マトリックスでわかる!漢方薬使い分けの極意
著 | : 渡辺賢治 |
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ISBN | : 978-4-524-26434-6 |
発行年月 | : 2013年4月 |
判型 | : 新書 |
ページ数 | : 182 |
在庫
定価3,080円(本体2,800円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
患者さんの状態に合わせて処方するべき漢方薬がマトリックスからひと目でわかる!「日本内科学会認定医制度の研修カリキュラム」をもとに、漢方薬がよく使われる疾患・症状を厳選して掲載。(1)「マトリックス」から候補薬を選び出し、(2)「処方一覧表」で処方薬を決定できる。漢方医学の基礎知識や、漢方薬の便覧も収載。はじめて漢方薬を使う、もっと幅広く使ってみたい医師・研修医必携の1冊。
I.漢方薬が第一選択薬となりうる疾患/症状
1.感冒(急性上気道炎)
2.慢性胃炎
3.食欲不振
4.下痢、腹痛
5.便秘
6.アレルギー性鼻炎
7.頭痛
8.腰痛
9.関節痛、痺れ、神経痛
10.排尿障害
11.不安神経症
12.不眠
13.更年期障害、月経困難症、月経前症候群
14.浮腫
15.全身倦怠感
16.冷え症
II.西洋薬と漢方薬の併用で相乗効果が得られる疾患/症状
1.高血圧
2.脂質異常症、糖尿病、肥満
3.気管支喘息
4.COPD
5.緩和ケア
6.化学療法・放射線療法の副作用軽減
7.術後の回復
8.慢性肝炎
9.湿疹、アトピー性皮膚炎
III.漢方医学とは
1.漢方医学の本質
2.証の考え方
3.漢方の診察法
4.漢方薬を投与する際のコツ
付録(便覧)
索引
コラム
・まずは中を整えるのが漢方の基本
・世界四大伝統医学
・利尿薬と利水薬
・未病
・漢方薬の名前の命名
・中医学と日本漢方の違い
・東西医学の融合はわが国の文化
・漢方のエビデンス
・保険診療での漢方
・漢方の安全神話が崩れた日
・中庸が大事
・生体をシステムとしてとらえる
・「異病同治」と「同病異治」
・腹診は日本独自の診察法
・漢方薬の剤形
・漢方薬が組み合わせである理由
昨今では9割近くの一般臨床医が漢方薬を日常的に使用しており、特に高齢者や婦人科領域では第一選択薬として漢方薬が処方されることが多い。しかし、これまで漢方薬を学ぶ機会が少なかったためどれを処方したらよいかわからず、結局は適応があるという理由だけで、また一覧表からとりあえず選んでいるという先生方も多いのではないだろうか。確かにこれらは西洋医学と漢方薬を結ぶ手がかりとはなるが、該当する漢方薬が複数あるうえ、漢方医学の一番の肝となる「患者」を診ずして処方するということになる。
そこで、本書では初めて漢方薬を使う方、自分の専門領域において漢方薬を使っているが、もっと幅を広げたい方を対象として、「漢方薬の使用頻度が高い」または「漢方薬の効果が得られやすい」疾患・症状を取り上げた。疾患・症状によっては、漢方薬単独で著効を示すものもあるが、早急かつ確実に治療効果を得るために西洋薬と漢方薬を併用する場合が多い。よって東洋西洋統合の治療ができる力を養うことに主眼をおいて解説した。
漢方治療はいわば相性診断のようなもので、“患者の証(虚実/寒熱等)”と“漢方薬の特性”が合致する必要がある。本書のI・II章では各項目に患者と漢方薬の相性がひと目でわかる「マトリックス」と、漢方薬が患者の訴える症状に作用するかを確認するための「処方一覧表」を配した。マトリックスを用いて大雑把に相性を確認し、漢方薬が作用する方向性を示す処方一覧表を見てファインチューニング(微調整)することで、処方するべき漢方薬を選び出すことができる。
