心肺蘇生・心血管救急ガイドブック
ガイドラインに基づく実践診療
編集 | : 笠貫宏/野々木宏/高木厚 |
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ISBN | : 978-4-524-26302-8 |
発行年月 | : 2012年9月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 383 |
在庫
定価10,450円(本体9,500円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
「循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン」および「JRC蘇生ガイドライン2010」に準じて、心血管救急医療現場で、いつ・何を・どのように行うかがわかるようにまとめた実際書。ケーストレーニングの章も設け、各疾患への対応を設問形式で学べるよう工夫した。エキスパートコンサルテーションを受ける循環器医、救急医必携の一冊。
第1部 心肺蘇生・心血管救急ー総論
1 循環器救急医療と院外心停止の現状・課題
2 ILCOR国際コンセンサス2010改訂のポイント
第2部 心肺蘇生の実際ーBLSとACLS
1 成人のBLSとACLS
2 小児のPBLSとPALS
第3部 心血管救急の実践
I 心血管救急の症候と鑑別診断
1 胸背部痛
2 呼吸困難
3 意識障害・めまい・失神
4 ショック
5 動悸
II 不整脈
1 不整脈(頻拍[頻脈]、徐脈[徐拍])救急の診療アルゴリズム
2 心室頻拍、心室細動
3 発作性上室頻拍
4 QT延長症候群
5 Brugada症候群
6 心房細動、心房粗動
7 洞不全症候群
8 房室ブロック
9 植込み型除細動器(ICD)の頻回作動
10 抗不整脈薬(アミオダロン、ニフェカラント、リドカイン)について
11 小児の不整脈
III 急性冠症候群
1 急性冠症候群救急の診療アルゴリズム
2 ST上昇型心筋梗塞
3 不安定狭心症/非ST上昇型心筋梗塞
IV その他の心血管救急
1 急性大動脈解離
2 急性心不全
3 急性肺血栓塞栓症
4 心タンポナーデ
5 急性心筋炎
6 高血圧緊急症
7 急性動脈閉塞
8 電解質異常
9 中毒
10 偶発的低体温
11 成人の先天性心疾患
V 脳血管障害
1 脳血管障害救急の診療アルゴリズム
2 脳梗塞
3 脳出血
4 くも膜下出血
VI 心拍再開後の治療
1 低体温療法
2 体外循環式心肺蘇生
VII 家族・市民へのアプローチ
第4部 心血管救急のケーストレーニング
I 症例
1 持続する胸痛を主訴に搬送された46歳男性
2 高血圧で治療中に突然胸痛が起こった62歳男性
3 自転車で移動中に突然の呼吸苦で胸痛が起こった72歳男性
4 心筋梗塞の既往歴を持つ慢性腎臓病の72歳男性
5 既往歴がなく、検診で異常もないのに突然失神した34歳男性
6 息みや怒責時に胸部圧迫感やめまい、ふらつきがある76歳女性
7 生活習慣病を放置し、突然胸痛が出現し搬送された55歳男性
8 夕食後突然動悸が出現した76歳女性
9 運動中に動悸・息切れが起こり、眼前暗黒感を生じた後に一過性に意識消失した22歳男性
10 早朝に動悸が起こることが数年間続いた52歳女性
11 失神を主訴に受診した29歳女性
12 起床後に動悸と胸部苦悶を訴え意識を失った生来健康な25歳男性
13 動悸を主訴に救急車で、搬送された生来健康な47歳男性
14 動悸の持続と労作時呼吸困難を訴えた84歳女性
15 抗不整脈薬を服用中に失神で救急外来を受診した75歳女性
16 糖尿病、高血圧で通院中に眼前暗黒感を訴えた61歳男性
17 心房細動のため通院中、全身倦怠感、労作時息切れが出現した80歳男性
18 2型糖尿病と高血圧で通院中、悪心、冷汗が出現し意識消失した60歳男性
19 軽労作での息切れとめまいを主訴に救急外来を受診した47歳女性
20 3度の植込み型除細動器ショック通電で受診した35歳男性
21 3年前にWPW症候群と診断され、運動中に動悸が出現し意識消失した9歳男児
22 プレホスピタル12誘導心電図を行い、搬送された50歳男性
23 1週間前から急に胸部不快感を感じ受診した54歳男性
24 高血圧を放置し、胸背部痛を自覚して救急搬送された75歳男性
25 発作性夜間呼吸困難で受診した74歳男性
26 早朝に起座呼吸、意識低下などが起こり、救急搬送された78歳女性
27 開腹胆摘術3日後に自力歩行し、呼吸困難が出現した66歳男性
28 呼吸困難と軽度の傾眠傾向があり、救急車で搬送された81歳女性
29 発熱と全身倦怠感で受診した高血圧症の45歳男性
30 突然の呼吸困難で救急搬送された高血圧治療中の81歳男性
31 血管内治療後に左下肢疼痛をきたした77歳男性
32 全身倦怠感、めまいにより救急搬送された高血圧、糖尿病で通院中の62歳男性
33 外来で処方されている薬剤を多量に服用した68歳男性
