よくわかる肝移植
編集 | : 國土典宏/菅原寧彦 |
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ISBN | : 978-4-524-26288-5 |
発行年月 | : 2011年10月 |
判型 | : A5 |
ページ数 | : 128 |
在庫
定価2,750円(本体2,500円 + 税)
正誤表
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2012年03月01日
第1刷
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
肝移植を考えなければいけない状況にある患者を診療する一般内科医やコメディカルにとって必要となる、肝移植の適応やタイミングを正しく判断するための知識を網羅。年齢や生活習慣、疾患の進行度による移植適応の考え方や、術前管理、移植手術の概要、さらに免疫抑制剤投与中の術後外来管理のポイントまで、肝移植の全容をやさしく解説した一冊。
1章 肝移植の歩み、わが国の現況
(1)世界第1例は1963年デンバーで
(2)シクロスポリンの登場で飛躍的に成績向上
(3)わが国発の免疫抑制薬タクロリムス水和物
(4)わが国における肝移植
(5)肝移植大国は米国
2章 生体肝移植とはどのような医療か
(1)肝臓の再生能力を最大限活用した医療
(2)脳死移植の進まないわが国での大きな進歩
(3)世界初の成人間生体肝移植
(4)ドナーの安全が至上命題
(5)わが国で累計5,000例以上
3章 どのような患者が、どのような時期(条件)のときに移植になるのか?
A これだけは押さえておきたいレシピエントの条件
(1)年齢
(2)肺高血圧症
(3)アルコール性肝硬変
(4)精神的・社会的な問題
(5)その他
B 肝細胞癌(HCC)
(1)ミラノ基準とは?
(2)ミラノ基準は守らないといけないのか?
(3)切除も移植もできる場合にはどうする?
(4)移植前に治療することがあるのか?
C ウイルス性肝炎
(1)B型肝炎は治すことができる
(2)C型肝炎は移植後も治療が必要
D 胆道閉鎖症
(1)葛西手術をまず考えるべきか?
(2)何歳頃に移植をするべきか?(キャリーオーバー)
E 原発性胆汁性肝硬変(PBC)
(1)PBCをどのように診断するのか?
(2)移植が必要になるPBCとは?
(3)PBCは再発するのか?
F 原発性硬化性胆管炎(PSC)
(1)PSCとは?
(2)移植が必要になるPSCとは?
(3)PSCは再発するか?
G 劇症肝炎
(1)劇症肝炎とは?
(2)劇症肝炎の原因は? 人工肝補助装置とは?
(4)移植が必要になる劇症肝炎とは?
(5)どの時期に移植医にコンサルトするか?
H その他の疾患
(1)小児の場合
(2)成人の場合
4章 生体ドナーの条件
(1)生体ドナーの条件ABC
(2)「善きサマリア人」はダメ─イスタンブール宣言
(3)肥満ドナー候補をどうするか?
(4)精神科医によるサポート
5章 脳死肝移植
(1)日本の登録条件
(2)優先順位
(3)米国のMELDシステムとサバイバルベネフィット
(4)現状の問題点、ドロップアウト、待機中のフォローアップ体制
column 脳死肝移植の流れ
6章 移植前管理
(1)腹水・胸水は抜くべきか?
(2)意外に怖い、う歯治療
(3)食道静脈瘤は治療すべきか?
(4)どのような感染症に注意するか?
7章 移植手術の実際
(1)生体ドナー
(2)脳死ドナー
(3)レシピエント手術
column 自己肝温存同所性部分肝移植手術
8章 術後管理
(1)ICUでの管理
(2)一般病棟での管理
(3)移植後の合併症
(4)移植後のリハビリテーション:筋力低下は重大な問題/骨粗鬆症は必発
9章 術後外来管理
(1)感染症
(2)チューブ、ドレーンはいつ抜くか?
(3)晩期合併症とその対策とは?
(4)免疫抑制薬なんか怖くない
(5)成人健診、歯科治療など
10章 肝移植に関するQ&A
(1)レシピエント移植コーディネーターとは?
(2)肝移植にかかる費用および医療福祉制度
(3)生体ドナーになってから職場復帰まではどれくらいかかる?
(4)レシピエント:移植後スポーツ・温泉・寿司・旅行はいつから?