また、III章では漢方医学について最低限知っておきたい知識について解説し、末尾には漢方薬の便覧を付した。臨床の現場でぜひ役立てていただきたい。
本書を手にした方は漢方ワールドの第一歩を踏み出したこととなる。本書を地図として、奥深い漢方ワールドの世界を一緒に冒険しようではないか。
2013年2月
渡辺賢治
漢方薬の使い方に関する一般医向けの本は多いが、「マトリックスでわかる!」と大見得を切った本はめずらしい。マトリックスって何? と思われる方も多いと思うが、要はまず症状や病名から該当する項目を開いて、患者さんの証(虚実/寒熱)から候補薬を簡単に選べるようにしたものである。それも使用頻度の高いものから順に色分けしてありわかりやすい。
次の処方一覧表は、縦に証や病期に応じた漢方薬を並べ、横に個別の症状に対する効果を2段階で示したもので、たとえば感冒では病初期の実証では麻黄湯、汗をかいていない筋肉痛にはこれが著効を呈するといったことが一目瞭然である。さらにインフルエンザに対する直接的な効果のエビデンスも図示してあり納得しやすい。症例呈示も実践的ですぐに応用可能である。最後の達人のつぶやきでは漢方薬は身体を温めるので解熱薬併用は好ましくないといった漢方の常識がまとめてある。
外科でよく使う大建中湯もコリン作動性神経、平滑筋層、粘膜層での作用機序を図示してあり、機序を考えながら使う手助けになる。花粉症にも効く小青竜湯が肥満細胞のヒスタミン分泌を抑制する機序の図示もわかりやすい。冷えと痛みに有用な牛車腎気丸などに含まれる附子はアコニチンの冷え改善作用のほか、κオピオイド受容体やNOを介した鎮痛作用をもつことが解説されている。実際、世界初の全身麻酔で乳癌手術を行った華岡青洲の麻酔薬「麻沸散」には附子が3割含まれている。附子はトリカブトの別名で猛毒であるが、これを減毒して薬にする先端バイオ技術が神話時代の古代出雲にすでにあったとされ、大国主命のブレインとして活躍した少彦名命が薬問屋発祥の地、大阪道修町に医薬の神として祀られている。浮腫などに使う五苓散は腎臓の水輸送チャネルのアクアポリン4を介して利尿作用を発揮することや、脳外科領域で慢性硬膜下血腫に汎用されていることも興味深い。
重要なのは漢方薬にこだわりすぎないことである。後半には西洋薬と漢方薬併用で相乗効果が得られる疾患・症状という一般医には大変役立つ解説が疾患別にまとめてある。中でも、高血圧や糖尿病に併用する漢方薬などはすぐに役に立つ。たとえば肥満患者でsitagliptinに防風通聖散を併用したところ減量に成功しHbA1cが改善した例などは参考になる。COPDへの効果として麦門冬湯がサブスタンスPの分解促進作用をもつことを知ると使ってみたくなる。
もっとも重要なのは緩和ケアであろう。とくに化学療法、放射線療法の副作用軽減にはきわめて有効で、期待できる分野である。島根大学では大学病院で初めて腫瘍センター病棟と緩和ケア病棟を同時設置したが、緩和ケア主任医師はペインクリニック専門家であるとともに漢方医でもあり、実際に併用療法でQOL改善に効果を上げている。
また、漢方医学の本質として統合医療の世界モデル、全人的包括的医療であること、超高齢化社会において心身一如として人をみる医学であることを強調している。今まであまり気にしていなかったが、漢方の保険適用には証が含まれている、たとえば大柴胡湯では証に比較的体力のある人(実証)で便秘云々、適応疾患に胆石症などが記載されていることも参考になる。
最後に副作用に注意が必要な生薬として、麻黄、大黄、附子、甘草などをまとめて一覧表でわかりやすく解説している。思わず一気に読んでしまうほど読みやすく、漢方を活用したい医師には最適のハンドブックといえる。
臨床雑誌内科112巻2号(2013年8月号)より転載
評者●島根大学学長 小林祥泰