東京大学医学部肝胆膵外科,人工臓器・移植外科 手術の流儀
編集 | : 國土典宏 |
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編集幹事 | : 阪本良弘 |
ISBN | : 978-4-524-25981-6 |
発行年月 | : 2017年5月 |
判型 | : A4 |
ページ数 | : 358 |
在庫
定価19,800円(本体18,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
東京大学医学部肝胆膵外科、人工臓器・移植外科で行っている手術を、実際の症例の手術記録をベースに再構築。術者が作成した手術シェーマを掲載したほか、手術の一部の動画は南江堂ホームページより閲覧が可能で、あたかも当科の手術を見学しているような臨場感をもった手術書。若手消化器外科医、中でも肝胆膵外科高度技能専門医の取得を目指す医師に向け、東大式の肝胆膵外科手術の術前デザインや手術手技を紹介した。
第I章 肝臓の手術
1.転移性肝癌に対する右肝切除
2.転移性肝癌に対する左肝切除
3.肝細胞癌に対する肝前区域切除
4.肝細胞癌に対する肝後区域切除
5.混合型肝癌に対する肝中央二区域切除
6.肉眼的腫瘍栓を伴う肝細胞癌に対する肝S8系統的切除
7.肝細胞癌に対する肝外側区域切除
8.肝細胞癌に対するcentral hepatectomy
9.両葉多発大腸癌肝転移に対するparenchymal-sparing hepatectomy
10.化学療法によるconversion後の肝切除阪本良弘
11.両葉多発大腸癌肝転移に対するALPTIPS 1st Stage
12.両葉多発大腸癌肝転移に対するALPTIPS 2nd Stage
13.門脈腫瘍栓を伴う肝細胞癌に対する左肝切除
14.門脈腫瘍栓を伴う肝細胞癌に対する右肝切除
15.肝上部下大静脈内の腫瘍に対する静脈再建を伴う切除
16.下大静脈と門脈内に腫瘍栓を伴う肝細胞癌に対する右肝切除
第II章 胆道の手術
1.肝門部領域胆管癌に対する右肝切除
2.肝門部領域胆管癌に対する左肝切除
3.肝動脈と門脈に浸潤のある肝内胆管癌に対する左肝切除
4.広範囲胆管癌に対する右肝切除兼膵頭十二指腸切除
5.広範囲胆管癌に対する肝左三区域切除兼膵頭十二指腸切除
6.腹腔鏡下胆摘後に判明した胆嚢癌に対する根治術
7.総胆管嚢腫に対する肝外胆管切除
8.胆管癌に対する肝外胆管切除
第III章 膵臓の手術
1.膵頭部癌に対する膵頭十二指腸切除,門脈合併切除
2.膵頭部癌に対する術前化学療法後の動門脈合併切除を伴う膵頭十二指腸切除
3.膵体部癌に対する術前化学療法後の膵体尾部切除
4.膵体部癌に対する術前化学療法後のDP-CAR
5.膵頭体部癌に対する膵全摘,総肝動脈合併切除再建
第IV章 腹腔鏡下手術
1.肝細胞癌に対する腹腔鏡下肝外側区域切除
2.大腸癌肝転移に対する腹腔鏡下肝S8部分切除
3.膵神経内分泌腫瘍に対する腹腔鏡下膵体尾部切除
4.膵神経内分泌腫瘍に対する腹腔鏡下脾臓温存膵体尾部切除
第V章 肝移植
1.生体肝移植における右肝グラフト採取(ドナー手術)
2.生体肝移植における左肝グラフト採取(ドナー手術)
3.生体肝移植における後区域グラフト採取(ドナー手術)
4.アルコール性肝硬変に対する右肝グラフトを用いた生体肝移植(レシピエント手術)
5.原発性硬化性胆管炎に対する左肝グラフトを用いた生体肝移植(レシピエント手術)
6.Budd-Chiari症候群に対する右肝グラフトを用いた生体肝移植(レシピエント手術)
7.原発性胆汁性肝硬変に対する脳死肝移植(レシピエント手術)
流儀・勘どころ
第I章 肝臓の手術
(1)肝切除における視野の確保
