感染症診療Pro&Con
ディベートから見える診療の真髄
編集 | : 渡辺彰/二木芳人/青木洋介 |
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ISBN | : 978-4-524-26409-4 |
発行年月 | : 2011年9月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 174 |
在庫
定価5,720円(本体5,200円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
感染症の日常診療において、とくに意見や考え方が分かれやすい重要なテーマをピックアップし、Pro&Conのディベート形式で解説する。様々な考え方を理解することで、目の前の患者に適切な感染症診療を提供する力が身につく。日々感染症診療に奮闘している医師、感染症診療をレベルアップしたい若手医師に必読の一冊。
I 感染症診療にはなぜProとConがあるのか?
−“新型”インフルエンザからみえてくるその理由−
II 診療アプローチの幅を広げるProとCon
1 感染症診療におけるグラム染色の活用
Pro グラム染色を使う
Con グラム染色を使わない
まとめ
2 肺炎球菌尿中抗原検査法の活用
Pro 全例で適用する
Con 全例には適用しない
まとめ
3 感染症診療におけるCRPの活用
Pro CRPを使う
Con CRPを使わない
まとめ
4 市中肺炎の原因菌診断に血液培養は必要か
Pro 必要である
Con 必要ではない
まとめ
5 (呼吸器)真菌感染症におけるβ-D-グルカンの使用
Pro β-D-グルカンを使う
Con β-D-グルカンを使わない
まとめ
6 かぜへの抗菌薬の使用
Pro 抗菌薬を使う
Con 抗菌薬を使わない
まとめ
7 欧米の抗菌薬投与量の日本人への適用
Pro 日本人にも適用できる
Con 日本人には適用できない
まとめ
8 抗菌薬治療におけるPK-PD理論
Pro PK-PD理論は重要である
Con PK-PD理論は重要ではない
まとめ
9 抗菌薬治療におけるde-escalation
Pro de-escalationは行うべきである
Con de-escalationを行う必要はない
まとめ
10 市中肺炎治療へのマクロライド系薬の併用
Pro 併用が必要である
Con 併用は必要ではない
まとめ
11 誤嚥性肺炎の治療薬
Pro ペニシリンを主軸とする
Con カルバペネムを主軸とする
まとめ
12 感染症診療におけるクリニカルパスの活用
Pro クリニカルパスを使う
Con クリニカルパスを使わない
まとめ
13 感染症診療における漢方薬の活用
Pro 漢方薬を使う
Con 漢方薬を使わない
まとめ
14 肺炎診療における日本のガイドラインの活用
Pro 日本のガイドラインを使う
Con 日本のガイドラインを使わない
まとめ
15 感染症診療のエビデンス
Pro エビデンスは日本でつくる
Con エビデンスは海外、米国から引用する?
まとめ
III 感染症診療における情報収集の重要性
索引
本書の刊行のきっかけは第50回日本呼吸器学会学術講演会(久保惠嗣会長・信州大学内科学第一教授)における平成22年4月23日のシンポジウム1「呼吸器感染症診療Pro and Con」の開催である。シンポジウムでは、感染症診療にかかわるcontroversialないくつかのテーマを取り上げ、「Pro」と「Con」の立場から各1名の演者に意見を述べていただき、その問題点を浮き彫りにしていただいた。反響は大きく、当日は大きな会場を用意していただいたのに満席となって立ち見の方も多く、会場に入れない参加者も多かった。そうした反響を受け、シンポジウムを企画した渡辺彰と、司会を務めた二木芳人・青木洋介とが話し合い、シンポジウムの内容を感染症診療の全体へ膨らまして一冊にまとめたのが本書である。
出来あがった本書を見てあらためて感じたことが多い。感染症診療の広汎なテーマのそれぞれに種々の意見があるが、それを知ることが重要であり、さまざまな意見があるからこそ感染症診療は奥行きがあって楽しいものであること、エビデンスがあってもその解釈の仕方はさまざまで難しいこと、テーマによってはエビデンスを作ること自体が難しいこと、などである。読者の皆様には、さらに多くの感想を抱いていただければと思う。
感じたことがもうひとつある。執筆者の中には、本来の自分の考え方とは異なる意見を書いていただいた方もおられる。本書がディベート形式だからであるが、異なる意見を述べ合ってその問題点のよって来たる所以を明確にすることこそ「シンポジウム」の目的である。語源はギリシャ語であり、英語の「sympathy」に意味が通ずる。相手の意見に深く耳を傾けて共感し合うことこそが「シンポジウム」の理念であり、本書はそれをよく体現したとも自負している。
2011年9月
編集者を代表して
渡辺彰
私は以前から感染症の診療内容は、開発国は別として、いわゆる先進国の中でも国々の医療事情で大きく異なるのではないかと考えている。本書の編集者のお一人である渡辺彰先生が、「第I章感染症診療にはなぜProとConがあるのか?-“新型”インフルエンザからみえてくるその理由〜」に同じような考えを示されていて、一安心した。わが国では日本感染症学会の提言に従って、若年者を含めて可能な限り多くの患者に、可能な限り早期から、抗インフルエンザウイルス薬が積極的に投与された。当初これに対し、WHOやCDC(米国疾病予防管理センター)からの提言とは異なるとして反対意見があった。しかし、主要各国の中でわが国の死亡率がもっとも低く(0.16人/人口10万人)、わが国の対応が高く評価された。一方、米国の死亡率は3.96人で、しかも死亡者数を正しく把握しておらず、お粗末な結果となった。この成績の差異は、米国とわが国の医療事情がまったく異なることによる。医学研究ではトップを走る米国でも国全体としてみた医療レベルは日本よりはるかに低く、WHOの評価による医療水準のレベルは日本が常に上位に位置するのに比し、米国は第37位という数字であることをそのまま反映しているといえる。
また、2011年8月に日本呼吸器学会から発行された「医療・介護関連肺炎診療ガイドライン」の作成にあたっても、2005年にアメリカ胸部疾患学会および米国感染症学会により生まれた医療関連肺炎(HCAP)の概念をそのままわが国にあてはめることは医療事情がまったく異なりそぐわない、として医療・介護関連肺炎(NHCAP)と命名されたという経緯がある。
本書は、渡辺彰、二木芳人および青木洋介という感染症、とくに呼吸器感染症領域でわが国をリードする3名の先生方によって編集された。日々の感染症診療に伴うさまざまな問題点に関しPro(賛成、支持)とCon(反対、反論)が述べられている。問題点の範囲は幅広く、治療はもちろん、検査からクリニカルパス、感染症診療のエビデンスにいたるまである。そして、ProとConを主張しっぱなしで終わるのではなく、おのおのの議論につき編集者の3氏が的確にまとめておられる。このまとめを読むだけでもわが国の感染症診療の現状や問題点がよく理解できる。
感染症を専門にされている先生方は、診療に対するご自分の考え方(哲学?)をお持ちの方が多いと聞いている。しかし、自分の考えと異なる意見を聞くことは、さらにご自分の診療レベルを高めることにつながるであろう。一方、はじめて感染症を勉強しようとする方々にとっては、教科書に書かれていることと実際の医療現場での診療が異なることを学ぶであろう。また、各ProとConには豊富なデータが掲載されており、引用文献を検索するのに大いに役立つと思われる。
いずれにしても、本書は、感染症の専門家にとっても、これから感染症を勉強する医師、あるいは一般医家にとっても、わが国における感染症診療に大いに役立つ書であることは間違いないと思われる。是非、手元に置きたい一冊である。
評者● 久保惠嗣
臨床雑誌内科109巻3号(2012年3月号)より転載