イラストでわかる 実施困難症例の大動脈ステントグラフト
Visualization of Expert Skills and Techniques
編集 | : 宮本伸二/本郷哲央 |
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ISBN | : 978-4-524-26589-3 |
発行年月 | : 2015年10月 |
判型 | : A4 |
ページ数 | : 262 |
在庫
定価13,200円(本体12,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
大動脈ステントグラフト内挿術のエキスパートが明かす、自らの技術とこだわり、哲学が満載のビジュアルな手技書。一筋縄ではいかない症例に対していかに安全にステントグラフトを使いこなすか、エキスパートたちの思考と技術を生き生きとしたコメントで解説。各術者の数百に及ぶシェーマは編者自らの描き起こしである。
第I章 腹部大動脈近位部の要因
A Angled neck(屈曲ネック)
1.高度屈曲ネック例へのExcluder留置
2.Techniques in Endurant
3.Scrum techniqueによる高度屈曲ネックに対するlanding法
B Short neck(ショートネック)
1.Snorkel EVAR
2.Fenestrated stent-graft(開窓ステントグラフト)
a.Manufactured(custom-made )fenestrated stent-graft
b.Physician-modified fenestrated stent-graft
C Dilated or irregularly shaped neck(拡張,不整形ネック)
1.術中残存するtypeI endoleakに対するNBCA.LPDを用いたneck remodeling technique
D Narrow terminal aorta(大動脈末端部狭小例)
1.Powerlink and Endurant extension and others
第II章 腹部大動脈遠位部の要因
A Dilated iliac artery
1.Iliac branch device(IBD )
B Tortuous iliac artery
1.INCRAFT AAA Stent-Graft System
第III章 上行・弓部大動脈(近位部)の要因
A Zone 0
1.Chimney technique
2.Double chimney technique
3.Real chimney technique
4.Squid capture法によるin situ graft fenestration technique
5.Debranch
a.Total debranch
b.下行大動脈をinflowとしたtotal debranch TEVAR
6.残存解離拡大に対してdouble side branch deviceを用いたtotal endovascular arch repair−弓部大動脈疾患に対する低侵襲血管内治療のさらなる拡大
7.Elephantless arch
B Short neck(ショートネック)
1.Gore conformable TAG スローデプロイ
2.Najuta−bare metal stent留置による左鎖骨下動脈の血流温存
第IV章 胸腹部の要因
1.Cook t-Branch
2.腹部debranch TEVAR
第V章 大動脈解離
1.急性大動脈解離におけるエントリー閉鎖−分枝虚血を伴ったB型急性大動脈解離に対する血管内治療
2.Custom-made fenestrated stent-graft
3.cTAGを用いたcomplicated type B aortic dissectionのTEVAR
4.Open stent
5.慢性大動脈解離における選択的リエントリー閉鎖
第VI章 Type II endoleak
1.TEVAR後のtype II endoleak
2.EVAR後のtype II endoleak−double coaxial microcatheter techniqueによるtransarterial embolization
索引
序文
『すべてのイラストを僕が描く手順書』。南江堂の会議にこの企画がかけられた時、「忙しい宮本先生には無理に決まっている」と言われたのがまずかった。負けん気の強い天邪鬼はつい常軌を逸し受けて立つ。当然根拠なしの「やってやるさ!」はすぐに忸怩たる思いに変わった。最初に直面した難題は、フリーハンドでカテーテル(平行な二重線)を描くことだ。通常の術図では味わい出しに一役買う糸針表現とは別物だ。求められるのは無機質で綺麗な細い管。この場合、味わいは汚なさに他ならない。当初、力技でPC 上で最大に拡大し、1ピクセルごと修正を加えて整えた。ひとつピクセルを埋めていく度にこの本のゴールテープがかすんでいった。半年ほどして素早く二重線を描けるソフトの裏ワザを発見。すごい、やった! と喜んだ瞬間、これまで費やしたあの時間はいったい……と後悔の念に苛まれた。残念ながら、ことほど左様に僕のイラストレータとしての技量は作業とともに進化した。いやおうなしにその過程を見せられる読者の方には本当に申し訳なく思う。通常、血管内治療手技の説明では透視像が中心となる。あえてこの本では基本的に透視像は載せない方針とした。マンガ本的な親しみやすさを持たせたかったのと、写真を読影する時間を省略するためだ。実は、「すべてのイラスト」は「すべてをイラスト」でもあった。著者の方が挿入された透視図はあくまでも資料として用い、あらかじめ配置された図(写真)を基軸に僕が手技を分割しイラスト化していった。これだけは実際に現場を知らないイラストレータにはできない。稚拙な素人イラストの許しを乞えるとすればこの点だけだ。ただ僕としては、手技を忠実に図示化する最大限の努力をしたとはいえ、著者の方からのチェックであまり訂正をされなかった時は驚いた。決して僕に対する気兼ねではないと思いたいが。
