糖尿病治療マスターのための注射療法マニュアル
導入からトラブル対処まで
編著 | : 清野弘明/朝倉俊成 |
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ISBN | : 978-4-524-26598-5 |
発行年月 | : 2020年9月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 312 |
在庫
定価4,400円(本体4,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
糖尿病治療において重要な位置を占める注射療法(インスリン、GLP-1受容体作動薬)の完全版ガイドブック。注射療法においては製剤の知識だけでなく、デバイスに関する正しい理解が必須であり、それにより良好な糖尿病コントロールが実現される。本書では、デバイスの特徴と基本操作から自己注射指導の実践トラブル時の対応までを他書にない詳細さで解説。糖尿病治療・療養指導にあたるメディカルスタッフの現場に役立つ内容が満載。
01 インスリン療法のための知識
1 インスリン製剤の種類と作用動態
2 1型糖尿病におけるインスリンの使い方
3 2型糖尿病におけるインスリンの使い方
4 その他の糖尿病(二次性糖尿病)におけるインスリンの使い方
02 GLP−1受容体作動薬療法のための知識とその指導
1 GLP-1受容体作動薬療法の種類と作用動態
2 2型糖尿病におけるGLP-1受容体作動薬の使い方
3 GLP-1受容体作動薬とインスリンとの併用療法
03 注入デバイスの特徴
1 注入デバイスの開発と構造・機構面からみた特徴
2 主な注入デバイス選択のための着目点
04 注射製剤の品質維持と識別
1 インスリンおよびGLP-1受容体作動薬の品質維持
2 注入デバイスの品質維持
3 製剤の識別
05 注射部位とケア
1 注射部位(皮膚・皮下,筋肉)
2 注射部位のケア
3 硬結と防止策(リポハイパートロフィー,注射部位のローテーション)
06 注射針の特徴・選択と適切な使用
1 シリンジの適切な使用
2 注入デバイス専用注射針の規格と適切な使用
3 適正な穿刺法
4 針刺し損傷と廃棄法
07 自己注射療養指導の進め方
1 医療従事者の役割
2 注射に関する心理的課題
3 治療に関する教育支援
08 自己注射指導の実際
1 患者説明のポイント
2 注射液の混濁と注入タイミング・注射時間の指導
3 注入デバイスの基本的操作手順と注意点
4 ライフスタイルを考慮した注入デバイスの選択・指導
5 CSIIとCGM
6 血糖値自己測定の指導−2型糖尿病の場合−
7 低血糖への対応
8 シックデイの対応
9 運動療法時の留意点
09 グルカゴン注射指導の実際
1 グルカゴン
2 注射手順
10 糖尿病治療用注射製剤の個別指導のポイント
1 自己注射に抵抗感がある患者への指導
2 高齢者における指導
3 小児における指導
4 妊娠における指導
5 視力低下のある患者への指導
6 片麻痺のある患者への指導
7 糖尿病神経障害が強い患者への指導
8 認知症の患者への指導
11 糖尿病治療用注射製剤使用中のトラブル対処法
1 インスリン療法の副作用対策
2 GLP-1受容体作動薬の副作用対策
3 注射を忘れた場合
4 注入液が出ない場合
5 液漏れがあった場合
6 カートリッジが割れている場合
7 注入液が凍ってしまった場合
8 カートリッジ内に空気が入っている場合
9 カートリッジ内が褐色になった場合
10 カートリッジのゴム栓が膨らんでいた場合
11 注入ボタンが重い場合
12 注射針が曲がっていた場合
12 糖尿病治療用注射製剤使用におけるセーフティマネジメント
13 災害時への備えと対応
資料
文献
索引
序文
近年、糖尿病治療を取り巻く環境は激変しています。インスリン注射製剤自体の進歩、たとえば「超・超速効型」と言っても過言ではない薬剤が開発され、2020年に2剤が使用可能となりました。これらの薬剤の登場で、食後インスリン投与を治療の選択肢とすることがより可能になったと考えています。食事量に合わせ、インスリン投与量を決めなければならない状況(たとえばシックデイ時)で威力を発揮するインスリン製剤です。患者さんにとって治療薬の選択肢が増えることは血糖値管理やQOLにも好ましい影響があると想像されます。
GLP-1受容体作動薬は2010年に使用可能となった薬剤です。この10年、遺伝子組換え技術により、1週間に1回の注射で治療が行える薬剤も開発され、薬剤自体の進歩を実感しています。さらに注射デバイスも改良され、針が見えない状態で自己注射できるデバイスも開発・使用されています。医療スタッフはこれらのデバイスの特徴を理解し、操作法につき熟知し、患者さんに説明する必要があります。またデバイスのトラブルがあった場合の対処法も求められます。
