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やさしく解説甲状腺疾患の診断と治療

甲状腺を専門としない医師のために

: 窪田純久
ISBN : 978-4-524-25994-6
発行年月 : 2016年9月
判型 : A5
ページ数 : 178

在庫あり

定価3,520円(本体3,200円 + 税)


正誤表

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

長年甲状腺診療に携わってきた著者が、非専門医向けに診断と治療の初歩から実際までをやさしく“伝授”。自信をもって診療に臨めるように、各疾患の基礎知識をコンパクトに整理し、診断・治療のノウハウ、他科との連携までを平易に解説した。「MEMO」や「ADVICE」などのコラムで診療のコツや豆知識も身につく。診断の流れがひと目でわかるフォローチャートを掲載。

序章 甲状腺疾患をシンプルに考えてみよう
 ポイントは“3つの指標”
第1部 もしかして,甲状腺疾患?−“疑う”ことから始まる検査・診断−
 第1章 甲状腺疾患を疑う手がかり
 甲状腺疾患を見つけることの重要性
  A 問診−自覚症状をきいてみよう−
   1 甲状腺機能亢進症(甲状腺中毒症)
   2 甲状腺機能低下症
  B 視診−眼症状はあるか?−
  C 触診−腫大,結節,痛みはあるか?−
   1 触診でわかること
   2 ちゃんと触診できていますか?
   3 触診の見逃し
  D 生化学検査にヒントあり!
   1 総コレステロール値
   2 ALP
   3 AST,ALT,γ-GTP
   4 CPK
 第2章 甲状腺検査値は,こう読む!
 検査値の読み方を間違わないために理解すべきポイント
  A 甲状腺ホルモンと甲状腺刺激ホルモン(TSH)
   1 TotalT4とFreeT4(FT4),TotalT3とFreeT3(FT3)
   2 TSHはとても敏感,しかし変化はゆっくり
   3 FT4,FT3低値,TSH正常または低値の場合
   4 FT4,FT3正常または高値,TSH高値の場合,およびFT4,FT3高値,TSH正常の場合
   5 FT4正常,FT3低値,TSH正常の場合−低T3症候群−
   6 FT4,FT3正常,TSH軽度高値の場合−潜在性甲状腺機能低下症−
   7 FT4,FT3正常,TSH 0.3μU/mL未満の場合−潜在性甲状腺中毒症−
  B 抗TSH受容体抗体(TRAb),甲状腺刺激抗体(TSAb)
   1 TRAb,TSAbのどちらを測定すべき?
  C 抗サイログロブリン抗体(TgAb),抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)
  D サイログロブリン(Tg)
  E カルシトニン
  F 画像検査
   1 超音波検査
   2 頸部軟線撮影
第2部 あなたの患者さんはどのパターン?−フローチャートで診断しよう!−
 フローチャートで診断しよう
  A 甲状腺機能異常が少し疑われるとき
  B 甲状腺中毒症の鑑別
  C 甲状腺機能低下症の鑑別
  D 甲状腺に痛みがあるとき
  E 甲状腺に結節を触知するとき
第3部 整理しておこう!−各疾患の基礎知識−
 各疾患の基礎知識
 第1章 甲状腺中毒症を生じる疾患
  A バセドウ病
   1 おさえておきたい病態
   2 見逃すべからず!この症状と所見
   3 どう診断するか
   4 鑑別診断のポイント
   5 どう治療するか
  B 無痛性甲状腺炎
   1 おさえておきたい病態
   2 見逃すべからず!この症状と所見
   3 どう診断するか
   4 鑑別診断のポイント
   5 どう治療するか
  C 機能性結節(プランマー病)
   1 おさえておきたい病態
   2 見逃すべからず!この症状と所見
