1型糖尿病診療ノート
41のヒント
著 | : 今川彰久 |
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ISBN | : 978-4-524-25978-6 |
発行年月 | : 2016年5月 |
判型 | : A5 |
ページ数 | : 124 |
在庫
定価2,750円(本体2,500円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
1型糖尿病診療の基礎知識から最新治療までをコンパクトに解説。SAPやCGM、新規インスリン製剤の登場、カーボカウントの導入等により著しく進歩した1型糖尿病診療について、診療のヒントとなるエッセンスをまとめた。教科書的な内容でなく、著者の経験から得た実践的内容を提示。糖尿病患者さんを診るすべての医師はもちろん、療養指導を行う医療スタッフにもおすすめの一冊。
第1章 1型糖尿病の病態・発症形態・診断基準について理解する
1 1型糖尿病は膵β細胞の破壊により生じ,通常は絶対的インスリン欠乏に至る
2 自己抗体陽性は急性発症1型糖尿病(自己免疫性)であることを示す
3 緩徐進行1型糖尿病は2型糖尿病と鑑別が必要である
4 劇症1型糖尿病は速やかな診断が必要である
5 日本人1型糖尿病では診断基準に従い3病型を鑑別する
6 1型糖尿病の急性期にはケトアシドーシスに対する治療を行う
第2章 1型糖尿病患者さんに伝えること
7 診断時に1型糖尿病の病態を理解してもらう
8 現在の標準治療と今後の見通しを診断時に患者さんに伝える
9 1型糖尿病であることを告げられた際,いくつかの過程を経てそれを受容する
10 疾患受容の過程は一直線ではないことに留意して治療を続ける
11 血糖だけでなく患者さんをみる
第3章 インスリン療法の基本と実践
12 健常者のインスリン分泌を基礎分泌と追加分泌に分けて考える
13 インスリン頻回注射法によりインスリンを補充する
14 インスリン製剤は作用持続時間により用途が異なる
15 SMBGは血糖管理の最も重要な手段である
16 血糖管理にはSMBGのデータを最大限活用する
17 CGMを用いると72時間以上連続して血糖が測定できる
18 CGMを用いると夜間や食後の血糖が容易に測定できる
19 CGMにより血糖コントロール不良例が評価できる
20 シックデイでもインスリン注射は中止しない
21 海外旅行では血糖は高めに維持する
第4章 インスリンポンプ療法の基本と実践
22 インスリンポンプ療法では頻回のbolus注射を行いやすい
23 インスリンポンプ療法ではトラブルへの対処法を十分理解してもらう
24 SAPは可能性を持った新しい治療機器である
25 SAPデータの解析は従来のSMBGの方法にプラスαが求められる
第5章 食事についての理論と実践
26 ライフステージに合った適切なカロリーとバランスのよい栄養素を摂取する
27 同じカロリーでも栄養素によって血糖値に与える影響は異なる
28 カーボカウントが実際にどのように行われるかを知る
29 カーボカウントの適応については十分な見極めが必要である
第6章 運動についての理論と実践
30 1型糖尿病における運動の意味は2型糖尿病とは異なる
31 運動時はインスリンの減量と補食で対応する
第7章 低血糖への対応
32 低血糖閾値の低下と無自覚低血糖に特に注意する
33 低血糖にはできるだけ早く対処する
34 低血糖時には原因を明らかにし,次を予防する
第8章 ライフステージにおける対応
35 ライフイベントと1型糖尿病−就職
36 ライフイベントと1型糖尿病−妊娠・出産
37 小児科から内科への移行はライフイベントとともに
第9章 キャンプや患者会の活用
38 糖尿病サマーキャンプへの参加は1型糖尿病患児に大きな成長を促す
39 成人にとっての1型糖尿病患者会は糖尿病サマーキャンプと同じような意味を持つ
第10章 1型糖尿病診療の今後
40 糖尿病治療の1つとして膵腎同時移植のことを知る
41 膵島移植は将来性を持った先進医療である
付録
1 1型糖尿病3病型の診断基準
2 参考図書・推薦図書
索引
序にかえて
