メカニズムから読み解く 痛みの臨床テキスト
編集 | : 小川節郎 |
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ISBN | : 978-4-524-26135-2 |
発行年月 | : 2015年3月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 262 |
在庫
定価6,600円(本体6,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
症状かつ治療対象の「痛み」に対し大局的観点よりその発生・慢性化のメカニズムを捉え、多領域にわたる痛み研究の成果を実臨床に結びつけて平易に解説した実際書。総論では<痛みの性質><メカニズム><評価法>について、最近の知見を交えて解説し、各論では代表的な各種の痛みに関するメカニズムと評価・治療方針を提示する。痛み診療に携わるすべての医師に最適な一冊。
I 総論
A 痛みの一般的性質(定義,分類)
1.時間経過による分類
a 急性痛
b 慢性痛
2.病因による分類
a 侵害受容性疼痛
b 神経障害性疼痛
c 非器質的疼痛(心因痛)
d がん性疼痛(がん治療に伴う痛みも含む)
3.原因部位による分類
a 表在性疼痛
b 深部の体性痛
c 内臓痛
d 関連痛
B 痛みの発生メカニズム
1.侵害受容器での侵害刺激の変換機構
2.脊髄における侵害情報の処理
3.脊髄からの上行路と痛みの発生機序
C 鎮痛のメカニズム(痛みの内因性抑制機構)
1.ゲートコントロール理論の今
2.脊髄における痛みの調節
3.中枢神経内における痛みの調節
D 痛みの慢性化のメカニズム
1.痛みの慢性化のメカニズム
E 痛みの診断・評価法
1.痛みの強さの評価
2.痛みの性質の評価
3.知覚・痛覚定量分析装置を用いた痛みの強さの評価法
4.ドラッグチャレンジテスト
5.痛みの電気生理学的検査
6.痛みの心理学的検査
7.痛みの脳画像診断
II 各論
A 体性深部痛
1.筋肉痛
2.関節痛
3.鞭打ち損傷など
B 口腔顔面痛
1.歯痛
2.顎関節機能異常症候群
C 頭痛
1.片頭痛
2.群発頭痛
3.緊張型頭痛
4.その他の一次性頭痛
D 内臓痛
1.内臓痛
E 神経系の異常による痛み
1.末梢神経の圧迫および絞扼による痛み
2.求心路遮断痛
3.術後求心路遮断痛
4.中枢神経系の障害による求心路遮断痛
5.神経痛
6.複合性局所疼痛症候群(CRPS)
F 線維筋痛症
1.線維筋痛症
G がん性疼痛
1.がんの進行に伴う痛み
2.がんの治療に関連した痛み
索引
序文
「痛み」は医療機関を訪れる患者の約7割が主訴として訴える症状である。しかし、それほど頻度が高く訴えられる症状であるにもかかわらず、「痛み」それ自体への十分な理解のもとでの診療が行われているとはいえないことも現状と思われる。その原因としては、「痛み」の発生機序が非常に多様であり、身体の部位によってもその性状が異なったり、また時間の経過によっても「痛み」の性質に変化が出るなど、複雑な症状を呈するためであろう。最近では、痛みと脳機能との関係、痛みと負の情動との関係が慢性痛の発生・維持に大きく関与していることも知られ、「痛み」の理解を複雑にしている。また、「痛み」に関する多くの基礎的研究がなされているが、その研究結果と臨床の現場で診る「痛み」とのギャップがあることも事実である。そこで、臨床での「痛み」に直接的に関与する情報・知識を提供できる教科書的な著書が要望されていることから、このたび本書が企画されたものである。
