これでわかるIBD診療のすべて
編集 | : 渡辺守 |
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編集協力 | : 岩男泰/長堀正和 |
ISBN | : 978-4-524-26073-7 |
発行年月 | : 2011年10月 |
判型 | : A5 |
ページ数 | : 140 |
在庫
定価3,080円(本体2,800円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
炎症性腸疾患(IBD)は近年増加傾向にあるが、その原因はいまだ解明されておらず、標準治療が奏効しないケースもある。また若年層の患者が多いことからQOLへの対処などにおいて苦慮することも多い。本書では、IBD診療のノウハウについて疾患の特徴から診療の実際まで、臨床ですぐに役立つ内容をわかりやすく解説する。専門医のみならずIBDの患者を診る機会のある一般医にもお勧め。
I章 IBDってなんだろう?
A 広義のIBD、狭義のIBDとは?
B 潰瘍性大腸炎(UC)とは?
C クローン病(CD)とは?
D そのほかの類縁疾患は?
II章 IBDの患者さんはどれくらいいる?(疫学)
A 冠者さんの数はどれくらい?
B 性別による違いは?
C 発症年齢、患者さんの年齢分布は?
D 地域による違いは?
E 海外との違いは?
F IBDは家族内発症する?
III章 IBDはどのように発症する?(病因・病態)
A 発症原因はどこまでわかってきたか?
B 食生活の発病への影響は?
C 腸内細菌との関連は?
D 遺伝的素因はどの程度関与する?
E 精神的ストレスの影響は?
F 喫煙の影響は?
G NSAIDsの影響は?
H C.difficile感染、CMV感染とIBD増悪
I IBDでの腸粘膜の免疫異常とは?
J CDとUCの病因・病態は同じか、異なるのか?
IV章 IBDはどうやって診断する?(診断)
A 症候、症状からどのようにアプローチする?
B 診断に有用なX線所見は?
C 大腸内視鏡検査の注意点は?
D UCの内視鏡所見の特徴は?
E CDの内視鏡所見の特徴は?
F バルーン小腸内視鏡検査は有用か?
G カプセル内視鏡検査は有用か?
H 診断に有用な病理組織所見は?
I そのほかの重要な鑑別診断は?
V章 IBDの治療を知ろう!(治療)
A 潰瘍性大腸炎(UC)
A 重症度分類と治療選択は?
B アミのサリチル酸製剤の使い方は?
C 副腎皮質ステロイドの使い方は?
D 免疫調整薬の使い方は?
E 白血球除去療法とは?
F カルシニューリン阻害薬とは?
G 抗TNF-α抗体療法とは?
H UC治療薬の副作用と対策は?
I 小児のUCの治療は成人とどこが違う?
J 腸管(外)合併症の治療は?
K 寛解維持療法とは?
L 外科的治療とその適応は?
B クローン病(CD)
A 重症度分類と治療選択は?
B アミノサリチル酸製剤の使い方は?
C 副腎皮質ステロイドの使い方は?
D 免疫調節薬の使い方は?
E 抗TNF-α抗体療法とは?
F 栄養療法はどうしたらよい?
G CD治療薬の副作用と対策は?
H 小児のCDの治療は成人とどこが違う?
I 腸管(外)合併症の治療は?
J 顆粒球除去療法とは?
K 寛解維持療法とは?
L 外科的治療とその適応は?
M 痩孔、肛門病変への対処は?
VI章 IBDの経過は?(予後)
A UCの自然経過・予後は?
B UCの治療効果・予後を予測できる因子はある?
C CDの自然経過・予後は?
D CDの治療効果・予後を予測できる因子はある?
E どのような患者さんが予後不良か?
F どのくらいの患者さんで外科手術が必要になる?
G 発癌の頻度は?
VII章 患者さんからよくある質問
A 食事で気をつけることは何ですか?
B 妊娠や出産に影響はありますか?
C プレバイオティクス、プロバイオティクスは有効ですか?
D ATM療法は有効ですか?
E 漢方薬は有効ですか?