   3 どう診断するか
   4 どう治療するか
 第2章 甲状腺機能低下症を生じる疾患
  A 橋本病(慢性甲状腺炎)
   1 おさえておきたい病態
   2 見逃すべからず!この症状と所見
   3 どう診断するか
   4 鑑別診断のポイント
   5 どう治療するか
  B Polycystic Thyroid Disease(多嚢胞性甲状腺疾患)
   1 おさえておきたい病態
   2 見逃すべからず!この症状と所見
   3 どう診断するか
   4 鑑別診断のポイント
   5 どう治療するか
 第3章 甲状腺に痛みが生じる疾患
  A 亜急性甲状腺炎
   1 おさえておきたい病態
   2 見逃すべからず!この症状と所見
   3 どう診断するか
   4 鑑別診断のポイント
   5 どう治療するか
  B 橋本病急性増悪
   1 おさえておきたい病態
   2 見逃すべからず!この症状と所見
   3 どう診断するか
   4 鑑別診断のポイント
   5 どう治療するか
  C 急性化膿性甲状腺炎
   1 おさえておきたい病態
   2 見逃すべからず!この症状と所見
   3 どう診断するか
   4 鑑別診断のポイント
   5 どう治療するか
  D 甲状腺.胞内出血
   1 おさえておきたい病態
   2 見逃すべからず!この症状と所見
   3 どう診断するか
   4 鑑別診断のポイント
   5 どう治療するか
 第4章 甲状腺に結節を生じる疾患
 甲状腺の結節に関して一般内科医が知っておくべきこと
 1 穿刺吸引細胞診の適応
 2 甲状腺乳頭癌で微小癌の場合は必ずしも手術が必要でない
 3 濾胞癌は穿刺吸引細胞診では診断できない
 4 甲状腺癌の術後の経過観察方法
 5 信頼できる甲状腺外科医の存在
  A 腺腫様結節(腺腫様甲状腺腫)
   1 おさえておきたい病態
   2 見逃すべからず!この症状と所見
   3 どう診断するか
   4 鑑別診断のポイント
   5 どう治療するか
  B 甲状腺嚢胞
   1 おさえておきたい病態
   2 見逃すべからず!この症状と所見
   3 どう診断するか
   4 鑑別診断のポイント
   5 どう治療するか
  C 甲状腺乳頭癌
   1 おさえておきたい病態
   2 見逃すべからず!この症状と所見
   3 どう診断するか
   4 鑑別診断のポイント
   5 どう治療するか
  D 甲状腺濾胞癌
   1 おさえておきたい病態
   2 見逃すべからず!この症状と所見
   3 どう診断するか
   4 鑑別診断のポイント
   5 どう治療するか
  E 甲状腺髄様癌
   1 おさえておきたい病態
   2 見逃すべからず!この症状と所見
   3 どう診断するか
   4 鑑別診断のポイント
   5 どう治療するか
  F 甲状腺未分化癌
   1 おさえておきたい病態
   2 見逃すべからず!この症状と所見
   3 どう診断するか
   4 鑑別診断のポイント
   5 どう治療するか
  G 悪性リンパ腫
   1 おさえておきたい病態
   2 見逃すべからず!この症状と所見
   3 どう診断するか
   4 鑑別診断のポイント
   5 どう治療するか
第4部 いざ,実践!−バセドウ病,無痛性甲状腺炎,橋本病の治療−
 第1章 バセドウ病の治療
  A 抗甲状腺薬を投与する前に
  B 抗甲状腺薬でソフトランディングを目指す
   1 どの抗甲状腺薬を選択するか
   2 抗甲状腺薬の適切な初期投与量とは
   3 抗甲状腺薬は,どう減らすか
   4 実例でみる−抗甲状腺薬の減らし方−
    Case1 甲状腺腫大が中等度で,TRAbもあまり高値ではない症例
    Case2 甲状腺ホルモン値の下がりは良いが,すぐには減らせなかった症例
    Case3 勢いの弱いバセドウ病
