臨床医のためのPET/CTによる悪性腫瘍の画像診断
編著 | : 見元敞/畑澤順 |
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ISBN | : 978-4-524-26194-9 |
発行年月 | : 2014年11月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 176 |
在庫
定価8,800円(本体8,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
PET/CT検査が普及して以来、診断の精度は一段と向上し、病期診断、再発の有無、転移の有無などを知る際に有力な情報を提供している。本書はPET/CT検査の対象となるすべての悪性腫瘍を取り上げ、これまでに確立されてきた他の画像検査所見、さらには病理組織診断と対比させながら、PET/CT画像診断の有用性・活用法を分かりやすく解説。がん診療に携わる全医師必携の一冊。
【内容目次】
第I章 基礎編
1 PETの基礎
2 FDG PET/CT検査
3 評価方法
4 これからの新しい領域
第II章 臨床編
1 頭頸部癌、甲状腺癌
2 肺癌、胸膜腫瘍、縦隔腫瘍
3 食道および胃悪性腫瘍
4 大腸および小腸悪性腫瘍
5 肝癌
6 胆道癌(胆管癌、胆.癌、十二指腸乳頭部癌)
7 膵悪性腫瘍
8 乳癌
9 卵巣および子宮悪性腫瘍
10 泌尿器癌
11 悪性リンパ腫
12 肉腫および類縁疾患
13 脳腫瘍
14 骨・筋肉の悪性腫瘍
15 皮膚科領域の悪性腫瘍
16 小児癌
17 重複癌
18 原発不明癌
19 全身性・炎症性疾患
想定外のがんの発見〜あとがきに代えて〜
索引
はじめに
FDGを用いた陽電子(ポジトロン)断層検査(positron emission tomography:PET)は,ブドウ糖代謝を反映した全身の画像検査として悪性腫瘍の診断に導入され,今では,がんの診療に欠かせないものになってきた.特にCTとの融合像が自動的に得られるPET/CT検査が普及して以来,診断の精度が一段と向上し,その結果,PET/CTはがんの「病期診断」「再発の有無」「転移の状況」などを知るのに有力な情報を提供してくれるようになった.今では,早期胃癌を除くすべての悪性腫瘍が保険適用となり,悪性腫瘍の診断に際して必須の検査になろうとしている.また,重複癌など,これまで見逃されてきた可能性のある,想定外のがんの発見にも威力を発揮している.しかし,多くの臨床医にとってはまだなじみが薄く,その臨床的な価値が十分に理解されているとは言い難い.
近年,一部の悪性腫瘍においては,これまでがん治療の第一選択であった手術以外に化学療法や放射線治療が選択されるようになり,その効果判定にPET/CTが重要な情報を提供するようになってきた.すでに悪性リンパ腫は,PET/CTが治療の効果判定の有力な手段として活用され,保険適用にもなっている.
今回,PET/CTによる悪性腫瘍の画像診断を企画するにあたり,これまでに経験した約40,000件を超える症例のなかからPET/CT画像を厳選し,そのうえで,従来から確立されてきた様々な画像検査と対比して,PET/CT画像のイメージが鮮明になるように心がけた.特に最終診断としての病理組織や細胞診の診断を併記することによって,画像を読影する際の理解を助けるように留意した.
本書の基礎編については,大阪大学大学院核医学講座の畑澤順教授に執筆をお願いし,核医学の領域になじみのない読者がPET/CT診断をより深く理解できるように,新たな知見も含めて解説していただいた.また,畑澤教授には基礎編の執筆だけでなく,全体の編集にも加わっていただいた.
本書の多くを占める臨床編の執筆に際しては,森之宮クリニックの開設当初から一貫して画像診断の主軸を務めてきた細木拓野,長谷川義尚両医師の全面的な協力を得たが,特殊な疾患領域については,大阪大学大学院核医学講座の中堅医師の方々(執筆者欄参照)にも分担していただいた.
