プライマリ・ケアの現場でもう困らない!止まらない“せき”の診かた
著 | : 田中裕士 |
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ISBN | : 978-4-524-25977-9 |
発行年月 | : 2016年9月 |
判型 | : A5 |
ページ数 | : 180 |
在庫
定価3,300円(本体3,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
「先生、“せき”だけが止まらないんです!」こんな患者さんが来て診療に困ったことは…?プライマリ・ケアの現場で頻繁に遭遇するものの、原因が多岐にわたるためその診断・治療に苦慮するケースの多い“せき”の診かたをエキスパートに学ぶ。基本的な診かたから原因疾患の見極め方、治療のコツまでをわかりやすく解説。鑑別のフローチャート、各章冒頭のエッセンスやポイントで、短時間で要点を確認できる。臨床現場ですぐに役立つ心強い一冊。
はじめに−どうしてこんなに“せき”が止まらなくなったのか?
2週間以上の咳嗽鑑別フローチャート
8週間以上の慢性咳嗽鑑別フローチャート
第1章 問診で絞り込む3つの診断ポイント
A 好発時間:咳嗽の起こりやすい時間帯でどこまで絞れるのか?
B 喀痰の有無:乾性咳嗽と湿性咳嗽では異なる
C 持続時間・期間で異なる咳嗽
第2章 頻度の高い順で考えよう:“せき”のタイプ別鑑別診断と治療総論
A 感染および感染後の咳嗽
B 花粉飛散時期,ほこり吸入後の咳嗽
C 呼吸困難を伴う咳嗽
D 何年も続いている咳嗽
症例1 10年以上継続した軽度乾性咳嗽(91歳,女性)
第3章 問診の肝!過去の治療内容と症状からわかる本当の診断
第4章 診断がつけば容易に止まる咳喘息だが
第5章 意外に多いアレルギー性鼻炎・副鼻腔炎・咽喉頭炎に伴う“せき”
A アレルギー性鼻炎・副鼻腔炎・咽喉頭炎
B 好酸球性副鼻腔炎
C 細菌性鼻炎・副鼻腔炎
第6章 長引く“せき”を起こす感染症
A 治療が遅れると止まらない百日咳
B マイコプラズマによる集団感染,重症化,細気管支炎
C 軽症でだらだら続く副鼻腔気管支症候群
D 最後に気づく気管支結核
症例1 手遅れの百日咳治療(43歳,女性)
症例2 救急外来での失敗例(34歳,男性)
症例3 吸入配合薬で咳が止まらない(16歳,女性.学生)
症例4 喘息と気管支結核(46歳,女性)
症例5 基礎疾患のない気管支結核(31歳,男性)
第7章 無視できないPM2.5,黄砂,酸性霧による“せき”の悪化
第8章 心因性咳嗽の見破り方:薬が効かない待合室,診察室での耳障りな“せき”
症例1 家庭内暴力が原因(10歳,男子.小学生)
症例2 夫婦仲の悪さが原因(70歳代,女性)
症例3 咳嗽の原因が変わる症例(16歳,女子.高校生)
症例4 Asperger症候群の咳嗽(29歳,男性)
第9章 仕事場での“せき”(職業性咳嗽)
症例1 基礎疾患にアレルギー性鼻炎あり(31歳,女性)
症例2 既往に小児喘息あり(53歳,女性)
第10章 新築・リフォーム後の家,タバコや線香の煙などで起こる“せき”
症例1 家族同時発生の咳嗽(40歳代,女性)
症例2 学校がシックビルディング(10歳代,男子.高校生)
第11章 困ったときの漢方治療
症例1 西洋薬に副作用の出る症例(20歳代,男性)
索引
序文
「先生、“せき”だけが止まらないのです」。
この言葉を何度外来で耳にしたことでしょうか。難病ならまだしも“せき”すら止められない……。医師としての無力感が心に去来します。そこで、胸部X線で明らかに異常がない“せき”を、プライマリ・ケアでどこまで鑑別できるのか、挑戦してみたくなりました。
本書は、必ずしもガイドラインやエビテンスに基づいたものばかりではなく、呼吸器専門医である筆者の経験に基づいたものや、現在進行形の研究内容も一部に取り込んでおり、最新の情報を記載しています(当然のことですが、1年経過すれば古い知識になっていたり、考え方が大きく変わり、これまでの記載が間違いになることもあります)。
今回、呼吸器が専門ではないプライマリ・ケア医における診療や研修医の外来診療、さらにパラメディカルの研修の参考にもなるよう本書を企画しました。
