実戦TEE(経食道心エコー法)トレーニング
動画で学ぶ術中戦略(DVD付)
著 | : 渡橋和政 |
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ISBN | : 978-4-524-25985-4 |
発行年月 | : 2016年9月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 316 |
在庫
定価14,300円(本体13,000円 + 税)
正誤表
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2017年04月20日
第1刷
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
『経食道心エコー法マニュアル(改訂第4版)』『レスキューTEE』に続く応用編。TEE(経食道心エコー法)は、その有用性が理解されつつあるが、習得は決して容易ではない。付録DVDの術前〜術後の動画を見ながら、著者の経験した症例を疑似体験することで、実戦さながらに臨床現場で必要な手術戦略を学ぶことができる。
SCENARIO
01.意識障害を伴う90歳代A型大動脈解離症例:到着時に血圧低下
02.左室破裂症例が開胸時にVF,DC無効:原因は?対処は?
03.腹痛を伴うA型大動脈解離症例:置換範囲は?開腹は?
04.右手の脈を触知しないA型大動脈解離症例:安全な送血ルートは?
05.左不全麻痺,意識障害を伴うA型大動脈解離:血圧低下ですぐORに
06.亜急性A型大動脈解離症例の術中イベント:救命の糸口を探れ!
07.胸痛,失神,ST上昇,ショックで搬入された症例:思わぬ展開に
08.ULPを伴う血栓閉塞型大動脈解離:ULPの実像と隠された併存疾患
09.ショック状態で搬入されたA型大動脈解離:脳分離体外循環のpitfall
10.ステロイド内服症例のTEVARで大動脈破裂:透視とTEEのコラボ
11.数週間で真腔が狭小化したB型解離に対するTEVAR:TEEの役割は?
12.AVR+CABG症例が閉胸時に突然VTに:原因は?そして対処は?
13.左鎖骨下動脈の高度石灰化を伴うAVR+CABG症例:LITAは使える?
14.上行大動脈全体が高度石灰化で遮断できないAVR症例
15.通常どおりのAVR+CABGとなるはずが:潜んでいた複数の伏兵
16.大動脈弁輪の石灰化が半端ではないAVR+CABG症例
17.AVR+CABG症例:体外循環離脱時に持ち上がった問題とは?
18.左室内狭窄を伴うAVR症例:弁置換後に狭窄が増強しないか?
19.AVR+CABG症例で上行大動脈の広範な石灰化:遮断は?切開は?
20.狭小弁輪を伴うAVR症例:体外循環離脱時に現れたARの正体は?
21.PLSVCを伴う大動脈二尖弁の感染性心内膜炎症例
22.CABG術後慢性期に胸水,腹水貯留をきたした左室周囲の器質化血腫
23.AVR+CABG症例:術前評価で気づかれなかった冠動脈関連の病態とは?
24.ルーチンチェックの大切さを再認識したAVR+上行大動脈置換症例
25.ANCA関連血管炎症例に起こった不思議なAR,MR:治療方針は?
26.上行大動脈石灰化と高度ASに合併する中等度ARをどうする?
TOPIC
1.大動脈の描出と病変の評価
A.大動脈の描出
01.上行大動脈の描出
02.弓部分枝の描出
03.腹部血管の解剖とオリエンテーション
B.大動脈病変のバリエーション
CASE01.OPCAB症例:上行大動脈後壁のmobile plaque
CASE02.OPCAB症例:前壁の厚い粥腫
CASE03.OPCAB症例:石灰化+粥腫
CASE04.OPCABで急遽pump conversion
CASE05.AVR+CABG予定の症例:石灰化の合間で遮断
CASE06.CABG症例:山脈状の隆起性病変
CASE07.弓部大動脈瘤症例:大動脈病変さまざま
CASE08.腹部大動脈閉塞による下肢虚血
2.左鎖骨下動脈の評価
CASE01.正常な左鎖骨下動脈
CASE02.左鎖骨下動脈の蛇行
CASE03.輝度は高いが狭窄なし
CASE04.全周性に軟らかい内膜肥厚
CASE05.散在性石灰化と内膜肥厚
CASE06.大動脈〜左鎖骨下動脈の内膜隆起性病変
CASE07.石灰化の突出とプローブ操作のpitfall
CASE08.起始部の石灰化結節
CASE09.入口部の石灰化,有意狭窄なし
CASE10.狭窄か否かの評価
CASE11.中等度狭窄?