索引
この本を書いたわけ
─肝移植医療の良き理解者を増やすために─
わが国で生体肝移植が始まって21年、臓器移植法に基づく脳死肝移植が始まって11年がたちました。そして、2010年7月に改正移植法が施行されて、本人の生前意志が確認できなくても家族の承諾だけで脳死下の臓器提供が可能になり、脳死肝移植件数が飛躍的に増加しようとしています。東京大学の肝移植プログラムは1996年に始まり、これまで476例の生体肝移植と15例の脳死肝移植を行ってきました(2011年9月現在)。最近では、毎月約20例の患者さんが肝移植目的や肝移植の検討のために紹介されてきます。紹介された患者さんは肝移植が必要なのか(適応があるか、移植以外の治療法はないのか)、肝移植ができるか(医学的に、倫理的に)を評価するわけですが、これには肝移植チームだけでなく、院内の肝移植適応委員会やときには倫理委員会にまで相談して合議で行われます。
たくさんの患者さんをご紹介いただくことは移植チームとして大変ありがたいことですが、初診で来られた段階で移植できないことが明らかでありお断りするケースや、もう少し早い段階で移植を相談していただければよかったのに、と残念に思うケースが少なくありません。たとえば年齢制限の問題があります。東京大学病院では肝移植を受けられるのは満65歳までと決められています。他の施設もほぼ同じような年齢制限になっているようです。年齢制限の理由については後で詳しく説明しますが、たとえば70歳の進行した肝硬変の患者さんが移植を希望して初診外来に来られることがあるのです。紹介元の主治医から患者さんには「肝移植しか治療法はない」とか「ぜひ移植を受けなさい」などと説明されていることが多いようです。車いすでやっとの思いで来院されたのに、その場でお断りしなければならない移植医もつらいですが、その説明を聞く患者さんやご家族の落胆や悲しみを想像してみてください。年齢だけでなく、飲酒の問題(移植前6ヵ月以上の禁酒期間が必要です)、進行した肝細胞癌、血液型不適合(生体肝移植の場合)など、事前に問い合わせの電話を1本いただければ来院していただくこともなかった、患者さんが初診外来でこんなに悲しい思いをしなくてすんだのに、といったケースが少なくないのです。このような情報はホームページや外来で用意したパンフレットには書いてあるのですが、移植を考えなければならない状況の患者さんを担当しておられる医師や看護師などの医療関係者の方に分かりやすく解説した本がないことに気がつきました。
もう1つの問題を紹介しましょう。肝移植の後、多くの場合1〜2ヵ月(平均術後在院日数は約50日です)で退院し、外来通院しながら免疫抑制薬などの投薬を受けます。免疫抑制薬を始め、移植後の外来フォローアップは「特殊」であるということもあり、ほとんどの移植患者さんは移植を受けた病院の外来に通っているようです。しかし、それで良いのか、紹介元病院などともう少し連携した方が患者さんの利便性もよいのではないかと考える時期に来ているのではないかと思われます。また、移植前の状態がとくに不良で臥床期間が長かった症例では四肢の筋力低下が著しく、移植によって肝機能が正常化した後に長期のリハビリ入院が必要になることがあります。このような場合は紹介元の病院や患者さんの自宅近くの病院を医療連携室にご協力いただいて探すのですが、肝移植後であるから、免疫抑制薬を投与しているから、という理由で断られることが少なくありません。重症肝硬変患者を扱っているはずの紹介元病院でも受け入れてもらえないことがあるのです。肝臓内科医の先生や医療スタッフの方向けに肝移植後のケアの実際について解説する本があればもう少しご理解いただけるのではないかと考えています。肝移植後のケアを「特殊」にしてきたのは移植医の啓蒙努力不足でもあったのではないかと自戒している次第です。
この本は、肝移植を考えなければならない状況にある患者さんを担当されている医師や医療関係者の方に読んでいただくために東京大学肝移植チームが書きました。脳死肝移植件数がこれから順調に増加すれば、これまで家族内に生体ドナーがいなくて移植をあきらめていた多くの患者さんにも脳死肝移植の可能性が拡がり、肝移植を希望される患者さんが急増するかもしれません。わが国の移植医にとってますますやりがいのある時代になろうとしていますが、移植医不足も深刻です。若い仲間を増やすことはわれわれ移植医の務めです。それと同時に、本書を読んだ多くの医師、医療関係者の方々に肝移植医療の良き理解者となっていただき、移植医療がさらに発展できることを願ってやみません。
2011年秋
國土典宏
本書は、肝移植実施施設ではないが肝移植を必要とする患者を診療している医師や看護師などを対象として書かれた、わかりやすいガイドブックである。
