不整脈症候群
遺伝子変異から不整脈治療を捉える
編集 | : 池田隆徳/清水渉/橋尚彦 |
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ISBN | : 978-4-524-26596-1 |
発行年月 | : 2015年4月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 204 |
在庫
定価7,150円(本体6,500円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
遺伝性不整脈として知られる「Brugada症候群」「QT延長症候群」「QT短縮症候群」「早期再分極症候群」と、近年の研究で遺伝子変異の関与が明らかになりつつある「WPW症候群」「カテコラミン誘発多形性心室頻拍」「不整脈原性右室心筋症」を“不整脈症候群”として、その基礎から最新の診断・検査法、治療の実践までを網羅。“不整脈症候群”のエキスパートらが、ハイリスク患者の識別、突然死の予防などの診療のノウハウを解説し、押さえておきたいポイントを明確に提示した新たな診療指針。
I 不整脈症候群とは何か
1.不整脈症候群と呼ばれる新しいカテゴリー
2.不整脈症候群の診断と治療の概略
II QT延長症候群
1.QT延長症候群の定義と病態〜torsade de pointes(TdP)とは?〜
2.QT延長症候群の分類〜分子遺伝学の進歩と分類法〜
3.QT延長症候群の臨床診断〜どんな検査が必要か?〜
4.QT延長症候群の遺伝子診断〜遺伝子診断の意義は?遺伝子型別の症状とは?〜
5.QT延長症候群の治療の実際〜遺伝子診断はどこまで活かせるか?〜
III QT短縮症候群
1.QT短縮症候群の定義〜QT間隔の診断基準〜
2.QT短縮症候群の臨床像〜発作の危険因子と心電図所見〜
3.QT短縮症候群の遺伝子診断〜遺伝子診断の有用性〜
4.QT短縮症候群の治療の実際〜遺伝子診断は活かせるか?無症候患者の治療はどうする?〜
IV Brugada症候群
1.Brugada症候群の病態〜中高年男性の突然死「ポックリ病」〜
2.Brugada症候群の日本と世界の疫学〜欧米よりも日本で多い〜
3.Brugada症候群の臨床診断〜“Brugada型心電図所見”って何?〜
4.Brugada症候群のリスク評価〜ハイリスク患者を絞り込む〜
5.Brugada症候群の遺伝子診断〜有効性と限界〜
6.Brugada症候群の治療の実際〜無症候患者の治療はどうする?〜
V 早期再分極(J波)症候群
1.早期再分極(J波)症候群の病態と疫学〜Brugada症候群との違いとは?〜
2.早期再分極(J波)症候群の臨床診断〜健常者の10%にみられる?〜
3.早期再分極(J波)症候群のリスク評価〜非侵襲的検査でハイリスク患者は識別できるか?〜
4.早期再分極(J波)症候群の遺伝子解析〜危険なJ波は見極められるか?〜
5.早期再分極(J波)症候群の治療の実際〜どのような患者にどのような治療をする?〜
VI カテコラミン誘発多形性心室頻拍
1.カテコラミン誘発多形性心室頻拍の病態〜運動中に失神?〜
2.カテコラミン誘発多形性心室頻拍の遺伝子解析〜高い遺伝子診断率〜
3.カテコラミン誘発多形性心室頻拍の治療の実際〜最適な治療を行うために知っておくこと〜
VII 不整脈原性右室心筋症
1.不整脈原性右室心筋症の病態〜心筋が脂肪変性する?〜
2.不整脈原性右室心筋症の遺伝子診断〜半数に家族歴あり?〜
3.不整脈原性右室心筋症の治療の実際〜心筋症の進行による影響とは?〜
VIII WPW症候群
1.WPW症候群の病態と頻拍発作〜どんな頻拍が合併する?〜
2.WPW症候群における遺伝子変異の関与〜遺伝子変異から副伝導路が?〜
3.WPW症候群の治療の実際〜高い成功率のカテーテルアブレーション〜
索引
序文
不整脈疾患は遺伝子診断が最も進歩している分野のひとつである。1990年代、パッチクランプ法による電気生理学的手法と急速に進歩した分子生物学的手法の組み合わせによって、先天性QT延長症候群の原因遺伝子が次々に明らかになった。KCNQ1、KCNH2、SCN5Aの遺伝子変異によりIKs、IKrの減少、INaの増加をきたす患者がそれぞれLQT1、LQT2、LQT3と命名され、遺伝子型(genotype)に応じた表現型(phenotype)−心電図波形の特徴、失神が生じる状況、有効な治療法−が判明し、個々の患者に対する治療や生活指導に活かされるようになった。カテコラミン誘発多形性心室頻拍(CPVT)でもリアノジン受容体(RYR2)変異が見つかった症例は心イベントが多いことがわかっており、遺伝子検査は突然死の予知・予防に役立っている。不整脈原性右室心筋症(ARVC)ではRYR2に加え、デスモゾーム構成蛋白に関連する遺伝子に多様な変異が報告され、また欧州の専門家による診断基準改訂版ではW遺伝子変異の存在Wが大項目に追加された。