CASE12.高度狭窄?
3.TEEによる冠動脈評価
CASE01.#6の有意狭窄
CASE02.#11justの閉塞
CASE03.LMTの軽度狭窄と#6justの有意狭窄
CASE04.LMT有意狭窄と#6閉塞
CASE05.LMT〜分岐部の中等度狭窄
CASE06.LMT〜分岐部の高度狭窄
CASE07.LMT 99%狭窄
CASE08.少し離れた末梢の有意病変がわかるか?
CASE09.右冠動脈の走行の変異
CASE10.右冠動脈入口部の狭窄
CASE11.TEEの限界
冠動脈のTEE評価のまとめ
4.大動脈弁と冠動脈の描出
CASE01.ASで弁腹の石灰化結節,short LMT
CASE02.AS,ARのない二尖弁(上行大動脈拡大)
CASE03.二尖弁のAS,rapheに巨大石灰化結節
CASE04.AS,均等な弁尖石灰化
CASE05.弁尖〜弁輪の板状石灰化
CASE06.大動脈前壁,STJの石灰化
CASE07.右冠動脈洞全体の石灰化
CASE08.右冠動脈起始異常,無冠動脈洞全体の石灰化
CASE09.左冠動脈の起始異常
CASE10.めまいの精査で見つかった高度AR
CASE11.AVR後の冠動脈評価:モードと連携と基本テクニック
CASE12.見えなければ,再確認
CASE13.縫合輪に近い冠動脈はどうなる?
5.僧帽弁・三尖弁と感染性心内膜炎
CASE01.評価に用いる3D画像
CASE02.弁輪拡大に対する弁輪リング
CASE03.P2の狭い範囲の逸脱
CASE04.P3の逸脱で三角切除
CASE05.P3逸脱で三角切除後,逆流遺残
CASE06.Commissural scallopの逸脱
CASE07.A2の広範な逸脱
CASE08.三尖弁形成術後の評価
CASE09.冠静脈洞拡大を伴う外傷性TR
CASE10.TAP後の大動脈基部出血
CASE11.僧帽弁P2の球状疣贅
CASE12.後尖弁輪のMACからの疣贅
CASE13.僧帽弁の巨大な疣贅
CASE14.Trousseau症候群の感染
CASE15.大動脈弁の弁輪部膿瘍
CASE16.大動脈弁,僧帽弁の感染性心内膜炎
CASE17.ペースメーカー感染1
CASE18.ペースメーカー感染2
CASE19.僧帽弁位人工弁のstuck
CASE20.僧帽弁位生体弁の破壊
6.腫瘍の外科治療とTEE
A.下大静脈内進展腎腫瘍
01.肝下部下大静脈レベル
02.肝部下大静脈レベル
03.右房に達するレベル
B.心臓内腫瘍
01.左房内の可動性腫瘍
02.右房内腫瘍
03.右房内巨大腫瘍
04.肺動脈内腫瘍
C.心大血管への浸潤を疑う腫瘍
01.上行大動脈に接する腫瘍
02.下行大動脈に接する肺腫瘍
03.鎖骨下動脈に接する腫瘍
04.腹部大動脈に接する腫瘍
7.体外循環におけるsafety net
01.送血管
02.脱血管
03.PLSVC
04.逆行性心筋保護
05.左室ベント
06.心内遺残空気
8.アーチファクト診断のキーポイント
索引
序文
経食道心エコー法(TEE)は、心臓血管外科をはじめ周術期の画像診断として次第に定着してきた。術中連続監視加算も保険収載され、日本周術期経食道心エコー(JB-POT)の資格が心臓血管麻酔専門医の要件にも加えられた。しかし、TEEの習得は容易ではない、という声をよく聞く。かつて『経食道心エコー法マニュアル(改訂第4版)』(南江堂、2012)で、TEE習得の5段階を紹介した。
(1)心エコーの基本を理解
(2)プローブ操作と画像、解剖を紐付け
(3)正常像を理解し、描出
(4)病態を理解し、TEEで描出・診断