(2)安全で効率的な肝授動
(3)系統的な肝切除における肝門個別処理
(4)肝静脈圧のコントロール方法
(5)Clamp crushing法とデバイスによる肝離断
(6)肝離断の手順と肝静脈の露出
第II章 胆道の手術
(1)内視鏡的胆道減圧法
(2)経皮経肝的門脈塞栓術
第III章 膵臓の手術
(1)SMA first approach
(2)膵空腸二期再建
(3)ホモグラフトを用いた門脈再建
第IV章 腹腔鏡下手術
(1)腹腔鏡下手術におけるICG蛍光法の効用
(2)腹腔鏡下手術における安全な肝授動
(3)腹腔鏡下手術における安全な肝離断
第V章 肝移植
(1)3Dシミュレーションによるグラフト選択基準
(2)ドナーバックテーブルでの肝静脈再建
索引
序文
本書では2011年から2015年に当科で行われた約2,500件の肝胆膵外科手術から40件をpick upし、その手術記録を中心に、適応、画像診断、リスク評価、病理所見、予後について詳説しました。一般的なHow to本ではありませんが、個々の症例の問題点への対応と結果を示し、肝胆膵領域の開腹手術、腹腔鏡下手術から肝移植までカバーしています。
一般的な手術書には標準的あるいは理想的な手術が解説されており、それはもちろん必要なのですが、臨床の現場では、理想的な手術を行えなかったり、手術適応に悩んだりする場面に多く遭遇します。本書には化学療法後の進行癌症例、肝動脈や門脈への浸潤例、下大静脈内に腫瘍栓を形成した症例も収載されています。外科医は病気の進行度、患者の年齢や併存症、手術侵襲をすべて考慮して、安全かつ根治性の高い手術を追及する責任を負っており、そのバランスが極めて重要です。進行肝胆膵癌の予後や最近の化学療法の進歩、また上皮内癌の存在などを考慮すると、バランスの取り方は次第に複雑になってきています。正解はひとつではありません。患者さんや家族と向き合って、その都度考えながら誠心誠意、治療を続けていくことが外科医に与えられた使命ではないでしょうか。
本書は手術記録を中心に構成されています。質の高い手術を追求するうえで手術記録は教育上も有用なツールではないでしょうか。手術記録にイラストを加える習慣は日本の外科の良き伝統文化であり、欧米では口頭による手術の記録が主体で、日本のようなイラスト入りの記録は少ないようです。若い医師や学生に肝臓の図を描いてもらえば、その理解度は一目瞭然となります。肝胆膵外科領域ではアート力の強化が、複雑な三次元解剖の理解を高め、質の高い手術の実践に結びつくと信じています。手術を終えて目を閉じると、先程まで剥離していた肝門部や膵頭部の光景が瞼のうらに自然に浮かんでこなければなりません。それらを忘れないうちに文章とイラストに忠実に再現すれば、自然と臨場感の高い手術記録が出来上がるはずです。本書ではあえて、プロのイラストレーターの力は借りずに外科医によるイラストを掲載しました。イラストの質自体はプロにはかないませんが、そこには、外科医の見た術野が忠実に再現されています。また、南江堂のホームページにアクセスしていただくと掲載手術の一部の動画を無料で閲覧できるようにしました。本書の記載と実際の映像を見ることで手術を追体験していただくことを期待しています。
本書が示しているのは肝胆膵外科手術に取り組む当科の実録です。本書を見てくださる若手やベテランの外科医の先生から、異なったご意見をいただくことも享受する覚悟を含めて「手術の流儀」なのだと思います。本書が、肝胆膵外科高度技能専門医の取得を目指す若手外科医やベテランの肝胆膵外科医に限らず、多くの外科医の明日の診療の一助になれば幸いです。
2017年4月
阪本良弘
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