
A.滑膜切除術
1 手関節滑膜切除術
B.手関節の変形予防および矯正術
1 全手関節固定術
2 手関節仮固定術
3 手関節部分固定術
4 Sauve-Kapandji法
5 Palmar shelf関節形成術
3.伸筋腱障害
A.伸筋腱滑膜炎
1 伸筋腱滑膜切除術
B.伸筋腱断裂
1 指伸筋腱断裂
2 母指伸筋腱断裂
4.屈筋腱障害
A.屈筋腱滑膜炎
B.屈筋腱断裂
1 長母指屈筋腱断裂
2 指屈筋腱断裂
5.リウマチの神経障害
1 正中神経障害
2 尺骨神経障害
3 橈骨神経障害
6.リウマチ肘外科
A.滑膜切除術
1 肘関節滑膜切除術
B.人工肘関節形成術
1 表面置換型TEA
2 半拘束型TEA
3 強直肘
4 合併症
C.嚢腫
参考文献
索引
序文
私が本格的にリウマチ(RA)手外科に取り組み始めたのは、今からさかのぼること25年、広島県立障害者リハビリテーションセンター(広島県リハセンター)に赴任してしばらく経ってのことである。当時は薬物療法も効果が限定的で、関節破壊の進行したRA患者がたくさんおられた。広島県リハセンターの長期計画の中で、「障害者」と「リハビリ」という2つのkey wordsが合致したRAの外科的治療を1つの柱にしようという決定がなされた。以降、広島県リハセンターに「RA外科」の看板を掲げたが、当時所長として在任中の津下健哉先生を慕って、当センターを受診するRAの患者数は右肩上がりに増加した。津下先生と私がRA上肢の外科を担当した。当時のRA上肢外科の中心は滑膜切除術、とりわけ手・肘関節滑膜切除術であった。そして、随伴症状としての手関節の変形、脱臼、亜脱臼の矯正術を併用した。では、その手術の結果はいかほどであったかというと、滑膜切除術については、当初、関節破壊が中程度以上進行して施術したせいか多くの症例で効果は限定的で、数年もすれば関節軟骨の破壊は進行し、ある関節では動きを失い強直にいたり、またある関節では関節が吸収されてさらに不安定になる、といった結果であった。後者のプロセスをたどる症例は総じてCRP値が高く、赤沈も亢進しており、いわゆるムチランス型RAと分類され、われわれ外科医はこのようなRAに対する外科的治療がいかに無力であるかを思い知らされてきた。
ところが、1999年のメトトレキサート、そして2003年の生物学的製剤の導入によってRAの薬物治療は劇的に進歩した。これ以降、自然経過をみればムチランス型RAへ進行したと思われる多くの症例も生物学的製剤を使用することによって関節破壊を免れるようになった。その結果、RA患者に対する滑膜切除術の数は減少の一途をたどっている。RA上肢も例外ではない。代わって増えてきたのが指変形と伸筋腱皮下断裂を主訴とした患者である。これらは薬物治療で滑膜炎をコントロールできたRA患者のQOLが大幅に改善して、より活動的な生活を再開し手を使う機会が増えたこと、より人前に出る機会が増えてRAにより生じた手指の変形が気になり、再建術を希望する患者が増えたことを物語っている。
一方、RAの病勢コントロールが可能となってもすでに破壊された骨・関節軟骨は再生されず、脱臼をきたした腱・靱帯は旧に復さない、破壊、変形した関節の周辺を腱が走行するとやがて腱の脆弱化が起こり最終的に断裂にいたることは自明であろう。
多くのRA患者が医学の進歩の恩恵に浴していることは事実であるが、少数ながら薬物治療に抵抗性の関節炎があることも事実であるし、それらが放置されれば関節破壊・変形、周辺腱の脱臼・弛緩という従来のRA プロセスを歩むということも事実である。このような限局した単関節型、少関節型関節炎に対する滑膜切除術は、薬物治療と併用の下でその効果が長く続くことが明らかになりつつあり、変形矯正術もその効果が長く続くことが期待される。
本書は、今なお、そして今後も皆無とはならないRAによる上肢障害の外科的治療法を、若い手外科医に継承する目的で書き下ろした。また、私の言葉足らずを補う目的で代表的な手術手技について動画で紹介した。かなり経験論的な本になってしまったが、私の限られた経験が若いRA手外科医を目指す先生あるいはRA治療にあたられる医療スタッフの参考になれば幸いである。