(5)応用のタイミングと方法を習得
『経食道心エコー法マニュアル(改訂第4版)』は(1)〜(4)が対象であり、術中のトラブルシューティングを解説した『レスキューTEE』(南江堂、2014)では少し(5)にふみこんだが、いずれも理解を助けるためチャンピオンデータを提供した。ところが、実際の現場では描出が困難であったり、variationで戸惑うことも多い。緊急時には、情報が不足していたり、矛盾していることもある。そのような状況でも、正しい情報を判別し、的確に診断を下して治療方針を決定する必要があり、(5)に照準を合わせた実戦的なトレーニングが必要である。現在、着実に高齢化が進み想定外の落とし穴も潜んでいる一方で、大多数の手術で死亡率が5〜10%以下となっている。それに伴い、従来の「失敗を経験しつつ成長する」という症例数に頼る修練ではなく、「失敗なしに成長する」教育が求められつつある。そのためには、経験を共有し疑似体験できる教材が必要であり、これこそ本書の目指すところである。
外科医にとって技術(戦術)は不可欠だが、症例の複雑化によりメスによる戦術だけで確実な勝利を得ることが困難な症例も増えている。三国志で劉備が戦術に長けた関羽、張飛に加え諸葛亮を得て連戦連勝を期したことは、戦略も重要であることを示している。諸葛亮は、毎回異なる状況の中で情報を収集し、的確な戦略を立てていた。TEEはリアルタイムに情報を提供してくれるツールであるが、これを活かせるかは使い方次第である。本書は、どの時点で何を考えどう判断するという思考過程、つまり戦略を学ぶ教材である。前半部(SCENARIO)では、まず読者を仮想の手術室に導き、その状況で何を考え何を探すかを考えてもらう。ページをめくると解説、そして次の問いかけに進んでいく。後半部(TOPIC)ではvariationを習得してほしい。題材はすべて実際の症例であるが、教育目的にかなり手を加えていることをご理解いただきたい。また、スペースの関係で基本的事項は『経食道心エコー法マニュアル』や『レスキューTEE』を参照とした。
私は「1症例経験するたび症例報告を書けるくらい掘り下げて考え、工夫しなさい」と常々口にしている。本書では、どのように考え、工夫するかという例を紹介した。本書執筆を通して、1年前の自分がいかに未熟であったかと、今、感じている。ただ、現時点で私が今できるのはここまでである。読者の皆さんは、ぜひ本書を踏み台にしてさらに高みを目指してほしい。
最後に、本書で紹介したような大変な症例ばかりの中で、苦労しながら治療に当たってくれた当院のスタッフ、そして膨大な量の原稿や図、動画を1冊にまとめる作業を完遂していただいた南江堂の皆さんに感謝いたします。
2016年9月
渡橋和政
「それは〜まだ〜私が〜神様を信じなかった頃…名曲だよね」。手術しながらつぶやいてもno response。「えっ! さだまさしの“雨やどり”知らないの!?」。日本のスタンダードと筆者が信じて疑わないこの歌ですらこんな風であるから、かつて経食道心エコー法(TEE)が心臓外科医のものであったことなど今の若い人は思ってもいないし、そもそもカラードプラを開発したのも日本人で、しかも尾本良三先生がそれに深くかかわっていたことなど何をかいわんやである。筆者と著者の渡橋先生は同世代、そんな時代のひよっこ心臓外科医は雑務担当、術中はもっぱら氷かきをしていた。ちょうどそのころTEEが出現したものであるから、今度はTEE係を仰せつかる羽目になる。筆者もすかさず専属TEE医に。そのすばらしさに魅了され、左房球状血栓の患者を座らせたり、うつ伏せにしたりして体位による血栓の動きを観察した(既成概念とは真逆の頭高位が安全と判明)。