まず、この本を手に取っていただいた1型糖尿病に関心のあるすべての方に感謝します。この本は、1型糖尿病診療の基本と思われることについて私なりにまとめたものです。41の症例を提示し、解説し、解決案を示す、という構成になっています(ただし、実際の症例ではありません)。日本人の糖尿病患者さんのうち9割以上は2型糖尿病であり、1型糖尿病は幸いにも少数派です。とは言っても、多くは若年で発症し、根治療法がない1型糖尿病の診療を求める患者さんは大勢います。また、1型糖尿病の診療において2型糖尿病の診療とは異なる知識や技術を要求されることがあります。そこで、1型糖尿病診療の裾野が少しでも広がればと思い、主として研修医や医療スタッフの方を対象に本書を執筆しました。2016年現在の日本における1型糖尿病診療の状況をコンパクトに俯瞰することも目標にしました。
私自身は先輩の医師に教わりながら1型糖尿病診療に入門し、先輩・同輩・後輩や医療スタッフ、患者さんに教えられながら、現在に至っています。本書はその教わったことをベースに記した1型糖尿病診療の入口です。今回取り上げた1つひとつの項目で1冊の本が書けるほどの奥行きがあります。本書を契機に1型糖尿病診療に参加する医療者が1人でも増え、さらに奥行きがプラスされることになれば、と願ってやみません。
2016年4月
大阪大学大学院医学系研究科内分泌・代謝内科学
今川彰久
本書を手にとって、まずその素晴らしさに驚き、感動した。私が驚かされたことはいくつもある。
まず第一に、1型糖尿病に関するこのような入門書が、私の記憶では今までほとんどなかったことである。著者は今までこのような入門書がないことを憂い、それが本書執筆の動機となったのであろう。私は1型糖尿病をライフワークにしてきた人間として、このような素敵な入門書が世に出たことを、医療スタッフのためにも患者さんのためにも心から喜びたい。
第二に、本書は著者が一人ですべてを執筆したことである。その利点は計り知れない。最初から最後まで考え方の筋道が一貫しており、共著にありがちな著者間における意見の相違がまったくみられない。一方、これだけの内容を一人で執筆する際には内容に偏りが出やすいが、賢明な著者の手にかかればそのようなことは杞憂であった。著者は相当な勇気と覚悟をもって本書の執筆を開始したに違いないが、その努力は内容の素晴らしさで十二分に報われている。
第三に、本書は膨大な1型糖尿病診療の全体を41のヒントに凝縮し、それぞれにふさわしい数行の「症例提示」の後、簡潔でありながら必要十分な「解説」がなされ、最後に「症例のその後」が示されるという構成になっており、読みやすく、理解しやすい。解説は簡潔とはいえ、長年1型糖尿病診療に携わってきた著者ならではの、診療の奥義に迫るような深い内容が含まれていることは特筆すべきことである。所々に「コラム」というコーナーが設けられ、重要なポイントが整理されているのも嬉しい。
第四に、理論的なことは必要最小限に留め、実践的な内容に多くのページを割いていることも、本書の利用価値を高めている。たとえば、1型糖尿病診断時に患者さんに伝えるべきこと、SMBGやCGMやSAPのデータをどのように読み解き活用するか、患者さんが海外旅行する際の英文紹介状の例、カーボカウントの使い方、運動の意味が2型糖尿病とは異なることや運動時の注意、低血糖への対処の仕方、など枚挙に暇がない。
第五に、著者の患者さんへの優しい思いやり、糖尿病診療における哲学などが随所にうかがえ、糖尿病診療の真髄に触れることができるのも嬉しい。第2章「1型糖尿病患者さんに伝えること」や第8章 「ライフステージにおける対応」、さらに、糖尿病サマーキャンプ、患者会などに関する記述は、多くの1型糖尿病患者さんと接し、サマーキャンプや患者会にも積極的に参加し、患者さんから学んでこられた著者の面目躍如といえる。
糖尿病診療に携わるすべての方に、まずは本書を手にとってみていただきたい。コンパクトでありながら充実した内容に、私と同じく驚かれるであろう。本書は、これから1型糖尿病のことを勉強しようという研修医や、糖尿病専門医を目指す若い人はもちろんのこと、糖尿病診療に携わるすべての実地臨床医、チーム医療に関わるすべての医療スタッフにとっても数々の有益なヒントが得られる内容で、これらの方々に自信をもって本書を推薦する。
臨床雑誌内科119巻1号(2017年1月号)より転載
評者●堺市立総合医療センター院長 花房俊昭