索引
炎症性腸疾患(IBD)は、厚生労働省難治性疾患、いわゆる難病に指定されており、これまで日本においては比較的まれな疾患と考えられてきた。しかしながら近年、患者数は増加の一途をたどり、2009年度特定疾患医療受給者証交付件数では、潰瘍性大腸炎12万人、クローン病3万人と、合わせて15万人に達している。これは専門医のみで対応できる患者数をはるかに超えており、今やIBDを専門としない消化器科医、一般内科医、さらには研修医も患者さんを診ざるを得ない時代となっている。
IBD診療の話題は過去25年間ほとんど変化がなかったが、この5年間で内科的治療の考え方が劇的に変わってきた。最も重要なものは「粘膜治癒」、すなわち潰瘍を治すことが病気の再燃を防ぐうえで重要だという考え方の導入である。これまでのIBD治療は、症状を改善すればよいという臨床的効果のみを考えていた。しかし、再発予防には内視鏡的な改善「粘膜治癒」が必要であることがわかってきたことにより、旧来の考え方が大きく変わり始めている。これは治療目標のパラダイムシフトであり、はじめてIBDのnatural historyが変えられ、早く強力に治療すれば完全治癒させる可能性がある、という考え方につながっている。
このような内科的薬物療法の進歩を考えると、IBDは本当に治りにくい病気なのであろうかという思いに至る。IBDは確かに「慢性」「原因不明」「根治療法がない」といった特徴を持つが、これはほかのほとんどの病気、生活習慣病も同じである。IBD患者の70%以上は「現在の適切な」内科的および外科的治療で寛解に導けることが示されている。またIBDは難治例に対しても最近の病態解明の研究成果が治療法に直接結びついてきた数少ない疾患である。IBDは将来的には完全治癒の可能性がある病気であるということを理解していただきたい。
日本のIBD診療は、この5年間で新しい薬物療法が次々に登場し、様々な雑誌、単行本はもとより、診療ガイドラインでさえ、発刊される時期にはすでに改訂が必要になるほど、めまぐるしく変化してきた。ここにきてようやくその流れが一段落し、今後3年程度は現在の治療が最新治療となるであろう。本書はまさにその時宜を得て発刊された。IBD診療に携わるすべての医師、医学生、医療関係者にとって役立つものとなったと自負している。簡潔な記載で最新の知見を盛り込んだことで、IBDを専門としない医師のみならず、IBD専門医にとっても読みごたえのある内容となっている。
2011年10月
東京医科歯科大学消化器内科
渡辺守
IBD(炎症性腸疾患:潰瘍性大腸炎とクローン病)は近年増加が著しい。20年前には、特定の専門家以外はめったに出会わない疾患と考えられていたが、現在では、一般消化器医のみならず一般内科医でも出会うことが少なくない疾患となってきている。しかしながら、原因が不明でその診断・治療に当たっては一定の知識が必要とされている。とくに治療面では、この10年間に新しい治療法が取り入れられ、その概念が大きく変わったことから、なかなか取り付きにくい疾患の一つであり、一般医・消化器専門医のともに、良質な解説書が求められている。
本書を開き目次をみたとき、非常に平易な言葉で書かれていることから、どちらかというと、あまり経験のない一般医に対する入門解説書の類ではないかと感じた。しかしながら、実際の項目を読み進めていくに従い、経験のない一般医でも理解することができる言葉で書かれているものの、その内容は専門医がみても十分に参考となる最新の情報を含むものであることがわかる。
専門雑誌でもIBDが特集されることはよくあり、その場合確かに各項目には最新の情報が詳細に解説されているものの、各執筆者の経験等により、同一の治療オプションに対して、その評価や選択法などが異なり、実際の診療の際にどのように選択すべきかなどで困惑することが少なくない。しかしながら、本書では同一門下の執筆者により一定の考えに従って書かれており、そのような場合に大いに参考になる。
また、特筆すべきこととして、治療法などの選択を行う際の考え方、すなわち各オプションを選択した場合のメリット・デメリットだけでなく、治療しない場合のメリット・デメリットまで考慮して、患者さんの全体像(大げさにいえば、それまでの・またこれからの人生観)まで考慮した選択法についてアドバイスしていることがあげられる。また、本書の最後の部分には、以上のようなことを考慮したうえで、患者さんからよく受ける質問に対して、どのような背景・理由でどのように答えることがよいのかという項目まで備わっている。よって、本書はガイドライン的な使い方から、個別の質問への回答まで、この中にすべて備わっている。また、引用文献に関しても比較的充実しているので、さらに詳細について知りたい場合にも役立つように構成が考えられている。このあたりは、編集された渡辺 守先生の深い見識の表れと思われる。
以上のように、本書はコンパクトにまとまっているものの、一般内科医や研修医レベルから消化器を専門とする医師まで、座右に置いておく価値のある1冊であると思われる。
評者● 松本誉之
臨床雑誌内科109巻6号(2012年6月増大号)より転載