また,病理診断に関しては,大阪府立成人病センター病理・細胞診断科の冨田裕彦主任部長の協力を仰ぎ,病理診断の監修をお願いした.
本書が,PET/CT検査に直接取り組んでいる画像診断医だけでなく,がんの臨床に携わる臨床医や看護師,放射線技師など一般の医療従事者に広く読まれ,活用されることを期待している.
2014年10月
社会医療法人大道会森之宮クリニック所長
見元敞
PETは,科学の粋が詰め込まれた医療技術である.初期には,加速器,カメラ,放射性医薬品,解析法など,要素技術の開発が研究室レベル,企業の小さな部門で進められてきた.悪性腫瘍の診断に役立ちそうだとわかっていても,1検査に数時間,一断面しか撮像できないのでは,臨床医の関心を得ることはできなかった.
2000年以降,企業によるFDGの供給,PET/CTの開発・普及,保険診療の拡大が契機となり,現在国内では推定60万件(年間)のFDG PET検査が行われている.1980年代,X線CTの普及が脳卒中診療を劇的に改善したように,ここ10年でFDG PET検査は悪性腫瘍の診療に必要不可欠な診断技術になった.放射線科医や核医学医のための書籍は数多く出版されているが,主治医の先生方を対象としたものはわずかしかなかった.それが「臨床医のためのPET/CTによる悪性腫瘍の画像診断」を上梓する契機であった.
PETは決して完成された技術ではない.本書のなかではむしろ多くの限界が述べられている.細胞密度の低い腫瘍の検出には,より高感度のカメラが必要である.ノイズを軽減する技術が必要である.腫瘍と炎症を鑑別するためには,腫瘍特異性の高い新たな放射性医薬品が必要である.低被曝,低コストも必要である.本書を編集する過程で,悪性腫瘍のPET診断に何が必要かを知ることができた.さらに成熟した診療技術となるよう,今後も研究開発を続けたいと思う.
2014年10月
大阪大学大学院医学系研究科放射線統合医学講座核医学教授
畑澤順
近年、悪性腫瘍の診断・治療におけるPET/CTの有用性はいうまでもなく、2014年から早期胃癌を除くすべての悪性腫瘍におけるPET/CTの使用が保険診療の対象となった。呼吸器外科領域においても早くから欠かせないものとなっており、もっとも使用頻度が高い原発性肺癌では、術前病期診断のための遠隔転移検索や主病巣のSUV評価、術後の再発・転移検索などに日常的に使用されている。悪性リンパ腫では、化学療法や放射線療法の治療効果判定としても利用されている。
しかしながら、PET/CTがあまりに急速に普及したため、臨床医の多くはPET/CT検査の詳細な原理や具体的な検査方法、検査上の危険性、検査結果の解釈の仕方など多くのことに対して理解不十分なままであり、読影に関しては画像診断医に頼りきっている状態であることが多い。さらに、肺癌に対して根治手術を施行した症例を後方視的に検討すると、PET/CT検査結果の中には偽陽性例または偽陰性例も一定頻度存在することから、実際の診療ではそれらの可能性をふまえてPET/CTの検査結果を判断する必要がある。したがって、今後の悪性腫瘍を中心とした診療においてPET/CT検査の重要性がさらに増してくることを考えると、PET/CT診断の限界や被験者、医療従事者の被曝線量および今後の展開なども含めて理解しておくことが重要であると考える。