さらに2020年には、基礎インスリン製剤とGLP-1受容体作動薬が1つのデバイスで注射できるインスリン製剤、デグルデク・リラグリチド配合剤、グラルギン・リキシセナチド配合剤の2剤が開発されました。両薬剤の臨床治験に参加させていただきその効果を目のあたりに実感いたしました。
本書は、2007年10月に刊行した『インスリン療法マスターガイドブック』(南江堂)と年8月に刊行した『糖尿病治療のための注射手技マニュアル』(南江堂)を合わせて、自己注射療法をより適正に推進するための指針として企画したものです。この企画にご賛同いただき、著者として本書制作の実現にご協力いただきました清水一紀先生、和田幹子先生に感謝申し上げます。
本書の特徴は、患者さんにとって最適な自己注射デバイスをいかにして選択するか、デバイスの誤操作によりどういった問題が起きるのか、その対処法につき、きめ細かに記載している点にあります。
インスリンが世界で初めて使用されたのが1922年、それから約100年の年月が経ち現在でもミラクルドラッグであり続けています。GLP-1受容体作動薬が使用されてからは10年目になりました。編著者の2人の恩師である故阿部隆三先生に深謝し、インスリン療法100年という節目を目前に控え患者さんと医療スタッフにとって本書がお役に立てれば望外の喜びであります。
最後に本書の刊行に大変お世話になりました南江堂、大野隆之氏、米田博史氏、吉野正樹氏に感謝申し上げます。
2020年8月
清野弘明
朝倉俊成
インスリン発見の地,トロント大学は「100周年シンポジウム」を2021年4月にWEBで開催する.私も参加した準備委員会は,数年前から「2021年に糖尿病はどうなっているか?」の討論を始めた.私は「1型糖尿病はiPS細胞などの再生医療の進歩で,治癒する病気になっているべきだ」と述べた.他のメンバーは,「インスリン製剤の進歩で,1型糖尿病患者の予後も良好になっているよ」と強調したが,私は「いまだにインスリン療法は非生理的だ! だって皮下投与では,健常人の“糖のながれ”を再現できないのだから」と主張した.
一方,2型糖尿病患者に対しても,いまだにインスリンは“magic drug ! miracle drug !”であることは間違いない.「そろそろインスリン治療が必要と思うので,よろしく」と紹介されて受診してきた高血糖例に対して,躊躇なく外来診療で緻密なインスリン療法を開始し,速やかに正常血糖応答を維持し,内因性インスリン分泌を回復させ,“インスリン療法から離脱させる”ことすら,専門医の間では普及してきた.しかし現状は,本邦でインスリン療法を長期間受けている2型糖尿病患者130万人のなかで,HbA1cが7%未満になっている例,すなわちインスリン療法から離脱できる可能性がある例は20%未満にすぎない.おそらく膵β細胞インスリン分泌能が回復するためのthe point of no returnを超えてしまってからのインスリン治療導入であったと捉えざるを得ない.すなわち,「インスリンが“敗戦処理手段”になってしまっている」のではなかろうか.
私どもも含め,たとえ軽度であっても高血糖を放置することが,内因性インスリン分泌を低下させ続けることの機序が,膵β細胞や分子のレベルで次々と証明されてきている.
本邦の2型糖尿病患者の寿命も長くなり,これからの人生100年時代,血管障害や認知症がなく,元気に過ごしてもらうためには,内因性インスリン分泌を活用した治療を長期間継続することが必要となる.進歩した種々の薬剤を巧みに用い,血糖応答をよくすることで,内因性インスリン分泌を保持し,それを最大限活用し,健常人の“糖のながれ”を再現してあげるように,緻密な診療を続けていくことも可能になってきている.インスリン療法ですら,その一助になっていることをご理解いただきたい.
本書は,近年驚くべきスピードで進化し続けている,種々のインスリン製剤,その注入機器,さらにはその効果を瞬時に判定し得る血糖自己測定機器の進歩を踏まえ,それらをどのように活用し,的確な治療を行うか,などに関して,緻密に,具体的にわかりやすく解説した,すばらしい書籍といえよう.
研修医は言うに及ばず,糖尿病の方を多く診療してはいるが,外来診療でインスリン療法開始を躊躇している多くの先生方の教科書として,ぜひお読みいただきたい.自信をもって,インスリン療法を開始することができ,インスリンの実力を納得していただける,と確信している.
臨床雑誌内科127巻4号(2021年4月号)より転載
評者●順天堂大学 名誉教授 河盛隆造