筆者は外来で、まず初診時の問診や診察、各検査をきちんと行ったうえで、精密呼吸機能、気道過敏性試験、胸部CTなどの精密検査により仮の診断をつけ、さらに治療経過を確認しながら診断を確定させています。このような経験の積み重ねから、本書では上述の読者対象を念頭に、基本といえる初診時の問診や診察をはじめとした診断の流れから、治療方針の考え方に至るまで、できる限りわかりやすく解説しました。また、忙しい方にも要点をつかみやすいように、各項の冒頭にエッセンスやポイントをまとめる工夫を施しました。読者の皆様に手軽に読める本として活用いただけますと幸いです。
2016年8月
NPO法人札幌せき・ぜんそく・アレルギーセンター理事長
医療法人社団潮陵会医大前南4条内科院長
田中裕士
咳は日常診療のなかで、頻度の高い主訴である。また外来患者の訴える主訴のなかで最も多いものである。このため本書のタイトルである「止まらない“せき”の診かた」を習得することは、臨床医にとって必須であり、同時に臨床医の腕の見せ所でもある。
本書は、長く札幌医科大学医学部呼吸器・アレルギー内科学講座に在籍され、マイコプラズマ肺炎、および気管支喘息などの臨床、および基礎研究に携わられ、その後開業された田中裕士先生が執筆されたものである。田中裕士先生のマイコプラズマ肺炎に関する論文は、世界的にも高く評価されるものである。また開業後は一般臨床を実践されつつ、臨床研究を継続し、近年は気管支喘息に関する臨床的アプローチを広く展開されている。
本書にも示されているように、咳は器質的な呼吸器疾患のみならず、感染症、アレルギー疾患、鼻疾患、胃食道逆流など、さまざまな要因により惹起される。もちろん患者さんの希望は咳を止めてほしいのであるから、咳の原因を明らかにすることは重要な課題である。本書は臨床医向けの単行本であるので、開業医の視点から、急性、遷延性および慢性咳嗽へのアプローチを取り上げている。また忙しい外来で、速やかに咳を止めるための実践的治療についても記載されている。病名ではなく病態から治療することを心がけるという実践的アプローチは、筆者の長年の臨床経験から得られたものであろう。
咳を有する患者さんを診察する際には、咳の持続期間を考慮することが重要である。まず急性の咳は、3週間以内の咳と定義する。遷延性の咳は3〜8週間続く咳である。慢性の咳は8週間以上続く咳である。当然のことながら、長い期間咳が続けば続くほど、感染症の可能性は低くなる。これに加えて本書では、咳の好発時間・場所からの鑑別診断を示している。とくに本書の6〜9ページに示されたフローチャートは、田中裕士先生の臨床経験の集大成ともいえるものである。
本書を通読すると、第1章「問診で絞り込む3つの診断ポイント」、第2章「頻度の高い順で考えよう」、第3章「問診の肝!」というように、問診のみでの咳の鑑別診断を試みている。問診で咳の原因を絞り込む際には、とくに随伴症状(呼吸器症状、または肺外症状)の有無に着目すること、また身体所見を系統的にみることにより、さまざまな咳の原因を特定しうることなどが示されている。
第4章から第7章にかけては、各論となり、「咳喘息」、「アレルギー性鼻炎・副鼻腔炎・咽喉頭炎」、「感染症」、「PM2.5など」による咳を取り上げている。
第8章からは、よりきめ細かく、「心因性咳嗽の見破り方:薬が効かない待合室、診察室での耳障りな“せき”」として、すぐに鑑別できる方法を章のタイトルとして示している。第9章では、職業性咳嗽を、第10章では、自宅内での咳を取り上げている。第11章では、漢方治療の話題に触れている。とくに職業性喘息で取り上げられているコールセンターにおける咳は、私にとっても新しい知見であった。
全体を通して多数の症例が取り上げられている点、また随所に豆知識が示されている点、なども本書の大きな特徴であり、きわめて実践的な内容となっている。外来における咳診療に関して、田中先生の長年の咳診療から得られた知見に基づく本書は、必ず多くの臨床医の皆さまのお役に立つことを確信し、ここに推薦させていただく。
臨床雑誌内科119巻2号(2017年2月号)より転載
評者●琉球大学医学部附属病院長 藤田次郎