    Case4 TRAbが下がらない症例
    Case5 甲状腺は小さいが,TRAbが高値の症例
    Case6 一時的に甲状腺機能低下症をつくってしまった症例
    Case7 MMIをなかなか減らせないばかりか,途中で4錠まで増量した症例
    Case8 甲状腺中毒症が高度で,自覚症状が強い症例
    Case9 甲状腺が大きく,甲状腺中毒症も高度だが,TRAbはあまり高くない症例
   5 ヨウ化カリウムをうまく併用しよう
   6 block and replacement therapyで甲状腺機能を安定させる
   7 MMIの飲み忘れをどう防ぐか
   8 副作用対策
   9 MMI関連の先天異常を防ぐには
   10 胎児バセドウ病をどう治療するか
   11 抗甲状腺薬やβブロッカーは授乳に影響を及ぼすのか
   12 薬の副作用以外の有害事象対策
  C 放射性ヨード内用療法で安全に治療する
  D 手術療法が必要な場合とは
  E 放射性ヨード内用療法と手術療法の後に起こり得る甲状腺機能低下症
  F バセドウ病眼症の悪化をどう防ぐ?どう治す?
 第2章 無痛性甲状腺炎の治療
  A T3製剤(チロナミン)をうまく使おう
  B 実例でみる−無痛性甲状腺炎の経過−
    Case1 T3製剤(チロナミン)を使用した症例(パターン(1))
    Case2 T4製剤(チラーヂンS)を使用した症例(パターン(1))
    Case3 持続性の甲状腺中毒症と間違う可能性があった症例(パターン(2))
    Case4 T3製剤(チロナミン)を1年間服用してもFT4が回復しなかった症例(パターン(3))
    Case5 無痛性甲状腺炎でも甲状腺ホルモンがかなり高値になり,診断を迷わせた症例(パターン(3))
 第3章 橋本病の治療
  A 甲状腺ホルモン剤を投与する前に
  B 甲状腺ホルモン剤はどう投与するか
   1 甲状腺ホルモン剤の飲み忘れをどう防ぐか
   2 チラーヂンSの剤形
  C 甲状腺機能低下症は自然回復することがある
  D 橋本病で急に甲状腺が大きくなってくるとき
  E 手術療法が必要な場合とは
   1 整容的に問題があるとき
   2 甲状腺悪性リンパ腫が発生したとき
   3 急性増悪をステロイド剤でうまくコントロールできないとき
   4 気管が狭窄しているとき
  F ヨード制限食はどの程度必要なのか
   1 ヨード摂取過剰を中止するだけのヨード制限食
   2 長く続けられることが可能な軽度のヨード制限食
  G 橋本病と妊娠
第5部 専門医が診るべき甲状腺疾患とは?
 第1章 甲状腺専門医にまかせたほうがよい病態
  A ネガティブフィードバックに合致しない検査値異常
  B 難治例,副作用出現例
  C 妊娠時のケア
  D バセドウ病眼症
 第2章 緊急性のある病態
  A 甲状腺クリーゼ,粘液水腫性昏睡
  B 気道閉塞により窒息の恐れがある状態
  C 抗甲状腺薬による無顆粒球症
  D バセドウ病周期性四肢麻痺
  E 心不全
 第3章 他科の専門医との連携
  A 甲状腺外科,頭頸部外科(耳鼻科)
  B 眼科
   1 バセドウ病眼症の評価
   2 バセドウ病眼症の治療
  C 放射線科
   1 シンチグラフィーによる確定診断
   2 放射性ヨード内用療法
  D 皮膚科
   1 前脛骨部粘液水腫が生じたとき
   2 脱毛が生じたとき
  E 循環器内科
  F 精神科
   1 双極性障害の患者さん
   2 認知症の患者さん
   3 パニック障害の患者さん
  G 産婦人科
   1 MMIの催奇形性
   2 橋本病の患者さんが妊娠したとき
   3 胎児バセドウ病をどう防ぐか
  H 小児科
   1 新生児バセドウ病への対応
   2 成人医療へのトランジション
文献
索引

