これでわかるインフルエンザ診療のポイント
診断・治療・予防がすっきりわかる
編集 | : 藤田次郎 |
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ISBN | : 978-4-524-26395-0 |
発行年月 | : 2010年12月 |
判型 | : A5 |
ページ数 | : 148 |
在庫
定価3,080円(本体2,800円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
パンデミック2009H1N1の経験をはじめ、合併症やハイリスク患者への対応、院内感染対策、薬剤の使い方など、インフルエンザ診療を適切に行うために必要な知識をわかりやすく解説。タミフル、リレンザの他、新たな抗インフルエンザウイルス薬であるラピアクタ、イナビル、ファビピラビルも盛り込んだ、専門領域を問わず、広く実地医家に役立つ一冊。
I章 インフルエンザの外来診療の実際
1.神戸の経験から
(1)神戸における国内発生例の概要
(2)発熱外来における診療
(3)発熱相談センターの役割
(4)発熱外来体制から蔓延期診療体制へ
(5)国内発生例はいかにして蔓延していくのか
(6)地域内流行を早期に察知するには
2.沖縄の経験から
(1)海外発生期−国内発生早期
(2)沖縄県内流行期
(3)那覇市医師会診療応援発熱外来
(4)沖縄県看護協会のボランティアによる電話対応
(5)入院患者への対応:沖縄県によるインフルエンザ重症例報告、小児医療情報ネットワーク
(6)パンデミック2009の教訓
II章 インフルエンザ治療薬の基礎知識と使い方
(1)M2蛋白質阻害薬
(2)ノイラミニダーゼ阻害薬
(3)抗インフルエンザ薬の使用適応
III章 インフルエンザ感染症に合併する肺炎に関して
(1)インフルエンザウイルス感染症に合併する肺炎の病型
(2)インフルエンザウイルス感染によるARDSの病態
(3)インフルエンザウイルス感染によるARDSの病理像
(4)インフルエンザウイルス感染によるARDSの症例
(5)インフルエンザウイルス感染によるARDSの治療
(6)インフルエンザウイルス感染によるARDS(疑い)の治療成功例
IV章 小児のインフルエンザ診療
(1)インフルエンザ 小児の診察
(2)臨床症状
(3)検査のポイント
(4)治療
(5)予防
V章 妊娠への対応
(1)妊婦のインフルエンザ罹患に関する留意点
(2)妊婦におけるインフルエンザの予防・治療
VI章 基礎疾患(糖尿病・喘息・COPDなど)を持つ患者への対応
(1)高齢者
(2)慢性疾患を有する患者
(3)妊婦
(4)乳幼児
VII章 インフルエンザ脳症について
(1)診断
(2)病型分類
(3)治療
VIII章 インフルエンザの感染経路と予防策
(1)インフルエンザの感染経路
(2)感染経路に基づく予防策
IX章 インフルエンザ院内感染対策
(1)院内感染対策の原則
(2)インフルエンザワクチン
(3)能動的サーベイランス
(4)咳エチケット
(5)患者ケア
(6)接触者への対応
(7)集団発生への対応
X章 インフルエンザワクチンの有効性
(1)現行のインフルエンザワクチンについて
(2)現行のHAワクチンの有効性
(3)ワクチン接種後の血清抗体価
(4)ワクチンの接種対象者と接種回数
(5)新しいワクチンについて
XI章 抗インフルエンザウイルス薬の最新動向と今後の展開
(1)抗インフルエンザ薬の早期投与が肝要です
(2)抗インフルエンザ薬の作用機序
(3)新規抗インフルエンザ薬の開発動向
(4)新規抗インフルエンザ薬の抗ウイルス活性
(5)新規抗インフルエンザ薬の今後の展開
コラム(1)新型インフルエンザの由来
コラム(2)インフルエンザ治療における漢方薬の活用法
コラム(3)迅速診断キットの特性
コラム(4)トリインフルエンザ
コラム(5)インフルエンザウイルス感染症と肺炎球菌ワクチン
コラム(6)タミフル耐性インフルエンザウイルス
索引
今回、『これでわかるインフルエンザ診療のポイント−診断・治療・予防がすっきりわかる−』を上梓させていただいた。ご執筆いただいた先生方に心から感謝したい。
2009年の感染症の大きなトピックスは新型インフルエンザ(パンデミック[H1N1]2009)であった。国内での感染例は5月15日に兵庫で報告され、その後急速に全国に蔓延した。また従来、乾燥して気温の低い冬に多いと考えられていたインフルエンザが夏季に大流行したことも驚きであった。わが国で極めて早い時期から流行し、かつ流行の規模が最も大きかった沖縄県においては、2010年1月末の時点で約22万人が罹患(沖縄県の人口の20%弱)し、うち約550例(0.25%)が入院し、肺炎、あるいは脳症の21例(0.0095%)に人工呼吸器が装着された。また3例(0.0014%)が死亡した。
インフルエンザウイルス遺伝子RNA8本がコードする10の蛋白質には、厳密な意味での病原性因子とされるものはない。一方で高病原性鳥インフルエンザという病名が巷に流行し、致死率の高い新型ウイルスが大流行を起こし、スペインかぜと同様に多数の死者が出るものとの風評が流布された。しかしながら冷静にウイルス感染症としてのインフルエンザについて、これまでの人類の経験を基に考えると、ニワトリに対して「高病原性」の鳥インフルエンザウイルスがヒトにも致死的であるとの想定は短絡的に過ぎることに気付く。また近年、スペインかぜの死因が再検討され、そのほとんど全てがインフルエンザウイルス感染に続発した二次性細菌性肺炎であったことが明らかになっている。ただし前述したように、パンデミック[H1N1]2009の経験において、10,000例に1例は重症化(脳症やARDSなど)したことから、そのメカニズムを探ることは重要な課題である。
インフルエンザ診療に関して、診断薬、および治療薬の進歩は著しい。特に新たな治療薬として、2010年にはペラニビル(ラピアクタ(R))、およびラニナミビル(イナビル(R))が発売され、インフルエンザの治療が1回で終了する時代となったことは特筆すべきことである。本書がインフルエンザ診療の一助になれば幸いである。
2010年12月
琉球大学大学院 感染症・呼吸器・消化器内科学(第一内科)
藤田次郎