磯村心臓血管外科手術書(DVD付)
手術を決めるこの1針
著 | : 磯村正 |
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ISBN | : 978-4-524-26169-7 |
発行年月 | : 2015年2月 |
判型 | : A4 |
ページ数 | : 294 |
在庫
定価22,000円(本体20,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
心臓血管外科手術の名医として名高い著者の30年以上の手術経験から生まれた、安全で確実かつスピーディな手術手技のノウハウを余すところなく伝える。術式別の解説とし、再現性のある術式、手術を確実に行うコツ、Tips &Pitfallsも盛り込んだ。医師が描いた美しい手術シェーマとともに、著者の手術手技をビジュアルに解説。手術手技を解説したDVDを付属。
第I章 体外循環接続
1.皮膚切開から開胸操作
1 皮膚切開
2 胸骨正中切開
3 開胸
4 心膜の吊り上げ
5 カニュレーションスティッチ
a.上行大動脈
b.上大静脈
c.下大静脈
d.上行大動脈の順行性心筋保護兼大動脈脱気(ベント)
e.左房ベント
f.逆行性心筋保護
6 カニュレーション
a.上行大動脈送血
b.上大静脈脱血
c.下大静脈脱血
d.逆行性心筋保護
e.大動脈基部心筋保護兼ベントの挿入
f.左房ベント
2.心筋保護
3.体外循環離脱
1 各カニューラの抜去時期
2 ドレーンの挿入
3 胸骨閉鎖
第II章 虚血性心疾患の手術
1.冠状動脈バイパス術(CABG)
1 体外循環使用,心停止下(conventional,on pump arrest)
2 グラフトの選択
a.グラフトの種類
b.グラフトの到達
3 グラフトの採取法
a.大伏在静脈の採取
b.左内胸動脈の採取
1)左内胸動脈分枝の処理
2)skeletonized左内胸動脈
c.胃大網動脈の採取
d.橈骨動脈の採取
4 冠状動脈の同定
a.左前下行枝
1)埋没した左前下行枝
2)回旋枝
b.右冠状動脈
5 冠状動脈およびグラフトの前処理
a.冠状動脈の切開
b.グラフト断端の切開
1)in-situの左内胸動脈(in-situの胃大網動脈)
2)大伏在静脈(橈骨動脈,遊離右内胸動脈)
6 各グラフトの吻合法
a.左内胸動脈-左前下行枝吻合
b.大伏在静脈の吻合(橈骨動脈,遊離右内胸動脈)
c.sequential grafting
1)左前下行枝-第一対角枝
2)鈍縁枝-鈍縁枝-対角枝
3)後下行枝-房室枝
4)後下行枝or房室枝-右冠状動脈
7 中枢吻合
8 オンポンプbeating
9 オフポンプCABG(OPCAB)
a.麻酔科医との連携
b.グラフトデザイン,心臓の位置決め
1)オフポンプCABGでのグラフトデザイン
2)心臓の位置決め
3)心臓の位置決めと血圧変動
2.心筋梗塞合併症
1 心室瘤(dyskinesis),虚血性心筋症(ICM)=無収縮(akinesis)
a.心室内膜側パッチ形成術(EVCPP,Dor手術)
b.前壁中隔形成術(SAVE手術)
c.後壁形成術(PRP手術)
2 虚血性僧帽弁閉鎖不全症
a.急性僧帽弁逆流,乳頭筋断裂
b.機能性僧帽弁逆流
1)弁形成術
2)両側乳頭筋間縫縮術
3)二次腱索離断,基部腱索離断
3 心室中隔穿孔
a.前壁中隔梗塞:左前下行枝梗塞
b.後壁梗塞:右冠状動脈,回旋枝梗塞
4 左室破裂
a.blow out type
b.oozing type
第III章 弁膜症の手術
1.僧帽弁
1 僧帽弁形成術(MVP)
2 変性性僧帽弁逆流に対する僧帽弁形成術