34 2月の深夜に野外で意識のない状態で発見された60歳前後の男性
35 全身倦怠感、下肢の浮腫、下痢を訴えた、Fontan手術施術既往の24歳男性
36 突然倒れ救急搬送された、生来健康な83歳女性
37 嘔吐し倒れているところを発見され救急搬送された45歳女性
38 突然の頭痛および嘔吐のため救急搬送された生来健康な38歳女性
39 突然倒れて救急搬送された60歳男性
●トレーニング編
トレーニング(1)
トレーニング(2)
トレーニング(3)
II 高度治療器具のトレーニング
1 IABP/PCPS挿入と管理
2 CVライン/PICCの使用
3 ペーシング治療
4 低体温療法
5 緊急カテーテル治療
6 血液浄化法
7 麻酔科専門医に学ぶ気管挿管困難例への対応
付録 心肺蘇生・心血管救急に用いる主な薬剤一覧
索引
2009年、日本循環器学会により『循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン』が発表された。日本循環器学会が専門医資格として義務付けしている米国心臓協会(American Heart Association :AHA)-Advanced Cardiovascular Life Support(ACLS)の要旨に加えて、心肺蘇生後に専門医へ相談・依頼(expert consultation)する際に、循環器医がなすべき心血管救急のガイドラインであり、さらに広範にわたる心血管救急疾患の急性期初期診療(おおよそ24時間)における診断・治療の世界で初のガイドラインである。
循環器疾患の発症・急性期における迅速かつ的確な救急処置・診断・治療は極めて困難なことが多く、処置中に増悪し致命的になることもまれではない。循環器救急の現場では、心停止の初期治療である一次救命処置(basic life support :BLS)から二次救命処置(ACLS)、そして心拍再開後の心停止後症候群に対する三次救命処置、さらには急性冠症候群(ACS)に対する再灌流療法などの心血管疾患に対する救急処置の実施まで、救命室(ER)における一次・二次・三次救急の多岐にわたる診療内容を理解し、迅速かつ的確に実践することが求められる(図1)。そこで本書の目的は、日本循環器学会ガイドラインに収載された最先端の膨大な内容をわかりやすく、かつ臨床現場で実践を可能にすることにある。
2008年、総務省消防庁の報告によると2007年度に心機能停止で搬送された症例のうち、心原性心停止は59,000例にのぼるとされ、院外心停止に対する心肺蘇生法(cardiopulmonary resuscitation :CPR)の普及が社会問題となっている。2004年には自動体外式除細動器(automated external defibrillator :AED)の一般市民の使用が認められ、その後AEDの機器は急速に普及し、一般市民のためのBLS/AED講習会が活発に開催されている。今後、心肺蘇生・AEDの普及に伴い、循環器医は自ら高度なCPRを実施するとともに心拍再開後の救急治療の実践を求められることは必須である。
救急医療においてもエビデンスに基づいた診療(EBM)の重要性が認識され、国際蘇生連絡委員会(International Liaison Committee On Resuscitation :ILCOR)が専門家によるコンセンサスCoSTR(Consensus Conference on Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care Science With Treatment Recommendations)を5 年ごとに作成している。CoSTR 2005に基づいて、AHAはガイドラインまたBLSおよびACLSのマニュアルを作成した。日本循環器学会では、AHA認定のACLS受講を専門医試験の受験資格に義務付けし、2009年3月にはアジアではじめてのILCOR会議が大阪で日本循環器学会の直前に開催された。2010年10月、CoSTR 2010が発表されたことを受け、それに基づき、2006年にILCOR加盟を果たした日本蘇生協議会(Japanese Resuscitation Council :JRC)は『JRC蘇生ガイドライン2010』を策定し発表した。その改訂の中では、50年ぶりに胸骨圧迫から心肺蘇生を開始すること(AB-C :airway-breath-circulationからC-A-Bへ)に変更され、さらに救命の連鎖に加えて予防対策と心拍再開後の集中治療の重要性が指摘されている。本書では、日本循環器学会ガイドラインとは異なり、『JRC蘇生ガイドライン2010』に基づく最新の心肺蘇生に関する内容が収載されている。さらに、小児のBLS(PBLS)やACLS(PALS)についても概説が加えられている。