本書は「臨床医のための」とあることからわかるように、画像の専門家しか理解できないような難解な用語や表現などはなく、理解しやすいように基礎から臨床まで解説されている。第I章の基礎編ではPETの原理、実際の検査方法、被曝線量、評価方法、今後のPET検査の新しい領域に関する内容が解説されており、第II章の臨床編では、頭頸部癌、肺癌、消化器癌、乳癌、卵巣・子宮悪性腫瘍、泌尿器癌、悪性リンパ腫、小児癌、皮膚・骨軟部悪性腫瘍、脳腫瘍、さらに全身性炎症性疾患にいたるまで、全身にわたる悪性腫瘍を中心とした多様な疾患について症例が提示されている。症例ごとに臨床データ、通常のCT・MRI画像、内視鏡画像、病理組織像とともにふんだんにPET/CT画像が掲載されており、PET/CT画像とその他の診療情報から得られたデータが関連づけられながら解説され、鑑別を要する疾患も記載されている。画像診断の本としてはめずらしく、病理については肉眼像、細胞像、免疫染色を含めた病理組織像に関する多くの写真が掲載されており、病理診断を意識した画像診断の方向性を感じさせる内容である。呼吸器領域については、臨床上判断に難渋する肺癌に対する放射線治療後の症例や、肺癌のリンパ節転移との鑑別を要するサルコイドーシス例、さらに悪性中皮腫例、縦隔腫瘍例などにも触れられている。
今後は悪性腫瘍に対する診断方法の低侵襲化とともに、ますますPET/CT検査の重要性が高まることが予想され、研究テーマとしても興味深い領域である。そのような中で、PET/CTに関する情報を整理し、理解をより深めるために本書は十分その役割をはたしてくれるものと考えている。カンファレンスの最中に、手にとってみることができる位置においておきたい一冊である。
胸部外科68巻5号(2015年5月号)より転載
評者●東邦大学呼吸器外科教授 伊豫田明
PET検査は検査法の名称であるが、臨床の場のPET検査法としては、本書が対象としているがんの診療を目的とし、ブドウ糖代謝を映像化するFDG-PET検査がもっとも頻繁に行われている。FDGは1975年に米国立ブルックヘブン研究所のWolf氏のもとで井戸達雄先生が初めて合成したもので、がん細胞が正常細胞より3〜8倍も多くブドウ糖を摂取する特性を利用している。わが国でこのFDG-PET検査が普及するにいたった経緯は、山中湖クリニックのがん検診への応用、保険適用の認定、PET/CT装置の市場での普及、企業によるFDGの市販化といった要因がある。2002年に保険適用となったFDG-PETは、2010年度の診療報酬改定で適用疾患が拡大され、早期胃がんを除くすべての悪性腫瘍が検査対象となり、がん診療のなかでなくてはならない検査法となった。このようなFDG-PETをめぐる社会的背景によって、画像診断を専門とする医師以外の臨床医にとってもFDG-PETは知っておかなくてはならない検査法として位置づけられる時代となった。
本書は時代の要請に即して、画像診断専門医以外のがんに携わる臨床医も対象に企画され、基礎編と臨床編に分けて編集されている。基礎編はともすれば臨床医にとって難解になりやすいものであるが、大変わかりやすく、しかも最近の技術・知見も含めた内容となっている。臨床編は著者らの豊富な臨床経験のなかから厳選された症例が選定されている。病理診断で確定された幅広いがん種が記載され、しかもおのおののがんごとに重要なPET/CTの役割が記されている。単に有用性のみの記述ではなくPET/CT検査の限界についても適切に追記されており、真に診療に活用できる内容となっている。症例の提示もMIP像、PET/CT融合画像、内視鏡像、病理組織が並列に示され、読者にとってPET所見が理解しやすくなるよう丁寧に編集されている。
多くの臨床経験を積まれた編著者ならではの観点として、巻末に「想定外のがんの発見〜あとがきに代えて〜」との章立ては大変興味深いものであり、ここに編著者らのFDG-PET/CT検査に対する思いが集約されているように感じる。
本書は多くの臨床経験をもとに丁寧に編集され、多くのがん診療に携わる医師に読んでいただきたい座右の書とすべきFDG-PET検査の名著である。
臨床雑誌内科117巻2号(2016年2月号)より転載
評者●横浜市立大学医学研究科放射線医学教授 井上登美夫