さらにバスケットボール部の後輩に無麻酔でTEEを突っ込み、無理やり(確かに涙ぐんでいた)自転車を漕がせたりもした。しかし、自分で手術を始めると興味は薄れ、やがてTEEは後輩そして循環器内科、麻酔科へと引き継がれていった。当時多くの心臓外科医がそうであったと思う。しかし著者は違った。彼は心臓外科医として大成しながらもずっとTEEにこだわり、数々の論文を発表、医学書を上梓し続けている。本書はその最新作である。
「習うより慣れよ」といわれるが、だからといって習う(勉強する)必要がないと思う人はいまい。外科で「慣れる」とは失敗を経験することであり、手術成績が向上し「失敗なしに成長する」ことが求められる現代、著者は習いながら慣れてほしいとの思いで疑似体験できる本書を世に送った。表紙にある「実戦」や「戦略」は伊達ではない。なんといってもその真骨頂は冒頭から始まるSCENARIOである。心臓血管外科の急患といえば急性大動脈解離。病態は多岐に渡り、術前・中・後で常に適切適時な対応を迫られる。その解離症例が現場の息遣いが伝わるほどの描写で呈示され、折々の判断(もちろんTEEがらみ)を読者に問いながら推理小説のように展開していく。しかも怒涛の解離9連発。急患を受け取り手術した気になるのでどっぷりと疲れ果て、初日はここまでで精根尽きる。それなりの経験があり、こと解離にはうるさい筆者は著者の判断と戦略に突っ込みを入れる機会を窺いながら読んだが、残念ながらほぼ同意見。その結果を得てほっと胸を撫でおろしたのはもちろん筆者のほう。処置や手順が間違った(造影CTをとりにいってその間に破裂したなど)ために手術できなかったのは手術成績に現れない。そこを改善しないといけないというのも大賛成。そこで一つ聞きたいと思ったのは、「経胸壁心エコーや単純CTで解離とわかり手術適応となったとき、全例造影CTはとらずすぐに手術室入室、TEEで手術をするべきか?」ということ。一般論ではなく著者ほどのTEE使いともなればそれでよいように思えるのであるが。さてその後のSCENARIOは急性心筋硬塞や問題のある大動脈弁置換術各種と続くが、出だしで興奮した分、日をかえこのあたりは少し落ち着いて楽しみながら読めた。SCENARIOに続くTOPICでは大動脈、鎖骨下動脈、冠状動脈などなど各対象を描出するためのテクニックとそれで得られる所見の解釈が豊富な臨床例をあげて解説されている。付属のDVDを参照しながらすすむこの章も、疑似体験であることにかわりはない。その情報量は半端なく、まさにじっくりと咀嚼しながら読みすすめる感じである。
本書のおかげでかなりの枚数、眼から鱗が落ちた。特に大きなものはTEEによる脊髄虚血と冠状動脈血流評価である。椎間を通して脊髄側枝の拍動がBモードでみられるという。また冠状動脈も入口部ならまだしも後下行枝の血流までも確認できるらしい。だがどちらも“(著者の)過去本参照マーク”がついているので、単に筆者の不勉強の賜物ということらしい。思うに著者は現在こそTEEの教祖、達人、伝道師であるが、最初は(もしかして今もどこかが)信者であって、これもTEEでみえるのではないか? あれもみてみたい! とどんどんプローベを突っ込んできたのであろう。「どうせみえない」という言葉は、きっと著者のもつ分厚い経典にはないのである。
胸部外科70巻2号(2017年2月号)より転載
評者●大分大学心臓血管外科教授 宮本伸二
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