心血管救急疾患の初期診療は急速に進歩し、それぞれの専門領域ごとに専門分化している。循環器救急疾患は極めて広範にわたり、これまで不整脈、急性冠症候群、急性大動脈瘤、急性心不全など9つの関連する各分野のガイドラインが作成されている。『急性心筋梗塞(ST上昇型)の診療に関するガイドライン』(2008年)、『急性冠症候群の診療に関するガイドライン』(2007年)、『不整脈薬物治療に関するガイドライン』(2009年)、『心房細動治療(薬物)ガイドライン』(2008年)、『急性心不全治療ガイドライン』(2011年)、『大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン』(2011年)、『肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン』(2009年)、『急性および慢性心筋炎の診断・治療に関するガイドライン』(2009年)、『脳血管障害、腎機能障害、末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン』(2008年)である。循環器診療にあたる循環器医が実際に遭遇する種々の異なる臨床現場において、これらのガイドラインを理解し、活用することは困難である。本書では、すべてを網羅する内容を収載している。循環器医が理解すべき脳血管障害救急(stroke emergency)についても、脳神経専門医による解説を加え、わが国において進歩の著しい蘇生後治療についても概説を加えた。そして、救急治療の実践能力を普段から訓練するために、ケーストレーニングとして39症例を提示し、さらに心血管救急における高度治療器具の使い方や薬剤についても概説を加えている。
心肺蘇生の実践と心血管救急の実践には、多くの問題が存在していることを十分留意すべきである。すなわち、医学の不確実性に加えて救急医学のエビデンスの大きな限界があること、さらには心血管疾患別の救急の専門分化に伴って、心血管全般研修システムの整備・確立の問題、地域や医療機関の格差の問題、循環器医の過酷な労働環境など医療側の問題があることに加えて、患者・家族の過大な期待、インフォームドコンセントの限界、患者と医師のインフォメーションギャップ拡大と信頼関係の構築の困難さ、など問題は多様である。とくに、循環器医の劣悪な労働環境を含めて施設の集約化と機能分化など、わが国における循環器救急の制度の抜本的改革は喫緊の課題といえる。
本書の特徴をまとめると、
@日本循環器学会『循環器医のための心肺蘇生・心血管救急ガイドライン』の解説書である、A『JRC蘇生ガイドライン20l0』のBLS/ACLSの最新の内容を解説している、B日本循環器学会による10のガイドラインに記載されている心血管救急にかかわる広範な内容を網羅している、C循環器医に求められる脳血管障害救急および蘇生救急処置が収載されている、D心血管放急における高度治療器具、薬剤を解説している、Eケーストレーニングにて普段からの救急実践能力の育成を可能にしている。
何よりも、救急の現場において、循環器医として心血管救急全般を理解し、症候からのアプローチや鑑別疾患を含めて、初期診療において具体的個別患者に迅速かつ的確な診断・治療を実践できるように工夫されていることである.循環器医が本書を身近に置き、限られた人的・物的資源という救急医療の環境のもとで患者にとってもっとも望ましい診断・治療を提供することを願ってやまない。
2012年9月
笠貫宏
心肺蘇生ガイドラインの作成は臨床各科に関係し、さらに看護師、救急救命士なども関わる仕事である。AHA(米国心臓協会)はStandard and Guidelines for CPR を出版し、6年ごとに改訂版を出して、1992年版をCPR Guidelinesと名前を変えて出版した。さらに、6年後の1998年版を2000年にずらして、ILCOR(国際蘇生連絡委員会)と共同作成を行い、世界に共有される国際ガイドラインに仕上げる方向に舵を切った。欧州をはじめ、ガイドラインを独自に作成していた世界各地域の団体が加わる方向付けができたことになる。5年ごとの改訂で2005年版はILCORの監修となり、2006年にはRCA(アジア蘇生協議会)もILCORの正式メンバーになり、監修にいたるすべての作業に参加した。日本はJRC(日本蘇生協議会)が窓口になってアジアをリードしてエビデンスの提供やワークシート作成に貢献した。このmultidisciplinaryな分野をAHAという循環器の団体が音頭をとったのは、心筋梗塞による突然死が多い米国の特殊な事情もあったが、循環器医に病院内からの治療だけでなく、院外の予防、治療の重要性が認識されたからでもある。JRCは蘇生に関係する学会、団体の集合体であり、蘇生の全体をカバーできる構成になっている。しかし、疫学的な統計で急性心停止は循環器に関係する頻度が高いのは本邦でも同じである。