最後にRA外科へ誘ってくれた恩師、津下健哉先生、動画撮影に協力してくれた広島県立障害者リハビリテーションセンターの後輩諸先生に深謝の意を表します。
2015年9月吉日
水関隆也
著者の水関隆也先生は30年近くリウマチ手の治療に精力を注ぎ、学会・研究会発表、論文発表を重ねてこられた。評者はこれらの発表や話をお聞きするたび、水関先生は臨床の現場から得られた結果や意見を正直に話されておられると感銘を受けてきた。実際、評者がリウマチ手の手術法で悩んだときに、水関先生に患者を診ていただき、手術法をご教示いただいたこともある。その患者の手術は大成功で、障害の軽い反対側にも同じ手術を行い、機能・整容とも大満足されている。このように水関先生の手術例は、すべての例が一定の成績を得て、極端な不成功例はほとんどないのであろう。
リウマチ手肘変形に対する手術は、手外科専門医の中でもリウマチ患者を診ているスペシャリストが執刀する手術である。評者は本書を読むまでそう思っていた。しかし、それでは関節リウマチ患者がそのようなスペシャリストを訪ねるか、紹介を受けるかしない限り、手術の恩恵を受けることはできない。本書には、リウマチ手肘の典型的な病態に対する手術適応と標準的な手術法が、必要にして十分に述べられており、リウマチ患者を診る機会が少ない手外科医、あるいはリウマチ患者をよく診ているがこれから手外科専門医をめざす若手整形外科医には最適な手術入門書である。一方、リウマチ手肘の手術を執刀する評者にとっても、見落としている点、技術上の疑問点、新しい技術を教えてくれる書籍である。成書には記載されることが少ない見落とし点は、「POINT」として述べられている。この「POINT」には思わず膝を叩いてうなずいてしまう。
手の手術は、手術適応、手術手技、術後リハビリテーション、患者の意欲のいずれが欠けても好結果は得られない。リウマチ手肘手術では特に術後リハビリテーションをいかに行うかによって結果が左右される。本書はすべての手術に術後リハビリテーションが解説されている点もうれしい。
著者の師匠である津下健哉先生の執筆された『手の外科の実際(第7版)』、『私の手の外科−手術アトラス(第4版)』、『肘関節へのアプローチ−後側方切開の利用』(いずれも南江堂、2011年、2006年、1991年)は長く読まれている名著である。評者は20年来これらの本を手元においてときどき読み直したり、研修医への教材に利用したりして活用している。本書も、自分の書架においてリウマチ手肘患者の手術法に迷ったとき、手術の前の確認など頻回に手にとる愛読書になりそうな予感がする。
9つの代表的な手術手技法をとりあげた付録のDVDビデオは、これまた簡潔にみやすく編集されている。著者の流れるようなメスさばきは必見である。津下先生はatraumatic techniqueを強調されておられる。1人の師匠と長く手術を一緒に行うと、知らず知らずに師匠の技が伝授されるのであろう。著者のメスさばきは、まさにatraumaticである。評者ならば【剥】離尖刀、モスキート鉗子などで鈍的に展開する箇所を、著者の15番メスは無駄なく迷うことなく処理していく。付録DVDは整形外科専門医をめざす若手整形外科専攻医にもみせたい教材である。
手外科医は写真撮影、ビデオ撮影にも長けていなければならない。術前の手の状態、術中写真、術後のリハビリテーションや結果を患者に示し、学会で発表し、後輩医師や学生を指導する際にこれらは必須である。本書の鮮明な画像、無駄のないフレーミング、アングルの写真やビデオは著者自身が撮られたものであろう。評者は研修医のころに、手の撮影の背景に使う布の色を数色試したが、結局緑色に落ち着いた。著者も緑色の布を使っている点に親近感をいだく。このような手外科オタク的な楽しみも本書は満載である。ぜひご一読いただければ幸いである。
臨床雑誌整形外科67巻5号(2016年5月号)より転載
評者●信州大学整形外科教授 加藤博之