さて、本書は、横田敏勝氏の名著『臨床医のための痛みのメカニズム』の続編として企画されたものである。『臨床医のための痛みのメカニズム』は、これまで「痛み」に興味をもった多くの医療従事者が、一番基本的な痛みの教科書として接した著書と断言してもよいと思われる。そのなかに掲載された内容や多くの図・表は、幾度となく多くの文献に転載され、多くの講演で用いられてきた。それほどに素晴らしい著書の続編ということで、編集者一人では全く能力不足であり、とても同書に並ぶ内容を網羅することは困難であることから、このたびは、各項目に精通する各執筆者による共同執筆とさせていただいた。
企画にあたっては、「臨床」に役立つことを主要なコンセプトとした。項目は大きく「痛みの一般的性質」、「痛みの発生と鎮痛のメカニズム」で臨床医が知っておくべき痛みの基礎知識をあげ、「痛みの診断・評価法」で診療上の重要な事項をあげた。そして痛みの慢性化の機序、体性深部痛、口腔顔面痛、頭痛、内臓痛、神経系の異常による痛み、線維筋痛症、がん性疼痛についての項目に分けたが、その他の疾患別の痛みについてはそれぞれの成書に譲った。
本書の書名を『メカニズムから読み解く痛みの臨床テキスト』としたが、本書によって臨床で遭遇する「痛み」への理解が深まることを祈念している。
平成27年1月
小川節郎
臨床上、疼痛を主訴とする患者は増加の一途をたどっている。最近の大規模な疫学研究によると、慢性疼痛を有している日本人は30〜50歳代の働き盛りに多いことが判明している。また慢性疼痛は、健康寿命にも大きな影響を与えていることがわかっている。疼痛疾患は、われわれの想像以上に社会に対するインパクトの強い重要な症状といえる。
整形外科医の立場から痛みのメカニズムを考えると、いまだにわからないことが多い。たとえば、高度な膝関節の変形があっても痛みをまったく訴えない患者がいる。痛みのメカニズムを理解していないと、これを患者に説明することはむずかしい。慢性炎症では、痛みや発熱が少ないことが判明している。一方、軟骨下骨、靱帯の神経終末が刺激されると、痛みが増強する。このように日常遭遇する疼痛疾患の痛みのメカニズムを理解することは、臨床医にとってきわめて重要である。
しかし、痛みのメカニズムに関する研究は近年急速にすすんでおり、それを理解することは必ずしも容易ではない。機能的MRI(fMRI)による脳画像やポジトロン断層撮影法(PET)を使った多くの研究により、mesolimbic dopamine systemの機能低下で痛覚過敏に陥ることが明らかとなった。Mesolimbic dopamine systemの機能低下をきたす原因としては、長期の不安、ストレス、うつなどがあげられる。すなわち従来、心理的な痛みと考えられていた疼痛は、mesolimbic dopamine systemの破綻という原因の存在が明らかとなった。PETやfMRIの研究により、mesolimbic dopamine systemが下行性疼痛抑制系を活性化し、痛みを抑制することも判明した。このように、痛みのメカニズムは近年の脳機能画像を用いた研究により飛躍的に明らかにされつつあるが、いまだ不明な点も多い。
本書は、日本を代表する痛みの臨床医と研究者によりさまざまな観点からわかりやすく執筆されている。まさに痛みを扱う臨床医にとっては、痛みを理解するうえで必読の書といえよう。総論の項目は痛みの一般的性質、痛みの発生と鎮痛のメカニズム、そして痛みの診断と評価法から成り立っている。各論では、体性深部痛、口腔顔面痛、頭痛、内臓痛、神経系の異常による痛み、線維筋痛症、がん性疼痛が取り上げられている。総論の中では、痛みの慢性化のメカニズムが非常にわかりやすく解説されている。また、痛みの脳画像診断が取り上げられている。従来の痛みの教科書とは明らかに異なる内容であり、本書を特に若い先生方、メディカルスタッフの方々、さらに医学生に読んでいただければ幸いである。日常臨床で遭遇する痛みへの理解が深まることを確信している。
臨床雑誌整形外科67巻1号(2016年1月号)より転載
評者●福島県立医科大学整形外科教授 紺野愼一