第1章、第2章は肝移植の歴史であり、世界と比較した日本の肝移植の現状を楽しく読みながら理解することができる。第3章のレシピエントの条件から各論に入っていくが、現時点での治療上の問題点や移植適応の考え方の争点を交えながらも、わかりやすく理解できるように記載されており、日常診療の助けとなる。しかし、劇症肝炎の項では紹介される診断基準や病期分類、各種の予測式が多すぎて、肝移植に詳しい医師以外は少し理解しにくいのではないかと思われる。第4章の生体ドナーの評価に関しては、東京大学の厳格なドナー評価のステップが論理的に記載されている。生体移植においてもっとも重要なドナーの安全性は、通常の手術とは次元の違うレベルで重要であるということが力説されており、紹介病院でこの点を患者家族にインフォームしていただければ、移植施設での説明の理解が得られやすいものである。第6章の移植前管理においては、実際の現場においてピットフォールに陥りやすく、どうすればよいだろうかと悩んでしまう腹水や胸水の管理、感染症の対応に関して、経験から学ばれた的確な指針が記載されており、現場での診療に役立つ内容である。同様に第9章の術後外来管理の記載内容も、移植専門施設ではない病院での外来診療で悩んだ際に、非常に役立つものとなっている。最終章の第10章はレシピエントコーディネーターから、患者家族にとってはもっとも気になる医療制度と社会復帰に向けての説明で締めくくられる。肝移植を受けた患者はこれまでは外来でも長期的に高額の免疫抑制薬の負担で苦しんでいたが、2010年から身体障害者の1級、更生医療制度が受けられるようになり経済的負担は大きく改善した。これらの点を含めて丁寧に記載されている。
以上、本書は肝移植施設以外の一般病院に勤務する医療者用のガイドブックとして作成されたものであるが、移植施設においても肝移植におけるさまざまな場面で必要なコンセプトの理解に非常に役立つものとなっており、是非とも常備しておきたい1冊である。
評者● 上本伸二
臨床雑誌外科74巻3号(2012年3月号)より転載
東京大学肝移植チームが総力をあげて上梓した本が『よくわかる肝移植』である。序文でこのチームの代表である國土典宏教授が示しているように、この本は肝移植の適応患者を数多く抱えている一般臨床医、とくに内科医を対象としている。
この本は患者向けというよりは、臨床現場で肝不全患者を多く診ている医師向けの内容であり、ぜひとも多くの内科医に肝移植医療を理解してもらいたいというのが、この本を上梓した最大の理由であろう。書評を依頼されたが、読破している最中に執筆者の顔が浮かんできたため、ここは褒めて褒めて、褒め抜こうとも思ったが、本文をしっかり読んで、感じたことを記し、この本の書評に代えることとする。
「ここだけは押さえておきたいレシピエントの条件」(11頁)はなかなかスマートな論調である。ただし、HAART療法はもはや過去のterminologyで今はART療法である。肝細胞癌の「切除も移植もできる場合にはどうする?」(16頁)は気の利いた質問であり、理解しやすい答えが示されている。胆道閉鎖症では「葛西手術をまず考えるべきか?」、「何歳頃に移植をするべきか?」(22頁)と誰しも知りたい質問がなされ、それぞれ的確な説明が披露されている。
「劇症肝炎」の項目(32頁)はそれまでの論調と少し異なり、たくさんの適応基準が総花的に記されているが、一体全体どの基準を実践で用いればよいか迷うところでもある。小児の疾患で「高シトルリン血症」(44頁)は「シトリン欠損症」で統一されているはずである。
「生体ドナーの条件」(51頁)はかなり気合の入った論調で、執筆者たちの思いが垣間みられる。とくに「『善きサマリア人』はダメ―イスタンブール宣言」は気に入った文章である。
「脳死肝移植」の項目(59頁)もかなり綿密に記述されているが、優先順位はこのままでは混乱を招く恐れがある。ぜひとも医学的緊急度10点、8点、6点、3点を付録でも構わないから添付していただきたい。
より実践的な「移植前管理」(67頁)はかなり参考になる。これらをいい加減に放置しておくと肝移植を受けられなくなることもあるため、しっかり理解していただきたい。「意外に怖い、『う歯』治療」、「食道静脈瘤は治療すべきか?」、「どのような感染症に注意するか?」など、経験者でないと書けない内容もうまく説明されている。
「移植手術の実際」(73頁)、「術後管理」(83頁)は移植外科医の精力的な様子が目に浮かぶ。「術後外来管理」(93頁)はきわめて実践的な内容で実地診療に役立つ項目である。しかし、「免疫抑制薬なんか怖くない」(97頁)は少し尻切れトンボ状態で理解できないところがある。項目aの次が落丁したのかと余計な詮索をしてしまった。「肝移植に関するQ&A」は金銭的なこと、肝臓障害者認定のことなど勉強になると思う。
さて、書評の体をなしていないが、一読して肝移植に関して敷居が高いと感じている一般臨床医に是非ともリラックスして読んでいただきたい本であると感じた。ワインでいえば、シャブリA。O。C.―といったところだろうか。是非とも一献傾けたまえ。
評者● 市田隆文
臨床雑誌内科109巻5号(2012年5月号)より転載