一方、Brugada症候群および早期再分極(J波)症候群では、遺伝子変異が同定される頻度は高くない。Brugada症候群や早期再分極(J波)症候群に類した波形は健常者にも多く認められるため、いわゆるWハイリスク群Wの抽出は急務である。遺伝子診断の結果がどの程度の重みづけになるかなど、今後解明されるべき課題は少なくない。
このような背景を踏まえ、遺伝子変異が関与し、突然に不整脈発作をきたす疾患群をW不整脈症候群Wとして新たに提示し、「基礎的知識から最新の診断・検査法、治療の実践法までを網羅した新たな診療指針となる書籍を作成しよう」と企画立案されたのが本書である。上記疾患に加え、WPW症候群でも一部の患者では遺伝子変異が認められることから、項目として設けることにした。執筆者はいずれも、現在、当該分野において世界の最先端を熟知している先生方ばかりである。
遺伝性不整脈はとかく難解というイメージがあるが、実臨床に携わる医師は避けて通れない。本書では、診療の要点(エッセンス)がより理解しやすくなるように、各項目の冒頭にPOINTを設け、また実際の診療の具体的なイメージがわくように各疾患の症例をコラムとして提示した。それぞれの疾患の病態把握に必要な基礎知識がわかりやすく解説されており、診断から治療までを効率的に理解できる内容が網羅されている。循環器医や不整脈医のみならず、研修医を含む若手医師にとっても非常に有益な書籍に仕上がったと確信している。本書が多くの読者の手に渡り、診療に活かされることを願ってやまない。
2015年3月
池田隆徳
清水渉
橋尚彦
古来より家族性に発症する病気は知られており、それらの病気のもとに遺伝子の関与が考えられていた。近年、分子生物学の発達により遺伝性疾患の原因遺伝子の解明が可能となり、不整脈疾患では1995年に初めてQT延長症候群の2つの遺伝子が同定され、遺伝性不整脈疾患の機序解明におけるRosseta Stoneと呼ばれている。その後、原因遺伝子の検索の研究が進み、遺伝性不整脈疾患の原因遺伝子が多く同定されてきた。さらに、同じ疾患でも異なる複数の原因遺伝子が関与していることが判明し、遺伝子の違いで疾患の細分類がされるようになってきた。最近、これらの遺伝子の違いによる臨床上の特徴や生命予後の違いなどが報告され、個々の遺伝子異常に基づく治療法も提案されている。しかし、この最新の遺伝子診断の情報を正しく理解し、実際の臨床に応用している臨床医が少ないのが現状である。これは、臨床医にとって遺伝子の理解が難しいことに加えて、現時点では遺伝子診断と臨床診断とが1:1に対応しない曖昧な場合が少なくないことが原因の一つであると考えられる。本書は、遺伝性頻脈性不整脈疾患における遺伝子診断と臨床診断とのギャップを埋めることを目指した斬新で意欲的な本である。
本書は、遺伝子変異の関与が判明している頻脈性不整脈疾患(QT延長症候群、QT短縮症候群、Brugada症候群、J波症候群、カテコラミン誘発多形性心室頻拍、不整脈原性右室心筋症およびWPW症候群)を不整脈症候群として分類し、各疾患の臨床的特徴と遺伝子異常を解説し、さらに遺伝子情報が実際の臨床にどのように生かされているのかを説明している。
本書の基本構成は、1)臨床診断、2)遺伝子診断、3)遺伝子診断を生かした治療、の3つとし、これに個々の疾患に合わせた項目を設けている。内容は、わが国および世界から発信された最新のデータを、図と表を多く提示して、簡潔にわかりやすく解説している。また、「トピックス」を随所に設けて臨床現場でのさまざまな疑問に答えてくれている。「症例提示」のCOLUMNでは、筆者自身が経験した症例に基づき、どのように診断し、またどのような考えに基づいて最適な治療を選択したかを解説してくれる。これにより、遺伝子診断の有用性のみならず、臨床応用としての現時点での遺伝子診断の限界が理解される。
執筆を担当した医師は、実際に遺伝子診断を参考にして患者を治療している不整脈の第一人者である。したがって、本書は、遺伝子診断と臨床現場を結びつけてくれる貴重な本であり、不整脈専門医・循環器専門医には有用な参考書となり、一般内科医には不整脈症候群患者における診断・治療のよい指針となり、さらにレジデント・研修生には遺伝子からの情報をいかに臨床に生かすかを学ぶ手がかりとなる本である。
臨床雑誌内科116巻6号(2015年12月増大号)より転載
評者●心臓病センター榊原病院循環器内科研究部長 大江透