a.後尖病変
1)三角切除
2)四角切除
3)スライディング法
4)砂時計状切除縫合
b.前尖病変
c.交連部病変
d.前尖および後尖の両尖病変
3 僧帽弁置換術(MVR)
a.アプローチ
b.僧帽弁の展開
c.後尖弁下部温存
d.人工弁への糸掛け
e.糸の結紮
4 前-後尖温存僧帽弁置換術
5 前-後尖切除後,後尖人工腱索移植
6 僧帽弁輪石灰化症例の僧帽弁置換術
a.後尖僧帽弁輪石灰化の除去
b.僧帽弁輪石灰化空置僧帽弁置換術
7 僧帽弁置換術後の左室破裂
2.三尖弁
1 三尖弁形成術
2 三尖弁置換術
3.大動脈弁
1 大動脈弁形成術(AVP)
a.大動脈弁逆流に対する大動脈弁形成術
1)弁葉の変化(逸脱,交連部)に対する形成術
2)弁葉縫縮術(三角切除)
3)交連下弁輪縫縮術
b.弁輪から上行大動脈拡大による大動脈弁逆流に対する弁形成術:reimplantation法(David手術)
2 大動脈弁置換術(AVR)
a.体外循環
b.大動脈遮断と大動脈切開
c.大動脈弁切除
d.石灰化弁の摘出
e.弁輪への糸掛け
f.人工弁輪への糸掛け
g.人工弁の装着,結紮
h.大動脈壁の閉鎖
3 狭小弁輪に対する大動脈弁置換術
a.大動脈弁輪切開
b.大動脈弁輪から左房上縁,僧帽弁前尖切開
4.複合弁手術
1 2弁あるいは多弁疾患の場合
a.大動脈弁疾患と僧帽弁疾患の合併
b.大動脈弁疾患と三尖弁疾患の合併
c.僧帽弁疾患と三尖弁疾患の合併
d.大動脈弁疾患と僧帽弁疾患,三尖弁疾患の合併
e.弁疾患と冠状動脈狭窄病変の合併
f.弁疾患と胸部大動脈瘤の合併
2 手術手順
5.大動脈基部置換術(弁輪拡大による大動脈弁逆流に対する手術)
第IV章 その他の心疾患手術
1.メイズ手術
1 左房メイズ
2 左房内のアブレーション
a.僧帽弁輪後尖中央にかけてのアブレーション
b.左房内の冷凍凝固
1)僧帽弁後尖中央
2)左心耳
3)左上肺静脈と左房上縁間
c.AtriCureペン型デバイスを用いてのアブレーション
3 右房メイズ
4 神経節叢アブレーション
2.心臓腫瘍摘出術
1 粘液腫(myxoma)
2 悪性腫瘍
3.収縮性心外膜炎に対する手術
4.肺動脈血栓除去術
5.拡張型心筋症(DCM)に対する自己心温存手術
1 機能性僧帽弁逆流
a.リングの選択
b.弁下部に対する術式
2 左室形成術
3 左室補助装置(LVAD)装着術
4 心室頻拍
6.肥大型心筋症(HCM)に対する手術
第V章 大血管の手術
1.真性瘤
1 上行大動脈置換術
a.大動脈基部が拡大した場合
b.Valsalva洞より遠位側の瘤形成の場合
1)末梢側の吻合
2)中枢側の吻合
c.上行大動脈瘤が遠位側で無名動脈下の遮断が困難な場合
2 弓部大動脈置換術
3 下行大動脈置換術
4 胸腹部大動脈置換術
a.胸腹部大動脈置換術,下行大動脈置換術における部分体外循環
1)人工心肺回路:閉鎖式体外循環回路
2)カニューラ
3)体外循環の指標
4)部分体外循環と注意事項
b.手術
2.解離性大動脈瘤
1 Stanford type A(A型解離)
2 Stanford type B(B型解離)
3.腹部大動脈瘤
1 腎動脈直上遮断の場合
2 腎動脈下遮断の場合
3 後腹膜アプローチ
4.破裂性大動脈瘤
1 胸部大動脈瘤
a.食道穿破
b.胸腔内破裂
2 腹部大動脈瘤
第VI章 成人の先天性および類似疾患の手術
1.心房中隔欠損症(ASD)
2.心室中隔欠損症(VSD)
3.Valsalva洞動脈瘤
4.Ebstein奇形
5.肺静脈狭窄
第VII章 再手術術式
1.術前検査,到達法
2.疾患別の再手術術式
1 虚血性心疾患