序文

 甲状腺自己抗体の保有率は一般人口の15%程度であり、検診で甲状腺の超音波検査をすると約20%の人に結節が発見されます。実際に治療を必要とする患者さんはその一部ですが、甲状腺専門医だけでそれらの患者さんすべてを診療することはできませんので、非専門医の先生方が診療を担っておられます。甲状腺に関する良書が数多く出版されており、診療の際には頼りにされていることと思います。忙しいなか、できるだけ時間をかけずに全体像をつかむことができるような、時間のない医師でもすぐ読破できるような初心者向けのシンプルな本があればと思い執筆することにしました。
 私自身は20年以上前に甲状腺専門病院へ赴任した際には、甲状腺に関する知識はほとんど持っていませんでした。その当時、先輩医師の外来について勉強したときには先輩の圧倒的な経験に裏打ちされた豊富な知識にあこがれを抱きました。その後、専門医になってからは教える立場に回り、若手の医師や見学の医師が私の外来診察を見学する機会が増えました。彼らの疑問にどれだけ答えられたかはわかりませんが、若手医師(非専門医)がどんな疑問を持っているかについて知ることはできました。その経験をこの本に生かしたいと思います。

2016年7月
窪田純久

 甲状腺専門家による非専門医向けや患者さん向けの解説書はすでにいくつか発刊され、好評を得ているものも多い。しかしながら、今回の窪田純久先生による非専門医を対象とした著書はひと味もふた味も異なった特徴があると思う。まず第一に、これまで質問を受けてこられた若手医師や一般医家の姿や問答を常に脳裏に浮かべて執筆されていることが推察されることである。これまでの解説書が病気を中心に据えて著述されている場合が多いのに対し、本書では説明を受ける対象者に向けて口語調で語られている。それゆえ、内容がきわめて具体的でポイントを押さえたものになっており、大変受け入れやすい感がある。随所に具体的な症例がCASEとして数値や図表を用いてわかりやすく紹介され、診療のコツがADVICEとして述べられている。なかには専門医でも気づいていないような点もいくつかあろう。卑近な例では、ADVICE「抗甲状腺薬中止後の一過性甲状腺中毒症」(p113)に関して筆者自身以前認識しておらず、著者の論文である文献19を読んで感銘を受けた経験がある。さらに、非専門医から質問が出そうな専門的なトピックスも数多く取り上げられ、MEMOとして平易に解説されている。第二に、著者のこれまでの多彩なご経歴を反映して、多面的かつ総合的な視点や構成になっていることがあげられる。著者は、総合的内科を研修後、心療内科で研鑽されて博士号を取得し、その後甲状腺分野に移られた。甲状腺学の研究のため約2年間米国に留学され、留学後は隈病院で甲状腺疾患の臨床に従事され、副院長まで務められた後に現在のクリニックを主宰されている。そのような背景を反映して、他科との連携においては精神科も取り上げられ、脱毛や成人期へのトランジションにも触れられている。慢性疾患のみならず、緊急性のある病態も取り上げられているのはさすがと言えよう。最後に、著者の人柄も大いにうかがえる内容となっている。窪田先生といえば、温厚実直で飾らない性格がまず思い浮かぶ。これに冷静沈着という印象も加わる。このようなご性格のとおり、内容は大変ストレートかつ簡潔になっており、疾患の診断、検査、治療などの構成も網羅的かつ実践的なものになっている。さらに、医師に対してのみでなく、患者さんに対しても気配りと親切さが多くの文面や行間に醸し出されているのが感じられる。このように、優れた内容に加えて大変ユニークな特徴を有する本書が、できるだけ多くの非甲状腺専門医に読まれ、甲状腺疾患診療の質が向上することを望む。さらに、次の機会には窪田先生にはぜひとも患者さんを対象とした解説書をご執筆いただくことを願って筆を擱きたい。

臨床雑誌内科119巻6号(2017年6月号)より転載
評者●和歌山県立医科大学内科学第一講座教授 赤水尚史

9784524259946