本書のタイトルを“心肺蘇生・心血管救急”としたのは、循環器の専門家が救急事態での実践でいかに対応すべきかという内容が求められているものの表れと思われる。本書はILCOR 2010のコンセンサスを基にしたJRC Guidelines 2010に沿っていて、世界で認められた内容の国内での対応をわかりやすく実践向きに記載されたことが最大の特徴である。最新の循環器の救急に関わる病態、疾患、治療が網羅されている。指導的立場の循環器専門医にとっても、また、専門医以外の救急に関わる医師、看護師、救急救命士にとっても、第一線で活躍している専門家が分担執筆した本書は、臨床現場でハンドブックとして役立つ内容である。
第4部のケーストレーニングの症例提示は、実践的でありトレーニングにそのまま使用可能なシナリオである。また、高度治療器具のトレーニングも有益な内容であり、初めて機器類を使用する際に必要なトレーニング内容が詳細に記載されている。ガイドラインに必要とされるマニュアルにあたるところで、これから教育システムを開発する際にも有益と思われる内容である。
屋上屋を重ねるのでない本書の紙価は高く、救急の現場で広く利用されるよう期待して推薦の言葉としたい。今後、エッセンスをまとめたポケット版が作成されることが期待される。
内科111巻5号(2013年5月号)より転載
評者●日本蘇生協議会会長/アジア蘇生協議会 名誉会長 岡田和夫
厚生労働省の報告では、2011年の大動脈瘤および解離による死亡数・死亡率(人口10万対)は15,599人・12.4であり、女性の死因では9位を占め、死亡数は過去10年間増加を続けている。これは、乳癌(12,838人)や糖尿病(14,664人)による死亡者数よりも多く、大動脈瘤や解離が日本人にとって、決してまれな疾患ではないことを示している。一方、心疾患の死亡数・死亡率(194,761人・154.4)が、1985年に脳血管疾患にかわり第2位となり、以後死亡数・死亡率ともに増加傾向であるのは周知のことである。
心血管疾患は、大動脈瘤の破裂や解離をはじめとして、突然発症し、救急搬送中にも状態が変化することがまれではない。それゆえ心血管救急に携わる医師には、高度な心肺蘇生の実施と、心拍再開後の適切な救急治療の実践を求められることになる。本書は、その道標となりうるものである。
エビデンスに基づいた診療の重要性が認識されて久しいが、心肺蘇生・循環器救急蘇生は新しい学際的科学領域であり、救急であるがゆえにレベルの高いエビデンスは少ない。そのような背景のもと、2005年に国際蘇生連絡委員会(International Liaison Committee on Resuscitation:ILCOR)が「心肺蘇生と救急心血管治療のための科学と治療の推奨に関わる国際コンセンサス(CoSTR)」を作成した。また、2006年にILCOR加盟を果たした日本蘇生協議会(Japan Resuscitation Council:JRC)は、2010年に発表されたCoSTR 2010に基づき、「JRC蘇生ガイドライン2010」を発表した。
本書の内容は、前半は、「循環器医のための心肺蘇生・心血管救急ガイドライン」を基調として、一次救命処置(BLS)/二次救命処置(ACLS)については前述の「JRC蘇生ガイドライン2010」に、心血管救急の症候別および疾患については9分野の日本循環器病学会ガイドライン[心房細動治療(薬物)ガイドライン、急性心筋梗塞(ST上昇型)の診療に関するガイドライン、脳血管障害、腎機能障害、末梢血管障害を合併した疾患の管理に関するガイドライン、急性冠症候群の診療に関するガイドライン、大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン、急性心不全治療ガイドライン、急性および慢性心筋炎の診断・治療に関するガイドライン、肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン、不整脈薬物治療に関するガイドライン]に、それぞれ基づいた解説が記載されている。この中には循環器医に求められる脳血管障害救急および蘇生救急処置も収載されている。さらに後半には、救急実践能力を育成するべくQ&A形式のケーストレーニング39例が記載され、心血管救急における高度治療器具、薬剤についても言及されている。
本書を通読すると、心肺蘇生・心血管救急の総論、各論、ケーストレーニングによるそれらの理解の確認を、この1冊で学べるということになる。また必要な項目、疾患について個別に参照することができ、各項目のreferenceが充実しているので、さらに深く追求できる発展性も隠れた魅力である。
心血管救急疾患の初期診療において、迅速かつ的確な診断、治療を実践できるようになることをめざした本書は、心臓血管外科医を含む循環器診療に携わる者にとっての必読書となるであろう。願わくは、各ガイドラインの改訂に伴って本書も定期的にアップデートされ、普遍的なマニュアルとなることを望むものである。
胸部外科66巻5号(2013年5月号)より転載
評者●横浜市立大学附属市民総合医療センター心臓血管センター教授 井元清隆