2 弁膜症
a.胸骨リエントリー,癒着剥離
b.大動脈弁
c.僧帽弁
d.三尖弁
3 大動脈疾患
第VIII章 周術期の薬物療法
1 抗凝固薬
2 利尿薬
a.ループ利尿薬
b.K保持性利尿薬
c.バソプレシン拮抗薬
3 β遮断薬
4 抗不整脈薬
5 術中,ICU管理の点滴薬剤
a.利尿薬
b.昇圧薬
c.血管拡張薬
d.抗不整脈薬
e.鎮静薬
f.輸液管理
g.抗凝固療法
h.ヒトインスリン
おわりに〜メッセージ
付録
索引
序文
1950年代に世界初の開心術が施行されて以来、心臓血管外科の歴史はまだ100年に満たない。ことに心臓大血管外科の発展は1970年代から体外循環が確立され、さらに1980年代の心筋保護法の確立により次第に安全な手術となり、術式も徐々に確立され、毎年のように新しい進歩がある。より安全な術式が確立されるとともに、2000年代に入りオフポンプ手術、カテーテルによる動脈瘤に対するステント治療(TEVAR、EVAR)、大動脈弁置換術(TAVI)といった体外循環を回避できる治療法、正中切開を回避し、正中部に傷が残らない、いわゆる低侵襲性心臓手術(MICS)が行われるようになってきている。
著者はこれまで30年以上にわたり、これらの心臓大血管手術の黎明期から現在に至るまで種々の変遷、あらゆる術式を経験してきたが、やはり、体外循環、心筋保護を確実に習得した、いわゆるgolden standardな心臓大血管の手術を安全に施行できるようになった外科医が次のステップへ進むことがきわめて重要で、このような外科医が新しい治療法に有効性が高いのかどうか判断できるようになると考えている。このため、本書は単独著者が国内、海外で経験して組み立て確立した、もっとも確実に、安全に、早くでき、かつ再現性のある予後の確実な手術について解説している。また、長年一緒に心臓血管外科を学んだ佐藤 了先生に著者の拙劣な図を本文に沿った精細な解りやすい図に仕上げていただいた。本文と図を見開きにすることで、実際に手術を見ているように手術手技が明快になった。本書を参考に、自身の行っている手術法、あるいはこれから行う術者の手術法の一助になれば幸甚である。
外科医には神の手、天才外科医、あるいは世界一上手な外科医はいないのである。読者の方々には毎日の手術の中、さらに術後の経過や予後など丹念に注視した自分の経験の中から生まれた一つ一つのtips and pitfallsを見つけながら、さらなる精進を続けることができる外科医を目指していただきたい。この一助として著者の経験した手術のpitfallsに落ち込まないように、また、落ち込んだ場合の解決法も解説した。さらに、小さなtipsで驚くような変化を手術にもたらすことを幾度となく経験したことをtipsとして示した。
心臓血管外科手術においては1針で手術の流れが大きく変わり(たった1針かもしれないが)、目の前が急に明るくなることも、止血が完璧になることも多く、常に1針の大切さを考えながら手術に臨む心臓血管外科医としての姿勢が大切と考え、「手術を決めるこの1針」と副題に挿入した。
本書が、わが国の心臓血管外科医のみならず、メディカルスタッフをはじめ心臓血管外科の開発にかかわる多くの方々の一助になればこれ以上の喜びはない。
2015年1月
磯村正
本書をはじめて目にしたとき、著者の手術風景の写真を載せた黒い表紙にはっとさせられる。タイトルに自身の名を冠した「心臓血管外科手術書」となっている。教科書では、著者が行っていない手術でも標準術式として紹介されることが多いが、この本は「私はこの手術をこのようにやっている」という、いわば「磯村流心臓血管外科手術指南書」なのである。「手術を決めるこの1針」というサブタイトルにも職人気質の著者の姿勢が表れている。