イラストはさておき、分担執筆していただいた日本のエキスパートの方々の知識、技、こだわりは半端なくすごい。しかし、専門であるが故に「言わずもがな」も出てくる。そこで原稿をいただくとまず僕は主にイラストを描く立場から、本郷先生はinterventionistとしての立場から先生方に質問メールを送った。最初はあくまでも僕らが理解したい気持ちだけからだった。だが、返信メールを読んでいるうちにこれがきっとこの本の肝になるぞ! と確信した。熟練とはよく言ったもので、まさに熟したエキスパートの方々から僕と本郷先生で濃厚エキスを絞り出すこの作業が大切だったのだ。そうしていただいた珠玉の返答はまさに宝石としてこの本にちりばめられている。このような過程を経て完成したこの本は単なるテクニックを伝えるためだけのHow to本ではない。読み進むにつれ「神は細部に宿る」の神、行き着いたエキスパートの方々に宿っている神を感じ、共有していただけると信じている。
この本の内容の多くはinstruction for use(IFU )外であり、いわゆるoff label使用で先端医療の領域に入る。僕のせいで作業が遅滞してしまい、あろうことか厚生労働省が各医療機関へ指導に入るという先進医療への逆風まっ只中の出版となった。ありきたりの治療では治せない目の前の困っている患者さんをなんとか治そうと努力と工夫をすることで、医学、ことに外科も含むinterventionは発展してきた。この本を手に取る方はそういった向上心の強い方だろう。大事なことはうっとうしい手続きを端折らず、患者さん、組織、そして自分自身に正直にfeedbackをかけながら行っていくことだと思う。
さて、布団の中で思いついた、『寝る前に読んで楽しむ大人の絵本』としてこの本ができあがっているかどうか……。
2015年9月吉日
宮本伸二
2006年に腹部大動脈ステントグラフトZenith(Cook Japan社、東京)が上市されてから、10年が経過した。当初、形態的に適応となる症例は約半数と考えられていた。上市後、腹部大動脈瘤に対するステントグラフト手術は年々増加し、2015年末で累計50,000手術行われている。手術における比率も増加し、全国平均で50%に達し、90%以上の施設もある。胸部では下行大動脈瘤だけでなく、合併症を有するStanford B型大動脈解離の第一選択となっており、その適応はさらに拡大している。当初は、カテーテルとガイドワイヤーの違いもわからなかった(心臓)血管外科医が、放射線科医や循環器内科医に教えを請いながら、技術を学んだ。筆者の施設でも放射線科医が中心となって行っていたが、助手を務めることで、ガイドワイヤーの使い方、カテーテルの選択などを覚えた。しかし、複数科にわたるコラボレーションを長く良好に保ってきた施設は、全国的にまれである。
大分大学は、初期から心臓血管外科・宮本伸二先生と放射線科・本郷哲央先生のコンビネーションが良好で、われわれが手本としてきた施設である。しかも、お二人の講演・発表を聞くと、常に術式の新たな工夫が散りばめられている。確か2010年の大動脈ステントグラフト研究会であったと記憶しているが、in situ fenestrationの術式を聞いたときは、あまりに斬新なアイデアに衝撃を受けた覚えがある。その他にも、学会や研究会で毎回のようになんらかの工夫された術式発表を拝聴するのが楽しみであった。術式のアイデアに感銘を受けるだけでなく、発表の随所に宮本先生のイラストレーションが挿入されている。これが、ほのぼのとしたタッチのイラストであり、手術を行う術者が描いたイラストなので、細部に手技のポイントが散りばめられている。
本書は、これまでの手術書と大きく異なり、写真、放射線画像がほとんどない。分担執筆した全国のエキスパートたちが提出した写真、図に宮本先生と本郷先生の理解・解釈が加わり、新たなイラストとして描かれている。プロが描いたリアルなイラストではなく、ひたすら術者目線で描かれたイラストで構成されている。本文を読まなくても、イラストだけで手技の基本・要点がよくわかる。随所に記載されている「POINT」には、ピットフォールに陥らないためのアドバイスが記載されており、明日の臨床から役立つことばかりである。本書で紹介されている症例には、典型的なinstruction for use(IFU)適合症例は1例もない。タイトルどおり、ひたすら実施困難なIFU外症例のオンパレードであり、全国のエキスパートたちの創意工夫が、宮本先生のイラストをとおして伝わってくる。まさに、編者らの思い描いたとおりの本が出来上がったといえるであろう。
本書の序文で宮本先生が、「寝る前に読んで楽しむ大人の絵本」と述べておられるが、筆者は机の片隅において、仕事に疲れたときにパラパラと読む本、治療困難な症例に遭遇した際に何かよいアイデアはないか貪る本として愛用している。本書は、決してステントグラフト手術の入門書ではない。ある程度ステントグラフトを行う自信がついたステントグラフト指導医必読の本であるといえる。本書を読むことによって、本邦のステントグラフト比率はさらに増加するであろう。
最後に、大分大学の術式の工夫には、squid capture法やfishing rod法(本書未収載)など釣りに関連したネーミングが出てくる。休日に豊後水道で釣り糸を垂れている宮本先生の姿を想像しながら、この書評を書いた。
胸部外科69巻3号(2016年3月号)より転載
評者●愛知医科大学血管外科教授 石橋宏之