ここが知りたかった向精神薬の服薬指導
著 | : 竹内尚子 |
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ISBN | : 978-4-524-26435-3 |
発行年月 | : 2012年10月 |
判型 | : A5 |
ページ数 | : 238 |
在庫
定価3,520円(本体3,200円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
服薬指導に苦手意識を持ってしまいがちな向精神薬。エキスパート薬剤師は、処方せんから疾患や症状を推測し、その処方の背景、患者の様子、聞き取りなどから情報を絞り込んで、服薬指導に繋げている。本書では複数回来局も含めた具体的処方例を満載し、“プロ”の思考過程が体感できる。向精神薬の服薬指導の流れがわかり、自信を持てる待望の一冊。
I 向精神薬の服薬指導がわかる
症例1-1 うつ病~初来局~
症例1-2 うつ病~来局2回目~
症例1-3 うつ病~来局3回目以降~
(仮定1) 処方が増量された場合
(仮定2) 副作用で薬剤変更の場合
(仮定3) 効果不十分で薬剤追加の場合
症例2 うつ病 再発~副作用で困っている例~
症例3 うつ病~難治例・多剤併用~
症例4 うつ病~難治例・非定型抗精神病薬併用~
症例5 うつ病~不眠の訴えが強い例~
症例6 双極性障害 繰状態
症例7 双極性障害 うつ状態
症例8-1 不眠症~初来局~
症例8-2 不眠症~来局2回目~
(仮定1) 処方が増量された場合
(仮定2) 効果不十分で薬剤変更の場合
症例8-3 不眠症~3ヵ月後、症状改善により薬剤中止~
症例9 レストレスレッグス症候群
症例10 統合失調症~初発で、本人と家族に指導~
症例10-2 統合失調症~来局2回目~
症例10-3 統合失調症~3年後、コンプライアンス悪化により症状悪化傾向~
症例11 統合失調症~薬剤切り替え中~
症例12 統合失調症~難治例・多剤併用~
症例13 統合失調症~気分安定薬併用~
症例14 パニック障害~初来局~
症例15 社会不安障害~初来局~
症例16 強迫神経症~初来局~
症例17 せん妄~非定型抗精神病薬による治療~
症例18-1 認知症~初来局、中核症状に対する初期治療~
症例18-2 認知症~1年後、中核症状に対する継続治療~
症例19 アルコ-ル依存症~初来局~
症例20 適応障害~初来局~
II 向精神薬の薬理がわかる
1 三環系抗うつ薬(TCA)
2 四環系抗うつ薬
3 選択的セロ卜二ン再取り込み阻害薬(SSRI)
4 セロ卜二ン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)
5 その他の抗うつ薬(スルピリド、SARI、NaSSA)
6 定型抗精神病薬
7 セロ卜二ン・ドパミン遮断薬(SDA)
8 多元受容体作用抗精神病薬(MARTA)
9 部分作動薬
10 ベンゾジアゼピン系薬
11 その他の睡眠薬(バルビツール酸系、ラメルテオン)
12 気分安定薬
13 認知症治療薬
付録 薬剤一覧
参考支献・資料
索引
厚生労働省は2011年に地域医療の基本方針となる医療計画に盛り込むべき疾病として「がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病」の4大疾病に、新たに「精神疾患」を加えて「5大疾病」とする方針を決めました。現在、精神疾患の患者数は300万人を超え、さらにうつ病や認知症の患者数は年々増加しており、重点的な対策が必要と判断されたためです。すでに精神科医療への敷居を低くする動きも起きており、大都市では各駅前に精神科クリニックがみられるようになりました。