さて、表紙を開いてみよう。第I章は体外循環接続である。皮膚切開の項では、メスの種類と電気メスのモードまで記載がある。上行大動脈のルートカニューラ挿入では、「助手側で結紮しやすいように術者側から助手側へ縫合する」と、単に挿入できればよいというのではなく、序文に書かれたように「もっとも確実に、安全に、早くできる」手術手順が詳しく紹介されている。“tips and pitfall”で、送血管とメスを持ち替えて刺入する操作は二度手間で出血も多くなり、一流の外科医をめざすならこれくらいのことは当然の操作であると示唆してくれている。著者は、虚血性心筋症や拡張型心筋症に対する左室形成術の第一人者であるので、心筋梗塞合併症の項は特に興味をもって拝読した。
前壁中隔形成術(SAVE手術)の項で、左室切開の縫合糸を結紮した後、縫合糸を長く残しておくと体外循環終了後の出血確認の際に、この糸を引っ張るだけで容易に確認できるなどの工夫が紹介されている。後壁形成術(PRP手術)は本文での記載があまりないが、付属のDVDが理解に役立つ。良好な視野で難易度の高い手術とは思えないほど、無駄なく流れるような1針の連続である。
冠状動脈バイパス術(CABG)の“tips and pitfall”では、内胸動脈採取の際の損傷時や冠状動脈後壁損傷時の修復法が詳しく記載されている。止血追加針は、基本的にはU字で外膜を利用して止血することや、主要な冠状動脈への確実な吻合を心がけ、CABG 4枝吻合後1枝閉塞より3枝吻合後閉塞なしのほうがよいなど著者のポリシーが書かれている。
弁膜症の項では、弁輪への糸掛けの手順や周り方が記載されている。施設での手順が定まっていない場合や経験の少ない術者は、まずは本書の手順をまねることをすすめる。手術においては、手術の手順が決まっていること、つまり次の操作をいちいち考えなくても自然に次の操作に移れることはきわめて重要である。助手や手洗い看護師とのチームとしてスムーズな動きにつながる。手順通りにすすめることは良視野の確保にもつながる。三尖弁閉鎖不全症(TR)に対してのリング形成術では、水テストでI度以上の逆流を認めれば、Alfieri縫合を追加するとある。筆者はこれまで経験していないが、このような方法があることを知っておくことは有用である。
再手術術式の項は、他施設からの再手術依頼の多い著者らしく、最小限の?離を心がけるが、?離の部位の順序や、ハーモニックスカルペルを用いての?離の注意などが紹介されている。再弁置換時の工夫、大動脈弁位の場合の摘出法や、僧帽弁手術時の到達法にも著者の方法が紹介されていて役に立つ。
手術上達の最善策は、一流の外科医の手術助手を務めること、次善の策は手術見学することであるが、皆がその機会を得ることはできない。ライブ手術、ビデオライブなどは有用であるが、術者の左手の使い方や助手の動作、開胸器の位置や心膜吊り上げなど良視野を得るためのちょっとした工夫を盗むことは容易でない。本書では、著者がその心のうちをところどころ紹介してくれている。
筆者は、著者の手術を何度も目の当たりにする機会を得たが、まさに無駄なく流れるような手術操作と助手とのチームワークに感心させられた。本書では、著者の手術に参加しておられた佐藤了氏が図を担当しておられ、とてもわかりやすいシェーマになっている。付録として、著者が用いている縫合糸や器具が手順ごとに紹介されている。これから専門医をめざす若手だけでなく、ベテランの外科医にとっても得ることの多い書である。
胸部外科68巻9号(2015年8月号)より転載
評者●和歌山県立医科大学理事長/学長 岡村吉隆