一昔前までは精神科で処方される向精神薬は粉薬で院内調剤と決まっていましたが、現在は多くの精神科クリニックで院外処方せんを発行しています。そのために多くの薬剤師が精神疾患患者さんの処方せんを応需した経験を持っており、その服薬指導に際して「症状をどこまで聞いてもよいのか」「こちらの説明は理解されているのか」「適応外処方が多く、的外れな説明となっていないか」などの不安を持ちながら、患者さんに対応している話をしばしば聞くようになりました。
本書の内容は大きく2つに分かれ、前半では精神疾患患者さんが初診時、あるいは2、3回目と続けて来局され、そのつど症状が変わっていく過程を想定し、それぞれのタイミングで推奨される質問や服薬指導のポイン卜を記載しました。各症例ごと確認すべき事項をあげていますが、紙面の都合上、患者さんからの仮想の返答を1つに絞って展開しています。実際には、ここまで一度には確認できない場合もありますので、患者さんの状況に合わせて質問を選んでください。
2000年以降海外から多くの向精神薬が導入され、精神科の薬物治療は様変わりしました。効果の幅が広く、副作用が少ないという特徴を持った医薬品が登場したことにより、さらに多様化した薬物治療に向けて、本書の後半ではより理解を深めるよう簡単な薬理解説を行い、付録の薬剤便覧も設けました。前半の症例であげた処方が他の医薬品に置き代わった時に、どの点に着目すればよいか考える際にご利用ください。
薬剤師が、精神疾患患者さんにとって薬物治療を進めるうえでのよきパートナーとなれるよう、本書がお役にたてれば幸いです。
2012年9月
竹内尚子
本書は、竹内尚子先生による薬剤師の立場から書かれた服薬指導に関する書籍である。タイトルは「向精神薬の…」となっているので、薬物という物質に関する書籍という印象をもたれるかもしれないが、内容はむしろ精神疾患の薬物療法を最適化するために薬剤師が行うべき事柄をわかりやすくまとめた1 冊といったほうが適切であろう。薬物療法は精神疾患の治療法の一つであるが、適切な薬物療法を行ってこそ、精神療法等のほかの治療法の成果も十分あげられるので、その意味では治療全体の土台のような役割を果たしている。そして、「薬物療法を最適化するためにきわめて重要な医療行為が服薬指導である」という認識が不可欠となっているのが現
在の精神科薬物療法なのである。換言すれば、「服薬指導が適切かどうかで、一人一人の患者の長期予後がまったく変わってきてしまうほどの重要性をもっている」とみなされるべきなのである。その意味では、今日精神疾患の治療に携わる薬剤師ほど精神科医のパートナーといえる職種はないのである。かつての薬剤師にあった古いイメージは、薬物という物質の特性と副作用に詳しい職種というものであったが、そこから脱却するためにも本書のような優れたガイドブックを世に送り出す必要があったの
である。
本書の構成は第T部の「向精神薬の服薬指導がわかる」と第U部の「向精神薬の薬理がわかる」、付録の「薬剤一覧」、「参考文献・資料」からなっているが、中心はあくまでも第T部であり、以下は実践のための参考資料という位置付けである。本書の大きな特徴は、第T部でとられている記述の体裁である。薬剤師が日常遭遇することの多い事例・場面を類型化し、それぞれに対する標準的な解説を加えながら進行する形となっている。これは簡単なようにみえて、実は書く側としてはかなりの力量を要する方法であるが、臨床の実際の場面がありありと浮かぶように記述する形をあえて選んだところに、著者の長年にわたる経験が凝縮されているといえよう。
著者の竹内先生は、わが国でも数少ない精神科領域の専門薬剤師の一人である。筆者は長年にわたり竹内先生と向精神薬に関するあらゆる仕事をともにしてきたが、その中で常に感じてきたことは、先生は薬剤師という職種の中にだけとどまってはいない、精神医療を大きな視点で捉えられる稀有の存在であるということであった。本書が先生の経歴の重要な到達点であることは間違いないが、さらにこれを通過点として先生のお仕事をいっそう発展させていくものと確信している。
評者●石郷岡純
内科111巻3号(2013年3月号)より転載